97 wicked ROSE 【ハジマリの五線譜】
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『だって、ここでも歌えるし』
[いいや、わからない。 当たり前のように言われたって、わからない。 がんがんと鳴り響くいつもの不協和音は慣れてしまったけれど、「この子」のこれは、いつもじゃないから、慣れない。
"あちらでシスターが呼んでいたよ"
僕は"囀ろう"としたけれど、なんとなく。 そう、なんとなく、やめた。
たまに"囀った"ほうがみんな引っ掛けるからだ。 それだけだ。
腰を下ろして見上げたら、空はいつもより狭く見えて、 だから、ほっとした。]
(283) 2013/10/01(Tue) 21時半頃
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[そうしていたら、誰かがやってきた。 "黒いスータンの彼"は、]
(え?)
["違う" "そんな筈、ない"
さあ、僕は立ち上がる。 頭を撫でる手はがまんして、戻ろうって「この子」に言った。]
(284) 2013/10/01(Tue) 21時半頃
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────…………
[かれは、いった。]
『今日はいつものうるさいのは、大丈夫?』
"うるさい?" "何のこと?" "ここには何の音もしないじゃない"
[そう、いつも通りにそう言う。 僕が否定してしまえば、それは僕の中で嘘になる。 嘘ばかりだから、嘘は嘘で、現実じゃない。 だからなかったことにできる。
きちんと否定し終えて、ほら。 "もう何も聴こえない"。 安心して"黒いスータンの彼"に、]
(285) 2013/10/01(Tue) 21時半頃
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(────ちがう)
["彼はそんな服着てなかった"
"彼とアスランはあったことがないはずで"
"彼と僕は、"]
( なん、 だった…… ? )
[優しい風を浴びているのに。
世界を嘘に変えたのに。
わからない、 わからない。]
(286) 2013/10/01(Tue) 21時半頃
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[繰り返した現実の否定が、目覚めた和音《エクス・ゴートリンゲン》に増幅される。
記憶の境さえも犯されて、]
( だれ か )
["自分自身さえ"虚構"になる。"]
(287) 2013/10/01(Tue) 21時半頃
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[アスランはセシルになってしまった。
" "? 誰のこと?
オスカーなんて、一度あったきりの相手が、どうしてお前みたいな嘘つきを覚えているの。]
[僕は"僕"。 君は僕。
どちらも同じなら、そのさみしさを、代わりに"僕"が奏でてあげる。]
(288) 2013/10/01(Tue) 21時半頃
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[────?
それは無理だよ。
だって、君はかれの名前も聞いてない。 かれに名前も言ってない。
諦めておやすみよ、おさない"僕"。]
(291) 2013/10/01(Tue) 22時頃
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──現在/真理の森──
"いいや。" "間違いなく、僕がロバートだよ。"
[>>275『アルト』へ微笑みかける。 心からのものだからこそ異質の、柔らかな形。 戸惑いに首をゆるく傾け、]
"おぼえていないの?" "どうして?"
[煽り、問いを重ねる。
鳥はもはや、答えを求めてはいないのに。]
(295) 2013/10/01(Tue) 22時半頃
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"そう"
"『アルト』は抗うんだ。"
[対して唱えられる滅びの詩に、頷きを見せた。 かちゃり、眼鏡を外す。
外界との隔てを求めていたのは、僕だけれど"僕じゃない"。]
"でも、足りない"
"『アルト』なら、わかると思うんだけどな。"
[微笑みながら、繊細なる指を揺らす。]
(296) 2013/10/01(Tue) 22時半頃
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[『 おいで 』
『チェレスタ』]
(297) 2013/10/01(Tue) 22時半頃
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[南天の鳥は、音を抱く鳥。 >>281増幅(アンプ)の存在を、聞き逃しはしない。
指先で紡ぐ、届けの音色。
『おいで』
『ぼくは、ここにいる』
『手伝って、くれる?』
楽器は、奏でる者がいてこそ真の力を発揮する。 魂持つ楽器があれば、より広くあまねく、終わりの除曲を届けられるだろう。]
(298) 2013/10/01(Tue) 22時半頃
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[うるさいおと。 うるさいおと。 うるさいおと。 うるさいおと。 うるさいおと。 うるさいおと。
それに、うるさい、]
"いやだ……"
[微笑みの形のまま、左耳を押さえる。]
(319) 2013/10/01(Tue) 23時頃
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[『きて、チェレスタ』
右手の指で紡ぐ、奏者による求め(コール)。
『僕を、手伝って』
そうして、この鳴り止まない不協和音を塗り替えよう。]
"なにも聞こえなくなったら、そしたら、"
"また一緒に、小川で遊ぼう。"
"木陰で歌をきかせて。"
"楽しい話を、きちんと聴けるから。"
[滅びの詩と触れ合った旋律が、ぱちりと弾けて駒鳥に傷を作る。 朱い涙がまた、一雫。
遠方で最も繊細な天使が上げる悲鳴を聞いて、"かわいそうに、と微笑んだ"]
(321) 2013/10/01(Tue) 23時頃
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"いいこだね、チェレスタ"
(330) 2013/10/01(Tue) 23時頃
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"なにを?"
