270 「 」に至る病
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[幼女から声が消えるような原因は幾つか思い至ったが詮索はしなかった。 己が担当しないなら興味本位はプライバシーの侵害だ。 ただ、紹介状に綴る為、『眷属ですか?』とは聞いた。
その当時はまだ、彼らの間に血の繋がりはなかった筈。 だから、少しだけ親身に心持を変え、御節介めくアドバイスを足したのだ。]
(268) 2019/10/09(Wed) 21時半頃
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[『不安と言うものは、放置しておくと悪化するものです。 Mr.ホワイト。貴方が彼女を支えてあげてください。
――― あとは、……そうだな。 お嬢さん、好きなお花は在りますか?
Mr.ホワイトがお土産に買ってくれるそうですよ。』
前半は医師として、後半は己個人の意見としての言葉。 お大事に、と、対子供用の微笑みで締めくくった邂逅。
――――― それでも、まぁ、予感はしていたが。]
(269) 2019/10/09(Wed) 21時半頃
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― 現在 ―
……あの子じゃなければ逆に驚く。
[ポツリと漏らした呟き。 己の眷属の耳に届かぬくらい小さく紡ぎ、過去の記憶を遡っていた意識を連れ戻す。過去ならいざ知らず己も同じ穴の貉だとは理解している。 己も眷属を囲っている手前、何を唱えても説得力がない。]
吸血鬼だからと特別な何かがある訳でもないけどな。 背中に羽が生えていたり、尻尾を期待するなら、 先に夢を捨てておけ。
[過去に没入していた一時を誤魔化すように冗句を足し、近い距離で瞬く瞳を覗く。 彼が揺らした興味を目敏く見つけて。]
(270) 2019/10/09(Wed) 21時半頃
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親等が近い方が出来ることが増えるからな。 眷属以外とも出来た筈だが―――、 まぁ、大体想像通りの比率だよ。
[ロマンスとは程遠い現実的な相槌を打つ。 彼の姓がシューマッハでなくなったと同じ理由。 仮に彼の性別が女であったならと考え掛けて、直ぐに思考を放棄した。
それよりも先に、越えねばならない嵐が己にはあるのだ。 彼は幼いままで時を止めた癖、蓋を開ければ敏い中身にすり替わっていた。]
(271) 2019/10/09(Wed) 21時半頃
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[ゆら、と視線を彷徨わせ、沈黙を噛む。 一を聞いて十を知る彼は、概要だけで本質を問う。
眷属の御使いは、ふたつの側面があるとは持論。
長時間の別離に耐えうるか。 ―――― 客を迎える主に耐えうるか。
実際はしらないが、当家ではどちらも爆発物だ。 取り扱い注意のレッドシグナルが脳内で鳴る。]
出掛ける前からそんな顔をするなよ、フェルゼ。
[指腹が彼の薄い皮膚を慰め、言葉を選ぶ数秒。 彼の懊悩を孕んだ視線は痛ましく、己の胸を刺す。]
(272) 2019/10/09(Wed) 21時半頃
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お使いじゃなくても困る。 診療所を閉めなきゃならない。
[彼が伏せれば仕事にならない。 眷属でなくとも病気の折は精神が安定を欠くもの。 それを己が放っておけるなら、彼は18で死んでいた。
こんな風に歪まず、友情を想い出にして。
二十年前に比べればずっと休院が増え、 年中無休の診療所はいつしかそれなりホワイト事業へ。]
(273) 2019/10/09(Wed) 21時半頃
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[結局その日も、開院は午後からになった。*]
(274) 2019/10/09(Wed) 21時半頃
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─ バルコニー ─
[定期健診の手紙を読み、返事を任された その、数時間後の夜明け頃。
唇から偽の煙を細く吐いた。 たなびく白いけむりは風が吹かなくてもすぐに薄れて消えていく。 ここ何年か、紙巻きではなく電子タバコを吸っていた。 メンソールリキッドにニコチンを添加した、リンディン製。
タールや煤は含まないがでも、外で吸っている]
お菓子屋のホワイトね そういや
[寄りかかった手摺の縁を指でなぞる。 ああ、思い出した]
(275) 2019/10/09(Wed) 22時頃
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─ 目つきの悪いアリス ─
[幼少期を陶酔型の悲劇のヒロインと過ごしてたりすると、自分を可愛いとか可哀想だとか微塵も思わなくなるものだ。 もっと困難に晒されている人もたくさんいるし、って
子供時代の終わり、 ちょうど母親が死んでから働き始めるまでの空白を埋めたのが、ホワイトラビットのロゴを見かけたあの孤児院>>245
思春期ではあってもまだ成熟していない体は 長細い少年のように 皮下脂肪がなく、皮の下はすぐ筋肉ぞ、という若木の時代 まだ烟草を吸い始めていなかったし、目の下に隈もなかった
けれど張り詰めた、世間知らずなのにキツい目をしたガキだったはず ……今は目つきが良いとは言っていない 関係ないけど眷属になったら肌荒れまで良くなった]
(276) 2019/10/09(Wed) 22時頃
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いえ……泊めていただけてるだけでありがたいし
[可愛い?アリスは孤児院の主人にそんな風に返した>>246 自分よりも幼い容姿の彼が大きな会社の社長で、吸血鬼だというのは周囲から知っていた。
子供はそれだけで愛されるべき、とは 随分すごいことを言う人だなと そこが”孤児院”という場所だったから尚更、その価値観に驚いて]
[頭をぽんぽん撫でられて 戸惑ったことも覚えている。 どう反応すべきか困って、頭を優しく撫でられるのが大好きだった女のことを思い出して、それで いやそうな顔をしてしまって慌てたりした]
