191 The wonderful world -7 days of MORI-
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―回想・とある春の日―
[――春。 それは別れと、出逢いの季節だ。 困り顔の鳥飼寿に引き取られたのも、 たしか、うららかな春の日だった。
朝に夕に、高らかに声を張り上げる。 大型インコに特有の雄叫び―― それが存外五月蠅かったからと、 気紛れな大家が飼育放棄したコンゴウインコ。
……それが、俺である。]
(+2) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[前の主人は、好きになれなかった。 呼び掛けても構われなかったどころか、 飼い始めてすぐ匙を投げられてしまった身。
だから、新しい環境への期待は大きかった。
トリカイ、ヒトシ。
――どんな人なんだろう? ――たくさん、遊んでくれる? ――いっぱいお話し、してくれる? ――美味しいごはん、食べたいな。 ――見て見て、僕って綺麗でしょう? ――君のためなら、綺麗に鳴いてみせるよ!]
(+3) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[――ねぇ、ヒトシ。
ねぇ、ねぇ、
こっち向いて。 …僕を見て。
ねぇ、 ……ねぇ、ってば 、]
(+4) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[――…どうして、そんな顔するの。]
(+5) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[ヒトシはいつだって、話半分だった。>>1:122 ろくに耳も傾けず、視線はPCの画面に向けて。 うんうん、と形だけ頷いたりも。
最初のうちは、それで良かった。 反応を返してくれるだけで、嬉しかった。
けれど段々と、ものが解るようになって、 …その態度が、無関心の表れであると知って。
それが気に入らなくて、 さらに躍起になって気を惹こうとした。
結果的に、逆効果だったけれど。]
(+6) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[春の終わりに、 俺は、寂しいという感情を知った。]
(+7) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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―回想・とある夏の日―
[それから数か月が経ち、 ヒトシとの関わりは相変わらず希薄なままだったが、 代わりに、絶え間なく流れる映像と音を得た。>>1:20
話しかけても決して返事はくれなかったが、 それらは色々な言葉や、その意味を教えてくれた。
時間ばかりはたくさんあったから、 じっくりと、ニンゲンという生き物を観察した。 どういう時に、どんな単語を投げかければいいのか、 どうすれば、相手の――ヒトシの気を惹くことができるのか。]
(+8) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[ただずっと、眺めていた]
(@83) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[文字を読み、覚えた言葉を真似してみせると、 珍しくヒトシが笑顔を向けてくれた。 それが嬉しくて、また一つ言葉を覚えて、]
オハヨ! コンチワ! マタ アシタ!
[けれど、いつしかその言葉が向かう先は、 無機質なカメラのレンズとなっていた。
ヒトシ曰く、クスクス動画に投稿するとのこと。]
(+9) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[お礼を言われた時も。>>526 ミッションをクリアして喜ぶ姿も。>>528 近付く人影も。>>533 幾何ちゃんがこっちを見た時も。>>@70 首に当てた手から、変な音がした時も。>>539 鈍色に光る刃を降り下ろす時も。>>543 地面に崩れ落ちる身体も。>>556 少し前、男が目を瞑り事切れる瞬間も。>>559 八千代ちゃんが来た時も。>>@75
僕はずぅっと、少し離れた上空から。 青いガラス玉の瞳をただ、下の景色へと向けて 一連の流れをずっと、ただ、眺めていた]
(@84) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[それが何かは知らなかったが、何か下心がある気がして。
やがてカメラを向けられると喋らなくなり、 ヒトシは撮影をやめ、俺も新しい単語を口にしなくなった。
…つまりは、そういうことなのだ。 それが解ると、何だか無性に腹が立って仕方がなかった。]
(+10) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[夏の終わりには、 俺は、反抗することを覚えていた。]
(+11) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[八千代ちゃんが再び何処かへ飛んでいって。 僕は、出来るなら誰もいなくなってからがよかったんだけど、 ミッションがクリアされた今、ぼーなすたいむはもう暫しもないから まだひとが残っていたとしても、そろそろ地上へ降りるだろう。
幾何ちゃんは、包丁をもったひとはまだいたかな。 幾何ちゃんがいたなら、「疲れたでしょ」とか、 「もうすぐ始まるだろうから少し休んでなよ」とか、 そんなありきたりのことを言って見送ろう。
包丁をもったひと、ねるのほんと答えた君がいたのなら、 「今のうちに洗ってきたら」 「血がついたままだとすぐ錆びて、使い物にならなくなるらしいよ」 って、これまた何の感情も含めず、淡々と、 初めて会った時と同じ声色で告げるだろう。
どちらにせよ、ここから僕以外いなくなるまで。 血溜まりの海と、そこに沈む亡骸から君たちへは視線を一切向けず、 何時も通り無表情の僕が、其処にいただろう。 その頃どちらもいなくなっているなら、それが一番だけれど*]
(@85) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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―回想・とある秋の日―
[それでもやっぱり、諦めきれずに。 あまり家に帰らぬヒトシが顔を見せれば、>>2:109 今日こそはと、何かしら行動したものだ。>>2:111
態度はだいぶ、可愛げがなくなって。 ストレスによる過剰な羽繕いも相俟って、 姿はなかなか、凶悪に見えていたかもしれないが。>>2:113]
(+12) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[リピート再生される幼児向けの教育番組はとうに飽きて、 この頃にはこっそり、テレビのリモコンを弄ったりもしていた。 …ヒトシが出掛けると足を伸ばし、帰る前には消しておく。
そうして観はじめた主婦向けの番組には、 これまでとは異なる種類のニンゲンが出ていて、 夫に邪険にされ、寂しく思う妻などにはかなり共感した。
ヒステリックに叫ぶ彼女達を見て、ふと思う。
――これを、ヒトシに問いかけてみたら?]
