229 観用少年
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『 ふくれっつらも可愛いわね 』
[>>1:287その顔が見たかった、と芙蓉の顔に書いてある。 でも確かに少女向けの衣装を着たら、とても可愛いだろうな、と思ったのは、内緒にしておこう。 お揃いも着やすいし、女の子の恰好をしていたら姉妹に見えるかもしれない。意外と利点があることに気づいてしまった。なんてことはナナには言えない。
>>1:289鳳凰の柄のチャンパオを選んだのは、緋色の髪が鮮やかな瑞鳥を思わせたからだ。最も、着せるよりも今の衣装を脱がせる方に神経を費やした。特にブラウスの繊細なレースはひっかけてしまいそうだし、タイツはタイツでやっぱり爪にひっかけて破けないか心配で、はたから見れば少年人形の服を脱がす妙齢の女性という非常に妖しい構図であったのかもしれないけれど、実際のところはいっぱいいっぱいだった。 だからなんとなく少年の視線に含みを勝手に感じてしまうのだろう、無論それが沽券にかかわる事態だなんて知らないけれど]
(87) 2017/10/11(Wed) 00時頃
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……それって逆じゃないかしら? 駄目よ、ちゃんとお世話する。
[面倒を見られる“飼い主”なんて本末転倒ではないだろうか。少しばかり意固地な風に零れた言葉はなんだかやけに子供っぽい響きになった]
(88) 2017/10/11(Wed) 00時頃
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アクセサリーだと思ってた、不思議ね。 不思議なお人形は不思議な花を咲かせるものなの?
[>>291 花冠は人形の頭上を彩る。 まだ頼りなげなけれど、瑞々しささえある緑。 今度はこわごわと触れても、揺れるだけ]
あなたが咲かせるのなら、 きっととても綺麗なお花なんでしょうね。 ……楽しみだわ。
[なんて、何も知らずに。 ただ鮮やかな色の花飾りを夢想して微笑んだ]
(89) 2017/10/11(Wed) 00時頃
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[ 傍を通り過ぎていく、父と、息子。 要は、"ひと"である親子と、 ── 僕と直円さんとは、似ていたのか、どうか。
…人形たる僕は、考えてはいけない気がして、 そっと、思考に蓋を した** ]
(90) 2017/10/11(Wed) 00時頃
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[お店で購入したミルクとティーセット、 人肌程度に温めたミルクをカップから、ティースプーンに一匙、少年の唇に運ぶ。初めてのことには誰でもどきどきするものだ。細い喉を嚥下するまで、息を潜めて見守ってしまう。
人間も簡易な食事をとった、 食事を作ってくれた友人も今日は泊まっていくらしい。『一緒にねるの?』とにやにやされれば、複雑な心境だ。おかしなことじゃないでしょう?と反論にならぬ反論をする。
そうしてナナの眠たげな顔が伺えれば、寝室のドアは閉ざされる。誰かと一緒に寝るのもこんなに早い時間に寝台に入るのも久しぶりだ。眠ることに特に楽しみはなかった、ここ最近夢を見た記憶はない。眠りはただの塗りつぶされた時間だ。そう早々と眠れる気はしないけれど、自分ではない誰かの温度がそばにあるのは心地いい。
ナイトランプがベッドサイドを照らす。おろした髪がさらりと零れて、緋色の、ナナの髪と混ざった。なんだか眠る前の童話を待つ子供のような気持ちになる]
……ナナ、子守歌は歌ってくれるの?
