266 冷たい校舎村7
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ふーん。 まあ、堅治の自由だけど。それは。
ニコチンに依存してっから、仕方ない 悪いって分かっててもやめらんねえもん っての、あるじゃん?
[ 吸えもしない煙草を再び口許へ寄せる仕草に、>>8 軽く鼻を鳴らして、あーあとため息を吐く。
合わせてやってるってだけだとしても、 サマになってる姿を見て羨む気持ちが生まれる。 それが、これまでの彼の努力の結晶ありきだと もしも知っていたって同じことを思う。 こうしてちゃんと形になるなんて、ずるい。 ]
(40) ゆら 2019/06/18(Tue) 12時頃
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[ だのに、向けられるのはへたくそな笑顔だ。 なぜだか既視感を覚えるけれども、>>:671 どこで見たんだったか思い出すには至らない。 ]
……完璧超人の弱点かと思ったのに、 それだけかよ、ちぇ
[ だから、けらって笑う笑顔に騙されて 突っつかれる手を受け入れて、 なんにもない地面を削るように爪先で蹴った。
───その直後。 ]
(41) ゆら 2019/06/18(Tue) 12時頃
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[ ガクン、と落ちる頭。 顔をあげることを許されないで、 彼の力の強さを思い知る。 ]
ん、……うおっ!? おい、堅治。やめろ、って
……もしかして、照れてんの?
[ それなりに、抵抗はした。 押し付ける腕を叩いたり、身体を押したり。 ふざけすぎたか、と少しだけ心配になる。 他人との距離の取り方はやっぱり難しい。
ただ、ちらと目線だけ上に向けた時、 堅治の耳朶が赤く染まっているのが見えて 抵抗する力はすこしだけ弱まっていたと思う。 ]
(42) ゆら 2019/06/18(Tue) 12時頃
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[ でも、病院の自動扉を潜り抜けた頃に ようやく顔をあげた時にはいつもの堅治の顔だ。 ]
悪ぃ、ふざけすぎた
[ いつもの顔、っていうのが逆に、 身に染みたのかもしんないな。 頬を掻きながら、堅治の顔から視線を逸らす。 謝り慣れてはいないので、素っ気無い。
本気にされるとまでは思っていなかった。それに、 守るつったって、結局なんにもできないんだから、 自身の技量の範囲くらい理解しているつもりだ。 ]
(43) ゆら 2019/06/18(Tue) 12時頃
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[ 病院内へ着いてそんなやりとりをした後、だった。 3年7組の担任が、向こう側からやってきて>>7 拓海が目を覚ましたことを伝えられた。
肝心の可哀そうな担任サマは、 俺をみてなんでお前がって顔をしてたけど。
ちゃんと、帰ってきたんだという事実だけで ほっ、と胸を撫でおろすことができた。 ようやく、肩の力を抜くことができそうだ。 ……心配してたなんて、口が裂けても 本人には言ってやんねえけど、な。 ]
(44) ゆら 2019/06/18(Tue) 12時半頃
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[ 傍にいた堅治の耳朶を軽く抓って、 ]
じゃ、俺は今日は帰るわ
[ 火、もないし? 安否が確認できれば上々。 今日はゆっくり休みたいだろうから、と。
寝起きに俺の顔なんて見たくもねえだろうし、 ポケットに手を突っ込んで、病院を離れる。 ]*
(45) ゆら 2019/06/18(Tue) 12時半頃
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[ 頭を抑えつけられながら自覚する。
羨むのさえ本当に烏滸がましいな、と思う。>>75 掌からじんわり伝わる体温に瞼を伏せて、>>76 何気ないようでいて、らしいだけのやり取りが、 他人を知る、……知りたい、って思えることが、 うれしい、という感情を芽生えさせる。 ───なんて、気づいても来なかった。
なんにももっていないけど、 距離の取り方も、素直さも、すべて どこかへ捨ててきてしまっていたけど。
これが欲しかったのかもしれないって思った。 ]
(166) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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[ 他人に謝るのなんて、いつぶりだろう。 ]
……じゃ、なに。 いつかは慣れちまうってこと? きゃー楓太くーん、って?
