261 エイプリル・トフィーの融解点
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「嬉しいですか?」
[耳鳴りがする。 背中に水をかけられたような 頭に浮かんだのは、友人達の顔だった。]
『封筒届いた? 俺、選ばれたみたいなんだ』
[違う。 じゃあ、どうすればいい。 じゃあ、どう言えばいい。 じゃあ、どう振る舞えばいい。]
(5) ganko 2019/03/31(Sun) 23時頃
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「嬉しいですか?」
[まだ終わるわけじゃないのに。 もう会えないわけじゃないのに。 たかが封筒一枚で、こんなにも。 悪い未来ばかりが思い浮かんで、 こびりついて、離れない。 友人達は、選ばれた僕を、どう思うだろう。 選ばれたことを知ってもなお、 友人でいてくれるのか? もし、真実を告げたら。 友人は友人でなくなってしまうのではないか?]
「嬉しいですか?」 [心のどこかで、 2人が選ばれていないと勝手に決めつけている。 心のどこかで、2人が死ぬと決めつけている。 心のどこかで、僕だけが生き残ると思っている。]
(6) ganko 2019/03/31(Sun) 23時頃
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「嬉しいですか?」
ー黙れ。
「嬉しいですか?」
ーー黙ってくれ。
「嬉しいでしょう?」
[自覚してしまった。 安堵している。 僕は、自分だけが生き残ることに、安堵している。] [GW明けの授業再開は見通しが立たない。 学校からは自宅待機を命じられた。 以来、イケソーと凪からの連絡を絶った。 季節外れの寒気から、僕はずっと震えていた。]
(7) ganko 2019/03/31(Sun) 23時頃
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[ピアノ教室へ向かっていた時だったと思う。 遊歩道を歩いていると、乾いた金属音が聞こえた。 河川敷に設備されている土のグラウンド。 小学生達が出鱈目な距離感でボールを投げて、不格好なバットを振り回していた。]
[昔から、僕は輪の外にいた。 疎外感があったわけじゃない。 何故なら一度も輪に入ったことが無かったからだ。 誰かと誰かが遊んでいるのを眺めて、楽しむ。 一緒に遊ぶなんて、考えたことがなかった。 別に孤独とも思わなかった。 それが普通だと思っていたから。 だから昔から、外で眺めているだけで 僕は満足だった。
ただ、不思議と。 まるで導かれるように、 僕はその小学生達の遊びをじっと見つめていた。]
(8) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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「ダメよ、怪我したら危ないでしょ」
[僕の小さな手を握る母の手が、 前へ前へと進んで行く。 母はこうやって、僕を危険から守るのが得意だった。 僕もその言いつけを守るのが得意だった。 だから危ない、という言葉を聞いた時、 僕はすぐにその手を止める。 再び金属音がした後、ボールが僕の前に転がった。]
「すみませーーん、取ってもらえますかーー?」
[母は気付かないフリをして、僕の手を引っ張る。 思えば、それが初めてだった。 危ない、と言われたこのボールを どうしても投げたくなって。 するりと、母の手から離れた。 足元に転がったボールを五本指で掴んで、]
(9) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[駆け寄ってきた少年に向かって、投げた。 つもりだった。 地面に叩きつけられたボールは、転々と転がった]
「コタロー、行くよ」
[僕は母に呼ばれて、踵を返す。]
「おーい」
[ただ、予想外だったのは、 少年が僕に駆け寄ってきたことだ。 少年は僕の右手にボールを持たせて、]
「鷲づかみで投げるんじゃなくて、こうやって」 「コタロー!」
[母が僕を強く呼ぶ。 苛立っている前兆だ。 早く行かないと、怒られるかもしれない。]
(10) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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「ちょっと待ってよおばさん!」 「悪いけど、急いでるの」
[母が僕の手を引っ張り上げる。 その様子を見て、 少年は大きな声でこう言ったのだった。]
「ケチ!」
[それが池田草太との出会いだった。]
