193 ―星崩祭の手紙―
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……ん、いい匂いだ。 それから…… へぇ、珍しいものを贈ってくれたな。
[蓋を開けば、ふんわり広がる優しい空気。 料理の香りだろうか 嗅いだことはないはずなのに、 どこか懐かしさを感じるそれに 隣のシンの腹の虫がぐうと鳴いた。]
(61) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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[カプセルの中に入っていたのは 見事な彫刻の施された銀のコインと 羊皮紙に綴られた手紙。 貨幣の使われなくなったこの星では コインは骨董品として扱われあまり見かけることはない。 まじまじとそれを眺めたあと、 手紙に書かれた最後の一文に目を細めた。]
いいこと、あったな。 お礼を書かなきゃ。
[シンは、まるで宝物でも見るように まあるい瞳に手のひらの上の銀を映していた。]
(62) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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なあ、これ……
[便箋の中ほどに書かれた文を指差し 隣のセトに視線を向けるも、 彼女は不思議そうに、首を振るだけだった。]
(63) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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それじゃあ、ふたつめ。
[カプセルから取り出したのは、白い紙。 自分のものとは違う、 丁寧で綺麗な文字が綴られたそれを 声に出して読み上げる。
シンには少し難しかったようだが、 セトは手紙に耳を傾けながら 同封されたプレゼントを嬉しそうに指で撫でた。]
(64) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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「本当に、他の星で食べられるの?」
[ なんて、肩に手を置いて言う少女に、 "まあなるようになるさ"と返し、 贈り物を詰めた返事は、これで二通。
さあ飛ばそうとしたところで、 ]
(65) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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……へ、写真?
[手紙を読み終えたあとのこと。 セトの唐突な提案に思わず間抜けな声が出た。 「せっかくだし!」と笑顔を見せる彼女は 自慢のカメラを取り出しセットしだした。 シンは嬉しそうに俺の膝に乗り、 3,2,1…とあっという間にシャッターが切られる。
家族写真を撮るのはいつぶりか。 俺はうまく、笑えていただろうか。]
(66) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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「ねえもうちょっと書きなよ!」 「母さんへの話題が増えるでしょ?」
[ とか 頭の中に。 声ががつんと飛んでくるものだから。 ―― それもそうだな、と。 つまらない男にしては、本当に珍しく、 便箋を取り出す。
多分、背を見ている少女の瞳は、 驚きで、まあるい。 ]
(67) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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みっつめ、開けるぞ。
[印刷された写真を楽しそうに見ている二人に 「パパ変な顔〜」なんて笑われながら 俺は少しムッとした顔で次のカプセルを手に取る。 銀色のそれは、つるりと滑らかな手触りで心地良い。 中に入っていた手紙の文字は さっきのものとは正反対の印象を受けた。]
もらってください、だとさ。
[同封されていたのは三羽の折り鶴。 色の異なるそれらは、 折り目が少しずれていたりもするけれど 手紙の文面とも相まって、微笑ましく思う。]
(68) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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[シンは最近折り紙を覚えたのだが 鶴の折り方はまだ知らない。 手のひらに乗せた三羽の鶴に わあぁ、と感嘆の声をあげると、 僕にも教えて!とせがんできた。]
わかったわかった、 あとでママに教えてもらおうな。
[わしわしと頭を撫で、そう告げれば 「パパは下手くそだものね」なんてセトが笑った。]
(69) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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これで最後だ。
[手にしたカプセルは今までのものよりやや重い。 また何か贈ってくれたのだろうか。 中を覗き込めば、そこには一通の手紙と──]
……、これ クダモノ ってやつか……?
