193 ―星崩祭の手紙―
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[何を書いたのだろう。 私は、君の綴る言葉を知りたい。 私も、君と同じように言葉を綴りたい。 どうしたら、いいの?]
ふふ、文。 出してくるねぇ
[君は、片手に持っていた筆記具を 私の前、硝子を挟んだ其方側にそっと置き。 両手でカプセルを抱きしめる。 落とさないように、大切そうに慎重に。 カプセルを送る場所。 其処は、私の居場所からでは見えやしない。 ………また、君が帰ってきたら。 教えてもらえるかなと、期待すること数度。]
(27) 2016/07/17(Sun) 00時頃
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………ふぁ、ふ…
[大きな欠伸をひとつ。 目尻に涙を浮かべながら、 ぐぐぐ、と伸びをしたり首を鳴らしたり。
暇だ。実に暇である。]
(28) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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平和っつーのも、考えものだな。
[ここは、とある保険会社のオフィス。 《ロボット保険課》 そう書かれた電子札の下げられたこの場所は 名の通り、ロボットに関する事故等を担当する部門で 俺はそこの調査員として働いている。
星が滅亡しかけているのに仕事なんて… そんな風に思った時期もあったが、 悲しいことに、五年も経てばその考えは消えた。 どんな状況であろうと事故は起こるし、 それに伴い保険金も請求される。 商店も、郵便屋も、テレビのアイドルも 皆、平和な日常を取り戻すように 数年前と変わらずあくせく働いていた。]
(29) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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暇だ。
[声に出した呟きは、上司に届いてしまったらしい。 液晶端末越しにギロリと睨みつけられ、 俺は慌てて端末の陰に隠れる。 でもだって、仕方ないじゃないか。 ロボットの技術も向上した今、 故障事故など起こることはほとんどない。 せいぜいあっても、 ペットロボットに噛まれただとかそんなものだ。
皆が日常を取り戻そうと働くなか、 俺はこのデスクで暇をつぶすだけの生活。]
(30) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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( ……なにしてんのかなあ、俺 )
[イスの背に体重を預け、 ズルズルとだらしなく身を沈める。 働く意味、とは。 そんなことを考え始めたところで デスクの下で光る物の存在を思い出し、 課長に見つからないよう、こっそりそれを取り出した。]
「 あ、それ文流しの…… 」
[ギクッ。 背後からかけられた声に大きく肩を揺らし、 手にしたカプセルは手の上をわたわたと踊る。 どうにか落とさずにキャッチしたところで振り返れば、 若手の女性社員が笑みを浮かべていた。]
(31) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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[無数の流船が、町中に上がっている。 立ち並ぶ露店は煌びやかに飾り立てられ、普段の何倍もの活気で溢れかえっていた。]
「よう、環維隊のねーちゃん!今日もお勤めかい?」
あー、コンバンハ、フローレス。 あんたらはいいねぇ、浮かれていられて。
「はっは!ねーちゃんもこれから思う存分浮かれりゃいいんだよ。 光籠流し、今年の担当はアンタなんだろう?」
そーだけど、仕事の一環じゃないの。 もっとくつろげる時間が欲しいわぁ。
「おっ!そんならこいつはどうだい? ねーちゃんの殺風景な部屋に1本!」
……殺風景は余計だっつの。
(32) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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これは、えーと、 嫁に頼まれて…… や、俺が送りたいわけじゃないんだけど 違うって、俺のじゃないって。
[「意外とロマンチストなんですね」なんて によによ声をかけてきた彼女は、 俺が否定をしてもひらりと手を振って そのまま離れていってしまった。
文流しは若い女性や子どもに人気のあるイベントらしく(もちろん、老若男女問わず行われてはいるが)、俺のような男がカプセルを持っているのは、少しばかり目を引くようだ。]
(33) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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………はぁ、持ってこなきゃ良かった。
[今朝、セトとシンに必ず手紙を書くよう念を押され、 家に帰ったらみんなで一斉に空へ飛ばす約束をした。 けれど、見ず知らずの誰かに書く手紙など なにを書けばよいのかもわからず。
───…いや、ひとつだけ 俺の言葉が、空の果て どこかのだれかに届くのなら…
俺は静かに、ペンをとる。]
(34) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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[営業に余念のない花屋にひらひらと手を振って、歩を進める。
光籠流し──それは、創世祭に先立ち、数日間に渡り光籠と呼ばれる透明な草で編まれた籠を、宙へと飛ばす行事。 その際に、願いや祈りをしたためた札を共に入れると、神様に届き御言葉を下さる……と、言われていた。 科学の進んだ現代では、その原理は既に解明されているのだけれど。 他所の星では文流しと言うのだったか。 他星言語の解読ができなかった昔の人々は、それを神の御言葉とあれこれ勝手な解釈をして、有難がっていたというだけの話だ。]
[宇宙プランクトンがどうの……という話は、あまり馴染みはない。 だが、どういうわけなのかこの星の創世祭は、***年に一度と言われる星崩祭と、まるきり同じ時期に重なるのだった。]
(35) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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……ただいま。
[そう声をかけると、方々から賑やかな声が上がった。 通称ホーム、身寄りのない子供たちが暮らしていくための、早い話が孤児院である。 彼女の家も、そこだった。 幼子特有の高い声を適当に躱しながら、彼女は1人の少女へと近付いた。]
ただいまステラ。 帰ったよ。
「……お姉ちゃん、お帰り。」
[ステラ。 その少女との間に血縁はない。 けれど間違いなく、少女は彼女の妹だった。 ぺたんと床に座り込んだままの、ステラの瞳を捉えんと、彼女も腰を落とす。]
(36) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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[虚無。 ステラの目は、彼女を見ない。 代わりに映し出すのは、どこか遠い宇宙の景色。 真っ暗な黒の中に、極々小さな光を宿すその眼に、光を感知する能力は無かった。]
書くことは決まった?
