158 Anotherday for "wolves"
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[血に噎せ返る臭いの中、微かに残る少女の香り。
心まで『人間』に成り下がった獣にはきっとわからないそれを嗅ぎ付けると。
私はニタリと唇を歪めていました。]
糞餓鬼が。
『これ』は私のモノだったのに。
[ぽつりと、声を落とします。
普段話さないぶん、とても微かな音ではありましたが。
それはしんとした教会の中で、確かに響いておりました。]
[無惨に散らばるなかでひとつ。
顔だけは綺麗に残されていました。
私はその顔を見下ろすと、唇を動かしました。]
やっぱり脆いのね、人間って。
怖くて抵抗も出来なかった?
それとも優しいあなただから、抵抗もしなかったのかしら。
[くすくすと嗤う声が響きます。
紫の綺麗な瞳を見つめるだけで触れなどしません。
だって、誰かの残飯なんて汚くて触りたくもないじゃないですか。]
さようなら。
友達ゴッコ、楽しかったわ。
[にこりとやわらかな笑みを作って。
私はそっと囁くのです。]
…── メアリー?
[どこかで悲鳴が聞こえなかったか───?]
メアリー?
[声は二重写しのように、その耳まで届くだろうか。
ふわりと鼻をつく、血の香り。
甘いその香りに、男は微かに目を見開いた]
[悲鳴が聞こえていた。
ひとり、ふたり、さんにんの声。
メアリーを呼ぶ声は先ほどまで聞こえたルパートの声。
さんにんのうち、ふたりの正体までは確信できる。
けれど、ああ、もうひとりの声は――。]
[くるり見渡すその中に、あの時確かに「ああ」と返した
声の主を見つけたのなら。]
………ふふ。
[くすりと唇を歪ませて、微笑みを一つ向けるのです。]
「どうしたんだい?」
[という父の声と]
「メアリー?」
[という父の声が]
??
[重なったように聞こえた。]
……何だか耳がヘン…。
[微笑みが女のくちびるを彩る。
漏れる声は空気震わすそれではなく、
直接響くような、音色。]
――…ああ、もうひとりはキミだったんだね。
ラディスラヴァ。
[教会の天井を仰ぎ紡がれるべきはこの音色だったか、と。
ふ、と目を細めて酒場に現れた彼女を見詰めた。]
[手を握れば、傍に寄れば間違いなく匂う血の残り香。
人より鋭い人狼の嗅覚の所為だろうか。
いや。それならばクラリッサもとうに気付いたはずだ。
…… ざわり。 心をざわめかせる血の香り。
感じられるのは”血”のためか。
それともこの身が、とうにまどろみの外にある為か]
メアリー、聞こえるんだね。
お前、何をしてきたんだい?
…血の、匂いがしている。
[責める風はなく。
案じるように、確かめるように乗せる声なき囁き]
お父さんはいつだって、
[そう、いつだって。
人を手に掛けるには老いた、
ぬるま湯に馴らされすぎたこの身だけれども]
お前と──…
[声が聞こえる。ひとつ、ふたつ。
ああ、うたかたの夢から醒めた者らの声が]
…──── お前たちの味方だよ。
[闇に光る獣の目を伏せ、そう囁いた]
[ゆらり、聞こえる声。
それはやはりあの時の、彼の声。]
ええ、私。
腐ってない『ひと』がまだ居たのね。
[くすくすと、それは本当に楽しいことのように微笑みました。
口許を抑え、生温い理想郷の中で腐ってしまった
腑抜けた獣達にはバレないように。
泡沫の夢から醒めた者にしか伝わらぬ声で
私は『言葉』を落としました。]
[ さくり さくり 草を踏む4つの音。
眼の中の、やさしいだけだった光が柔らかな像を結んで
闇の中に浮かんだのは、背が高くて紫色の……
返魂の一節を持つ 十五夜草。
「君を忘れない」
とおいとおい誰かを想う、思い続けてしまう ひと。]
せんせいが両親のために誓ってくださるなら
わたしも頑張らないといけないですね。
………でも。
視えないまんまでも、しあわせですよ。
[ 治らなくとも、助けられずとも
救われる「なにか」は確かに あるのだと
墓地の出口で告げた ことば。**]
―食材小屋に向かう途中―
[口からではない、
どこから伝わってくるのだろうこの声は。
慣れ親しんだ父の声が響く。
すぐ隣にいる父の声が。
不思議そうに父の口許を見ながら歩いていたけど
続く父の「血」という言葉に
眼を瞠る。]
…ッ!!
