212 冷たい校舎村(突)
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[ 頬を、ほんのりとあたたかいものが伝う。
視界の端で、ちかちかと瞬く何か。 エアコンがフィルター洗浄の赤いランプを灯して、 それでも、部屋はあたたかかった。
見上げても、白い空も、一筋の光も なくて、 ただ、満月のようにまるい光は、天井のシーリングライト。
無機質な光にさらされて、 部屋の真ん中で仰向けになったまま、泣いていた。]
(19) nabe 2017/03/20(Mon) 11時半頃
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── 現在:自室 ──
[ ── ああ、これ は。
問題集を解くのも嫌になって、投げ出して、 床に仰向けになったら、そのまま寝てたパターンだ。
力の抜けきった体勢のまま、経験者はかく語りき。
窓の外は暗く、雪なんて、降っていなかった。
静かな夜の住宅街。2階の自室から見下ろしたって、 地面は、バカみたいに遠くなんて、なかったよ。
── かえってきた と、思う。
濡れてもいない靴下に包まれて、 足だけが、痛いほどに、冷えていた。]
(20) nabe 2017/03/20(Mon) 11時半頃
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[ 身体を跳ね起こす。
スマホを確認して、着の身着のまま、 コートだけ羽織って、財布……って、 ブレザーのポケットを探る。 あ。
ころんと出てきた飴玉ふたつ。 夢じゃなかった。し、俺だけでも、なかった。
小さく笑む。あいつら、心配してる よなあ。]
(21) nabe 2017/03/20(Mon) 11時半頃
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[ 夜の街に飛び出す。自転車に、跨った。
スマホに届くメッセージは、 よくないニュースばかりだったけれど、
ここは現実で、あの場所はきっと違うけれど、
大丈夫 って口の中で唱えて、 俺はまっすぐ病院に向かう。 大丈夫、あいつ、帰るって言ったから。 俺、心配してねえよ。おまえ 笑ってたし。信じてる。
学校用のリュックから、入れっぱなしのパスケースや、 参考書── 間違って持って帰った水野のやつも! が、ないことに胃がきゅっとなるくらいには、
おまえはだいじょうぶ って、思ってるんだって!]
(22) nabe 2017/03/20(Mon) 12時頃
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[ 風を切って、病院のあるほうへ。
目的地は分かっていたから、 寄り道もせずに、まっすぐに。
道中、自転車のランプに照らされた道に、 おんなじ方向に歩く、影>>18を見つけて、
俺は、声を張り上げた。]
── 入間あ! 後ろ、乗れば!
[ その声は、決して暗くも、重くもない はずだ。*]
(23) nabe 2017/03/20(Mon) 12時頃
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[ 振り上げられた右手。>>26 俺、応えるように、左手を振った。
知ってたよ。言ったじゃん。 そうしたら、きっとはぐれないから って。
躊躇なく、乗り込んでくる、 その態度が清々しくて、 俺も、不安などにじまない声を返す。]
だいじょーぶ 元ハンド部 なめんなー おまえは、落ちないことだけ考えとけ
[ 縁起でもない って、 空を飛んで 飛び降りて 帰ってきたくせ、 俺はまだ、そんなことを気にして笑った。]
(29) nabe 2017/03/20(Mon) 13時頃
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[ ぐん とペダルに体重をかける。踏み込む。 風を切って、進んでいくのが、 なんだか少しだけ、あの 帰り道 みたいだ。
なんだか景気のいいことを言う入間>>27の声は、 冷たい風の中に聞こえて、]
……あー、古辺見つけたら、 あいつは、並走。死ぬ気で走れって言う
[ どう考えても、重いし、 重いというか、バランス。
その提案だけは、切り捨てながら、 うん、でも、古辺通がへばっている絵面は、 結構笑えるし、それでいいんじゃないか? ]
(30) nabe 2017/03/20(Mon) 13時頃
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[ 入間の言葉は続く。
仕返し、お返し。 パンケーキ、また食べたいなあ。 昴、また焼いてくれるかなあ。 元賀のアレンジ、水野とか喜びそうだしさあ。 ……あ、俺、水野に参考書弁償しなきゃ。 鍋とかかまくらとか、いいなあ って。]
── やりたいこと、いっぱいあるなあ
[ でも、たぶん、生き延びた俺たちは、 それだけのことをする時間も、 ちゃんと、勝ち取ったんじゃないかな。
勝ち取って、帰って来たんじゃないかな。 人生は長いし。世界は広いし。 なんとか、生き延びていけるといい って、]
(31) nabe 2017/03/20(Mon) 13時頃
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[ ぐん ぐん と、通り過ぎてく景色を見ながら、 一応、視界には、古辺 とか、 もしかしたらいるかもしれない他のやつら とか、
探しながら、でも、脇見運転は危ないし、 前を向いたまま、俺は言った。「 あのさあ 」。]
俺さあ、”向こう”で、 ホストはおまえじゃない って、言ったじゃん あれさあ、別に、おまえが気楽そうとか、 そういうんじゃ、なくて、
おまえ、『 怖い 』って、言ったから あの、メールのこと、それとか、そういう 意味で……
[ 今なら、顔、見なくていいのは、 いいかも と、思ってしまって、ずるい。]
