246 とある結社の手記:9
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うん、残念だね。みんなで逃げられんなら
オレは、その方がよかったもんね
[少し長く黙っていた男は、表で目を閉じると、苦笑するような気配とともに、 尋ねかけに答えた。]
……4人。誰だかはわかんないけど。
"上手く"やってたんだろうから、
まあ、 …そうね。
人を食べるヤツが傍にいてヒソヒソ話してたら
こわいのが、ふつーだと思う。
[心底から怯えた声に返す声は、やっぱり相変わらず真剣みが足りない、怖い気持ちが抜けてしまったような声だった。]
[ただ、]
だから。
ソチラの感性は、すごくまっとうだと思うね。
[まるで正反対に怯えた声に対しての"感想"には、
苦笑めいた肯定の感情が滲んでいる。]
庭師 ノアは、メモを貼った。
2018/07/27(Fri) 06時頃
─── あんたは、人間だと思うよ。
[横に置かれていた問いに対して、
あっさりと、男はそう結論を出す。]
まともだし、オレとかよりよっぽど信用に足る
おねえさんじゃないか。
……
ただしくあれ、って、御使いの言葉ってことかあ。
うん。
…………なるほど。
[言われたことを、じっくりと吟味して、
噛みしめるような声があって、]
ふ、……っくく
うん。……うん。なるほど。
そういう風には考えたことはなかったんだけど
なるほど。
これも、お導きなのかもしれんもんね。
[いくらか、──思わぬ拾いものをしたというように、
おかしそうな少し楽しそうですらある笑みが、声には混じった。]
なら、じゃー。
そういう気持ちになるように、してみよーか。
せっかく、二人いるんだしね。
──誰かといることに意味があるって思えたら、
ちょっとステキな感じだから。
[そんな風に、舟守は気軽い調子で導きを信じることにしたようだった。]
そうそう。……無自覚かもって不安はね。
これまでそっちの声が流れてきた限りで
おかしいトコはなかったってのは、
それこそ、オレはしっかり証明できるから。
他のみんなよりは、
安心してていいと思うよ。
[そんな風なことを付け加えて、]
― 少し前 ―
[甘えたい年ごろ。それは娘も同じかな。そう思ってみなくても、なんのかんのと頼られて感じるのは、そう悪いものではない。]
もう年だからな。
あちこちガタがきてやがる。
若いおまえにゃわからねえだろうなあ。
どうだかねえ。もうよぼよぼさ。
[と、やれ腰が痛いだのなんだのと言ってみせた。()]
ほらな、ロイエのお墨付きだ。
人狼でも人間でも、
生きていくのに支障がないってなりゃあ
メシなんざなるようになるさ。なぁ?
[続くロイエの言葉に、ううんと唸ったあと、困っているとも、照れ臭がるともとれる笑い声を伝えた。()]
止してくれ。そんな立派なモンじゃあない。
宿の仕事と変わらねえのさ。
すこしだけ世話をやく。おれは対価をもらう。
ロイエの言う通りにたとえ恩を売ったのだとして、
何かの形で結局は返してもらったりするもんだ。
[慣れ合いだけよりは、対価というルールがあるほうがより波風立たずに過ごせるものとルパートは考えている。]
おまえにも、すこしだけ世話をやいたことがあったな。
随分と懐かしい話だが。
[お父様と呼ばれて、その畏まったもの言いに「パパ」と呼ばれ慣れてしまった人狼は、むず痒そうに喉を鳴らすようにして笑ってから、うんと頷いた。]
何ばかなこと言ってんだい。
おれの宿が必要なくなって
離れることが親不孝なもんかよ。
そっちでの仕事に誇りがあるんだろう。
結構なことだ。立派だよ。
あのチビスケが、とも思うけどな。
……親不孝とも思わない。
ウチを使わなくても生きていけるなら結構だ。
ただ、たまに帰ってきた時くらい
もう少し寛がれたいモンだけどね。
[と冗談めかす。それから少しの間ののち。]
おかえり、ロイエ?
[と、今更な挨拶をするのだった。**]
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― 夜:自室 ―
[また、独りになった。 けれど、今日はそれ程酔ってはいない。その証拠に、男は昨日辿り着けなかったベッドに腰かけている。
昨日よりは幾分か気分はいい。 フーバー家から取り寄せられた質の良い酒を飲んだからか。 或いは、掃除夫の青年と話したからかもしれない。]
(346) 2018/07/27(Fri) 07時半頃
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[色々なものから逃げる人生だった。 家族の体を為していない生家から。 こき使われ蹴飛ばされる親戚の家から。 長続きしなかった奉公先から。
庭師になったのは、植物は誠実だから。 与えた分だけ。世話をした分だけ。美しく咲き実り応えてくれるから。]
……。
[両手をゆるく握って、開く。 日に焼けた手の甲。剪定鋏を握って皮膚の厚くなった掌。枝のささくれや棘でついた細かい傷。 男にとって唯一誇れる、庭師の手。
その中に、古いコインが一枚。]
(347) 2018/07/27(Fri) 07時半頃
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[それから。 流れてくる声に、うん。とひとつ同意を示して]
……オレの知ってる限りだけど。
人狼っていうのは何をどうしたって、
"食事"は必要なんだと、思ってる。
人を食うような生き物とは暮らせないって
そういう線引きは、ありだと思う。
推測だけどね。
人狼が、三人もここにいたなら。
…… たぶん、裏でもっと数が死んでる。
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[十年前ならきっと逃げ出していた。 今だって逃げ出したい。 逃げて、また自分を知らない土地に行って、それで…
……それで、どうするっていうんだ?
素性も怪しい流れ者の自分を受け入れてくれた人々を置いて、どこに逃げるというのか。]
できるわけねえんだよなァ、そんなこと。
[静寂に、ぽつりと言葉が落ちた。**]
(348) 2018/07/27(Fri) 07時半頃
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オレは。"それでも"この村の生活を、
これまでを許せちゃう。
…… だから、逃げてくれればなァって思うけど。
だけど、それはねえ。いいことじゃない。
知らないところの知らない人の犠牲を、
オレが気にかけないってだけのことだよ。
だから、
──── そんなのダメだと思うのも、
受け入れられないっていうのも。
それはきっと、
"人間"として、正しい反応だと思う。
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