97 wicked ROSE 【ハジマリの五線譜】
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[世界に溢れる“幸せ”の音]
[世界に溢れる“優しさ”の音]
[世界に溢れる“慈しみ”の音]
[嗚呼、世界はこんなにも“美しい”]
[そう感じる心が無かったから]
[天使には、人の心は不要だったから]
[心を封じ、檻に閉じ込め。
歌うこと以外の意義を与えられなくても
そこに苦痛は存在せず、ならば間違ってはいないのだ]
― 世界創世記5XXX年 ―
[旋律が乱れたのは、たった一つの過ちが原因だった。
いつからだろうか、同じ《音域天使》として
共に在る時間の増えた相手が居た]
[彼は何故か、時々“悲しそうな顔”をしていた]
[ある時彼はこう言った]
“外に出よう”
[その意味が分からなかった]
[手を取って走り出す]
[何故かとても、胸の奥が熱い気がした]
[封じられたはずの心が早鐘を打つ。
それは端的に現すのであれば、高揚と呼ぶに相応しい。
天使にはその理由が分からなかった。
ただ、自分よりも一回り大きな手の温もりに、
何故か息が止まりそうだったのを思い出す]
[二人で走って、走って。
見たことのない扉を潜り抜け、
ひたすら駆け抜けたその先に]
[本当の世界は広がっていた]
[それはあまりにも、言葉にするのも
おこがましいほどに美しかった]
[広がる空も]
[吹きつける風も]
[鳥たちの囀りも、何もかもが美しい]
[それよりも何よりも美しいと感じたのが、
隣で微笑む彼だった]
[言葉の代わりに溢れるものは涙]
[分からない。なぜ涙が零れるのか。
何故こんなにも胸が苦しいのか。
なのに何故、すごく温かい気持ちになるのか]
[真っ白だったはずの封じられた心が
愛情を覚えてしまったその時に
なにもかもが、狂ってしまった]
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