「うん。どこか、遠くの誰かに届くんだよね。」
["光籠に入れる御札に、お手紙を書きたい" こくりと頷くステラの、それがお願い事だった。 どこで仕入れてきたのやら、創世祭……と共に訪れる、星崩祭で行われている行事。 文流しと呼ばれるそれを、自らもやってみたいとせがまれたのだ。]
紙とペン、持ってくるからちょっと待ってて。
[そう告げて、彼女は白墨を取る。 そして、紡がれる小さな言葉に、耳を傾けた。]
(37) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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[手紙を書き終えペンを置くと、 くるくると便箋を丸め銀の糸できゅっと結んだ。 それをすとん、とカプセルに放り入れ シンに頼まれたプレゼントも一緒に中に入れる。]
………。
[結局、思うような言葉はうまく出てこなかったけれど それでも、手紙には自身の想うことを 僅かながらに込められた、はずだ。
最初は本当に誰かに届くのかさえ信じていなかったのに カプセルを手に家に帰る頃には 返事を期待している自分がいた。
空は夕暮れ。 紫色から夜の群青へと変わっていく。]
(38) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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よし、これで終わり。 今度は引っかかるんじゃないぞ。
[頭をすっぽりと覆うマスク越しのくぐもった声では、仮に聴覚があったところで聴き取れはしないだろう。 抱えた無人探査用の機械を、なるべく平たい場所を選び、置いてやる。 最後にぽんと背を叩いてやると、どちらが前か分からない丸い身体を一つ震わせてから、湖底を進んで行った]
(39) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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――さて、これはどうすっかね。
[小さくてどこにでも入り込め、人が探索出来る場所でも出来ない場所でも全自動で調査を行ってくれる。 しかも何だか動きが健気で可愛いと、婦女子やお子様、一部寂しい独身男性まで広く人気の無人探査機くん。 困ったことに、分かり易い欠点が幾つか既に発覚している]
[一つ、気付いたら同じところをぐるぐる回っている。 二つ、僅かな段差に脚を取られて動けなくなる。
――探査機としては、割と致命的な欠陥だ。 偉大なる先人達の功績への敬意と尊敬は持ち合わせているものの、この探査機がトラブルを起こす度に駆り出される現代の技師としては、可愛さよりももっと優先する事があったんじゃないかと突っ込むくらいは許されたい]
[段差ならまだ可愛い方で、今回のように調査対象の遺物に引っ掛かって動けなくなるようでは困りものだ。 探査機の進行を妨害していた一抱えほどの遺物と、メンテナンス用の機材一式を手に、湖面へと脚を蹴り出した]
(40) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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― 調査船島 ―
……ぷはっ。
[擬似陸へと上がり、マスクを外す。 仄碧く光る肌に落ちた水滴を乱暴に拭い、未だ潜水スーツに包まれた掌で耳をぱしんと打った]
あーーーーーー耳おかしい。
[水中と陸上で感じる音への感覚の違いは、何度潜っても慣れない。 暫く使い物にならない耳の代わりか、マスクの両端に付いた小さなケースへ押し込まれていた触覚が自由を取り戻した事への歓喜に震える。 そして、馬鹿になった聴覚に届く前に触角へ届いたのは『誰かが近付く気配』だった]
(41) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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「よっ、R0-MBαちゃんの調子はどーだった?」
[ぽんと気安い仕草で肩を叩いたのは、湖底遺跡調査部の同僚の一人。 俺と同じ保持保安技師ながら、あまり湖底へ潜ることはしない。何でも自称『遺跡アレルギー』なのだそうだ。
……何でこの仕事に就いたお前]
(42) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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どーもこーも。まーた底で引っ掛かってたよ。
[小脇に抱えていた遺物を置き、「今回はコイツ」と指差す]
「おっ、文流しのカプセルじゃん! 何年前のやつかなー。かなり古そうだけど」
[奴は身を乗り出し、遺跡アレルギーと嘯く割に興味津々と行った体で遺物を撫で回す]
……ふみながし?
[怪訝な表情と尻上がりの発音に疑問を感じ取ったのか、呆れ顔で同僚が宙を指す。 そこには、先程遺跡から揚がったばかりの遺物と似たような大きさと形のカプセルが、多数浮いていた]
(43) 2016/07/17(Sun) 00時半頃
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── 夜、自宅にて ── [K居住区2号棟。 そこが俺たち一家の住まいだ。 就業時間を終え帰宅するなり、 シンが俺の手を引き集合住宅の屋上へ。]
────
いくぞー いち、にの、さん!
