278 冷たい校舎村8
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[ 礼一郎は気分が悪かった。]
(+7) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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「 ほんと、なんで生きてんの? 」
(+8) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[ 夢の中の夢。 あるいは、異世界で見た夢。
それをなぞるように、 ゆっくりとそれの傍らにしゃがみ込む。
礼一郎は、じいっとそれを見ている。 見ているだけで胸がムカムカした。
なんで生きてんだろうって、 とっとといなくなんねえかなって、 頭の中でぐるぐると渦巻いている。]
(+9) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[ 礼一郎は本当に、妹のことが嫌いだ。]
(+10) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[ なあ。って礼一郎は言う。 うつむいたまんまの妹の髪を、 傷んだ不揃いな髪を一束掴んで、 強引に自分のほうを向かせた。]
(+11) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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どれがいい。 ケーサツ呼ぶのと、 先にどっか遠くに逃げるのと。 それか、ずうっとこのまんま。
(+12) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[ ……声は震えていた。]
(+13) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[ ガラス玉みたいな、 何もうつさないがらんどうの瞳が、 礼一郎にじいっと向けられている。
気持ちが悪い。叫びそうになったとき、 妹のひびわれた唇がゆっくりと開かれた。]
(+14) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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声に出してしまったからには、 礼一郎はちゃんとその言葉を背負うべきだ。
(+15) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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嘘をつくのは良くないし、 自分の発言は簡単に放り投げたりできないからね。
(+16) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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…………わかってる?
(+17) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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…………わかった。
(+18) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[ 言って、乱暴にその髪を離せば、 妹の痩せた体は簡単にバランスを崩した。
待てともあとでとも言わないで、 礼一郎はさっさと立ち上がり、 大急ぎで玄関を飛び出し、夜の道を駆ける。
妹なんかよりずっと、ずっと、 会いたい友人がいるはずの場所へ。**]
(+19) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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— 保健室 —
[ふらりとそのまま保健室に戻ってきて、 誰もいなくなったその場所で、息を吐く。
あと、何人が残っているんだろう。 大丈夫、もう苦しい思いをしなくても帰れるから。
保健室の入り口近くの台に、 メモを置き、そこにペンを走らせる。]
(15) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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『昇降口が開いていたので、先に帰ります! みんなも早く戻ってきてね! 外で待ってるから! 紫織』
(16) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[……これを確認して、みんな素直に帰ってくれますように。 最後の嘘。に、なればいいな。
書き置きだけを残して、そのままふらりと校舎を歩く。*]
(17) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[黒板の記述を見ていた。 この校舎に来て次第に書き足されていった文字。
整っていたり、不揃いだったり、丸かったり ……そういう文字の群れ。 ここにみんながいたという証。
きっと、残りはしない。残りはしないのだけれど 俺は静かにスマホのカメラを構えて、 しんと静まり返る教室の中、その文字を撮った。]
(18) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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— 昇降口前 —
[黒いインクは全て綺麗さっぱり消えている。 ここを開ければ、元の世界へ出れるだろう。
……と、その脇に、 たくさんのマネキンのような、柔らかい人形が積み重なっている。>>3:879 これは消すことができないから、しょうがない。
そこから引っ張り出されたマネキンには、 既に毛布が被せられていた。]
まなちゃん、ごめんね。
[エンドロールの終わる映画館には、観客はいられない。 最後まで楽しんでくれたかなぁ。 くだらない話で、申し訳ないけれど。
昇降口前をそのまま通り過ぎて、ひたひたと歩く。*]
(19) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[外は静かに雪が降っている。
ごめんなさいを言えるほどに殊勝じゃない俺は 未練がましくもまだ校舎の中にいた。]*
(20) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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――チャイムが鳴る――
[福住との話を終えて、教室に戻った辰美は 昨日と同じように寝る支度を整え、眠りについた。
連城や礼一郎がそこにいたなら、 話すこともあったかもしれないが、 そこまで口数は多くなく、 何をするかといえば黒板の文字をカメラに写すだけ。
そうして、夜は更けていく。]
(21) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[──午前8時50分。 目を覚ました辰美幸俊は、 教室の前に血だまりを見つけた。
それから気づいてしまう。 阿東礼一郎の姿が教室にない。]
……れーがいない。
[そのつぶやきは、 教室にいたなら連城にも聞こえただろう。 辰美はそのまま足跡を追って二階を行く。 追って、追って、追った二階の廊下の端。
果てだったはずの所に それ、が転がっていた。]
(22) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[顔に大きな印がある。>>4:625 少し小柄な背丈の、髪の短い男のマネキン。 上履きが赤く血にまみれているが、外傷はない。
ただ、何か罪を示すように、大きな印が刻まれている。]
(23) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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「あーあ。ダメだったね。 彼もまたこの夢の中から追い出されたようだ」 「結局さあお前はここに残るんだよ」 「見てろってさあ。どの口がいうわけ」 「だって死にたいもんな」 「むしろ死ねよ、お前がいるから俺が、」
(24) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[耳鳴りがする。 やかましく囀る兄の声がある。 目の前を顔の崩れた紳士が歩いていく。 息が、できなくなっていく。]
(25) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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……うるさい。
(26) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[うつむいた辰美は、それだけを呟いた。 どこから落ちてきたのか、 血の足跡に一つ二つと透明な雫が落ちて、 …………それで、おしまい。
目元を強引に腕で擦って、 辰美は無理に大きく息を吸って、吐き出した。]
(27) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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[犯した罪は消えない。 だけれど、これまで重ねた良い事だって、帳消しにはならない。
恥ある人間の真似をして、ようやく、辰美は息をする。]
(28) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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大丈夫。大丈夫。……だいじょーぶ。
[ここに残された。残って、しまった。
だからきっと、辰美は最後まで、 この世界に向き合う必要がある。
遺書の送り主は未だわからず、 絆創膏が貼られたままの左手を強く握って 一旦、くるりと教室に踵を返した。*]
(29) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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― 2階:廊下 ―
[廊下の端。本来そこは行き止まりだけど、 その先には増設された歪んだ部室棟がある。
……その手前に、マネキンが転がっている。>>4:625 邪魔だなぁ、って思って蹴ったりはしないよ。別に。]
何を踏んだの?
[汚れた靴底が気になるけど、わたしはそれを察することもない。 帰って聞けば教えてくれるのかもしれないけど。 その約束は、果たせないね。 まあ、しょうがない。
委員長が他のみんなにしてあげたみたいに、 布をそっと被せてあげるべきなのかもしれないけど。
>>22誰かが来そうな気配がしたので、 気付かれる前にふらり、そこを立ち去る。*]
(30) 2020/06/22(Mon) 00時半頃
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―― 昨晩 / 音楽室 ――
[その日の晩も、眠れなかった。
真っ暗な電気の消えた音楽室でひとりきり。 辰美の用意したシーツで 寝返りを打っていた]
(31) 2020/06/22(Mon) 01時頃
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