270 「 」に至る病
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君たちは主人の役に立つことを考えるが、 血を飲まれなければ役立たずだと自分を責めるが…… 君たちがいきて、隣にいて、笑っていてくれるだけで 僕らの心を満たすことがあるのを知らない。
あるいはすっかりと忘れてしまうね。 血など吸わなくとも確かに 団欒があり、愛や情があったことを。
……僕らがそう作り変えてしまうのかな。 君たちの血を汚して、 人間だった君たちを、そうでなくしてしまうからか。
テセウスの船ではない、と信じたいところだが、……
(375) 2019/10/11(Fri) 23時半頃
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[君たち、と言い、少し咎めるような口調になったのは まだ、妻の事件が風化していないからだが、 吸血鬼教授は次いで、「すまないね」と謝罪し しっかり砂糖とミルクを溶かした紅茶を差し出し 少しぎこちなく笑った。]
すまない。君に愚痴ったところで、 どうにもならないことだが まあ年寄りのぼやきとして流してほしい。
…………
離れたほうがいいんじゃないか――……>>334 ……何度も、それは思ったことがある。
娘に君のように思われているかもしれない、 という不安も、何度も抱えたことがある。
(377) 2019/10/11(Fri) 23時半頃
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アルブレヒト医師の内心はわからないけれど 僕はね、
娘に幸せになってほしい、 良い人と結婚して人並みに生きて欲しい、 そう思うくせに…… 19にもなって反抗期がやってこないあの子を 心底心配して、家から追い出さなきゃいけないか悩んで
もし家から出て行ってしまったら悲しいだとか…… 僕が、寂しいだとか……
そういういろいろをひっくるめて考えて 結局、彼女と一緒に過ごす生活に安住してしまう。 そういう情けない男だよ。
(379) 2019/10/11(Fri) 23時半頃
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[封をした彼からの贈り物を、紙バッグの上から優しく撫で 重くなりがちな空気を茶化すようにそう言った。 指を組み、人となりをよく知らぬ医師に思いを馳せる。
疑心暗鬼は、眷属の病を進行させるから できるだけ病を深めることなく すっきりした顔で帰路についてほしいと そう思い、こう投げかける。]
……400年生きていてすらこうなんだ。 アルブレヒト医師がどれだけ老成しているか 僕にはわからないが…… ……君の話を聞くに……
君が黙って出ていってしまえば、きっと寂しい。 けれど、君が病で壊れてしまうのは恐ろしい。 そう思うんじゃないかな。
(380) 2019/10/11(Fri) 23時半頃
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[そこまでを語り、苦笑する。]
信じるかどうかは君次第だ。 合っているかもわからないし。
とはいえ……
一度、主人とただ一緒に 食卓でも囲んでみるのをおすすめするよ。 吸血じゃなくて普通の食卓を。
[ちらりと時計を一瞥すれば、 そろそろ陽も傾く時刻。 セイルズはフェルゼに 「時間は大丈夫かな?」と投げかけながら 思い出したように、こういった。]
(382) 2019/10/11(Fri) 23時半頃
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……そういえば。 お守りのようなものだけれど 僕はここに来た眷族皆に聞くことにしているんだ。
フェルゼ君。 100年後、君はどう生きていたい?
[どう答えてもいい。 思いつかなくてもいい、と、吸血鬼教授は添えて 微笑んで指を組んだ。*]
(383) 2019/10/11(Fri) 23時半頃
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[白髪の少年が口にした鬱憤に>>414 そして亡き妻へ寄せた共感に、>>413 吸血鬼教授は眼鏡の奥の瞳を少し揺らす。
危険信号だ、と冷静に判断する思考と 切々とした訴えに動揺する心とで 一瞬、言葉に迷った。]
………… 僕らはちゃんと……
[信じているよ、と言い返そうとして、 本当にそうか、という疑念が頭をもたげる。>>422 それから、目の前にいるのが娘ではないことを思い出し、 少し肩の力を抜いた。]
(437) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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……嗚呼。 ちゃんと、受け取れていないのだろうかね。 失いたくないという我が身可愛さに。 君たちの、愛を。
[受け取ったところで 奈落の底に落ちる日が近づくだけだ。 そう奥底で感じているから怖れるのか。 ……愚かなことだ、とセイルズは内心自嘲するが
フェルゼの絹のような白髪が垂れるのを見て、 一旦、思考に蓋をし 「いいんだよ」と穏やかに笑った。]
(438) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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……はは。
互いに文句を言いたい相手は目の前にいないのに 不思議なものだね。 ――いや、だからか。いつもはいえない本音が出る。
勉強になるよ……とても。 むしろありがとうを言わせてほしい。
[それから、小さく肩を竦めて 「立派な吸血鬼」というのを暗に否定した。]
…………それをいうなら、 君のほうがよほど良い眷属だろう。
(439) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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[本当に良い吸血鬼は、一人で死んでいく吸血鬼だけだ。
そういう本音と自嘲はさすがに伏せたまま、 顔を上げたフェルゼと目があった。>>426 恋しがるような表情に、 セイルズの微笑みは自然と穏やかなものになる。
もう終わるからね、という言葉も 頭をなでる手のひらも、そっと押しとどめたが
問いについて考えるフェルゼを少しの間、 わが子のように眺めた後 返された答えに深く頷いた。]
(440) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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いいことだ。 では、それを忘れず胸にしまっておいて。
[そう伝えて、 彼の感想と握手を受け取り、 セイルズも己が手を差し出す。 たおやかな手をそっと、老いた手で握り、離す。]
こちらこそ、今日は来てくれてありがとう。 また会える日を楽しみにしているよ。
君がくれたキャンドル――には及ばないけれど お土産があるんだ。 帰っておやつにでもしておくれ。
(441) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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[握手ののち、 セイルズはそっとフェルゼに紙袋を差し出した。 中には小さいヴィクトリアスポンジケーキが入っている。
尚、彼の主が甘いものや固形物が大丈夫かどうかは 全くもって考慮していない。]
楽しかったよ。 道中、気をつけてお帰り――君と、君の主の家へ。
どうか幸せに。
[そういって、吸血鬼教授は 白いたおやかな眷属を見送ろうとしただろう。*]
(442) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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『”問題なし”
依存症終末期の眷属に興味・共感を示すなど 依存症の兆候がいくらか見られるが 終始受け答えは安定しており、 診断日時点で即座に死に至るほどの病状ではない。
現状に対する不安・葛藤があるようだ。 アルブレヒト氏には眷属とのコミュニケーションを推奨する。』
(443) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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[医師のもとへそんな診断結果が届くのは、 いつになることやら**]
(444) 2019/10/12(Sat) 02時半頃
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