(38) nabe 2017/03/20(Mon) 13時半頃
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[ 俺から見たら、おまえ、いつだって強かった。
真面目に、ホストとは って、考えてるときも、 上履き、ぶん投げて、理一に、問いかけてたときも、 だいぶ前、ひとりじゃない って、言ってくれたときも。 死んじゃったほうがいいかなと思ったことがある って、 そう言ったときも。
さっき、街灯の下、声を受けて、手を上げたとき、 入間、おまえ、またケガしてる って、 切れた唇>>27、痛そうだった。 ”うっかり”ケガが多い って、なんだ。
俺たちは、帰ってきたけれど、 それは、なにも 終わり なんかじゃなくて、 これからなんだ って、気付く。]
(39) nabe 2017/03/20(Mon) 13時半頃
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──……、 解決とか、しようのない問題でも、 他人に、手出しできないこととか、 自分で、解決しなきゃいけない問題でも、
味方になら、いくらでも、なれるから さあ……
[ 涙に濡れていたり なんかはしない、けど、 静かに、縋るように 言う。前だけ、向いていた。
明日も、これから先、できるだけ、遠くまで、 前を向いて、生き延びていけますように。
それだけ、言いたかった。それだけ。*]
(40) nabe 2017/03/20(Mon) 14時頃
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平気 じゃ、ねーじゃん、それ!
[ 験は担いでおきたい俺は、 なんとも恐ろしい軽口>>41に、 肩を叩く手から逃げるみたいに、笑った。 やだよ と、身を捩る。これは、転けられない。
まだ見ぬスマートな会計様の、 バテバテの姿を想像していれば、 堆チャレンジの亜種めいた単語>>42が、聞こえる。]
(55) nabe 2017/03/20(Mon) 15時頃
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いいけど、俺、うるせえからな 泊まり だったら、また、 うまい飯、つくってもらおー
[ 楽しそうなことばっかり>>43、考えてれば、 ペダルもなんだか、軽いような気がする。
きっと明るい未来の話。 そのために、乗り越えたり、折り合いつけたり、 付き合っていかなきゃいけない、いろんなこと。]
(56) nabe 2017/03/20(Mon) 15時頃
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[ 任せられていた体重 だけでない重み>>44。
俺は別に、優しい人間なわけじゃなくて、 ただ、おまえらだからだ とも思うけれど、 褒め言葉は、笑って、受け取っておくことにした。]
……うん
[ 想像、できてないだろうなあ。 世の中、そんなもんだって。正解なんて見えない。 予想も想像もできないことばっかだよ。
だけど、さあ。 正解なんて、最初からわからなくても、 みんな、それぞれなにか抱えてるんだって、 それだけ忘れずに、いられたら。]
(57) nabe 2017/03/20(Mon) 15時頃
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[ ── それに、]
いいよ そのときは、どこにでも、連れてってやる うんと、遠く、誰も知らないような場所でも
[ そのくらいのワガママなら、 お安い御用さ って、笑いたい。]
(58) nabe 2017/03/20(Mon) 15時頃
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── うん。 楽しみに、してる
[ 幸せのおすそ分け。>>46
そんな言葉に、おまえ と違って、俺は笑ってた。 振り返ることは、しないけどさ、 背中の重みが消えたなって、思いながら、 雪なんて降らない空、見上げて。
ああ、みんなといると、ぬくいから、 冷たい風が、心地よいくらいだって、]
(59) nabe 2017/03/20(Mon) 15時頃
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[ ── 瞬間。
乗り心地は、よくなかったろうに、 おまえ 鼻歌なんて、口ずさんでた。>>-103
動揺 に、揺れたハンドルだけれど、 聞こえてきた鼻歌に、振り返るのはやめて、
ふは と、笑いをこぼしたあと、 重ねるように、歌詞のない歌を、紡ぐ。**]
(60) nabe 2017/03/20(Mon) 15時頃
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[ とーり と入間が叫んだ。
前方に見えた影を、するりと通り越して、 後ろで、入間が手をのばす。あぶねえな。
俺はバランスをとりながら、 古辺の前方で、一度チャリを止めた。]
おかえり、古辺
[ 乗ってく? とは言わないけど、ご挨拶。 いつになく、よく見える表情に、 俺も、「 そのほうがいいよ 」って、返す。>>65」
(78) nabe 2017/03/20(Mon) 19時頃
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[ 返した けど、 入間的にはどうやら、 手直しが入る出来らしい。>>66
きれいに前髪が止められていくのを、 俺は、器用なもんだなあ なんて、眺めて。
次は自分が漕ぐ なんて言う入間>>67に、 一瞬しぶったけど、まあ、いいかなって。
別に、大したことじゃないか。 しんどかったら、またかわればいいんだ。]
(79) nabe 2017/03/20(Mon) 19時頃
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きつかったら、かわるから、言えよ