"楽器は、焉葬するものだよね。"
[当たり前のことだと、言い聞かせる口調で]
"邪魔、しないで?" "僕は、チェレスタを奏でたいんだ。"
(335) 2013/10/01(Tue) 23時半頃
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"そうだよ。"
"よく来たね。"
"君を待っていたんだ。"
[>>337やってくる少年姿の楽器を、両手を広げ迎え入れる。]
"僕と奏でよう。"
"僕の声に応えてくれた、たった一つのチェレスタ。"
[>>338叫ぶ音域の一人に、駒鳥は既に視線をくれない。]
(343) 2013/10/02(Wed) 00時頃
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"チェレスタは楽器だよ。"
"ただの楽器よりもずっと幅広く、生きた音を奏でられる、"
"最優の体鳴楽器。"
[ゴートリンゲンは常に人の心に在る。 故に知る。
人と楽器。 魂と肉体。 乖離した存在を創りだしたのもまた、人の欲望(ねがい)なのだから。]
(348) 2013/10/02(Wed) 00時頃
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"僕のたった一つの楽器には、たった一つの名を。"
"イディオ" "第一楽章から、始めよう。"
[新しい名でもって呼び、広げた手指を"鍵盤"へ伸ばした。]
(350) 2013/10/02(Wed) 00時頃
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"カレン?"
[>>340呼ばれただろうか、と。 雛が首を傾け、青年を見る。]
"……ごめんね、今の、よく聞こえなかった。" "待っていてね。"
"静かにしたら、ちゃんと、きみの声を聞くから。"
[嘘ではない。 間違っていたけれど。
聞こえているけれど、理解まで届いていない。]
(356) 2013/10/02(Wed) 00時頃
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"世界の嘘にまみれた雑音を、イディオと僕で塗り替えよう。"
[謳い始めるは狂想曲。
本来は一人で囀れるはずだった駒鳥。 そのままでいれば、謳うは協奏曲だったのだけれど。
" 僕は、虚構しか囀れない "
裡に鳴り続ける異音の正体に気付きまではしなくとも、不穏なものは感じ取っていた少年が、自分にかけ続けていた言い聞かせという名の楔。 幼い頃から繰り返したそれが、少年の身体で響くゴートリンゲンを阻害する。]
(361) 2013/10/02(Wed) 00時半頃
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[
切望と渇欲のCapriccio
第一楽章
]
(365) 2013/10/02(Wed) 00時半頃
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[災い来たりて鍵盤を叩く。
滅びを前に、人々は大騒ぎ。
奏で始めたその指が、]
" ん "
[数拍、揺らいだ。 >>347呼ばれた、気がして。]
(367) 2013/10/02(Wed) 00時半頃
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"違うよ。"
"違わないよ。"
[嘘であり、本当であり、]
"僕はロバート"
" 君は? "
[>>369名を呼ぶ声を聞き取って、問いかける。]
(373) 2013/10/02(Wed) 01時頃
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[数拍止まった奏では、その異変調子すら"大騒ぎ"の一端と変えた。
自由に。自由に。 規則も法則も理論も討論も無用で不要で無関係。
鈍色の謡いは>>344誇りある封じの譜面と触れ合い、絡め逢う。]
"始原の音律《コール》……?"
[北天の獣の黒を赤目に写し、繰り返すも鳥は、黒が示す意味を理解しない。]
" カレンも一緒に、奏でてくれる? "
[始まる滅びに嬉しげに笑い、イディオと名づけたチェレスタを"奏ずる。"]
(379) 2013/10/02(Wed) 01時頃
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["聴こえる"ものなら"見える"だろう。
千切れ行く命の天鵞絨を身に纏い、 朱い涙を流しながら、切望を奏でる、その姿。
壊れ行く命の小さな断末魔を束ねて起こる、 悲しいほどに大きな絶叫曲。
真円を入り口に倫敦へ広がろうとしたものはいずれ獣が齎す森の終わりに塞がれるが、幸いか不幸か、入り口はもうひとつ作られた。]
[暖かな大気と混ざり合う冷えた空気のように、 融け合う音がそちらを目指すは道理。 指揮存在たちの居る方へ、"奏で"は奔り、伸びてゆく。]
(382) 2013/10/02(Wed) 01時頃
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[カレンも一緒だ、と、喜び勇んで"馬鹿騒ぎ"。 かき鳴らし打ち鳴らし、"イディオ"が感じた違和さえ飲み込ませ。
7拍。
3拍。
この森が終わるなら、大樹にいた彼は。
帰結が想像できるくらいの思考は、音に塗りつぶされた鳥には。]
(385) 2013/10/02(Wed) 01時頃
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[>>383聞き慣れた、懐かしい声がする。 その愛称で笑いかける相手はもう、殆どいない。]
" わから"
[だから駒鳥は首を横に振り、]
( ぁ )
[開きかけた唇は形をなす前に閉じた。**]
(386) 2013/10/02(Wed) 01時頃
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