270 「 」に至る病
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私は何なのかしら。 ミルフィの罪悪感が生み出したもうひとつの人格? あるいは天に召されなかったクラリッサの魂が、 哀れな娘の身体に取りついたのかしら。
……どちらでもいいわよね。この際。
[私は愛するセイルズに近付いて、 昔のようにその唇を奪ってみせた。 舌を絡ませ、熱を混ぜる]
(101) gurik0 2019/10/17(Thu) 23時半頃
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[それは、初々しい娘の口付けではない。 長き時間を連れ添った夫婦のような、 こなれた接吻だった]
セイルズ。愛してるわ。ずっと一緒よ。 決してあなたを離さない。
[うっとりと、私は伴侶を見つめて]
(102) gurik0 2019/10/17(Thu) 23時半頃
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きっと、私は病そのものよ。 あなたにとっての依存症の具現化。
[一歩、セイルズから距離を取る]
あなたがこの前、 抱いたのはどちらなのかしらね。ふふふ。
(103) gurik0 2019/10/17(Thu) 23時半頃
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あなたがこの娘の生き血を啜って 依存が進行するたびに、 私はこの子の“表面”にあらわれる。
今は少ししか出てこられないけれど。
ねえ、きっとすぐに私たちは “昔のように”暮らせるわ。 愛して、セイルズ。私だけを愛して。 私 “眷属”なしには、あなたは決して幸せになれないわ。
[きっと私が浮かべる笑みは、 写真立てに飾られたあの写真のように 慈悲深く、穏やかなものだ]
(104) gurik0 2019/10/17(Thu) 23時半頃
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ああ、残念よ。セイルズ。 今日のところは、これでさよならね。
(105) gurik0 2019/10/17(Thu) 23時半頃
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[ 暗 転 ]
(106) gurik0 2019/10/17(Thu) 23時半頃
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……パパ?
[ざわり、と葉擦れの音がする。
湿った風が墓地を吹き抜ければ、 そこに佇むのは、不思議そうに小首を傾げる 無垢な顔をした少女がひとり]**
(107) gurik0 2019/10/17(Thu) 23時半頃
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[私は、セイルズの言葉>>122に 大きく目を見開いたわ。
――ふふ、そう。 あなたは私をそう捉えるのね。
間違っていてもいいと言うのなら 私から言うことは何もないわ。 信じたいものを信じなさい。
あなたが“私”を愛してくれるなら、それで それだけで。“あたし”は――……]
(133) gurik0 2019/10/18(Fri) 16時頃
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[情熱的なその口付けを、受け入れた]
(134) gurik0 2019/10/18(Fri) 16時頃
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[ざわり、と湿った風が墓地を吹き抜ける。 あたしは不思議そうにパパを見つめている。
なんでもない、言ううパパは>>126 いつも通りに穏やかな笑みを浮かべている。
白昼夢を見たような感覚。
疲れてるのかな、あたし。 ちょっと時間が飛んだみたいに、 前後の会話がかみ合わない。
なんだか口元が熱い気がして、 あたしは自分の唇を指先でなぞった]
(135) gurik0 2019/10/18(Fri) 16時頃
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……うん。帰ろう、パパ。
[あたしとパパは連れ立って、歩き出す。 自然と、パパと指と指を絡めた。 親子が手を繋ぐように、夫婦が手を取り合うように。 どんよりとした鉛色の空を見上げて、ひとこと]
パパと初めて会った日みたいな空だね。
[ぽつりと、呟いた]
(136) gurik0 2019/10/18(Fri) 16時頃
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お出かけ? うん、行く行く。 でもお買い物だけじゃ物足りないわ。
ええとね、たくさん行きたい場所があるの。 遊園地でしょ。水族館でしょ。 あと動物園も。それから――……
[パパと一緒に行きたい場所を、指折り数える。 まるで、休日に遠出をせがむ子供みたいに。
――これじゃあ、いくつ休日があってもたりないわ!]
(137) gurik0 2019/10/18(Fri) 16時半頃
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好きなもの? そんなの決まっているじゃない。
[ひょい、と背伸びをして パパの唇に軽く口付けた]
(138) gurik0 2019/10/18(Fri) 16時半頃
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パパ、だいすき。**
(139) gurik0 2019/10/18(Fri) 16時半頃
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パパ、本当に? 約束だからね。遊園地も水族館も動物園も ぜんぶぜんぶぜーんぶよ!
[あたしはぱあっと顔を輝かせる。>>144 これからの休日をどう過ごすかに思いを馳せて 自然と足取りは軽いものになった]
(152) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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パパ以外?