[ って、今度は俺が後ろに乗り込む。
もしかすると、重量的には、 俺と古辺が変わったほうが、楽 ? という可能性も、過ぎったけど、 思いつかなかったことにして。
また、自転車が、風を切って進み出す。
入間の肩に、手をかけながら、 もう片方の手、握ったスマホが、 「 ぴこん 」と小さく鳴った。]
(80) nabe 2017/03/20(Mon) 19時頃
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[ 画面の中、古辺通が段々バテていく姿は、 おもしろすぎて、身体に響きそうなので、 理一の快気祝いにとっておこう と思う。
ふたり乗り に加えて、スマホ触ってる とか、 さすがに、委員長は怒るだろうか。
だけど、良いムービーが取れたと思うよ。
けらけら と、俺や、きっと入間の笑い声も、 紛れ込んでるし、途中で、ぶれたりもするけどさ。
うつってるのはさ、
おまえ の元に、 全力疾走で駆けつける友だち の姿です。*]
(81) nabe 2017/03/20(Mon) 19時頃
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── 現在:病院 ──
[ 自転車を降りて、入間は駆け出してった。
別にバテてもない俺も、その後を追って、 バテてる古辺に、「 急げよ 」とか、発破かけて。
ロビーにいるみんなの元へ。 「 ちゃんと一緒に帰って来たから 」って、 思い切り笑って、伝えるために。*]
(82) nabe 2017/03/20(Mon) 20時頃
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── 現在:病院ロビー ──
[ 到着したそのとき、きっとまだ、 みんな、友だちの帰りを待っている頃>>68。
今日は会えないかもなあ とか思いながら、 でも、それならそれでいい。出迎えにきただけだ。
不安げな顔 など、俺はしていなくて、 きっと、この空間には不釣り合いだけれど、 ひらり、みんなの中に、混ざっていく。]
── 帰るよ って、言ってたから、大丈夫
[ 不安そうなやつがいるなら、そう言って笑おう。]
(88) nabe 2017/03/20(Mon) 21時頃
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[ それから、ロビーのどこかしら、 そのデカイ影>>5:+95が見えたなら、
ああ、そうだ。 俺、言うべきことがある。 いや、うん、言いたいこと かもしれねえけど。
手術室のランプ、まだ消えないのを、 視界の隅に確認して、駆け寄る。]
── 元賀、
[ ただいま って、奇妙な挨拶で、見上げる。*]
(89) nabe 2017/03/20(Mon) 21時頃
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── 現在:病院ロビー ──
[ ありがとう>>134 と言われて、 俺は「 なんで 」と笑った。]
選んだのは、あいつ自身だよ 別に、俺らが、連れて帰ったわけじゃ なくて、 一緒に帰ってきただけ だから、
[ 俺、言いたいこと言って、待ってただけだ。
別に、卑下するわけでも、なんでもなく、 この結末は、あいつが選び取ったものだ。]
(135) nabe 2017/03/21(Tue) 06時半頃
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礼、言う相手、あっち
[ その頃には、不穏なあかりも消えて、 俺たちの友だち、どこかに運ばれてっただろうか。
さすがに、それに駆け寄るのは自重して、 視線を向けて、口の中で言う。 おかえり。ただいま。帰ってきたよ。]
(136) nabe 2017/03/21(Tue) 06時半頃
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[ 会計様は、真っ先に病室に駆けつけたはずで、 俺は、自分が動くにも、 目の前の元賀を行かせてやるにも、 その前に言わなきゃならないことがある と、
一度はよそに向けた視線を、 再び、見上げなきゃいけないふたつの眸に向ける。
じっと 視線を向けはするけど、 別に、険しい顔とか、してねえだろ。たぶん。
「 あのさ 」。俺は言う。]
(137) nabe 2017/03/21(Tue) 06時半頃
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── 俺、おまえのマネキン、見たよ
(138) nabe 2017/03/21(Tue) 06時半頃
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[ だから何、って言われると、 やっぱり俺には"ちょうど"の言葉なんて見えなくて、
気にしてないぜ とか、人と違うのがなんだ とか、 わざとらしいことも、大それたことも言えないし。
だけど、]
(139) nabe 2017/03/21(Tue) 06時半頃
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……もし、おまえ が、 見られたくなんてなかった なら、 どうしようとか、思ったんだけど、
……言わなきゃいけない気がして、 黙っておくのは、ずるい気がして
理一も。 俺らが見つけた もし、見られたくなかったんだったら、 ……ごめん、俺らは見た
…………でも、
[ 逸らしそうになる視線は、 途中でブレたりもしたかもしれないが、 だけど、これはちゃんと目を見て言おうと、 思ってたんだ、ずっと。おまえを見つけたときから。]
(140) nabe 2017/03/21(Tue) 06時半頃
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