239 ―星間の手紙―
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[言葉やメッセージなしにはつながれない人々は
端末に入った私へよく語り掛ける。そこに人格
が宿るかどうかは恐らく関係がなく、彼らは使
える道具を慈しんでいるだけなのだ。けれど積
み重ねられた言葉は私に思考を促す。個を得る
ことはできない私に薄い個性を与える。それが
良いことなのかどうかは置いておくが一先ず。
エデンを負われバベルを崩された人類は語り合
う言葉を失ったとデータには記されていた。そ
れが事実であれ空想であれ今こうして母星を失
った人々を繋ぎとめるツールとして在ることは
私にとっての責務に近いものがあるのだろうと
薄い個性を与えてくれた人類に対し私は思う。]
[私はねずみのように歌わず
私は誰かを抱きしめる腕を持たない
私の終わりはいつだろう*]
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― 地下52階 彼女の居る部屋 ―
[あの映像を見た次の日は、いつも、ここを訪れたくなってしまう。 それほど彼女は心もとない、儚い雰囲気の女性だった。
エレベーターの扉が開く。 地上1階と同程度の小さな暗い部屋の最奥に置かれた装置から、仄青白い光が漏れているのが見えた。 エレベーターから降りると、真っ直ぐそちらへと向かった。
置かれているのは冷凍睡眠装置だ。 装置の窓から、安定した白い光に包まれて眠る、映像記録より少し年を取った彼女の穏やかな表情が見えた。
装置の近くに置かれていた、音声記録装置の再生ボタンを押す。]
(63) 2018/04/29(Sun) 00時頃
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『こんにちは、どこかの誰か。 数年前、私はこの星で一人になりました。 年上の人たちから徐々に、皆の身体は弱っていき、ある日、目が覚めなくなるのです。
原因はウイルスでも細菌でもないことはわかっていて、きっとこの環境の何かしらのせいなのだという所までは突き止められましたが、この星から出る手段はないため、研究はそこで終わりました。
皆は、私が最期まで穏やかに過ごすことが出来るよう、生活を維持できる手段を出来うる限り万全に、強固にしていってくれました。
でも、私はそれで安穏と過ごし、死ぬことを良しとしません。 私は皆を信じています。 だからこそ、この装置に入ることを決めました。 誰かが私を見つけるまで、きっとこの装置は稼働し続けてくれる事でしょう。
そして、私は人の力を信じています。 ここに、たどり着くような力を持った人が現れることを信じます。』
(64) 2018/04/29(Sun) 00時頃
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『これを聞いてくれている方。 私には、貴方に話したいことが沢山あります。 ここでしかできなかった、ここでしか起こり得なかった物事を伝えることが、他の星に住む人々、そして、私たちすべての故郷である地球の復興にすら役立つことを、ある程度確信しています。 経験をもとに、この星の外でも、したい研究が沢山あります。
是非、わたしをここから連れ出してほしいのです。 私は宇宙を、もっともっと知ってみたい。
一人、眠りにつくことは怖くありません。 希望だけが、私のこころを満たしています。』
(65) 2018/04/29(Sun) 00時頃
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[彼女の声に込められた希望はあまりにも重すぎて、自分には彼女を起こすことは出来なかった。 彼女を起こしたところで、状況は、彼女が眠る直前と何も変わっていないのだ。
あと何十年、いや、何百年、何千年もたてば、きっとここを訪れる人間が、あと一人くらいは居るだろう。 彼か彼女かが、眠る彼女の際限のない希望を満たしてくれることを祈り、暗い部屋を出た。
さあ、上に行って、今日もルシフェルを起動させよう。 自分と宇宙をつなぐ細いけれども確かな糸**]
(66) 2018/04/29(Sun) 00時頃
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