268 オリュース・ロマンスは顔が良い
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[彼の遠慮は右から左へ抜けて行く。 謙虚も美徳のひとつだと理解しているが、自身の落ち度で彼に傷がつくのは許せない。―――― 故意である場合を考え掛けて、また脱線しかけた思考を蹴り飛ばし軌道に戻す。]
あれ、子供に人気なんですよ。 指差し喚呼と言うんですが、手振りが大きいから。
実際は信号を確認しているだけなんで、 あれを合図に発車するのではないんですがね。
[派手なパフォーマンスは白手袋も良く映える。
そのまま記憶の糸を辿ればあまり上手くない彼の言い訳を思い出した。>>3:45 その時に察するまでいかなかった己が言えた義理ではないが、彼にも不得手があるのだと知って少し胸が弾む。 多くの人が知り得ないだろう彼の一側面。 彼と共にいると己は言動が可笑しくなるけれど、それ以上に見つける喜びが多い。]
(11) 2019/08/03(Sat) 01時頃
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………、
[しかし、正しく飛んできた指摘に返すは軽い睥睨。 回れ右を予想していた眼は雄弁。>>3:237]
辞退したら、貴方の時間はプライベートになる。 ―――…それは困る。
[三歳児と張り合って痛感した。 彼が礼儀正しく人に仕えるのは、確かに誇らしい気持ちになるが、愚かしいことにその主人と自分で優劣を考えてしまう。有体に言えば、やきもちを妬いてしまうのだ。
彼を自由にできるすべての依頼人《あるじ》に。 己には咎める資格も無い癖。
だからと言って金銭で杭を打ちつけておくしか彼を留めておく方法が思いつかないのは情けないが。]
(12) 2019/08/03(Sat) 01時頃
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[繋いだ手に力が籠り、されど圧しないよう自制をかけた。
途端に近付く彼の気配。隣に並べば影が足元で交わる。 賑わいの中、彼の横顔が一番輝いていた。>>2
吸い込む息も清涼で、彼に倣って背筋を伸ばす。 急いていた脚は減速が掛かり、思慕が歩調を鈍くする。]
(13) 2019/08/03(Sat) 01時頃
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[そうして足を止めた先は小瓶の並んだ屋台。 本来は店舗営業しているのだろうその店先。 屋根を付けたカウンターを屋台とし、積み木のように組まれた木枠の中に色とりどりの小瓶が立っている。
僅かにハーブとフルーツが複雑に混ざった香りがするのは屋台に染みこんだ年季故。]
こんばんは、景気は如何? ……いやいや。冷やかしじゃなくて今日は客。
[店番は若い娘で、二人組を迎えた笑顔が眩しい。 気安い口調は気心知れた相手に向ける音程。 よく見れば並ぶ小瓶は全て透明で。 中身の液体に色が付いていると分かるだろうか。木の実や薬草を沈めたものもあれば、色や香りだけがついている物も。]
(14) 2019/08/03(Sat) 01時半頃
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大分怪しく見えますけど、馴染みの薬屋です。 祭りの間は小洒落たディスプレイで店出してるんですよ。
[彼に簡単に説明すれば、無色の液体を一瓶を買った。 安くはないが、高級路線を行く価格帯ではない。 ラベルには異国の文字がデザインされている。]
それで。 これが打ち身とか、痣とかに良く効くんです。 きっと、ハワードさんの手も綺麗に治りますよ。
[青いキャップを捻ると凛とした百合の香りが立つ。 己の掌に垂らして指で伸ばし、痣の残る手背を包もう。
少し粘度があって、されど柔らかい。 患部に花の香りが被さり、幾度も彼の手を慰めて。]
(15) 2019/08/03(Sat) 01時半頃
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……………、
[慰めて、塗りこめて、二週間前の痣を治療する。 当然、ものの十秒も掛からない。
だが、男は幾度も彼の手背を慰撫した。 左手で支え、右手で撫でて。
――――― 全ての目的を達成してしまった後で、如何すれば彼ともう少し長く居られるか。脱線許した下心のままに。**]
(16) 2019/08/03(Sat) 01時半頃
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― 三週目・マーケット ―
[己の為だけに時間を確保された夜。 なんでもない一分一秒を尊く思え、繋いだ手から静かな喜びが伝播する。
毎年なんだかんだとマーケットには顔を出しているが、こんな風に胸の底を擽る気持ちで歩くのは初めてかもれない。]
(31) 2019/08/03(Sat) 10時半頃
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[浮かれていたら、彼の自制に手を払われた。>>26 傷つくよりも可笑しくなるのは、彼に甘やかして貰った分の余裕。ささやかに咽喉仏が上下に揺れた。]
市電《うち》は都市に比べて規模が小さいから、 機関士の仕事を手伝うこともあるけど、そこまでは。
親が町医者だから、 薬屋の子とは小さい時から仲が良いんです。