してない……。
なんにもしてない!
[血の匂い…?
そんなの考えもしなかった。
だって無我夢中だったから。]
[“お前たち”とルパートは言うから、
それは聞こえる者に向けられると思えた。]
――…僕も味方だよ。
今夜のことは、秘密にしよう。
[ぽつり、ぽつり、声を紡ぎ。]
[「お前たち」という言葉は
自分とグレッグのものだと勘違いしつつ
「味方」という言葉を聞いて尚
打ち明ける気配もなく。]
[滅多に怒ることのないお父さんだけども、それでも
「殺す」なんて絶対に許してもらえない。
だって、お父さんはスティーブン先生を
まだ許してないから。]
…?
誰?
わたしの中に入ってくるのは誰?
[今まで考えてなかったから気づかなかった。
父親の声だけではない。誰か別の人の声も聞こえる。]
なに…?怖い……。
[みんな見張ってるのかな、わたしが悪いことしないか。
…ううん、もう悪いことした…――から?]
[楽しそうな笑みの音色が伝う。]
腐ってない『ひと』、ね。
ふぅん、キミにはそう見えるんだ。
腐りはしない。
けれど――…、
[共存の形はまるで飼い殺されるようで、
鈍っている、とそう感じていた。
密やかに交わされる言葉。
醒めてしまった己は泡沫の夢の中にはもう戻れない。]
味方……、味方ね?
役者は揃った、というところかしら。
どこの誰がとは謂わないけれど
大変なことをしでかしたみたい。
明日の朝になれば、それはきっと楽しいお遊戯の始まりね。
[高く澄んだ声は、さて、何処まで届くでしょう。]
『一族の手で、過ちを正す』んでしょう?
味方なら、庇ってあげなくちゃならないかしら。
犯人さんが暴き出されたら、それが老人であれ若者であれ
女であれ子供であれ、きっとあの男は無慈悲に謂うわよ。
「処せ。」
って。
[くすくすと零れるのは笑み。
密やかに交わる会話は、さて何年ぶりのものだったでしょう。]
そうなると、あの男が邪魔ね。
くだらない理想にしがみついた、哀れな獣。
どうせお遊戯は始まってしまうんだもの。
折角ならもっともっともっと、もぉっと。
派手に彩ってみない?
[くすくす、くすくす。
だって、楽しいんですもの。]
………君かね。
[聞きなれぬ声。
思えば昔聞いたことはあったのだろうが、
それでも長らく──しかも年も違う──聞かなかった声。
高く澄んだ声響かせる娘へ向け、声ならざる声が向かって]
[深く落ちたのは、諦めに似た溜息。
何故同胞は目を覚まそうとしないのか。
何故同胞の手で、同胞を裁かねばならないのか。
人狼が人を食らうことなど”自然”というのに]
…… その前に長を、かね。
[そうかも知れない。それが正しいのかも知れない。
けれど長年をぬるま湯で過ごした男には最早牙はないけど]
やるなら──…
……、上手く「隠さないと」、なあ。
[牙はなくとも知恵はある。
さてどうしたものかと、思案する様子で口を*閉ざした*]
共存のため、共栄のため
『ひと』の為に。
同胞に手をかける。
私達だって『ひと』なんだから。
同胞に手をかけたって
構わないはずよね?
[諦めにも似た溜息が聞こえます。
声ならざる声が向かう先
私は彼に、微笑んで見せました。]
そうね、上手く隠さなくっちゃ。
でなきゃ、殺されちゃうわよ。
───“わたしたち”。
[『味方』なんでしょう、と首を傾いで見せて。]
[腐らない、誇り高き人狼。
…なぁんて謂うつもりは微塵もないけれど。
人間に紛れて、耐えて、黙って生きる。
それが『共存・共栄』だなんて。
初めから天秤なんて水平じゃなかったことに
気付きもしないお馬鹿さんたち。
泡沫の夢にしがみ付いて。
ありもしない理想を描いて。
微温湯に浸かって。
人と獣が仲良く手を取り合って生きていこうだなんて。
本当に、馬鹿みたい。
もう天秤は大きく軋んでしまったのだから。]
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