[ 怒ってない。ならよかった、と。>>77 安心したのもつかの間に、ふざけてしまうのは 照れ隠しでも、なんでもない。多分。
けど、こうして感じられるようになったのは、 冷たい校舎に何かを捨ててきたお陰? かもしれないなあってぼんやりと思っていた。 ]
(167) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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でも、なんでもかんでも慣れちまったら せっかく手に入れた堅治の弱点ねえじゃん それはなんか、嫌だな
[ ようやく離された頭の後ろで腕を組み 悔しそうな声をあげていた。 ]
(168) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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[ でも、担任に告げられた安否の後に、 他のクラスメイトも集まってくることを推測すれば なんとなく、ひとりで勝手に、 罰が悪いような気分になってしまって。
逃げるような幕引きを、しようと。 ]
……別にみんなに会いに来たわけじゃねえし、 代わりによろしく言っといてくれ
[ もう帰るのか、と尋ねられて口ごもる。>>80
ただ、拓海の安否確認目的であって、 誰かに会いに来たわけでもなんでもない。 ひとりで待つのが、心配だったわけでも、 なんでもない、ので。 ]
(169) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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……だな
[ お見舞い品、同意をしめして、>>81 そのまんま、振り返りもしない。 次第に聞こえはじめる声たちに脇目を振らず 真っすぐに彼に会いに行く、なんてことも 俺にはてんでできなかった、ので。 ]*
(170) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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──後日:見舞い──
……、
[ あのメールが届いてから何日も経った後。>>90 クラスで半ば強要されて書かされた寄せ書きは、 轟木楓太にしては、綺麗な文字によって 「 アホ 」の二文字だけ書かれていた。>>133 もちろん、名前だって書いていない。
千羽鶴なんかも折らされかけた。 俺の机に折り紙を置いたの、誰だよ。 完成した千羽鶴の中に俺の折った鶴はない。
ポケットの中、ぐしゃりと握れば、 紙の崩れる音がした。 ]
(171) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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[ 拓海の病室の前に佇み どれくらいの時間が経ったろうか。
同じ看護師が廊下を行き交うもので、 背中に突き刺さる視線が痛くなってきた頃。
片手には、パン屋のマークの入った紙袋がひとつ。 田所の手から受け取ったそいつの中身を、 じい、と覗き込んで、深呼吸する。 ]
(172) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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[ 消毒の匂いがまじる清潔、って感じの空気を吸った ]
(173) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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おい。見舞い。
[ ガラリ、と扉を開けて。 ベッド脇の椅子に許可なく座り込む。 押し付けるように差し出した紙袋の中には、 お気に入りのてんとうむしパンがふたつ。
しあわせを運ぶてんとう虫が飛ぶには、 まだ早い季節だったので、……ので。 ]
(174) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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[ 紙袋の奥には、ライターが一本眠っている。 ]*
(175) ゆら 2019/06/19(Wed) 18時半頃
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──後日の話──
[ 今日も今日とてデリバリー係のあいつは、 相も変わらず幅にされていた。 結局のところ、現状はなんにも変わっちゃいない。 そして、あからさまに俺を避ける様子に 困ったな、って声もかけられずにいて、 俺とあいつの間に流れるのは気まずい空気。
けれど、俺だってすぐには変われない。 俺の態度は横柄なままだし、無視を決め込む あいつの背中を蹴り飛ばす。
そんな毎日を再開していた、とある日。 ]
(310) ゆら 2019/06/20(Thu) 01時頃
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お、堅治。
[ 例の香ばしい匂いにつられ、 いつものようにパン屋へ足を運べば 偶然、と表現していいことだろうか。
クラスメイトの姿が見える。>>197 軽く片手を挙げて挨拶すれば、 示されるジェスチャーに約束を思い出す。 ]
(311) ゆら 2019/06/20(Thu) 01時頃
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ん、これ
[ ジュース、ではないけれど。 パンを買う分のお金が浮くのであれば上々。 素直に彼の提案を聞き入れるように、 隣に立てば、並べられる商品を見下ろして ひとつのものを指さした。 ]
