266 冷たい校舎村7
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―3階にて―
[ぼんやり、文化祭の出し物を見ていた。
と言っても、さっき菓子パンを食べたばかりだし、 華やかな衣装を来た女の子達がいる訳でもないから、 冷やかし程度に眺めただけ。
我らが3年7組の教室以外は 人が居ないことを除けば 喫茶店や展示もあの時のままで、 随分とこの世界の主は凝り性なんだなと思う。
本当に、文化祭が楽しかったんだろう。 そうじゃなきゃ、こんなに細かく 覚えて居られない。 少なくとも、自分の世界じゃないなぁ、とは思う。]
(165) 2019/06/12(Wed) 21時頃
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[帰りたくない、と思った。]
(166) 2019/06/12(Wed) 21時頃
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[紫苑は笹崎小春の全てを受け容れて、 愛すると決めた。 それなのに、あの時の はるちゃんの声が耳から離れない。
不毛だと、理解させられてしまった。 どんなに愛しても、何も返って来やしない。 我ながら滑稽だな、と紫苑は思う。 何も要らない、って思っていたのに。 自分も案外欲張りだったらしい。
あぁ、もう、考えたくない。 彼女と顔を合わせるのが怖かった。
思考を追い払うように、紫苑は首を振って そうして、喫茶店から飛び出して 階上に向かおうとして――]
(167) 2019/06/12(Wed) 21時頃
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……何それ。
[シーツに包まれた何かを運ぶ 2人組>>139>>152に出会った。
昨日もあった気がするな、これ。
繭のような塊は、姿こそよく見えないものの 相原に似たそれよりはずっと大柄だなと思う。]
もしかして、マネキン? 運ぶの、手伝うよ。
[デジャヴのような光景に、 紫苑も昨日と同じようなことを言って 二人に着いていくことにする。]
(174) 2019/06/12(Wed) 21時頃
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ちなみに、さぁ。 誰かに似てたりする?これ。
[昨日のものは相原に似ていた。 なら、これもそうなんだろうか。 紫苑は誰ともなしに問いかける。
何にせよ、 シーツの隙間から顔を出すネコちゃんは とっても可愛いなと思った。*]
(176) 2019/06/12(Wed) 21時頃
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あ、気づきました?
そうなの。
やっぱりヨーコねーさんは、賢いね。
[偏在する意識の欠片。]
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[男3人がかりでも、そのマネキンは案外重い。 だから、宇井野>>198と聞いて 紫苑は納得したように頷いた。 昨日見かけた顔ぶれの中で 当てはまりそうなのは彼ぐらいだ。
昨日の繭のような、目立った汚れは見当たらない。 でも、生きていないということは 嫌でもわかる。つまり、――]
(224) 2019/06/12(Wed) 22時半頃
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死ねば、現実に戻れるってこと? それは…………嫌、だなぁ。
[戻りたくない。死にたくない。 どちらの意味も込めて、紫苑は首を横に振る。>>199
あぁ、でも。 相原のように、突然何かが 噛み付いて来ることもあるのだろうか。 そうなったら、どうしようもないよなぁ。
そんなことを思う紫苑は、 高本の方を見れないでいる。]
(225) 2019/06/12(Wed) 22時半頃
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[紫苑は何も聞いていない。 委員長の懺悔>>213も、 自分は関係ないなぁって内心で思う。
だというのに、何故だろう。 自分が責められているような気がして そそくさと紫苑は歩幅を広げた。]
(226) 2019/06/12(Wed) 22時半頃
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[少し後の話。 体育館で任務を達成した紫苑は、力なく微笑む。 多分、青白い顔をしていた。]
お願い、なんだけど。
[委員長に好かれていないのは 空気が読めないとは言え、何となく分かる。
なので、必然的に、養の袖を引いて 彼にだけ囁く形になったと思う。]
(227) 2019/06/12(Wed) 22時半頃
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……なんてね、冗談。本気にしないで。
[そう、ただの冗談だ。 しばらく帰りたいとは思わない。思えない。 もう少しくらい、考える時間が欲しかった。
なので、紫苑はそれ以上は何も言わず、 思案するような面持ちでマネキンを眺めたのち、 ふら、と体育館を後にする。**]
(228) 2019/06/12(Wed) 23時頃
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[なあ。
俺はいつの瞬間だって笑って――――、いた、だろ?
ちゃんと笑っていただろう。
あなたたちが喜ぶように子供らしく。
母親が母親である前に「一人の女」だって気づいても
父親が父親である前に「一人の男」だって気づいても
俺はあなたたちの「 」だったから。
俺はあなたたちの子供だったから。
「 」が笑うためにピエロになって、
それでも駄目だからいぬになって、それでも、
わからないんだ。
あなたたちが笑わなくなって、
崩れていった理由がわからなかった。
何が足りなかったんだろうなあ。]
[…………………答え? 知ってるよ。
こんなことはよくあることで
大して痛くはもうないのだけれど
概していきていたいとも思いませんので
たかが染色体の組み合わせの結果
生存するために「社会」と「肥大した自我」という
手段を選んだだけの動物
そういった価値の無いものである自分のおしまいを
自分で決めてしまおうと、思ったのです。**]
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[そんなに親しい訳じゃない。 紫苑は彼に興味があるわけじゃないし、 きっとそれは彼>>240だって同じはず。そう思う。
だから、安心して頼める。
紫苑が普段聴いている音にだって 彼は興味はないだろうし、 何より、これはただの冗談だ。 本気になんてしないで欲しい。
委員長の方をちらと見る。 彼は猫の頭を撫でていた。>>247]
(298) 2019/06/13(Thu) 08時頃
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[紫苑は、はるちゃんのことしか考えていない。 脳の中を可視化出来るなら、 7割くらいは彼女のことで埋まっているだろう。
けれど、ねぇ、 それって誰のためなんだろう?
