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そういえばそうでした……
[自身よりずっと年月を重ねている人間だったと今更ながら。
それを感じさせない気安さが、オレにはありがたかったりするのだが。
失礼な呟きを落として、それから。]
……へ? 透?
[出てきた名前にきょとんとした。
そりゃあ、透はあんなにクールで格好良いのに意外とノリもいい良い奴だが。]
……や、そういう風に見たことはないですけど……
……そうですね、ラブの意味なら透も含めてそういう人はいない、かな
[なんでそこで男? などと口に出さずに。
……その言葉だけは、出してはならない気がした。]
何はともあれ、別れは辛いしな。
[言葉が正しいのかは分からないが。
頑張ったな、と今度はデコピンではなく、避けられることがなければ頭に触れて、ほんの少しだけ撫でた。]
オレの話、か。
そうだなぁ。
[迷うように瞳が揺れる。]
大した恋愛はして来てないな。
何人かと付き合ったりしたけど……なんつーか、はっきり言うと、セフレっぽい感じだったというか。
割り切ってたというか……。
爛れててゴメンな。
[これでは管理人のことをとやかく言えない。
自分の場合はお互いにそうだったというだけのこと。]
……、
ま、若い頃は青春な恋もしたけど。
そういうのは大体叶わないからな。
[あっけらかんとして、言葉にすることが、出来た。]
ちなみにこれ、話したの君が初だ。
[初めて返し。*]
[思考回路の鈍麻は著しいようで、
しかし俺はキスするつもりではないから
動揺する理由は微塵も無かった。
動きを止めた葛籠さんに、イチゴを齧りやすいように
してくれたんだ、位の認識しか無い。
前歯でイチゴの果肉と生クリームを削り取る。
例のシューとは違う甘酸っぱいイチゴの味と香りが
まず鼻腔、唇、そして舌、最後に喉へと広がった]
美味っ、あ、え?
あ、ごめん。
イチゴ全部食べたかった?
[酔っ払いと言われて勘違いの発言をした後、
何か違うと漸く気が付いた]
あー、そうか。キスか。キスになるのか。
[葛籠さんの危惧に、今更納得したと頭を下げはしたけれど]
いや、今考えても葛籠さんなら別に大丈夫な気がする。
知らない男同士なら嫌かもだけど
葛籠さん今あんまり男の人に見えないし。
[猫耳フードの葛籠さん可愛いですよ?と、
考え込んだ後、嫌悪のない声で大丈夫ですよと
重ねて答えてはおいたが、デコピンは見事喰らい、
痛い、と額を押さえてじろりと軽く睨みはしてしまった]
時間は、確かに足りなさ過ぎたんでしょうね。
お互い自分の考えばかり押し付けようとして、
押し通そうとしたんだと思いますよ。
[しかし真面目な話に戻れば、きちんと正座して耳を傾ける。
こうやって誰かに言われるまで判らないなんて
ダメだな、と反省しつつも、頭を撫でてくれる手と共に
これは大切なプレゼントだと受け入れる。
誰かに頭を撫でられるなんて暫く記憶に無く、
存外心地よいと瞳も口元も柔らかに微笑を作っていた]
彼女にもいい人出来ると良いんですけどね。
俺ですか?
俺は葛籠さんでミッションクリア出来たから
出会えたんですよ。
[そして笑顔を交えて
しみじみとLINEで別れた彼女を想った後、
自信に満ちた笑顔ですぐ傍の猫耳に話しかける。
今度部屋に呼びたい人、もうそれは見つかったと
指させば彼はどんな顔をしただろうか。
俺と言えば結構管理人さんと並ぶ経験豊富さに
目をぱちくりとさせるのがやっとだ]
あ、案外大胆な経験を持っているんですね。
管理人さんと言い、葛籠さんと言い、モテるなぁ。
[よく考えたら俺この数カ月ヌいてもいないと
部屋以上に質素な性活との落差に呻いてしまう。
それでも軽蔑出来そうになかったのは
何とも言えぬ間のせいか。
あっけらかんとされた過去の話、初めての話、だが]
俺もえらそうに言えませんが。
そんな大事なもの、俺もらえて嬉しかったです。
俺から他に上げられそうな大事なのって
思い付かないんですけど、これなら初めてって
言うものあったらあげますね。
[俺の初めては今思い返して理解したもの。
しかし葛籠さんの話は、軽そうに見えても一緒に
してはいけない気がして。
釣り合い取れるものを考える最中、ダメダメクッションと
他に何があるかなと思考は流れて行った。
やっぱり酒が入るといけない**]
[分かりやすいような、分かりにくいような。
ある意味素直すぎるというか純粋すぎるというか。
さっき自分があんなにも動揺したことだって、彼にとってはただ苺が食べたかっただけなのだ。
キスなんて単語、出すんじゃなかった。
密やかに後悔する。
だが、まさかそこから、大丈夫な気がすると返ってくるとは思わなかったのだけれど。]
可愛いって……この服に感化されてないか。
まぁ、髪は男にしては長いか?