[其れゆえに某画伯との付き合いも長いのだが。 年月を経た掌に若い指が絡んで、手背だけでなく節にも触れる。なんにでも効くと言う謳い文句の万能薬は胡散臭いが、触れ続ける理由になるから利用した。 体温と香りが馴染み、お互いの掌がそろって芳しい。]
(32) 2019/08/03(Sat) 10時半頃
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……、
[正論に俯く顔は、聞いているのに拗ねるよう。>>27 頑是ない子供になりたい訳ではないが、彼へ向ける気持ちは理性で割り切れず、侭ならない。
百度は眼を通した利用規約と企業理念。>>>>3:114 サービスを売る場所から個人を買っているのだから、是正されて当然ではあるが。
取っていた手を握り込む。
露天が並ぶ路地とはいえ往来だ。 けれど今度は払われないように強く握った。 薬屋の娘は視界の端で呆れていたが、見られても一向に構わなかったし、――― 己は彼しか見ていなかった。]
(33) 2019/08/03(Sat) 10時半頃
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貴方を……、
[息を呑んで彼と視線を交わす。 近い距離感に胸が跳ねるが同じ香りがパーソナルスペースを曖昧にする。視線だけを迷わせて吐露する声は小さく。]
尊敬している。その仕事ぶりも、実直さも。 先週も、素敵だなと思いました。
(34) 2019/08/03(Sat) 10時半頃
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でも ―――、
[効能で選んだが、百合の香りは彼と親和性が高かった。 気高いのに親しみやすく、ほんの少しセクシーだ。]
事務所に来る前は誰の御用を聞いていたのだろうとか。 電車を降りたあと、何処へ行くのだろうとか。 誰に傅いて、どんなふうに依頼先で呼ぶんだろうとか。
……仕事でなければ、今も。 呼び出された途端、離れて行くのではないかと。
[仕事と自身を比べるほど愚かなこともないが、己はもう何週間も前から彼の愚者だ。序列をつけて選んでほしい訳ではないのに聞かずにはいられない。]
(35) 2019/08/03(Sat) 10時半頃
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[視線を彼に戻して少し顔が強張る。 真面目な顔を作りたいのに羞恥が頬に乗る。 いや、至近距離の彼はそもそも心臓に悪いが。]
俺をトレイルと呼ぶ時でも、傍に居てくれるんですか。 無償でも、そんな装いで待合わせてくれるんですか。
ハワードさん。
……来週の今頃は、お暇ですか?
[余計なことは言わないように気を付けたが、心臓は何時でも口から飛び出る準備が出来ていた。 まるで、デートのお誘いだ。**]
(36) 2019/08/03(Sat) 10時半頃
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[彼のことを碌々知らないままに転がり落ちて、知れば知るほど深みに嵌った。清冽とした執事然とした側面も、何週間も掛けて発掘した彼本来の側面も、均しく己を狂わせ、思考と情緒を破壊した。
彼は同性で、自身の親より年上だ。 何時か懇意にしている時計屋の示唆通り、彼なら自身くらいの息子がいても可笑しくないし、多少やんちゃをすれば孫世代とてまかり通る。>>3:189 この想いを憧れではないと断定するまでも長く、唯一人に捧ぐものであると気付いてからも散々戸惑った。
けれど、どれだけ取り繕っても心が謀れない。
不毛な想いは自分だけなく、相手にも覚悟を強いる。 人生の先輩の金言は、胸に深く刺さって。>>3:190]
(45) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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[諦める機会を何度も見送り。 視線だけでなく、足も手も、頭も使って彼を追い掛けるようになった。
触れたいし、呼ばれたいし、知りたかった。 自身に多くのものが足りなくても近づきたかった。
憧憬以上の感情に惹かれ、逢うたびに彼に落ちていく。
緊張と息を呑んで、返事を待つ間。 己の瞳は頬を染める彼を熱心に見つめていた。 異性にもそのような繊細な感情を抱いたことはないが、今の彼だけは酷く可憐に思えて、視線を外すタイミングを失うまま。>>41]
(46) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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[言い訳のように先に置かれた言葉は正論だ。>>42 本当のところ、彼の仕事の邪魔をしたい訳ではない。
ただ、主張して、知って欲しいのだ。彼に。
酷く心の狭い若造が彼を想っていると。 何をするにしても何処にいくにしても、意識が彼を追い掛けてしまうと。]
(47) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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[男は恋をしている、と。]
(48) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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………!