(277) 2019/10/09(Wed) 22時頃
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[孤児院のことではもう一つ。 他の子の中に。”パパ”を狂信的に慕うアリス達がいた。 私はたぶんその子らの精神の危うさを感じ取っていたんだろう。なんだか母親に似た雰囲気、と思ったのは。
子供達の輪には混じらず、手が空けば自習用の参考書や書棚の児童書やコミックなんかの文字を追って過ごしていた]
(278) 2019/10/09(Wed) 22時頃
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……あのパパさんも、眷属を持ってるのか
[最後の日に貰ったキャンディ>>247は
贈ってくれた方の厚意とは違っただろうけど 後々、子守の仕事でギャン泣きする幼児を黙らせる最終兵器として物凄く物凄く役に立った。
なにかで割ってしまうまでの数年、空になった小瓶も持ち歩いていたはず。
甘くて甘くて甘くて甘いキャンディだった**]
(279) 2019/10/09(Wed) 22時頃
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山師 グスタフは、メモを貼った。
2019/10/09(Wed) 22時頃
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[既に陽が傾きつつある午後。 白亜の建物の外、白い野花の絨毯を視界に、 洗い立てのシャツとシーツを竿にかける。
今はきちんと下衣を履いているし、身体は……。]
は──… だ、るい… そろそろ時間を区切った方がいいのか な
[ひとりごち、まだ熱の残る項に触れる。 声音こそ沈んでいるが、表情は頗る穏やかだ。 洗濯を終えると、その場にしゃがみ ぷち、ぷちと、綺麗に開いた花を選んで摘んでいく。]
(280) 2019/10/09(Wed) 22時頃
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炉の番 チトフは、メモを貼った。
2019/10/09(Wed) 22時半頃
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―― 内緒の子育て相談会 ――
[世界一可愛い、と愛しそうに語るチトフに 吸血鬼教授は目を細めて頷いた。>>234
聞けば、彼には随分と「アリス」に思いいれがある様子。 そこにどんな思い出が眠っているのかセイルズは知らない。 かつて「アリス」が何であったのか 知らないままに耳を傾ける。]
(281) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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[――いきすぎた愛、とも呼ぶべき何かがあったとしても 内緒の子育て相談を交わす今この時には関係の無い事。
幼い吸血鬼社長の内心を知りえぬ教授は 先輩の顔をして、或いは父親の顔をして、 チトフに助言をする。
全く即物的な助言は ただのお説教よりも効いたらしく>>236 ぱあっと表情を明るくしたチトフにつられて、 セイルズはにこりと笑った。]
(282) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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ああ、本当だとも。 なかなか骨が折れるが、やってごらん。
[お堅い吸血鬼教授はロールプレイをしない。 けれども、いつもはどこか大人びたチトフが 子供めいて表情を曇らせたり、楽しそうにするから やはりつられて>>236、父親めいた物言いになる。
――――あいされるべき子供>>231、に手を伸ばして、 その幼く小さな頭を大きな手で撫でた。]
僕はね…… 娘のことも、楽しみだけど 君たちのことも楽しみなんだよ。
[それは独り言にすぎないけれど 子供の将来を楽しみにする親の顔をして、 セイルズはそっとチトフの頭から手を下ろす。]
(283) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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[見目がどうあれ年が倍以上違えば>>230、 ”先人”は眩しそうに若い旅人が歩む道を振り返る。>>229
かつて自分が歩んだ道筋に、彼もまたいるのだろうかと。 かつて自分が感じた痛みを、彼も感じてはいないかと。]
(284) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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(まどろむような少しの間でもいい、 飴玉を転がすような心の安寧があればいい。
――僕らはきっと、「 」なしでは生きられない)>>0:495
(285) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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[娘と自分の幸せを願われれば、 軽快に笑って、「ああ」と相槌を打った。]
ありがとう。
"Happily Ever After." 願わくば君たちの御伽の国(ワンダーランド)が 長くありますように。
[天使様のような笑みを浮かべる彼と彼の眷属の前途を もう一度だけ祈って――]
(286) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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[>>263羊が例えにあがれば思わず小さく笑ってしまう。 それでいて>>264兎の尻尾の方が良いと言うのだ。 白色が好きだと認識するのだ。
最初に比べると随分と要望が多くなったものである]
マトンは癖があり、 ラムの方が臭いも少な目というのもある
兎は……それではあの帽子も買おうか