[きっと眠りに落ちるのは、人形のほうが先だろうけれど*]
(91) 2017/10/11(Wed) 00時頃
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[物理的な距離が近くなってしまえば、 どうしたって慈しむみたいな気持ちになってしまう。
休暇をとっていた数日はマンションの敷地内で過ごした。最上階のラウンジは眺望がいいし、屋上のヘリポートの見学も出来る。本の揃えられているサロン、エントランスは緑が豊かで、カフェのコーヒーは意外と美味しかった。コンシュルジュはすぐにナナの顔を覚えた、この子たちにはきっと愛されることの才能のようなものがあるのだろう。
特に興味のなかったそれらの設備を、少年の手を引いて回っていくのは意外と新しい発見があった。そうして規則正しい生活を続けていく内に、少しばかり悩みの種が芽生える]
お留守番よりは、 連れて行ってあげたいのだけど、 ……やっぱりベッドが必要かしら。
[自分がオーナーを務める店は未成年厳禁の夜間営業なのだった**]
(92) 2017/10/11(Wed) 00時頃
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[嘗て、これ程までに心動かされたことはあるだろうか。
少年は――ガーディは、自らの意思で目隠しを取り、 そして腕の中に飛び込んできた>>83]
っ、ガーディ……! 僕のガーディ!
[その小さな背中に腕を回して、髪に頬を埋める。 不思議なもので、枯れかけていた花が再び色づくように―― 俄か、ガーディに鮮やかさが戻ったように見えた。 つまり、届いた、ということ。 そして不可視ではあるけれど、 ケイイチの心もまた色を取り戻した。 だってそうでなければ、こんなにも胸が躍って苦しくて、 でも満たされる筈がないから。]
(93) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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[そうして閉じ込めるように抱擁をしたけれど―― 声がすれば>>84ふと気付いたようにその腕を緩めて]
……うん、そうだな。 ミルクを温めよう。 砂糖菓子も、いっぱい買ったんだ。 だから――帰ろう。 帰ろう、ガーディ。
[ガーディは不思議そうにあたりを見回している。 先ほどは消されたように思えた記憶は、 それでもガーディの中にきちんとあるらしい。 一体どういうことなのか、疑問は後から湧いてくる。
何が起こったのか、気にならないわけじゃない。 ただそれを尋ねるのはガーディ本人にではない。 いかにも事情をしってそうな男が一人。 ケイイチは笑顔の裏で彼の顔を忘れないよう反芻していた。
とはいえ、今大切なのはそれではなくて。]
(94) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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[濡れた頬に柔らかい指が振れる。 見上げる瞳は不思議そう。
ケイイチは――]
……大丈夫。 もう、大丈夫だよ。
[笑った。 笑って、それからもう一度ガーディにしがみつくように抱きしめて――]
(95) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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……こわ、かった。
[忘れられていたら、 何か酷いことをされていたら、 枯れてしまっていたら、 もう二度とあえなかったら――
考えないようにしていたことが一度に噴出して、 ケイイチは暫く、ガーディを抱きしめたまま震えていた。]
(96) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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―数日―
[無事自宅に戻ったケイイチは、 ガーディにたっぷりのミルクと砂糖菓子を与えるだろう。
傍に侍らす従者は幾人か減ったが、残ったものとのやりとりは以前よりもずっと気安く信頼さえ透けて見える。 彼等から施しを受けるのは問題ないと、ガーディにも伝えた。 ――とはいえ余程の事が無い限りケイイチは自分で世話をしたがったけれど。
部屋のセキュリティがいくらか強化され、 王から定期連絡の申し入れがあった他は―個人的な連絡については固辞した。地雷原でタップダンスを踊る趣味はない― 大きな変化はなく。