はい! はい、じゃあ、来週、この時間に。 待ち合わせ場所は分かり難くなかったですか? なんなら停留所まで迎えに行きます、最寄は先日の?
[掴んだ手を錨にして喰い気味に頷いた。 短い返答を正しく受け取り、喜色が破顔する。]
(49) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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[嬉しそうな気配を隠しもせず、彼に百合のボトルを持たせると、お土産です。と微笑んだ。 彼の首肯ひとつに機嫌は天井知らずに上がっていく。空では星が流れているが、己は花を撒いていた。]
……そうそう、兄弟は俺だけです。 だから、その分、少し憧れがあって。 友達連中も年上が多いんですよ。
街角の絵描きとか、何でも屋とか。 あ、でも何でも屋と言ってもハワードさん達とは違って、 フィジカル上等みたいな。良いヤツらなんですが―――
[指を緩く絡めて繋いだまま、他愛無い話が零れていく。 取り留めのない世間話。
知りたくて知られたいこと。彼と己のこと。]
(50) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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[彼を買い上げた日付変更線まで、職務に従事させよう。 満天から落ちる星よりも、彼を眺めながら。**]
(51) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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― 幕間・お見舞い ―
刺されたって聞いたけど、結構大事っぽいな。 平気か?
[病院を訪れたのは週が明けて直ぐ。>>39 命に別状はないと自棄に噂話に耳聡い靴磨きの少年から聞いたが、心配になって顔を覗きに来た。 見舞いの品はこの時期が旬の平たい桃。一山幾らで、皮ごと齧って食べられるから、甘味の足りない入院生活のスナック感覚に。]
暫く動けないなら無理するなよな。 お前の本職ってアクロバティックに猫追い掛けてるイメージがあるし。
と言うか、その怪我。 ……仕事復帰できるのか?
[掛けた声は心配八割、疑問は二割。 彼がフリーランスな自営業以外に従事している姿は想像出来なかったが。**]
(54) 2019/08/03(Sat) 17時頃
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[按じていた友人は怪我の大きさに反して意外と元気そうで安心した。>>66 流石に死んではいないだろうと彼のしぶとさを信じていたが、顔を見て声を聞けば安堵感が違う。桃もたんとおたべ。
週末の浮かれ気分から見舞いを経て心配を払拭し、バイオリズムは再び上がり調子。桃万能説まであった。
良い機会だから偶にはゆっくり休めよ。と友人に労いかけた癖、今週の自身はフルスロットル。 鉄道員としての仕事を意欲的にこなし、平日に市電ブースに率先して立ち、週末の時間を貪欲に確保する。 ――― 己にとって仕事も電車も特別な存在であったが、それでもこの週末を邪魔されたくはなかった。]
(83) 2019/08/03(Sat) 23時頃
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[とは言え。 何処へ行き、何をしたいと言う明確な目的はない。 したいことと言えば一緒に流れ星を数えながら、マーケットを回りたい。と、その程度。――― 否、己にとっては大事であるのだが、デートコースにしては地味であるし、先週も同じことをしていた。
けれど、お互いに仕事ではなく、偶然ではなく。 都合を合わせて過ごすことがどんな娯楽より贅沢だった。
彼とは友人で無いし、今回は主従でもない。 軽く食事をしても良いし、酒を入れても良い。 煌びやかな移動遊園地に挑むほどの蛮勇はないが、静寂を求め、夜の港まで脚を伸ばしても良い。
今宵は今日と言う日が終わっても逢瀬を切り上げなくて良いのだから。 ありのままの彼と過ごせるなら、本当はどこでも良い。]
(86) 2019/08/03(Sat) 23時頃
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― 四週目・最寄り停留所 ―
[先週と同じく夕方から部屋を散らかしてファッションショーに勤しみ、何が正解か分からなくなったところで黒の解禁シャツとスリムシルエットにジーンズを選んだ。 腕に厳ついスポーツモデルの腕時計を嵌め、今日は財布をチェーンで吊って尻のポケット。 ―――― 毎回、同じ岸辺に流れ着いている気もするが。
常より一層身軽な装いで停留所に降りる頃には空は藍色。 星たちがうずうずと流れ出したがっている。]
………、
[けれど、星たちに煽られ急かされてはいけない。 胸に手を宛がい繰り替えす深呼吸。 口元がついついニヤけてしまうだらしなさ。 落ち着く為にと彼の言葉を思い出しても、心臓に火をつける行為にしかならない。>>61]
(88) 2019/08/03(Sat) 23時頃
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[デートと呼ばれる逢瀬は何も初めてではない。 が、好きな人とのデートとはどうやら初めてらしい。
ずっと心が彼に浮かれっぱなしだ。*]
(89) 2019/08/03(Sat) 23時頃
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[そわそわと落ち着かないが、彼の到着を疑ってはいない。
約束を反故するような真似はしない。と言う以上に、自身は案外、彼に大事にされている自覚があった。 自身がどれだけ頑是ない駄々を喚いても無碍にすることなく、一考する素振りを見せてくれる。――― なんでも聞ける訳ではないと、彼の口からも>>1:341紙面からも>>3:114注意されたのに、彼に何かを断られた記憶がない。 己には足りない年齢分、見えない場所でも甘やかされているのだろう。>>62
自身とて、彼に同じものを少しでも返したくはあるが、浮かれると余裕が蒸発し、戻ってこなくなる。 丁度、今のように。>>97]
!