[次いでだとばかりに兎の帽子をかごに入れる。 雪兎を頭の上に乗せるような帽子であり、 冬場になれば丁度良いだろう]
(287) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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鍋ごとはお前が持てないだろう 鞄に入るようにレトルトだ
気に入ったのがあれば入れると良い
[服を買い、帽子を買い、飴を買う。 飴は「白兎」社製だったか。 欲しいものができ、選べるようになり、 強請れるようになり、嬉しそうにしている姿を見ると 人間らしさが増してきたように思える。
鞄は以前買い与えたもので良いだろう。 カレーはヒグマカレーやクジラカレー。 パンプキンカレーとレトルトカレーの詰め合わせを選んだ]
(288) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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寿司の次は考えてはいなかったな
[買い物かごをレジに持っていき会計を済ませていく。 荷物になるので即日配達を頼み店を出て、 空を見上げると微かに星空が見えた]
……そうだな、プラネタリウムに行くか
[都会の空は星があまり見えないもので、 そうしたものを見るのも良いだろうと 傍にいるメルヤの手を握り街を歩く*]
(289) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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[それから数年の時が経って 彼の会社から「トナカイのほっぺ」以外の菓子が出ても
吸血鬼教授はまだ、かの製菓会社の商品を買っているし 彼に出会えば新作の感想を述べたし 講義の途中でその小さな頭が見えはしないかと考える。
時折”子供”のことを話すこともあっただろうか。
生徒であり、子育て仲間であり、 セイルズから見て子供のようでもあり そんなチトフとの不思議な関係は、 今日現在まで、穏やかに続いているはずだ*]
(290) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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["落ち着いた"後、 改めて教えてもらった、彼が請け負う眷属の名には ──実のところ、覚えがなかった。
元より他人への興味が希薄な故に 決して多くない患者の顔も、印象が薄ければ残らず。
けれど、あの"少女"のことは覚えていた。 主と保護者の会話より、 少女が描き殴る絵の方が余程、興を注いで。]
(291) 2019/10/09(Wed) 22時半頃
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───…、 ……
[如何にも、心に闇を飼っている様にかける言葉なぞ無く。 彼女が気づく前にと、傍らで灯していた蝋燭を消した。
いつか、揺らぐ灯りと温かな光に 彼女が癒しや安らぎを得られたらいい、とは思ったが それを口にできる社交性は、当時の己にはなく。]
(292) 2019/10/09(Wed) 23時頃
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── 蝋燭職人としての日常 ──
[コツさえつかめば、素人でも簡単に作れる蝋燭は、 住居スペースですべての作業が賄えるのも良かった。
始めは形を変え、次に好みの香りをつけ それなりのものができるようになると 主以外にも見て貰いたくなって 待合室に飾ったり、興味を持ってくれた患者に分けたり。 ごく稀に、孤児院のマーケットや蚤の市に出品 することもあったが、すぐに面倒になってやめた。
もし、何処かの硝子職人くらい没頭できたなら。 今より主を安心させられたかもしれない。]
(293) 2019/10/09(Wed) 23時頃
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[少し早い食事は、誤差の範囲かもしれない。>>177 他の吸血鬼はどうか知らないけど、僕は特別行儀がいいわけでもない。 これまで日課のように蒼佑が訪ねてきては定期的に与えてくれてたから、ひどい飢えに襲われることもなかっただけで。
むしろ僕に言わせれば、律儀なのは蒼佑の方だ。 健康を保つために運動したり、料理のレパートリーを工夫したり。吸血時間を測ろうとしたり。
でも、こんな風に。 蒼佑から「食事」を迫られたことはなかった。]
(294) 2019/10/09(Wed) 23時頃
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……やだ。 今は…………食べたい気分じゃない。
[咬む躊躇いを口にしたなら。 いつになく焦りを帯びたその声に、びく、と小さく身体が震えた。>>178
────”依存症”。
これまで確信が持てなかった病の進行。 いつから、そうだった? いま、一体どこまで進んでいる?
混乱しながら僕は、熱い肌に誘われるよう開きそうになる唇を懸命に引き結んで。 ふるふると首を小さく振れば、擦れた咬み痕から甘い甘い蜜のにおいが溢れて、目がくらむ。]
(295) 2019/10/09(Wed) 23時頃
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───……っ ちがうそうじゃない、
[聞こえた小さな囁きに、縋るように蒼佑の服を掴み。 僕は必死に、頭を横に振った。]
(296) 2019/10/09(Wed) 23時頃
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そういう意味じゃないんだ…… 言葉足らずなのは、わかってる。けど。
……僕は今、蒼佑を咬みたくない。
[もし僕が、いま咬んでしまったら。
脳裏に浮かぶ「彼女」の最期に、蒼佑が重なりかけるその想像に、気づけば小さく身体が震えていて。 ぎゅう、と服を掴む指先に力が籠った。*]
(297) 2019/10/09(Wed) 23時頃
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