[日が沈んでいく、紫と群青の混じる空に シンと、セトと、俺と、 3人並んで宇宙カプセルを飛ばす。
ゆっくりと手を離れたそれは ふわりふわりと上昇し 一度、星のようにきらりと光ると そのまま夜の空へ溶けていった。]
(44) 2016/07/17(Sun) 01時頃
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[電光が反射する床に、座る。 ヒトがワタシたちを眺めるときの同じ体勢を真似た。
ワタシ達は相談を始める。]
何を書く?
[ 文字は書ける。 紙はこれしかない。
繭の後ろにしまってあった紙の束とくれよんを碧のワタシがとりだす。 文字の練習をしたそれは、縦横無尽にひらがなが踊る。 この紙で手紙を書くことは躊躇われた。 内容のことよりも、紙を調達しなければならないという見解は、 糸を通さずともワタシ達の中で一致した。]
(45) 2016/07/17(Sun) 01時頃
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よし 帰るぞ。 返事、くるといいな。
[小さなシンの手を取り、三人並んで歩く。 今日という日が、平和に終わろうとしている。
明日も、どうか、]
(46) 2016/07/17(Sun) 01時頃
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[扉の前に立つ。 ヒトはいない。 いないが、不思議とワタシ達の動きがわかるらしい。 数秒待てば、音がして扉は開かれる。 扉を通れば、電子音が響く。 いつも不思議でたまらない。]
(ヒトを探しに行こう。 紙と、カプセルとかいうものを貰いに。)
[扉の外では、あまり声を出す気にならないから。 そっとワタシ達に糸を伸ばして伝える。]
(47) 2016/07/17(Sun) 01時頃
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[ヒト達、がいる場所まで歩く。 探しているヒトは、その場所の奥にいることが多い。 その場所に辿り着くまで、ヒト達の視線に曝されて嫌だった。 ヒトは嫌いだ。あのヒト以外は。
この気持ちは碧のワタシと、翠のワタシと共有できない、ようだった。]
(48) 2016/07/17(Sun) 01時頃
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[ヒトの姿を認めれば、ワタシ達は駆け寄ろうとするけれど。 映像を思い出して、ヒトの真似をして片足で跳び跳ねながらヒトのもとへ。 ちょうどヒトは食べ物を摂取していたようで、 手に持ったそれに齧り付こうとした姿勢で静止した。 ワタシ達はそんなヒトに構わず、袖を引いて瞳を覗きこむのだった。]
(49) 2016/07/17(Sun) 01時頃
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[ヒトに渡されたものを、手にワタシ達はワタシ達がいるべきところへ戻る。 扉に手をかければ、開かれる。
電子音が響けば、赤と青と緑のランプが点灯する。 それはワタシ達があずかり知らぬところ。]
(50) 2016/07/17(Sun) 01時頃
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[書き上げたもの、それからもうひとつ。 カプセルに詰め込む。
文字を書いたワタシは、疲れて意識を手放す。 目覚めた時に、カプセルの行方を知ることとなる。]
(51) 2016/07/17(Sun) 02時頃
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― 自宅 ―
[僅かにしかない陸地は、王族や貴族の居住区。 『地上』は、庶民には手の届かない高嶺の花だ]
[調査隊の基地は調査船島と呼ばれる大きな船上にある。 そこには、基地の他に発電所や商店や畑まで、一通りの施設が揃っている。 湖上で起こる水面の揺れも殆ど感じない、住み易い環境だ]
[勿論そこには居住区画もあり、調査隊の寮もある。 だけれど、薄い壁に区切られた高層の建物で寝起きするのが俺の性には合わなかった。 調査船島の岸辺に程近い、数畳ばかりの小さな舟が、俺の城]
[灯りを点け、貰ってきたばかりのカプセル―宇宙カプセルというのだそうだ―に向かう]
(52) 2016/07/17(Sun) 02時頃
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[昼間、同僚が「ホント食べ物のことにしか興味ねーのな」と失礼な事を言いながらも教えてくれた]
星崩祭……かぁ。
[宇宙プランクトンの大移動と、それに伴う祭事と前夜祭。 俺としては前夜祭よりも祭の屋台の方が気になるところだけど、半ば押し付けられたカプセルは、有効活用すべきだろう]
(53) 2016/07/17(Sun) 02時頃
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[湖底から引き揚げたカプセルに良く似た新品のカプセル。 それに手紙と、透き通りキラキラと輝く宝石のように見える何かを数個同封し、閉じる]
[そうしてから舟の簡素な窓を開け、宙に放った]
[――宛先は、着くまで誰にも分からない]
(54) 2016/07/17(Sun) 02時頃
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[ノリと尻の軽い同僚の言うように、 「可愛い子に届けばいいな」なんて]
[ちらっとしか思っていない。ちらっとしか]
(55) 2016/07/17(Sun) 02時頃
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