(106) 2019/08/04(Sun) 00時半頃
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こんばん、は。ハワードさん。 いえ、俺も今着いたばかりです。
[駆けてくる靴音に気付くのが遅れ、大きく肩が跳ねた。
脳内で思い描いている相手に声を掛けられるというのは、まだ慣れない。喜悦と驚愕を同時に齎すのは、彼だけなのだ。]
(107) 2019/08/04(Sun) 00時半頃
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[今時の若者であるからして、自身も薄くて平たいスマートフォンを所持していたが今宵はずっと機内モード。彼は私用の連絡先を持っていないのだから、仕事用の連絡先を知っていても候補に上がらず。 一昔前のドラマのように、待ち人を想って時を過ごすのも性に合った。]
ハワードさんこそ、急がなくても良かったのに。 [今日も今日とて彼は静かに眩い。 派手ではないがワンポイントの利いたシャツも洒落ていて、ボタンダウンと寛げた襟が描くカーブもセンスが光る。彼自身の器量とは素体の彼是だけでなく、年月を経るごとに内に外に、積み上げられたものを指すのだろう。 整っていると言われる我が身の顔は毎朝鏡で見ているが、造形だけが美しさではない。
故についついうっとりと見惚れてしまう。 常なら直ぐに再起動を脳に命令するが、今日は少し特別。
――― 彼の額にはうっすらと汗が浮いているのだ。 己の為に走ったからだろう。あの完璧な紳士が。]
(108) 2019/08/04(Sun) 01時頃
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―――……若い男は嫌いですか? [胸を内側から押す想いは、率直に語尾を上げる。 彼は揶揄っていないと理解しているからこそ、はにかんで。
常ならば沈黙を置いて、会話が有耶無耶になってしまうタイミングなのに。]
(110) 2019/08/04(Sun) 01時頃
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夏って何を着て良いか分からなくて。 制服があるから更にアンテナが鈍いだろうと言われれば、ぐうの音も出ないんですが。
[首を捻って吐露する鉄道員。 笑い話のように相槌を打つと、電車が停留所へと滑り込んでくる。]
港まで出て食事でもしますか? あっちは船乗りが騒いでる酒場も多いんですけど、 賑やかさが気にならなければ魚が美味いですよ。あと貝。
[対面してから本日のプランを立てる贅沢感。 マーケットの立つこの時期は街が賑わいに溢れているから、食事も娯楽も困らない。
さりげなく伺いを立てつつ―――、本命は別にあった。]
(111) 2019/08/04(Sun) 01時頃
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[開いた電車に先んじて乗り込む足。 肩越しに振り返ると、そうっと指先を跳ねさせ。
彼の手を引っ掛けるように取ろうか。 するすると撫ぜるのは彼の手背。 清らかな百合の香りと、痕の無い皮膚を追い。
車内は無人ではなく、衆目もある。 けれど確かに彼の右手に引っ掛ける左手。]
(112) 2019/08/04(Sun) 01時頃
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[がたんごとんと揺れだす電車。 冬のあの日から、随分彼との距離も縮まった。**]
(113) 2019/08/04(Sun) 01時頃
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本当ですって。 こう見えても市電の時刻表は頭の中にあるんですよ。
[彼を待つ時間は贅沢だが、通過する電車には悉く同僚が乗っている。無用な詮索を恐ろしくないけれどだらしなく緩んだ顔はあまり見せたいものではない。>>114
いつもは何処か畏まった態度も今日は丸い。 軽口も叩けば、不意にも踏み込む。
