172 ― 恋文 ―
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……誰か助けてくれると思う? 初めてでも何でもいいよ、オレよりセンスあれば。
[はぁ、と息をついて。 駄目で元々、さらさらと貼り紙をしたためた。
どうにかしてくれと自分に縋ってくる仲間の気持ちや 多くはないが少なくもない一定のファンたちの期待。
それに応えてやりたいのは山々だけれど、 人間には得手不得手というものもあるのだ。]
……あいつマジで次会った時覚えてろよ……。
[書き終えれば、盛大にため息をついて。 最近他のバンドに引き抜かれていった薄情者の作曲家の顔を、コーヒーの苦さで塗り潰した。]
(16) 2015/10/18(Sun) 23時半頃
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━━ 放課後・夜 ━━
おつかれさまー!
[今日の部活が終わって、部員は皆帰っていく。 私も、後片付けを終えれば、クスール鞄を肩に掛けて、部室を後にした。]
……うーん、……わかんないっ……
[もう最近は、夜は冷え込む。コートを着ないで、帰宅するのは少しキツイ。 でも、そんなの気にならない位、私の心を占めるもの。]
「愛してる」って……なんなのよ、もうー。
[左手に持つ台本はくしゃくしゃになっている。 演劇部2年目。秋のコンクールに向けて、毎日稽古の日々。題材は"ロミジュリ"の現代版。しかも、主役のジュリエット。現代版の癖に「愛してる」なんて使わないのに、どんな気持ちが変わるわけない。]
(17) 2015/10/18(Sun) 23時半頃
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[どんな気持ちか、分かる訳ない。
だって、私は恋をしたことが、ないのだ。
人を好きになるって、よく分からない。 皆どうやって、彼氏彼女になってるのだろうか。]
…………あっ!
[考え事をしながら歩いていたら、曲がらなきゃいけない所で曲がり損ねた。]
どこだろ、ここ。……引き返せばいいか。
[と、振り返ればそこに]
……ラブ…レター?
[目の前に、『ラブ・レター』という看板を下げた喫茶店が佇んでいた。 植物が古めかしい建物の壁を覆っていて、何だか"秘密の花園"みたいな雰囲気。]
(18) 2015/10/18(Sun) 23時半頃
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[不思議の世界に迷い込んだような。そんな錯角に、胸がドキドキした。
もう遅い時間だけど、少しだけなら。 そう思って、扉に手を掛けた。]
(19) 2015/10/18(Sun) 23時半頃
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二度と俺のダチに手ぇだすんじゃねぞ。
[大通りから死角になっている、薄暗く人気の無い路地裏。 口元を拭いつつ、そこらに倒れ伏す他高の生徒に吐き捨てる]
行くぞ。
[その場に立ち尽くす”ダチ”に声をかけると、早足にその場を立ち去る。 大通りに戻ると、ありがとうとペコペコ頭を下げる”ダチ”に]
気にすんな、もう行け。
[駆け足で去っていく背中を見送る。 その背が見えなくなった所で]
またやっちまった…!
[頭を抱えてしゃがみ込んだ]
(20) 2015/10/19(Mon) 00時頃
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━━ 喫茶『ラブレター』 ━━ [扉を開ければ、ドアベルが鳴って]
(わっ……)
[可愛い照明が店内を、ボンヤリ照らして。 ラジオが流れてて。 まさに小説に出てくるような"喫茶店"に、更に胸は高鳴った。]
こ……こんばんは。
[マスターみたいな人に、緊張しながら挨拶してみた。
"本日のおすすめ"を見てみれば]
あの……ホットドックセット……下さい。
[コーヒーは、最近飲めるようになった。この喫茶店のオリジナルコーヒーに期待大。 ホットドックだけで足りるかなと思いながら注文をして、空いている席に座った。]
(21) 2015/10/19(Mon) 00時頃
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[コーヒーとホットドックがくれば、いただきます、と言ってコーヒーを一口。]
はっ……はわわわわわっ〜。
マスター!美味しいです!
[美味い!びっくり!やっぱり美味しかった。深みがあるとは、この事か。家でお父さんが挽いてるのとは、比べ物にならない位、美味しい。最高に美味だ。
そして、ホットドックを頬張りながら、交流掲示板が目に入った。]
(……文通?)
[ハルかは、何か考えながらじっと見つめている。
またコーヒーを一口。]
(22) 2015/10/19(Mon) 00時頃
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―病室―
『あ、け、ま、し、て』……
[電気のついていない、少し暗い病室。 ベッドから上体を起こし何やら紙に文字を書く女性と、それを脇で覗き込む小さな癖毛の女の子。
二人だけの部屋に、一つ一つ確認するように。ベッドの女性が言葉を発する。]
……『お』……まちがえたました、これは『め』ですね。てん、があるのが『お』です……で、つぎが『め』、『と』……『で』をわすれてました。『う』、と。できました!