小さな変化でいえば―― ケイイチのガーディに向ける視線が甘さを全く隠さなくなっただとか、 ガーディに対する笑顔が蕩けるようだとか、 共寝することを好むようになっただとか、 その程度のことである。 つまり、元からそうだったと言える程度のものである。]*
(97) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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[いったん目を閉じればすぐ眠りにつく。泣き疲れたままの昨日に碌な休息を取れたはずもなく、昼寝というには深く微睡みに落ちていた。握ったままの手も力は緩み、引き剥がされたところで気付きはせず。
いつもは主人の眠る床にいれば、すぐ側にいると感じられる。けれどやがて高く日が上れば、掛けられた毛布が暑苦しくなり寝返りを打った。] んう…… [ふいに現へ呼び戻され、ぱちりと目を瞬いて。すぐ、手の中にあった感触が無くなっていたことに気づく。部屋の中を見回して、彼がいないとわかり。 厠へ立ち寄っただけ、少し呼ばれただけ……、 そうは思ってもひとりでに寂しさを募らせてしまう。] ……シメオン? [また、置いていかれたんだろうか、と。]
(98) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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[静かな部屋で、ひとりきりの起床。 みんなはどこへ行ったんだっけ。思考の止まった寝ぼけ頭が回り、はじめての留守を任されたことを思い出す。 「夕方には帰るから。」
確かに、そう言っていた。目覚めたのは夜だった。 けど、どこにも家族の足音はなく、そのまま──… ……まだ天道様は高いところだ。それに、ここはあの家とは違う。わかってはいるのに、消しきれないままの、思い出したくもない記憶が過ぎる。]
(99) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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[ほんの少し、偶然いなかっただけかもしれないのに。 纏わり付いた心許なさは拭えず、握った手を閉じて開いて彼の体温を思い出す。 扉が開く音を聞けば、とっさに毛布へ顔を埋めた。 ほんの少し驚いただけの反射で、目をつぶって狸寝入り。 それほど違和感はなかっただろう。身じろぐ素振りで顔を出し、薄らと目を開けそれがシメオンだとわかる。 近くに腰掛けるのを見届け、ちょうど今目覚めたとばかりの、なんでもない振りで身を起こす。 どこへ行ってたの──そう、聞きたかったけれど。 少年の知るやさしげな声に、なんとなく憚られてしまう。]
(100) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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ん、……ほんとう?やったぁ!
[何ひとつ変わりない、弾んだ声と綻んだ笑み。世話をされるうちはただ嬉しくて、直前まであったはずの憂いは忘れてしまう。ありがと、と短く感謝を伝える。差し出されたミルクを飲んで、甘い角砂糖を口に含む。]
(101) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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ねえ、早くいこ? [簡素な食事を終えたなら、すぐに彼の手を引いただろう。 見慣れない、自然の豊かな外の世界にはなんでも興味をそそられた。 色鮮やかな花に、見たことのない植物に、木々に──案内されるより早く兄の手を引き、気の赴くまま歩き進んだ。
ただ、ふとした瞬間も繋いだ手を離そうとはせず。文句を言われたら少し駄々も捏ねてみたかもしれない。おにごっこ、などと自ら言い出すことはなく、ぴったりと傍を付いたままで。]
(102) 2017/10/11(Wed) 00時半頃
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[そうして休み休みに過ごしていれば、日が傾くのは思いのほかに早く。とはいえ動き回った身体は疲れ、すっかりお腹を空かせていた。 昨晩と同じように食事を取る。ミルクを片手に他愛ないおしゃべりをして、食器を動かす彼の手元を眺める。] シメオン、今日もおさんぽ行く? [取り残されるのは嫌だったから。 食べ終える前を見計らい、何気なく訊ねる。**]
(103) 2017/10/11(Wed) 01時頃
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[大丈夫と囁く声に不安は過るものの、>>95 彼がそう云うのなら疑問はさらりと崩れて砂と散る。