――― 不意打ちに返ってきた相槌には、流石に碧眼が揺れたが。]
(126) 2019/08/04(Sun) 13時頃
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貴方とか? ……ああ、いや。 手近で済ませようと思っているのではなく。
身嗜みだとかセンスだとか、 知らない相手から学ぶよりも信頼が置けるから。 買い物に同行だと―――…、ええと。
[それは私事になるだろうか、それとも仕事だろうか。 早速、次を示唆させる言葉を恥じて、脳内バンクに預金残高を照会する。――― 夏服は諦めよう。]
(127) 2019/08/04(Sun) 13時頃
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[ちょい、と触れた指先は払われなかった。 寛容か甘受か、声色からは読みきれない。>>120]
我慢は出来ます、してないだけです。
[この手を払ってしまったこともあるし、払われたこともある。密やかに返す反論は、若さであり、我がままだ。
彼と己は傍目にどんな関係か分からぬだろうが、控えめに指先繋ぐだけでもきっと妖しく見える。]
………、…覚えてないです。 でも、願い事は大体叶いました。
[彼の囁きが照れくさくて、少し眼が泳いでしまう。 秘めて低い彼の声は、意識する分、甘く聞こえた。*]
(128) 2019/08/04(Sun) 13時半頃
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― 港酒場 ―
マスター! 繁盛しているか?
[マーケットの間中騒ぐ酒場は今日も賑やか。 酒は明るく楽しく、私闘は表でオッズを決めてから。
最低限のルールで船乗りや整備士らを相手にする港の酒場、上品さは足りないが治安は良い方だ。マナーとモラルの代わりに人情と陽気さが詰まっている。 市電の事務所からも近いお蔭で、昼夜に馴染み深い。]
酒は質より量って感じなんですが、 今はムール貝とサーディンが美味いですよ。 俺は小魚のフライにレモンを絞った奴も好きです。身がふっくらしていて。
[空調は天井でファンが回るだけだが、窓辺のテーブルを陣取れば涼しい海風が流れ込んでくる。――― 椅子を引いて勧める時、指の別離を少し惜しんで。]
(129) 2019/08/04(Sun) 13時半頃
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………酒は…、まぁ、程ほどに。
[車内で曖昧に笑って返した酒量の補完。>>119 己の酔い方はこの酒場のように陽気だが、何分絡み酒の自覚がある。
彼と飲んだことはなくとも、彼で絡んだことがあるくらいだ。>>1:48 くれぐれも自重せねばならない。
―――― あの頃と比べ物にならないくらい、彼を疚しい眼で見ていても。*]
(130) 2019/08/04(Sun) 13時半頃
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[店内に満ちる活気と酒気。 男たちが一日の労を労い合い、赤ら顔で楽しんでいる。 ホワイトカラーとは縁遠い客層だが、物珍し気な新客には気さくに声をかける。>>134 匙で掬ったウニを示し、これが旨いよ!だとか。 赤魚のグリルは名前をしらんがオススメ!だとか。
――― 彼のような品のある紳士は、店としても珍しい。 構いたがりの男らから逃れるように彼を連れ去り、店を間違えたかと自問したところでフォローが入った。>>134
我ながら現金だが、彼の好感を得られたなら気持ちも浮つく。]
もっと静かな店も知っているんですが、 その辺はハワードさんの方が詳しい気がして。
……あと、この席なら星も見えるし。
[窓から見える海は黒く、遠くには停泊している船の灯りが見えた。 街中よりずっと人工光が少なくて、天蓋の星が多い。]
(136) 2019/08/04(Sun) 16時頃
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―――……そ、それなら?