恋は盲目というけれど、 一度だって、目の前の彼女を 見ようとしたことがあったかな。
あぁ、嫌だな。 紫苑は考えるのをやめる。
我らが委員長のように優しくも賢くもないので、 悩む脳味噌だって 持ち合わせていないのだ。>>0:146]
(299) 2019/06/13(Thu) 08時頃
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[体育館を後にして、紫苑は階段を上る。
目的地があるわけじゃない。 強いて言うなら、1人になりたかった。 ただ、それだけ。**]
(300) 2019/06/13(Thu) 08時頃
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[ひとりになれる場所。 それを探して階段を上った先には、 先客がいた>>187ので、 紫苑はおや、と立ち止まる。
眠っているらしい。 いつも気を張っている彼女の寝顔は 案外子供っぽく見えて、可愛いなと紫苑は思った。 勿論、他意はない。]
(332) 2019/06/13(Thu) 20時頃
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[あんまりよく眠れる場所には見えないけれど、 窓の外には青空が広がっているし 案外、悪くは無さそうだ。
少なくとも、たぷたぷ言うお経は聞こえないし、 隣人の話し声も、啜り泣きも聞こえない。 月2万5千円の家より快適かもしれないね。
紫苑は着ていた制服の上着を 眠っている田所の肩にかけて、踵を返す。 内心で、お邪魔しました、と呟いて 階下へと歩き出した。*]
(333) 2019/06/13(Thu) 20時頃
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―2階:放送室―
[聞き覚えのある声がした。
いや、たった1日聞いていないだけだけれど、 その声から逃げるように 紫苑が転がり込んだのがこの部屋だった。
居るはずがない。 それでも、イヤホンを取り出したのは 単純にそれが手っ取り早かったから。
いつも通りにイヤホンを耳にはめて、 いつも通りにその向こうに耳をすませた。
それが間違っていた。 いや、とうの昔から、間違っていたのかもしれない。]
(422) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[――雑音が聴こえる。
いや、聴こえるなんてもんじゃない。 右耳から飛び込んできた 暴力的とも言える音の奔流に 紫苑は短い悲鳴を上げて仰け反った。]
(423) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[しかも、よりにもよって。 吐きそうになって、口を手で押さえた。
耳を劈くような音量で イヤホンから聞こえるのは、あの夜の音>>62だった。
生々しい音をまといながら、 自分以外の男の名を呼ぶ 甘ったるい、媚びるような声。
紫苑は首を振る。 やめてくれ、といつかのように叫んだ。 音が止むことは無い。]
(424) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[イヤホンが外れない。 まるで身体の一部になったみたいだ。
鼓膜を直接掴まれて、 振り回されているような不快感に 紫苑は力なくその場に座り込んだ。]
(425) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[雑音に脳が焼かれる。 きっと、雷に打たれるってこんな感じなんだろう。 思考も、視界も、何もかも。 ぱちぱちと白く塗り潰される。融ける。
唇が戦慄く。ぐるりと視界が反転する。 絞り出した声は意味を成しておらず 紫苑は潰された蛙のような声で呻くことしか出来ない。]
(426) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[鮮明な雑音の中で、 はるちゃんは嬌声を上げている。
吐き気を覚えると同時に、 それでも、彼女の声に聞き惚れてしまう 自分もいた。
俺の名前を呼ぶ声が好きだった。 熱心に何かを話す横顔が愛おしかった。
瞼が熱い。頬を何かが伝った。]
(427) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[柊紫苑は空気が読めない。
目を見て察するなんて出来ないし、 いくら耳を澄ませても、 聞きたいことは耳に入ってこない。
けれども、わかる事だってある。]
(428) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[少なくとも、俺は。
君のことを、愛して――。*]
(429) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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―8時50分―
[2階の放送室。その扉は開け放たれている。
文化祭の裏方の部屋。 延々とJPOPを流し続ける狭い部屋の片隅で、 右耳にイヤホンをしたマネキンが 壁に力なくもたれかかっている。
目立った傷はない。パッと見ただけなら 眠っているようにも思えるだろう。
その白い頬には、赤い筋が走っている。 両目から血の涙を流すようにして マネキンは床を見つめている。]
(430) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[耳に着けているイヤホンに手を伸ばしても、 持ち主に奪い返されることは無い。 聴くことだって容易だろう。
あぁ、でも、止めておいた方が いいかも知れない。
片耳だけのイヤホンは最大音量になっていて、 周波数の合わないラジオのような雑音と 脈絡のない生活音が混ざりあって 不快な騒音を奏でているだけだ。]
(431) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[本を捲る音、足音、笑い声。 テレビの音、ドライヤーの音。
或いは、ぺちゃ、と水が跳ねるような音とか、 走ったあとのような荒い息遣いとか、 頬を何回も叩くような音とか。
雑音と、生活音と、何かの音。 深く考えない方が――分からない方が幸せだ。]
(432) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[耳を劈くような音量で鳴り響く雑音たちに、 マネキンは静かに耳を傾けている。
無表情に、赤い涙を流しながら。**]
(433) 2019/06/14(Fri) 00時頃
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