[入っていたのは、瑞々しくきらりと輝く 良い香りのする 果実と思しきもの。 遠い昔に草木が絶滅したこの星では 歴史書でしか見ることのできないもの。]
(70) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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……へぇ、宇宙は広いな。 全く別の世界じゃないか。
[手紙に書かれた内容は、 知識としては知っていても この星では見られないものの話。 言うなれば、おとぎ話…だろうか。 シンの瞳がきらきら輝く反面、 俺は──…]
(71) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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[全ての手紙を読み終え、ふぅと小さく息を吐く。]
……これ、切ってみて。 赤いの。そうそれ。
俺、返事書いてくる。
[セトに果実を手渡すと、 俺はひとり自室へと向かいペンをとった。
世界を教えてくれた彼らに、 俺の言葉で、俺の世界を。]
(72) 2016/07/18(Mon) 01時頃
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いやー、すげーわ。文字だぜ?文字。そりゃリーダーは書けるの知ってっけどさ。 普通書かないじゃん?文字。
[プラントに戻ってからも、感じ入った様にそう何度も繰り返した。
男の母星の文化から、文字をしたためるという文化が無くなってもう幾世代。今では儀礼にのみ使われる特殊技能となっていた。
貰った手紙をコンソールのコンバータ機能に掛けると、若いような、不思議に歳を重ねているような、柔らかく感じる男子の声で再生された。単語や筆跡、筆圧などから推測されたその合成音声は、送り主の声を再現できているかは知れなかったが、それでも一層の親しみを感じられるようで、頬杖しながら、何度も何度も再生しては聞き入った。]
俺っちより子どもみたいな声なのに、難しーこと言うなあ…。
あ、あ、あれ?これ俺っちも文字書いて送りかえすやつ?まーいったなー、記述はコンバーターでどうにかなるけど、書くもんとか。…あ。
(73) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[狭いプラントでも、長期任務のストレスに配慮して、1人に1部屋の個室。リーダーの部屋は突き当り。ミーティングも行えるよう、2部屋続きの特別拵えだ。]
確か、この辺りに…っ、と…。
[そのブリーフィングルームの、リーダーのデスクは既に一定下の条件で解錠されており、手応えもなく開いた引き出しのひとつには、正式書面を記すための色紙と、今は骨董物に近い万年筆。と、白い、シンプルな便箋が納められていた。]
すんません、お借りしまっす!
[万年筆を目の前に掲げて拝むように言うと、コンソールのあるセントラルルームへと戻る。 コンバート機能をonにして、マイクへ向って話し掛けると、文字として出力される。それを傍らに見ながら、真っ白な便箋へ書き写していく。]
(74) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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― 自宅 ―
[明け方、寝ぼけ眼を擦りつつ、からりと窓を開ける。 未だ早い時間だからか、数少ない――けれど、普段は見られない飛行物体が、一つ二つと宙に浮かんでいるのが見えた]
ふぁあ……、ん。 俺のところには、きてない……かな。
[外に見えるカプセル達が、宙に向かっているのか、宙から飛来しているのか。 換気を終えて閉じてしまった窓からは分からない]
[他惑星との交流は貿易でのみ細々と行われていると知識では知っているけれど、本当に『他の惑星』が存在するのか、まして『文流しという文化』が未だ続いているものなのか、俺には確かめ様が無いから]
(75) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[ 封をして、これでみっつ。 窓の外、宙へとそれぞれ、少女とともに飛ばしていく。 飾りも縁取られもしていない、ただ透明なカプセル。
少女の手が腕に触れる。 何時かの彼女より、遠慮がちに。 ]
(76) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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「飾りとかつければ良かったのに」 "まずこの星のデザインがそういうのとは縁遠い"
[ 間髪入れずに返事をすれば、 一瞬 むっと されるも、 「まあ、そうだよね」と飛んできた。
家の家具も壁紙も、なにもかも。 柄らしい柄なんて、この星にはまず無い。 ]
(77) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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………よしっと。
[全ての手紙を書き終えると シンとセトと一緒に贈り物を作り、 三人でまた、屋上から空へ飛ばした。 彼らの元へ、無事に返事が届くことを祈るのみ。]
[帰ってからは、例の赤い果実の試食会。 生まれて初めて口にするそれは、 甘くて酸っぱくて瑞々しくて
すごく、美味かった。]
(78) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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「…父さん」 「母さんがいたら、もっと楽しかったよね?」
[ 遠くなっていく呟き。 脳内に響いているはずなのに、 それでも消えていきそうな少女の声に、 つまらない男はどう返せば良いか迷って、
ポニーテイルが崩れるのもお構いなしに、 くしゃり、頭を撫でた。 ]
(79) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[テレビのニュースが 例の小惑星が更に接近したことを告げている。 真新しい写真立てに飾られた写真の中の俺たちは 幸せそうに笑っていた。]
(80) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[最後の一文字を書き記すと、詰めていた息をぷはぁー!と吐き出す。]
まじこれすげーな…普段から文字書いてるやつ尊敬するわ…。音声のが絶対楽だろ…。
[ぱたぱたと便箋を揺らして、インクを乾かすと4つ折りに畳み、返信用のカプセルに入れる。一緒に、標本のような透明なカードを封入すると、封をした。
同じ透明なカードは、既に今日送るために準備した、送信用のカプセルにも入れてある。 2つのカプセルを抱えると、宙に送るためにゲートを潜る。今日はカプセルを探すため、既に限度いっぱい外気を吸った筈だ。ひとつ、ふたつ咳き込むと、プラント一番外側の扉を開けた。]
(81) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[ 飛ばしたカプセルのひとつに、 本来捨てるはずだった手紙が混じったことに 俺は、気がつくことはなかった。 ]
(82) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[ヒトと遊んだ後、ワタシ達は相談を始める。
どんなことを書く? どんなもので書く? どんなものを入れる?