[酔うまでが早くて酔ってからが長い。 そして、翌日には残らぬ若さのサイクルが、甘言に誘われる。元より飲酒も好きなのだ。 自らの失態を恐れるならノンアルコールを選ぶべきだが、些か子供っぽく、しれりと酒量を答えた彼に張り合いたい気持ちもあった。>>135]
じゃあ、白で。 飲みやすいんでちゃんと止めてください。
[質より量が売りであるからして、短いスパンで消費するこの店のワインのスタンダードはフレッシュワインだ。ほんのりと花の香りして、濃厚さや奥行きは足りないが飲み易く。 ボトルで運ばれるからキーパーの存在も有り難い。]
(137) 2019/08/04(Sun) 16時頃
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改めて今日はありがとうございます。 極大期も近から忙しい筈なのに。 [注文を終えれば、まずは予定通り頭を下げた。
彼は優秀で有能な派遣員。 この時期引く手数多だとは容易い想像。 己に金があれば、毎日だって傍に置きたい。 ―――― 依頼を受けて貰えるかは別として。>>131]
でも、こんな風に貴方と食事が出来るなんて、 考えていませんでした。
[あの冬の日も、痴漢騒ぎの日も。 嬉しそうに笑って首を傾けると、不可抗力だが彼の鎖骨がちらりと見えた。]
………、
[思わずその角度をキープしてしまうのは自然の摂理。]
(138) 2019/08/04(Sun) 16時頃
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………前から聞きたかったんですが。
[ちらりと煽る首元に視線が溜まり、覗く角度は更に深く。 柔らかな髪が肩につき、声は仄かに訝し気。]
それわざと『お待たせしましたー!』
[彼に惑わされた迂闊な妄言は、威勢のいいウェイターの声に遮られた。 アウトの手前でセーフ判定。目も眩んでいるが頭も危ない。
うっかりと滑った口元を押さえ、誤魔化すようにボトルからグラスにワインを注ぐ。なみなみと注ぐのは港流。]
なんでもないです、なんでも。 はい、乾杯。
[己の腹の底で燻る疚しさを隠してグラスを掲げた。大事なのは勢いだ。*]
(139) 2019/08/04(Sun) 16時頃
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俺、24なんですけど。
[思わず突っ込む年齢談義。>>145 彼が幾つの時から社会に出ていたかは定かでないが、先回りの主張を忘れず。否、彼を雇った折に年齢証明は綴った筈だ。それでも切羽詰まった顔を晒すのは死活問題故。
そうして食い下がるところが尚、彼に幼く見られるのだとは埒外。結局彼の掌の上で踊ってしまうのはきっと想定内。>>146]
貴方が憂う迷惑も、俺が引き起こしたようなものです。 どうにも、貴方の前では意気込んでしまうようで。
[照れ臭そうに吐露する態度は、場の空気と仕事が絡まぬ状況が成せる業。友人らに接するよりも少し改まり、ダイヤを守る車掌よりも少し緩い。]
(159) 2019/08/04(Sun) 22時頃
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[けれど、違和感に言葉を止めるのはその直後。 己からしてみれば欠点すらも愛嬌に見える彼の人生経験。 乾杯したグラスを口元に引き寄せ、まずは唇を湿らせ。]
それは意外です。 ハワードさんとなら誰でも出掛けたいと思うんですが。
[私用の連絡先を持たないのは、彼の意思であって、誘う相手は数多なのだろと信じて疑わなかった身。――― 己のように図々しい相手が今まで周りに居なかった、と言うのは喜ぶべきか、恥じるべきか。
酷く無防備な休暇中の彼を見て迷う。]
(160) 2019/08/04(Sun) 22時頃
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[彼が非常に常識的な紳士であるのは理解しているし、無暗に惑わし誘うような振る舞いをしないのは分かっている。 故に、首筋を晒す角度も、思わせぶりな言葉も、全部己が一人で見る幻覚で、聞く幻聴の筈。 重々分かっているのに。>>147]
冬は煮込みも旨いんですよ。 ごった煮みたいなブイヤベースとか。
[話を合わせて相槌を打つのに、視線が自然と彼の指先へ向かってしまう。 爪の先まで整えられた男が器用に貝の殻を剥いていく。 面倒な作業を経ても、それを自ら食す訳ではなく、己の前に捧げるのだから、丁寧な奉仕を受けているようで喉が渇いた。
――― ワインが進む。]
(161) 2019/08/04(Sun) 22時頃
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レモン絞りますね。 [豪快に二つに切られたレモンを握り、握力のみでジューサーの代わりを務める。湯気の立つ小魚のフライが爽やかに果汁を浴び、力んだ腕に腱が浮く。]
………恋人とか、 そういう相手とも、したことないんですか?
今日みたいな、
[デート、とは言い損ねる酒量は未だ一杯目。 それでも曖昧に流して見送る筈が、態々話題を掘り返した。山と積まれたフライから、視線を上げぬまま。*]
(162) 2019/08/04(Sun) 22時半頃
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