腕の中、微かな息を籠もらせ瞼を落とした。 笑う彼の表情が瞼の裏に焼き付いてしまうように、 記憶の中、震える彼を抱きしめ返す。
何を怖がったのか、人形には分からない。 つるりとした記憶に残るのは彼の姿だけしかなく、 夜に、”彼の寝台に潜り込んだ”のが最後。
だから彼の恐怖を理解はできない──、けれど。 背に回した腕をするりと上げ、黒髪をぽふぽふと撫でた。 子供らしい稚さにほんのひと匙、愛しさを籠めて]
(104) 2017/10/11(Wed) 01時頃
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─ 数日後 ─
[あむ、と食む砂糖菓子を口に含んで、 ミルクを流し込んで空腹を満たし、たっぷりと眠る。
専用の寝台は取り払われて、寝る時は彼と共に。 そんな微笑ましい夜を幾つか重ねて、 警備が変わったことと対応の変化を継げられ首を傾げた。
そも、攫われた記憶は磨かれている。 だから微笑む彼に甘さが増した理由を測りかねたが、 それさえも素直に受け入れるおとなしい人形だ。
今宵もまた眠る時間が近づけば、 彼には早い時間であろうと寝かしつけてくれる姿へ、 ふんわり笑いを零してその腕の中へ落ち着くと]
(105) 2017/10/11(Wed) 01時頃
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ケイイチ。 さわ、って……
[いつものように掌が頬を撫で、髪を梳き、 それが眠るまで続く幸福を柔らかくねだる。
代わりに自分も掌を伸ばし、 ぺた、と頬に触れて、稚く撫で上げて笑う。
彼が何を想うかを知りたくて双眸は向けたまま、 目を閉じろと命じられるまで、毎夜がそうだった**]
(106) 2017/10/11(Wed) 01時頃
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[外に出た用事は自分に取って然程大事なものではないけれど。眠った相手の子守は退屈で、何より素直に願いを聞き届けるのは癪だった。 >>98 多少寝姿変わっていても、狸寝入りだとは思わない。嘘や演技が出来るほど器用ではないだろうと、高を括っているから騙される。 外へと誘う手は、目的地に着いてもなかなか解けない。木漏れ日が差すとはいえ薄暗い森より、開けた中庭をはじては遊び場に選んだが]
ジョージ、僕は此処で見てるから好きな物を見て来なよ。
[暗に手を離せと催促する。甘えたがりは元来だろうと思っているが、駄々を捏ねる仕草にようやく彼の不安を気取る]
……そんなにくっついてたら遊べないだろ。 鬼ごっこは良いの?
[とはいえ、他人と手を繋ぐあたたかさには鬱陶しさを覚える。引き剥がしはしないが、言葉で手指を解こうとする]
(107) 2017/10/11(Wed) 06時半頃
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[一通り外を見て、彼の気が済んだら屋敷に戻る。 大した運動はしていないが気疲れで、表情が抜けがちになった。探検の成果や感想を聞く気力はなく、黙々と食事を摂る。彼の声に始めは不思議そうな顔をしたた。>>103 普段は食事の後、出歩いたりしないから]
あぁ、……今日は別に良いや。 何で?
[昨晩の事を思えば、何となく彼の言いたい事は察せられたけれど。そう問い返して]*
(108) 2017/10/11(Wed) 06時半頃
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[最近のケイイチの健康生活っぷりといったらない。
何せ夜は九時過ぎに寝て朝は七時に起きるのが基本になっている。 今日日小学生でさえもう少し夜の活動時間が長い中で、 少しでも長い時間ガーディの傍にいる、ということを優先すれば、 自然、そうなった。 おかげで体調が信じられない程に良い。 身体は軽いし思考は穏やかだし髪や肌にハリと艶があり、 視力も心なし上がった気がする。 やはり健康な生活は睡眠と食事からであると実感していた。
元より、身の回りの些事は全て従者に任せることができ、 あせくせと働く必要だって全くない立場なのだから、 問題は全く無いのだけれど。
それでもあえて問題をあげるならば]
(109) 2017/10/11(Wed) 10時頃
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――、う、ん。
[共にベッドの中にもぐりこんで 囁くようなおねだりをされる>>106 伸びてくる手のひらは柔らかくケイイチの頬に触れ、撫でる。
正直に言えば心臓に悪かった。