(11) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[NASAのロケットが失敗に終わり、有志の団体によるロケットが打ち上げられる、という知らせを最後にテレビは砂嵐になって何も言わなくなった。 ラジオから流れるのは、気まぐれなDJが全てが終わるまでにせめて、と音楽を垂れ流し続けていた。 6月に入ってから、ドミノ倒しのようにバタバタと世界は崩れていった。 秩序は崩壊し、理性を失い、神へ祈った。 疲れ切った母は、『悪あがきを祈りと呼ぶのね』と皮肉って、死んだようにソファーに寝そべっていた。 父は何処へ消えたのかは予想もつかない。一応の恰好として茶封筒にいくらかの金を置いて、家を去った。 家に引きこもっている間に何度かインターホンが鳴った。イケソーか、もしくは凪かもしれない。 でも、扉が開くことは無かった。
それから冷蔵庫に残ったわずかな食料を貪っては、夜に少しだけ外を歩く日々を繰り返すようになった。 このまま、母親とこの家で心中するつもりは無い。 でも、友人達を置いて生きることを考えると、 無性に死にたくなる。 生きる理由と死ぬ理由の天秤は、 常に平行を保っていた。]
(12) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[案内状の入った封筒は、肌身離さず持っていた。 路地裏の猫がじっと僕を見つめる。 「ずるい」と言っているような気がした。 日に日に、空の星がよく見えるようになったな。 河川敷の遊歩道から空を眺めていると、 トタトタと誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。]
[振り向き様に、渾身の張り手を食らった。 この一カ月ですっかり痩せこけてしまったせいで、受け身もろくに取れず河原を転がっていく。 身体中が草や泥まみれになりながら、顔をあげるとそこには凪がいた。]
「なぎさ」
[と、もう一度頰を打たれた。勿論、また雑草の上に倒れ伏せた。]
「何してんのよ、一ヶ月も」 「…ごめん」 「何があったのか、説明して」
(13) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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「今度はグーね。その次は蹴り。 足は手の5倍の強さなの」
[握りこぶしを固く結んでいる。本気だ。 それでも、凪に告げることは出来なかった。 痛みによる恐怖よりも、 友人を失う恐怖の方が大きかった。 目をつむって、痛みに備えた。 けど、予想していた痛みは訪れなかった。 おそるおそる目を開くと、凪は長年詰まって取れなかったような大きなため息を吐いた。]
「舐めないでよ。立場が変わったぐらいで、態度を変えるような女じゃない」
[心の中を見透かされているような口ぶりだった。 凪は察していた。僕が選ばれたことを。]
「言わなくたって判るわよ。その様子じゃ」
(14) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[遠くから、カラスの鳴き声が聞こえてきた、 朝方を迎えて、空には青みがかかる。 星々が姿を潜めていく中で、一つだけ未だにくっきりと輝く星が一つ。 全ての終わりを告げる、巨大な隕石。
遠くから、原付の音がしてスクーターがやってきた。 イケソーは僕の顔を見て一言だけ告げた。]
「乗れよ」 「え?」
[言われるがままに、スクーターに乗せられる。 その僕の後ろの荷台に、凪が乗った。]
(15) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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「ちょ、ちょっと、どこに行くの」
[イケソーがハンドルを握る。 遊歩道を3人乗りのスクーターが走る。 警察に見つかったら一発でアウトだ。 景色の変わらない道のりを、 しばらく走り続けるとグラウンドが見えた。]
「なあ、覚えてるか」
[あ。 ここは、僕とイケソーが初めて出会った場所だ。
母の手から離れて、初めて輪の中に入った日。 あの日以来、僕は色んなことを教わった。 野球のルールから、ボールの握り方、投げ方。 友達との触れ合い方。笑い方。怒り方。 喧嘩の仕方。仲直りのやり方。それから、]
(16) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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「ここに落ちてたエロ本、あんまセンス無かったよな」