(+13) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[半年も共に過ごせば、色々と理解できる。 ヒトシが日中、シゴトをしていること。 そのシゴトが大切で、そのために寝食を削る程であること。
テレビの中の夫達も大抵が彼と同じ状況にあり、 それで家に残された妻が、悲しい悲しいと泣くのだ。 件の問いかけには、二種類の答えが用意されている。
――“シゴト”か、“アタシ”。]
(+14) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[おまえだよ、とすぐ謝るパターンは決して多くはないが、 それでも時折目にしたし、最後は幸せに締めくくられる。
大半の男はまず、シゴトだと答えてしまう。 けれどその場合でも、紆余曲折を経て最後には、 やっぱりおまえが大事だよ、という結論に辿り着く。
…つまり、この問いかけは。 ハッピーエンドに繋がるキーワードなのではないのか?]
(+15) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[そう考え、ワクワクしながら帰宅を待って、 ドキドキ胸を高鳴らせながら、あの台詞を叫んだのだ。]
(+16) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[――結論から言うと。
結果は、最悪だった。]
(+17) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[驚いてこちらを振り向いたヒトシに、 キラキラと期待の眼差しを向けた。
ある程度辛辣な言葉が投げられるのは、 もちろん、覚悟の上だった。 働く男達の大半が、そうだったので。
一人でノリツッコミをこなして一見、上機嫌。>>2:113 けれど続き、早口で述べられる答えはやはり、“シゴト”。>>2:114]
(+18) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[焼き鳥にして喰ってやる、という、 酷く恐ろしい、胸の潰れる、最大級の罵倒を受けて。 それ程までかと泣きたくもなったが、 どうにか涙は堪えて、じっと黙って見つめていた。
大量の餌だけを置いて、ヒトシが家を出る。>>2:114
ここでヒステリーを起こしてはいけない。 黙って耐え忍び、風向きが変わるのを待て。 そうすればきっと、彼は振り向いてくれるから。
…物語の彼らはいつだって、そうだっただろう?]
(+19) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[けれどそのまま秋も終わり、 俺は、諦めることを覚えてしまった。]
(+20) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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―回想・とある冬の日―
[朝晩が冷えるようになった頃。 寒いと抗議して鳴いたら、暖房が付くようになった。
光熱費が嵩むとボヤかれたものの、 南国の鳥であるから、そこは仕方がない。 いっそ人の身であれば良かったのに。 そしたらアンタは、もっと――
…そんなこと、考えたところで無駄だったけれど。]
(+21) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[やがて冬も終わってしまい、 想い出も何もないまま、また、春が来た。]*
(+22) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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―ロスタイム:とある結末、その後―
[つぅ、と頬に温かなものが流れる。 ゆっくりと瞼を持ち上げると、 ぼんやり滲んだ視界が飛び込んできた。]
あ、っれ、……
[――最後の記憶。
鳥飼に礼を述べようとして、鮫に喰われた。 はず、だったのだけれども。]
(+23) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[辺りを見渡せば、そこはスクランブル交差点。
翌日に移行したのかと疑問符を浮かべていたところ、 上空から、ぼやけた影のような人物に語り掛けられた。>>+0 …涙をごしごし拭っても、やはり上手く像が結べない。
“未だに諦めきれない方は、――>>+1”
嗚、そんなものは。 答えなど、わかりきっているというのに。]
(+24) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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俺はまだ、諦められない! 諦めたくない!絶対に嫌だ!
だッてあいつ、言ッたンだ。 一緒にいる時間、増やしてくれるッて、 だから、だから…!
[なぁ、ヒトシ。 このまま死んでサヨナラなんて、俺は嫌だ。
もしもまだ、やり直せるなら。 俺は、……なんだって、やってやるよ。]**
(+25) 2016/06/13(Mon) 02時半頃
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[ ── 会話が、途切れたあたりだっただろうか。
それまでは気づかなかった、金髪の死神>>@85に、 おれはなるほど、と頷いて、 その場を足早に立ち去っただろう。
なんせ、血に濡れた包丁なんて、 おれは処理したこともないし、 使い物にならなくなると、困るのだ。
近くの建物、って。 水が使えそうなところ、って。 おれは、目についたユニシロに走って──、]
(653) 2016/06/13(Mon) 03時頃
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[ 最終的に、刃についた血を洗い流し、 手と、顔を洗ったところで、 意識を遠のくのを感じることになる。
── どれだけ洗っても、 木製の柄に染みこんだ赤色が取れない、って、 躍起になっている、そのときに。
その、おれが、血だまりを立ち去ってから、 ユニシロに飛び込み、意識を失うまでの間、
誰かに会ったか、というのは、さておき。**]
(654) 2016/06/13(Mon) 03時頃
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[包丁のひとは、すぐに此処を離れていった。>>653 説得染みたことも、忠告も、何一つせず、 僕は目を向けないまま、見送ろうか。 見てないから表現としては正しくないけれど。
幾何ちゃんは、いたなら何か話したかな。 僕は普段どおり、それでも急かすように言葉短めに返すから 君が立ち去ってくれればいいのだけれど。
そうして、怒涛の展開ってやつが終わった地に一人。 それでも、この死神のゲームでは珍しくはない、普通によくある出来事が終わった地に一人。 僕は膝を折るでもなく、立ったまま血だまりを見下ろしている。
別に、見慣れた光景で。ルール違反でもなんでもなくて。 だから僕は、その行為自体には何も感じないんだけど。 赤く染まったふたりをただ、じっと見下ろしている]
(@86) 2016/06/13(Mon) 03時半頃
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