(312) ゆら 2019/06/20(Thu) 01時頃
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[ それはもちろん、てんとうむしのパン。>>198 しあわせはまだ届かないけれど、 いつかきっと届けてくれるに違いないって 轟木楓太は柄にもなく信じている。 ]*
(313) ゆら 2019/06/20(Thu) 01時頃
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──見舞い──
[ 先に言っておくが、猫じゃない。>>225 ぼんやり、って顔をした拓海をみて 不機嫌そうに眉を吊り上げて椅子を陣取った。
押し付けた紙袋の中身を見て 犬のように尻尾を振る姿には、 満足───といった表情が出ないように、 一層と眉間に皺を寄せて口角は下がった。 ]
……ただの生存確認だ、ばーか
[ 頬杖をついて、窓の外へと視線を逃がして。 ]
(320) ゆら 2019/06/20(Thu) 02時頃
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……うるせえ
[ 寄せ書きについて触れられたなら、>>233 間抜け面の頬を軽く抓ろうと手を伸ばす。 ]
俺は、何も。 追いかけてきたのはお前の自由だし、 死にきれないって決めたのもお前の意志だし ……でも、マジ迷惑
[ 迷惑だ。本当に。 相手がだれであっても、心配するだろ。 ましてや、拓海っつうのもムカつく。 ]
(321) ゆら 2019/06/20(Thu) 02時頃
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[ そうして、袋の奥に隠してた 看護師に見つかったら怒られでもしそうな 例のブツを見つけたらしく此方を窺う顔を見て 立ち上がって勝手に窓を開け放つ。 ]
……おまえがなんで死のうって思ったのかとか 理由なんて知ったこっちゃねえけど、
[ ひゅう、と吹き込む風が、 飾られている千羽鶴を揺らした。 ]
(322) ゆら 2019/06/20(Thu) 02時頃
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火。ひとりっつうのは静かすぎっから 勝手にいなくなられると困る
[ ようやく拓海の方を向いて、告げる。 ]
(323) ゆら 2019/06/20(Thu) 02時頃
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[ 体育館裏の隠れ場所。 拓海が退院してからあと何回行けるだろうか。 校舎裏の陣地にひとりでいるのは、 どうしてだか味気なくって、堪らない。
いいことも、わるいことも、全部。 隠れるには最適な、あの場所で。
立ち昇る煙が一筋なのが、すべて悪い。 ]
(324) ゆら 2019/06/20(Thu) 02時頃
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[ ぐしゃぐしゃ、と髪を掻きむしれば ポケットの中から一羽、歪な鶴が現れる。 千羽鶴の塊の中に加えるように、置いて。
何も願っちゃいねえぞ、って顔をして。 無理やり作らされたんだ、って顔もする。
何か拓海に言われる前に、と。 話題を転換しようとするのは悪い癖なのか 傍らに置いてある、ねこのぬいぐるみをみて 抱きかかえているハートをかるくつっついた。 ]
んだお前、これ。 ……まさか、文化祭ン時の?
[ 盗んできたのか、なんて疑う顔をして しあわせを運ぶてんとうむしに眸を細めた。 ]**
(325) ゆら 2019/06/20(Thu) 02時頃
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──後日:パン屋──
[ 腹の減った男子高校生としては惣菜パンは魅力的だ。 焼きたてらしいアスパラベーコンパンも、 カリカリのベーコンに包まれているアスパラの なんとも言えない食感がいい味を出している。 新作として並ぶパンたちも、悪くはない。
それでも決まって選ぶのは、 てんとうむしの形をしたクリームパンだ。 ]
なんだ、堅治。食ったことねえの?
[ 希望通りにトングで摘ままれたそいつは、 トレーの上にちょこんと乗せられる。>>349 ]
(366) ゆら 2019/06/20(Thu) 15時頃
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嫌いだったら、食わねえだろ。 ……それに、美味いしな
[ 食べたらしあわせになれるかもとか、 いや、美味しさに頬は溶けるんだけども。 無意識のうちのちょっとした願掛けみたいな そういうもん、だなんて言葉にできる筈もなく。
何気ない問いかけには、素っ気無く答えて。 店員がトレーの上のパンたちを包んでいくのを ただ、無言で見ていただけ、だった。 ]
(367) ゆら 2019/06/20(Thu) 15時頃
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[ そして、堅治から約束としての てんとうむしのパンを受け取れば、 ]
おい、堅治。
[ てんとうむしをふたつにちぎって、 片一方を差し出した。とろり、としたクリームが ちぎられた部分からあふれ出しているけれど。
お裾分け、と言いますか。 しあわせを共有でもしようと思ってのこと。 食べたことないんなら、一度くらい食えという 押し付けに近いもの、かもしれない。 ]
(368) ゆら 2019/06/20(Thu) 15時頃
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知ってるか? てんとうむし、 しあわせを運んでくれるんだってな
[ 自信満々ではないけれど、 そんな言葉をそっと添えながら。 ]*
(369) ゆら 2019/06/20(Thu) 15時頃
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