[そうそう、と僕は久しぶりに笑った。 イケソーと友達になってから、僕の人生は変わった。 眺めているよりも、触れてみる方が楽しい。 そりゃあ、痛い目に遭うこともあったけれど。 それでも、痛みを知らないまま過ごしていくよりは ずっと良いんだって。 凪が僕の背中に顔を寄せる。
「アイツね、 コタローを探すのに本当に必死だったんだから」 「…ごめん」 「友達を助けるのが友達でしょ。アイツが言ってた」
背中越しに感じる凪の体温は暖かった。 湿った空気を切り裂くように、風が強く吹いた。
(17) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[河川敷から原付で20分。 滑らかな坂道を登り、 使い道がよくわからない用水路を抜けて5分。 誰もいないコンビニを通り過ぎると、 市立舟尻高校が見えた。 誰もいない広大なグラウンド。 まだ薄明かりの空の下。 イケソーはグローブを僕と凪に投げ渡して、]
「キャッチボールしようぜ」
[と言った。 人類滅亡の危機の最中でこんなことを言えるのは、 バカしかいない。]
「ほら、いくよ」
[凪がボールを僕に投げる。 慌ててグローブをはめてそれを掴んだ。]
(18) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[それから、キャッチボールをしながら、 飽きもせずに他愛もない話をしていた。
去年の体育祭で野球部なのにサッカー部に負けた話、 クラス会でイケソーがモテなかった話、 修学旅行で夜な夜な大富豪をして遊んだ話、 中学生の頃に好きだった人の話、 クラスで誰と誰が付き合ってたかって話、 文化祭で僕らの漫才がダダ滑りした話、 イケソーがバレンタインで3つチョコを貰った話、 それが全部凪の仕掛けたドッキリだった話。]
[大きな不幸の前の小さな幸せを堪能していた。 隕石が落ちてくると知ってから。 僕が選ばれたことを知ってから。 もう元には戻れないのだと思い込んでいた。
それがどうだ。 たとえ隕石が落ちてきたって、 僕らは何一つ変わらない。]
(19) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[これまで、 無限の可能性という蛇口を 出しっ放しにして無駄するような日常を過ごした。 それでも、これだけは断言できる。
楽しかった。 心底、楽しかった。 楽しかったんだ。]
(20) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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[神様。 どうか、時間が止まりますように。 どうか、この幸せがあと少し続きますように。 どうか、このまま3人でずっといられますように。
油断したら、今にも泣き出しそうで。 僕はずっと笑って誤魔化してした。 笑うのが、こんなに下手だったか。
この時間、この数分、この数秒、この一瞬が、 少しでも長く。いられたら。 僕にはもう、何もいらない。]
(21) ganko 2019/03/31(Sun) 23時半頃
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「取れよ、コタロー」
[イケソーは目一杯に腕を振るって、 天高く、どこまでも白球を投げた。 空を見上げると、ロケット雲が浮かんでいた。 そういえば、有志の団体によるロケットが、なんて考えていると、白球の落下地点が僕を遥かに超えていく。 「どこ投げてるんだよ!」
[コントロール無視の大遠投がイケソーの特技だったことを忘れていた。 仕方なく、グラウンドの奥へ転々と転がるボールを追いかけていく。
「行って来い、コタロー!」
言われなくても行くって。 随分と遠くへ行ってしまったので、軽く歩きながらグラウンドの奥へ向かう。 いつもなら引っこ抜いてれているはずの雑草にボールが被さっていた。 ようやく見つけたボールを拾い上げて振り向くと、 2人の姿は、忽然と消えていた。]
(22) ganko 2019/04/01(Mon) 00時頃
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[瞬間、分かってしまった。 2人は最初から、こうするつもりだったんだと。 後腐れしないように。 別れを引きずらないように。 最高の形で終わらせるように。 そして僕を、生きさせるために。
「あの野郎」
誰かが言ってた。 青春は過ぎ去ってから実感する。 なるほど。今は沁みるように、よく分かる。
グラウンドに日差しが差し掛かる。 夏を知らせるセミの鳴く声が遠くで木霊する。 日の光を浴びて泣くのは、生まれ初めてだった。]
(終わり)
(23) ganko 2019/04/01(Mon) 00時頃
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