252 Aの落日
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[あの、ふたりきりの 朝の穏やかな時間を思い出しました。
あのやさしい時間が、 四十崎くんからもらった飴玉が、 どれだけわたしのが支えになったのか。
きっと彼は知らないでしょう。
せめて、この演奏が彼の心に 何かを残してくれればいい。そう思いました。 感謝の気持ちを込めて、旋律を奏でます]
(222) 2018/10/16(Tue) 00時半頃
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(ポケットの中のお守りが、 わたしに勇気を与えてくれる気がしました)
(223) 2018/10/16(Tue) 00時半頃
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[そうして、 ホルン三重奏は終わりを迎えました。
わたしは静かに席に座り、 次の曲目へと譜面を捲ります。
主役の座を降りれば、 あとはメロディに溶け込むだけです。
そっと各務くんに目を遣りました。 普段は軽率な印象の彼も 今は真剣なまなざしを演奏へと向けています。
―――演奏、楽しみにしてる。>>208
昨夜の彼の言葉を思い出しました。 先程の三重奏は、果たして各務くんの期待に 応えることができたのでしょうか]
(224) 2018/10/16(Tue) 00時半頃
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(ああ、今わたし。すごくしあわせだ)
(225) 2018/10/16(Tue) 00時半頃
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[ホルンを吹いているときだけは、 わたしは孤独ではないと実感できるのです。
あたたかな心持ちで、 わたしは旋律に身を委ねました]*
(226) 2018/10/16(Tue) 00時半頃
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[そう、わたしは本当に「しあわせ」なのです。 ちくりと刺さった心の棘は見ないふり。
―――仲、良かったもんな。>>207
いつか各務くんに掛けられた言葉を わたしは思い出していました。
中学の頃なら、このホルン三重奏だって きっとわたしの隣には彼女がいたはずで]
(242) 2018/10/16(Tue) 01時頃
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[安住英子の奏でるホルンの旋律は、 今でもこの耳にはっきりと残っているというのに。
彼女と奏でる旋律は なによりも素晴らしかったはずなのに。
わたしのことを誰よりも分かっているのは 彼女のはずだと信じていたのに。
結局のところ、わたしは 彼女のことをなにも理解していなかったのです]
(243) 2018/10/16(Tue) 01時頃
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わたしは、昔みたいに仲良くしたいんだけどね。
(244) 2018/10/16(Tue) 01時頃
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[それはいつかの居残り練習で、 各務くんの問い>>207に対して返した言葉。
ねえ、潮田瑠璃。 いい加減に認めましょう。
友情なんてとっくに、壊れていたんです。
縋っていたのは、わたしだけ]**
(245) 2018/10/16(Tue) 01時頃
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[わたしはただの、抜け殻でした]
(272) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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―― 舞台裏 ――
[吹奏楽部の公演が終わったあとのわたしは、 表面上は平静を保っていました。
手早く片付けをする各務くん>>236に 「ソロかっこよかったよ、お疲れさま」と 笑顔を向けたでしょうし。
続く3−Aの劇まで時間がないため、 音楽準備室への撤収を部活の友人に任せることに 頭を下げもしたでしょう]
(273) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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ホルンは自分で片付けるから。 譜面台よろしく。
[そうして、音響機器の並ぶ舞台裏の一角へと わたしは腰を下ろしました]
(274) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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[未練がましくホルンを抱えて、 パイプ椅子の上に行儀悪く体育座りをします。 終わってしまったのです。 わたしの、青春は。
ポケットの中の飴玉を指で弾き、 すこし悩んだ末に 携帯電話でひとつのメッセージを送信します]
(275) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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───────────────── To 四十崎 縁 From 潮田 瑠璃 ─────────────────
最後の公演、聴いてもらえて 本当に嬉しかった。
ありがとう。 四十崎くんのお陰で頑張れたよ。
ホントのことを言うと、 もしかしたら今日も四十崎くんと会えるかもって思うと 毎日の朝練も楽しみで仕方なかったんだ。
飴玉がわたしの支えでした。ありがとう。
─────────────────
(276) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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[それから、もうひとつ。 クラス替えの時期に連絡先を交換して以来、 1回もメッセージを送ったことのない彼に はじめてメールをしたためました]
(277) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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───────────────── To 葛 九十九 From 潮田 瑠璃 ─────────────────