[面倒くさがりの結果の伸びた髪。
片方を耳にかければ、楠の顔が瞳に映りやすくなる。]
[デコピンに睨まれたら、なぜか嬉しい。
年上にも遠慮ない感情の表現だと思ったから。
正座して話を聞いてくれた年下に、突然爛れた恋愛模様を暴露した自分はいかがかとも思うが――せっかく快く撫でさせてはくれたのに――反省する前に、真っ直ぐな言葉が降ってきた。]
嬉しいって。
……大げさじゃないか?
オレの話に。
[猫耳フードを外す。
なんだか、暑くなってきて。
それは酔いと気恥ずかしさのせい。]
無理はするなって。
初めてなんて、意識してあげるものじゃなくないか?
[何やら考え込み始めた彼に。
やれやれと。]
自然と、そうしたくなったらが良い。
対価としては、いらない。
[気持ちだけ今は貰っとく、と。]
着ぐるみ、暑くないか。
[窮屈ではないのか気になりつつ。]
飲み物いる?
[ケーキだけでは甘いだろう。
自分も一度、口の中の苺の甘さを遠ざけてしまいたい。
その理由は深く考えないでおくが。
カップを差し出し、酒か、コーヒーか。
こちらも酔っ払い、不安定な手元が注ごうと傾けたその瞬間、ギシリ、一際大きく屋根が軋んだ。**]
でも、まあ気にしなくていいよ?
いつもみたいに、なんならいつもより。
親しく接してくれていいからさ。
[失礼とも思わない呟きに、ふっと笑って返す。
年齢がどうとか、目上だとか目下だとか。
そんなことはどうでも良い。
俺は管理人さんで、彼は住人で。
それはもう、家族のようなものだと思っているから。
敬語じゃなくても構わないし、ストレートな罵倒だっていくらでもしていい。]
ふうん、そうか。
んー………。
[やはり仲がいいのは、同年代ゆえの『ただの』仲良しなのか。
そうか、と噛み砕くように呟いたあとじっと見つめて。]
[ぎゅっ、と相手を抱き締めて。]
俺さあ。
今までかなりいっぱい女の子と付き合ってきたんだ。
どの子も可愛いし、どの子にも勃つし、抱けたし、抱いたけど。
『好き』ってのが、わかんなくてさ。
[いつも誰に対しても、ある意味で分け隔てなく。
偽りの「好き」や「愛してる」なら何度だって吐いてきたし。
与えられた愛には、俺なりの愛で返してきたつもりだった。]
なんだろなぁ、『好き』って。
[好きなら、男相手でも女相手でも勃つのだろうか。
いや、好きでなくとも勃起はするか。]
お前さ、俺相手に勃ったりする?
[茶化すわけでなく、けれど笑わず訊けるものでもなく。
少し表情を窺うように距離を詰め、互いの鼻先がくっつくほどの位置で見つめて。
殴られることを覚悟に、じぇらぴけの柔らかなルームウェアの上から
先程よりもきわどい内腿にするりと触れる。]
服に感化ですか。
確かにそれ可愛いと思いますけど、
同じ服着た管理人さんを可愛いかと問われると
難しいと思いますよ。
[見えた片耳も仕草も色気あるな、とぼんやり思えるくらいは
酔ってるのかな、うん。
男の人に確かに可愛いとかキスできそうと言ったら
変に思われるのは判っているが、本当に大丈夫に思えるんだな]
試しにキスしてみます?
なんて。
[デコピンの後、秘密を打ち明けて貰えた嬉しさも相俟って
一瞬目を瞑ってみたが、葛籠さんは至って真面目のようで
俺もすぐに目を開けて彼を見つめる。
俺も結構真剣に考えていたが、葛籠さんも真面目に
答えようとしてくれていて、更に嬉しさが募った]
大袈裟なんですかね。
俺学生時代からパソコンばかり触ってたせいで
そう言う話とかあんまりされなかったんですよね。
俺もそんな話しなかったし。
だから嬉しいんですよ。
[よくよく聞けば寂しい学生時代だったと暴露してる気もするが
どうやっても過去は変えられないし、今嬉しかったと言う
気持ちを伝える方が重要だろう。
フードが落ちれば猫から葛籠さんに戻る。
言葉遣いもあるせいか、急にアダルトさが増した気がした]
まぁそうなんですけど、大人になると
初めてのことって考えないと見つからない位
少なくなってる気もしません?
いや、でも俺初めての事案外多いかも。
こうやって部屋に呼ぶのも初めてだったりするから、
これからもいっぱいありそうです。
[考えなくてもと言われても、考え込んでしまうのは
癖みたいなものだろうか。
確かに無理にひねり出すものではなく、
彼の言う通りもっと軽く考えようと、それ以上の
思考は止めておいた]
着ぐるみ?