けれどそれをおくびにも出さず…… 訂正、出さないように努力はした、出来ていたかは知らない! ガーディの頬を撫で髪を梳いて、 彼を眠りへといざなった。]
(110) 2017/10/11(Wed) 10時頃
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[あの後、正室の付き人に「優しく」状況を尋ねたところ、 やはり記憶の消去を試みていたらしい。 記憶を消し、送り返すつもりだったと。 ――まさかケイイチ自ら飛んでくるとは思わなかった、らしい。
消去を依頼したのはガーディを売った店の人形師だという。 急ぎ男とコンタクトをとったところ―
『お客様との守秘義務がありますので』
まったく、つれない返答であった。
取り戻したところで辛く苦しい記憶になるだろう。 呼び覚ましたいとは欠片も思わない。 忘れてたって構わないことは、忘れたっていい。 辛い経験を乗り越えたから頑張れるなんて、 辛い経験を正当化するための防御反応でしかないのだから。]
(111) 2017/10/11(Wed) 10時頃
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[ただ――一体、どこまで、消えているのか? それは、大いに疑問だった。
あれ以来、ガーディは夢に魘されケイイチでない他人を呼ぶことはない。 視線の奥にいつまでもまとわりついていた影も見えない。 何かに怯えた様子もない。
つまり、前の主人との記憶が消えているということか。 しかしそんなこと、起こり得るだろうか。 わからないし、まさか聞くこともできずケイイチは今日も悶々と夜を過ごす。 悶々と過ごすのは身体によくない。精神上もよくない。 近いうちに従者に夜の相手の手配をさせなくては、と思ってはいる。 思ってはいるが―― 前回の恐怖が脳裏にちらついて、行動を起こすことをためらわせる。
ケイイチにできることと言えば、 己がガーディを傷つけることのないよう、 必死に理性を保つことだけだった。]*
(112) 2017/10/11(Wed) 10時頃
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いーや、なんもねーよ。
[首をひねる彼に手を振って忘れろという仕草をする。 分かっていないのならば、言わない。 というか、今言ったところで理解できないだろう。
彼にじわじわと常識を染み込ませなければいけないと そう気付きつつはあるものの、 まだ完全には分かっていないオッサンであった]
あ?愛情不足で枯れるって……枯れる?
[その言葉は読んだ覚えがあったが、きちんと覚えていない。 ダメ男の体現とはこのことを言うのだろう。
きっと、自分の言葉に呆れたような素振りを見せるだろうが、 悪い悪いといつものように謝るだけに終わったかもしれない]
(113) 2017/10/11(Wed) 10時半頃
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飯なー……お前が食ってないと白い目で見られない?
[ミルクはあっても砂糖菓子なんてないだろうし。 うーんと悩んで、彼をちらりと見る。
彼の料理は美味しいし、満足しているから、 特に外で食べたいと思うこともない。 というより今は、外で食べる習慣すらなくなった。
けれど最終的に、たまにはこいつを休ませてもいいかと そんなことを思って。 ファミレスに行くか、とモール内にある レストラン街を目指すことにした]
(114) 2017/10/11(Wed) 11時頃
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[――――そのときだった。
久しぶり、と不意に声を掛けられて、 一体誰かと視線を向けた先に"アイツ"がいたのは。
忘れもしない。忘れられるわけがない。 それは昔自分を拾って、そして捨てた男だった。]
(115) 2017/10/11(Wed) 11時頃
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― ある夏の話 ―
[それは何年前のことだろうか。 最早、過ぎ去った日々を思い出すのも難しい。 それほどには、昔と言える記憶だった。
出会いは働き始めて数年経った頃。 彼は他社からの引き抜きで来た所謂出来る人間だった。 そして何の因果か、こちらの部署へ配属された。
酒や食の趣味、研究の興味。 それらが合致して、仲良くなるまではそう時間はかからなかった。 立場としては彼の方が上だったけれど、 そんなことは関係ないとばかりに交友関係を結んでいた。 自分の数少ない友人。身内のようなものだとすら思った]
(116) 2017/10/11(Wed) 11時頃
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