吹奏楽部の公演に 英子ちゃんを誘ってくれたんだってね。
朝、英子ちゃんから聞きました。
色々気を遣ってくれてありがとう。 ごめんね。
─────────────────
(278) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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[安住英子になにを言われたかは、 詳しくは書きませんでした。
……いいえ、書けませんでした。
ホルンを膝に抱えたまま、 わたしは無表情に 劇の脚本のページを捲ってゆきました]**
(279) 2018/10/16(Tue) 13時半頃
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―― 舞台裏 ――
[空っぽのわたしは 自分の心にぽっかりと空いた 大きな穴に気付かない振りをしながら、 劇の音響準備を進めていました。
携帯電話が震え、脚本を捲る手を止めます。
わたしは暗がりの中、 光るディスプレイに目を向けました。
そうして、四十崎くんからの返信に 大きく息を飲みます]
(331) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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「もう一回くらい聞きたい」>>297
(334) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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(―――ねえ、お願い。もうすこしだけ)
(335) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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[わたしは、とても欲深い人間です。
震える指先で、ホルンをやさしく撫でました。 この子とあと少しでも長くいられるなら。わたしは。
観客がいるかぎり、 ホルンを吹く理由が生まれます]
(336) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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───────────────── To 四十崎 縁 From 潮田 瑠璃 ─────────────────
四十崎くんのために もう1回ホルンを吹くから。
飴玉、ください。
─────────────────
(337) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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[開演前になっても、 四十崎くんは姿を現しませんでした。
そっと彼にメールを送信すると、 わたしは開演のときを待ちました。
そうして、舞台の幕は上がります]*
(339) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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―― 劇 ――
[仄日ちゃんの脚本は、 やっぱり素敵だと思いました。
先程までわたしがホルンを演奏していた檀上では、 羽音ちゃんがスポットライトを浴びています。
主人公の手を握り、 かわいらしく微笑む羽音ちゃんは>>286 少ない出番だというのに ヒロインを食ってしまうような存在感を放っていました]
(359) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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お疲れさま、すごくかわいかったよ。
[出番を終えた羽音ちゃんが 舞台袖に戻ってきたなら、 小声でそう囁いて、ぐっと親指を立てたことでしょう。
世辞ではなく、本心です。 いまの羽音ちゃんは、とびきりに綺麗に見えました。 まるで、御伽噺のお姫様みたいに。
舞台裏で音響機器をいじる、わたしの膝の上には 相棒のホルンが所在なさげに置かれていました]*
(360) 2018/10/16(Tue) 22時半頃
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―― 劇 ――
[ありがと、と>>376 謙遜せずに答える羽音ちゃんは やっぱり輝いて見えました。
わたしが同じことを言われたら、どうでしょう。
そんなことないよ、と 首を横に振って謙遜してしまうことでしょう。 そんな仕草が可愛くないのだと、 わたし自身が理解しています。
羽音ちゃんのように、自分自身に自信が持てたら ホルンに縋らずに済んだのでしょうか]
(397) 2018/10/16(Tue) 23時半頃
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(彼女との友情に、縋らずに済んだのでしょうか)
(398) 2018/10/16(Tue) 23時半頃
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[そのとき、ポケットの中の携帯電話が震えます。
返ってきた四十崎くんのメール>>364に わたしは小さく息を吐きました。
あと1日。 それくらい許されますよね。 もうすこし、夢を見させてください。
劇の合間に、短く返信をします]
(399) 2018/10/16(Tue) 23時半頃
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───────────────── To 四十崎 縁 From 潮田 瑠璃 ─────────────────
うん。 明日の朝、いつもの場所で。
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(400) 2018/10/16(Tue) 23時半頃
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[あのやさしい時間を、何の気兼ねもなく ふたたび四十崎くんと過ごすことができると わたしはそのとき信じていたのです。
―――これから起こることなんて、 知る由もなかったのですから]**
(401) 2018/10/16(Tue) 23時半頃
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