そうでしたそうでした。
交換しましょうか。
[考える事を止めた途端、働いていた脳が緊張から
解放され、酒のせいで上がっていた体温の事を気付かせる。
一気に上半身が暑くなってきていると気付くや否や、
早速着ぐるみ交換しようかとぺかちゅうフードを外し、
上半身のファスナーを下ろせば汗を掻いた肌がしっとりと
濡れていて暖房を付けていても少し冷えた部屋が心地よかった]
暑っ。
ありがとうございます。
お酒がいいですね。
[ファスナーを開けてもまだ熱は籠っている。
飲み物を勧められて、ありがたく受け取ろうと
カップを差し出した瞬間、建物が音を立てた]
ひっ!?
葛籠さん!
[ここにぺかちゅうの耳が繋がっていたらピンと立っていただろう。
アパートが壊れるんじゃないかと、酒を注ごうとしてくれた
葛籠さんへと抱き着いた]
だ、大丈夫です? 大丈夫です?
今ギシって言ったギシって。
罅とか入ってませんよね?
壊れませんよね、アパート。
[冷静になる少しの間、抱き着いたまま室内の様子を
落ち着かない様子であちこち見つめた後]
あ、あああ、ごめんなさいごめんなさい。
汚しちゃった、と言うか濡らしてごめんなさい。
[抱き着いたせいで、酒がかかってしまった。
俺が濡れたのはどうでもいいが、葛籠さんに風邪をひかせて
しまっては困る。
俺のパジャマで良ければ、と声を掛け、その前に
風呂入った方が良いですかねとも提案した。
扉が開かなくなっているなんてまだ気付かない**]
[無自覚だからこそ、怖い。
強く強くそう思った。
苺の衝撃を乗り越えたと一安心する暇もない。
暑いから、なんて簡単な理由。
ファンシーで愛らしい着ぐるみのフードが外れ、楠の顔がよく見えるようになって。
やっぱりこの人も端正な顔立ちをしている、そう実感していたら、無造作にファスナーまで下されたのだ。
汗に濡れた肌が、視界にちらつく。
彼にさとられないよう目を逸らす。
見てはいけない気がした。
友達同士なのに、こんな事を気にするなんてと言われてしまいそうだが、飲まれてしまいたくなかった。
なのに。]
……ッ、
[大丈夫だよ。
すぐにそう笑い飛ばすことは出来なかった。
抱き着かれている。
自覚する前に、人の温もりと、汗の混じる彼自身の香りに包まれて――どくり、鼓動が跳ねた。
夜の記憶を、想起した。
言い訳をするならば。
このアパートに越してからは誰とも付き合っていないから、溜まっていたのだ。]
あ、ああ、壊れはしないだろ。
さすがに……。
[漸くジャージの濡れた感触に気付けば、太腿辺りの冷たさに気持ち悪そうな表情を浮かべる。
酒の香りが余計に酩酊感を運ぶ。
はぁ、と抱き着かれたままため息をつけば、自然と楠の耳元を擽ることになったろうか。]
そうだ、な。
シャワーだけ借りていいか。
[ジャージの中まで濡れていそうだ。
普段の自分ならわざわざ他人の風呂を借りずに部屋に戻るのだろうが、今その思考は働かない。]
そっちは濡れてないか。
[確認して。
大丈夫そうならば、パジャマを貸そうかという提案に迷った後、悪いなと頷くこととなった。
仕方ない、着替えもないのだから。
勝手知ったる同じアパートの部屋、間取りは似たようなものだから、さっさと風呂場の前へ行く。
抱きしめられたことから逃げるように。
そして、無造作にジャージを床に落としてから。]
……、
[古びたアパートに立派な脱衣所はなく。
脱ぐなら目を背けて貰わなければ丸見えだと思い出すのは、数秒後のことだった。*]
あー、楠サンも濡れてたな……。
[思ったより動転しているらしい。
同じく濡れた彼を見遣り。
家主より先にシャワーに入っていいものか、それよりなんともこの状況が落ち着かない。
寒いのに、暑い。*]
んー……
[頭上に降ってくる言葉の数々に小さく声を上げた。
自分の加賀部さんへの認識を改めるべきかもしれない。この人かなり真面目な人なのでは?
『好き』とは何か。
それはまだ恋を知らぬオレにも分からないことではあるが。]
『自分を好いてくれるから好き』っていうのも、好きのひとつだと思いますよ
[世の中の愛や恋を謳うフィクションは気を抜けば溺れてしまう劇物のような愛が多いけれど、それは『好き』の解釈のひとつにすぎない。
手元にあるから愛でている、といったような束縛しない『好き』があってもいいだろう。
一度に多数を相手取るなら、それはたしかに不誠実だけれど。
仮にそういった『好き』ですらないというのなら、受けた愛を返す義理なんてないだろう。
動物だって誠心誠意愛を込めて世話をしても懐いてくれない子などたくさんいる。
人間だけが感情から外れ受けた愛を返す義務があるというのなら、それは傲慢だと、オレは思う。]
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