[手をパチン、と打ち鳴らして顔を綻ばせた女性を見て、ベッドの横に座っていた女の子がわーいと諸手を上げる。]
『め』と『ぬ』と『お』はやはりきょうてきといえましょう……しかしこれでねんがじょうに『あけましておめでとう』とかくことができます。 ――ありがとう、ちかちゃん。
(23) 2015/10/19(Mon) 01時半頃
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[ちか、と呼ばれた少女が挙げていた諸手をさげ、えへへぇと照れる。その頭を優しく撫でると、ベッドの彼女は時計を見る。]
いけない、もうこんなじかん。 そろそろけんさのじかんですね。ちかちゃんももどらないと。
[はーい。じゃあねマユミちゃん。 返事を残し、少女がぱたぱたと廊下をかけていく音が遠ざかる。
残された女性、マユミは一息吐いて。 それから自分の書いたハガキを見た。]
……ふぅ。よむのとかくのでは、おおちがい。
[あちこちに線が伸び、大きさが揺れ、形は歪み、暴れるような平仮名の羅列。
歳にして、自分の半分以下の女の子に教わってやっと書いた文字。]
(24) 2015/10/19(Mon) 02時頃
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[なぜか懐かれた少女…ちかちゃんと文字を練習し始めたのが数週間前。 その様子を見て喫茶店『ラブ・レター』の噂を教えてくれたのは馴染みの看護師さんだった。
十年も、それ以上この部屋にいれば。 馴染みの方が多い。]
ぶんつうしてくれるかた、ひらがなだけでもよんでくれるかた。
[ベッドにゆっくり体を横たえ、看護師さんに頼んで交流掲示板に書き込んでもらった文言を口の中で転がす。]
……いるかなぁ。
(25) 2015/10/19(Mon) 02時頃
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マスター、さんっ あの、あの……こ、これ!
[今日のわたしはひと味違った。 手にしているのは、昨日何時間も悩んで考えた文章がまるっこい字で書かれた花柄のカード。
自分から誰かに手紙を書く勇気は、やっぱりまだ持てなくて。なら待ってみようかなって、思ったのだ。それはそれで、実際に来たら怖いなって思う気持ちはあるけど、でも、待つのは嫌いじゃないから。]
「よかったら、文通しませんか? ヒナ」
[たったこれだけの文章に、あんなに悩んだなんて…と思い返すと笑えてきてしまう。]
け、掲示板に貼っても、いいですか…?
[たまにやって来てロイヤルミルクティ一杯しか頼まない自分が、図々しくないかな?って怯えながら。けれどマスターさんは、にっこり笑って許可してくれた。]
ありがとうございます!
[勇気の第一歩を、認めてもらえた気がして。 わたしはぺこぺこ何度もお辞儀を繰り返しながら、掲示板にその花柄のカードを貼り付けた。]
(26) 2015/10/19(Mon) 04時頃
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[それからマスターさんにうちの住所を伝えて。 席に戻ったらいまだ胸をドキドキさせたまま、残りのミルクティに口をつけた。
やってくるお客さんが掲示板を目にする動きをする度に、またドキドキして。 不自然に見つめてちゃいけない!と敢えて視線をそらしたら、店の片隅に置かれた掌サイズのキャンバスに目が留まった。]
(ゾウ、さん…)
[やわらかい、水彩画タッチで画かれた象は、とても優しい目をしていて。ここからじゃよく見えないけど、サインみたいなのと、値札っぽいものが見える。]
(売り物なんだ)
[ずず、とだいぶ温くなってしまったミルクティを飲み干したら]
(次のお小遣いで、買おっかな… )
[大仕事をやり遂げて気が大きくなっているわたしは、そんなことを思っていた。]
(27) 2015/10/19(Mon) 04時半頃
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[気づけば随分長い間独り身だ。 人生を揺るがすような出来事など何もないまま穏やかに毎日を過ごしていたら、鏡に映る自分の目尻に皺を見つける歳になってしまった。
此処にいると、昔にタイムスリップしたような気持ちになる。 ラジオだとか、交流ノートだとか。 文通だとか。 パソコンも携帯も普及していなかった中学生の頃を想起させるようなアイテムが此処には散らばっている。
――とはいえ、当時だって男はそうしたツールを使う機会などなかったのだが。]
(28) 2015/10/19(Mon) 16時頃
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[本日は、雨でした。 予報よりも強い雨が降り続けています]
[山の奥の、小さなアトリエ。 最寄りの人家も、車でかなり下らなければなりません。 最近は雨の事故も多いですが、彼はあまり気にしていないようです]
(29) 2015/10/19(Mon) 16時半頃
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[雨音を聞きながら、水彩絵具を混ぜました。 絵具の匂いが、そっと染みこんでいきます]
[彼の瞳は、珍しく鋭くありませんでした。 むしろ、何かを思い出しているような表情をしていました]
[病院から出られない女の子>>25と出会ったのは 10年も前でしょうか。 どのようないきさつだったのか、記憶は薄れてきていますが]
[小さな女の子を喜ばせようと、彼は絵を描きました。 病院では絵具は使えませんでしたが、鉛筆と消しゴムで、沢山描きました]
(30) 2015/10/19(Mon) 16時半頃
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[今になっても、それは続いています]
[時々、思い出したように。 あの時のような絵を描いた絵葉書を、女の子に送り続けています]
(31) 2015/10/19(Mon) 16時半頃