手紙が来たら、それだけで嬉しいのだろう。 ヒトの眼は語っていた。 誰かに届く特別なモノに仕上げるためには、どうしたら、いいのか。 考えてみても、わからない。時は過ぎるばかり。]
(83) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[翠のワタシはひとつ提案する。 好きなことを書いてみよう、と。
くれよんを手に取って、 床に置いた紙に文字を書き始めた。 今日はワタシ達全員で。 碧と翠のワタシはあんまり得意じゃないから、 ワタシが紙束に下書きで見本を書いた。 それをみて、ワタシたちで手紙を一通書き上げる。]
(84) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[書き上げた手紙と、それからもうひとつ。 カプセルに詰め込む。 意識が飛んでいきそうな、気配はあったけれど、 それでも今日はカプセルがどうなるのか見たかった。
電子音が響く扉を抜けて、ヒトの元へ。]
(これ。)
[碧のワタシが抱えたカプセルを指差して、ヒトへ。 糸を持たないヒトに、聞こえるはずはないけれど、つい。 それでも言葉がなくても通じる簡単なことだから。 ヒトはそれを受け取って、手招きをし、歩き出す。]
(85) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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[着いた先は、初めて訪れた場所。 一回も着たところがないところ。]
『イースター達はここで待ってて』
[ヒトはそう言って、透明な二重のドアの向こう側へと。 長い時間ではないのに、もどかしくて、そちらがわへ行きたかった。 ヒトが小さなドア(窓)をあけて、カプセルを宙へとかざせば。 ふわりと、それは飛んで行った。]
(86) 2016/07/18(Mon) 01時半頃
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― バーガーショップ ―
おばちゃーん!いつものやつね!
[馴染みの店へ入るなり、開いているカウンターに腰掛け、注文をした。 『速い安い美味い。ただそんじょそこらのファーストフードと一緒にしてもらっちゃ困る』が信条の、我が基地が誇るバーガーショップは、短い昼休みに立ち寄るには最適の食事処だ。 注文してほんの数分で、あつあつほかほかのナユタセットが目の前に置かれる]
んんんんん……っ! この魚の風味……っ!肉汁から溢れる旨みの深さ……っっ!!
やーっぱオバチャンのバーガーは最こ――ってあれ?なんか味付け変えた??
[濃厚な肉汁から、いつもとは違う香味を鼻孔に感じ取って首を傾げる]
(87) 2016/07/18(Mon) 02時頃
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「おや、分かるかい? 文流しで他の惑星の人から良いスパイスを譲って貰ったもんだからね、試してみたんだ」
[一見パートのオバチャンにしか見えない、その実店主であるオーナー様が、にっと笑って告げる。 常連客を毒見役に使った事に対して悪びれる様子もなく「どうだい?」と重ねて訊ねてくる]
んー……悪くはないけどさ。 これ、安定して提供して出来るレベルのもん?
[そう、確かに悪くない。 ――どころか、普段のお気軽メニューなバーガーを一丁前のちょっとしたランチメニューへと格上げ出来るレベルで、格段に、美味さを増している。 それはそれとして、店としてはこれを貿易ルートに乗せて安定供給出来なくてはいけないのではないだろうか?]
(88) 2016/07/18(Mon) 02時頃
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[店に来るまでの道中でも、町の噂は星崩祭と文流し一色だった。 仰々しいカプセルに「てすと」や「ああああ」なんて紙切れが届いただの、丸っこい可愛らしい字で届いた健気な文は可愛い女の子からに違いないいやこんな達者な文章が書けるのはオッサンに違いないだの]
[文流しが、この星の言い伝えや廃れた文化などではなく、確かに他の星でも行われている。 そんな、証拠たち]
(89) 2016/07/18(Mon) 02時頃
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[カプセルを見送った日。 その日に聞いた最後の言葉は。]
『────おやすみなさい。』
[おやすみ、世界。 ワタシはしばらく、繭の中で眠ります。]
(90) 2016/07/18(Mon) 02時頃
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