[きょとん、とあたしは目を丸くする。 それからパパの言葉>>147に 黙って耳を傾けたんだ。
ぐ、と。 あたしの手を握るパパの指先に、力が籠る。
“愛している”>>148のひとことが あたしの中に強く強く響いた]
(153) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[しばらくあたしは 曇天の街をパパとふたり 家に向かって黙りこくって歩いていた。
だって、どういう反応をしていいか 馬鹿なあたしには分からなかったから。
どきどきしたし、嬉しかったし、しあわせだった。 だけど“愛している”を返すだけじゃ、 きっとあたしの気持ちは伝わらないと思ったから]
(154) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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……ねえ、パパ。雨が降ってきたよ。
[小さく呟いて あたしは鉛色の空を仰ぐ。
ぽつ、ぽつと雨粒が顔に当たって、 頬を流れ落ちていった。 ほら、これでもう 泣いているのがバレないでしょ。
結局、返すのはお決まりの文句だ]
(155) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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"I’m so happy being your daughter."
(156) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[血は繋がっていないけど きっとあたしは パパの家族になるために生まれてきたんだわ。
とっても愛してる。パパのことを。
娘として、伴侶として、家族として あなたを愛してる。
あたしに、愛することのしあわせを 教えてくれてありがとう。
……愛してくれて、ありがとう]*
(157) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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―― それから ――
[長い、月日が経った。
あたしの見た目の年齢は ちょうどママと同じ年嵩で止まった。
穏やかで、しあわせな日々が過ぎてゆく]
(158) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[パパとあたしは、親子であり夫婦だった。
週に幾度も身体を重ねたけれど、 結局、あたしがパパの子を授かることはなかった。
あたしが、いつ狂って死んでもいいように、 パパの子供を産んで 新しい家族を作ってあげたかった。
けど、そんなに世の中はうまくいかないみたい]
(159) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[ママの真似じゃないところが好き、って>>145 パパに言われても、あたしは変われなかった。
ママの真似をしてパパの助手になって、 大学の研究を手伝った。 ママのいなくなった穴を埋められるのは あたしだけのはずだから。
仕事でも、家庭でも、 あたしはいつでもパパの隣にいた]
(160) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[最近は段々と 記憶の辻褄が合わないことが多くなっていた。
朝食を食べていたはずが、午後になっていたり。 夕方大学にいたはずが、夜ベッドの中にいた。 あたしが、あたしでなくなっていく感触。
あたしはいつまであたしのままでいられるんだろう。 怖くて怖くて、堪らなかった]
(161) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[依存症という病は、 ママの形をとって私に現れているらしい。 正気のあたしでいられる時間は、 どんどん短くなっている。
ある日、目覚めると あたしは裸でパパのベッドの中で眠っていた。
記憶がないというのに、確かに愛された痕跡があって 首筋をなぞれば新しい噛み痕がある。 熱を持った胎を、さする]
……パパ。
[生まれたままの姿で、パパに抱きついた]
(162) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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パパ。あたし“も”愛して。お願い。
[すがるように、祈るように。 パパに身体を密着させる。 そのぬくもりに、目を細めて]
怖いの、パパ。眠れないの。 えっちしよ。 そしたら、怖いこと忘れられるから。
[読み聞かせをねだる子供のように、 情事を迫ったりも、した]
(163) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[時には、カレンダーの日付が 飛んでいる時すらあった。
パパとあたしの幸せな日常は永遠じゃない。 終わりの日が、きっといつかはやってくる。
あたしは、カレンダーに赤丸をつけて 「この日だけはあたしでいられますように」って 毎年お祈りをするの。
その日は、特別な日だから]
(164) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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―― 朝 ――
おはよう、ママ。
[写真立てに飾られた古ぼけたママの写真に、 いつも通りに朝の挨拶をする。
カレンダーを見遣って、安堵する。 ああ、あたしはあたしでいられたんだって 神様に感謝するんだ。
パパを起こさないように 足音をしのばせて台所へと向かう。
今日は大学のお仕事がお休みの日。 起こさずにゆっくり寝かせてあげたいし、 サプライズでお祝いしたかったから]
(165) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[だって。今日は、大好きなパパのお誕生日なの]
(166) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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[小麦粉と卵と牛乳を目分量でボウルに入れて、 たっぷりのお砂糖と共に泡立て器で混ぜた。
型に生地を流し込んだら、オーブンの中へ。 今度は冷蔵庫の中の苺を取り出して 可愛いハート型に切ってゆく。
生クリームをボウルでいくら混ぜても パパの作ったホイップクリームのように 角が立たないけれど、 見た目じゃなくて味で勝負だからきっと問題がないわ]
(167) gurik0 2019/10/19(Sat) 03時頃
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