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[イーゼルに立て掛けられた、ハガキ。 そこには、雨の日の一幕が描かれていました]
[カッパを着て、傘をさした、黒髪の小さな女の子。 彼女は動物達一緒に、雨の中の冒険に出かけるのです]
(32) 2015/10/19(Mon) 16時半頃
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マスター、僕は学生の時からちっとも成長してないんだ。 あれがしたい、これがしたいと思うわりには、体がちっとも動きやしない。 頭の中では大天才としてこの世に君臨した僕が、あっちの分野やこっちの分野で大活躍の大成功、末にはノーベル賞かってくらい将来が有望されているんだ。 そう、頭の中だけではね。
(33) 2015/10/19(Mon) 20時頃
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だがマスター、僕はやればできるんだ。 まじで。 やらないだけなんだ。 まじで。
(34) 2015/10/19(Mon) 20時頃
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━━ 次の日 ━━ [ドアベルがなる。 今日もやってきた『ラブ・レター』。コーヒーの味が忘れられなかった?喫茶店の雰囲気が気に入った?
それも、勿論あるけれど。]
コーヒーを、お願いします。
[そして、昨日と同じ席に座った。 大きく息を吐く。 ネットが繋がった携帯に文章を打ち込んで、また大きく息を吐いた。]
(35) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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[そして、コーヒーが運ばれてくれば、一枚のメモ紙を取り出して]
あの、……文通してみたいんです。 恋子ちゃんのネットラジオに投稿して、お知らせしてみてもいいでしょうか?
[もしネットで読まれて、文通相手が見つかれば、マスターから私の連絡先を聞きてもらうようにしても良いか。伺ってみれば、「構わないよ」と笑顔で承諾してくれた。]
ありがとうございます!
[そして、ネット掲示板の投稿ページに、コメントを投稿した。]
(36) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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さてマスター、僕の名字は石が動くと書いてイスルギだ。 この名前をどう思う? 昔はよく同級生に「石が動くってどういうことだよ」ってなじられたものだが、わりと気に入っている名字なんだ。
(37) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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あだ名は「椅子」だった。
(38) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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ん?僕の「なりたいもの」の話かい? まあそれは今度の機会でもいいじゃないか、な?
ああそうだ、マスター。 掲示板にこんな張り紙をしておいてくれないか? 「あなたの名前の由来を知りたい。手紙を待っている。」ってね。 なに、興味本位だよ。各々の名前の由来なんてのはおもしろいものだからね。
(39) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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[演劇部員に、恋子ちゃんが好きな子が居て。 部室でラジオを流すものだから、毎日聞いていれば、私もいつの間にか恋子ちゃんのラジオが好きになってて。]
なんか……恥ずかしいこと書いちゃった気がする。
『愛』だなんて、テーマが重すぎるよね……。
[やっぱり、ちょっと不安。でも、私には大事なこと。
勿論、お芝居の為でもあるけど、それ以上に見てみたかった。 感じてみたい。 そう思った。
周りの人達に聞いてはみたけど、いまいちピンと来なかった。だから、知らない人の意見を聞いてみたくて。 そんな時に、掲示板の『文通』という言葉が目に入って、運命を感じたのだ。
果たして、私のコメントは採用されるだろうか。 ドキドキしながら、放送を待った。]
(40) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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[どうしてこうなった?
ちょっとした用事の為に街を歩いていれば、目に入ってしまったカツアゲ現場。
見て見ぬ振りが出来ず、取り合えず話し合いでどうにかしようと割って入って見た所、 んだてめぇから始まって、その面が気に入らねぇに行って、最後には拳が飛んできて。
後は見ての通り]
(41) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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ド腐れ脳筋共。言葉を大事にしろ、言葉を。
[そう独りごちると、ポケットから取り出したメモに目を落とす。 書かれているのは一つの住所。 ネットラジオで紹介されてた喫茶店のもので、店のホームページもあってか住所を知るのは簡単だった]
「ラブ・レター」…か。
[ラジオのDJ曰く、コーヒー美味し、雰囲気良し。 それだけなら気にもしなかったのだが、なんでも文通相手を募集している掲示板があるらしいのだ]
ぶん、つう
[その甘美な響きに、思いを馳せる]
(42) 2015/10/19(Mon) 20時半頃
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