88 めざせリア充村3
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[抱えられ、ミナカタの望むとおりに無言のまま。
腕の中で低い呟きを聞く。
彼の望みはまだ、叶えられなくて。
これからも、叶えられるかは知れなくて。
自分の望みは悪循環ばかりを招いて。
それでも、自分はまだ動いている。
階段をのぼれば、
地下への入口ともども、揺れる感情に蓋をする。]
[片手で抱きかかえれる身体。
本物の彼女よりずっと、ずっと軽い。
それでも迎えてくれてうれしかった。
同じ言葉で「おかえり」をくれて
本当は、よくできた紛い物などと思っていない。
カプセルの中ずっと目覚めない彼女のほうが
今では人形のように思えてしまう。
嗚呼――そんなことを言ってしまったら
ポプラの中に居るカリュクスをどれだけ傷つけるだろうか。
擬体の中にまで入って待っててくれた男は
もう己を待ってもいないし、必要ともしておらず
作り物の中にいる存在を]
[だから名前を呼ばない。
呼べば本当にカリュクスが過去になってしまう。
それを何より恐れて
その後に彼女が目覚めることを何より恐れて
愛しく――憎い擬体を抱えて
階段を上って地上へと。]
――な、ぁ
[掠れた声での囁きは。
絶対にポプラの耳でも拾えないだろう。]
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[抱いた頭をゆるく撫ぜて。
あの悪夢の中でずっとこうしたかった事、 それはきっと叶わないだろうと諦めていた事、 最期に会えた刹那の喜びと、 遅すぎたんだという絶望が蘇る。
最期に向き合った彼女の顔を思い出し。 朝焼けの中の彼女の姿を思い出し。 もう二度と、あんな顔はさせたくないと、 あんな未来を歩ませたくはないと切実に願う。
離れる間際の震える手に触れ、 かわりに彼女の目元を指先で拭う。]
あの夢は…戦場は、ひとつの可能性なんだと…―
[それからようやく ナユタとミナカタ先生から聞いた説明を、 ソフィアへも。]
(16) onecat69 2013/07/06(Sat) 14時頃
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今は、…な。
[明日はどうなるか解らない。 大切な物は唐突に失くなってしまうのだと 虚構の戦場へと続く道すがら知った。
だから今この瞬間だけは。 ソフィアの目元を撫でる指先に 持てる限りの優しさを込めて。]
みんな、一緒に居るよ。 ………会いにいっておいで。
[笑ってくれる彼女へは、 努めて穏やかに笑うまま肯いて。
チアキのカプセルの電子音が鳴ったのは きっとその直後。**]
(19) onecat69 2013/07/06(Sat) 15時頃
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― 実験室 ―
[ソフィアの眠っていたカプセルに腰掛け、 周囲の様子を眺める。静かに。
チアキのカプセルが開いてからの様子には 眉を寄せて吐息を落とすものの、 あの惨状の中で“演じた”俺と彼の“役割”を思うと 声をかける事は躊躇われた。
立ち上がり、 ミナカタ先生の傍へと。
傍にはポプラも居るだろうか。 二人へ向ける目は、 悪夢の中で戦場を見つめていた目よりもずっと、 冷たく、暗い。]
(40) onecat69 2013/07/07(Sun) 01時半頃
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[改めて向き合う懐かしい顔。 雪の中、最後に見た顔と変わらない。
ミナカタ先生が生きている事に安堵し、 すまなかったと詫びるつもりは無い。 それでも、良かった、と そう思ってしまうのは仕方なくて。
奥歯を噛み締めて 険しい表情を保つべく努める。]
恨むよ。……先生。
[間近に立ち、向けた言葉は語尾が震える。]
(42) onecat69 2013/07/07(Sun) 01時半頃
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[実際のところ、 ミナカタ先生を恨むのもお門違いだと 頭のどこかでは理解している。
それでも。 先生の胸倉を右腕で掴み、引き寄せる。]
たまたまでこんな気分にって…最低だ。
嘘でいいからだ、 「お前じゃないとダメだった」とか 言われる方が、まだマシ。
[そのまま、 ミナカタ先生の額に頭突きを一発。 ゴツ、と鈍い音。勿論、俺も痛い。]
これで許してやる。
(47) onecat69 2013/07/07(Sun) 02時頃
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[やっぱり俺も痛かった。
額を擦りながら ミナカタ先生を見る涙目からは、 「許す」と言い放った言葉の通り 既に険しい色は失せていた。]
大人なんだからさ、 嘘のひとつも吐きなって。
[先生の心の内は解らないから、 彼の言葉をそのまま受け取って 少し不服そうに拗ねたように、笑った。]
(52) onecat69 2013/07/07(Sun) 02時半頃
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[触れられる額はやっぱり痛い。
温もりは額から滑り降りて 頬を包んでくれる。 懐かしい温かさを感じてしまえば 思わずヒクリと肩は揺れるが。
一度の瞬きで込み上げる感情をやり過ごす。]
でも。大人は子供の嘘を見抜くのは下手だ。
[頬の手に手を重ね、 遠く感じる“あの日”の夜にしたように ミナカタ先生の掌に唇を寄せ。]
先生も……おつかれ。
[手を離して一歩身を退いて。 以前と同じ距離感よりほんの少しだけ離れた位置から、 もう一度、笑いかけた。*]
(58) onecat69 2013/07/07(Sun) 11時頃
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さて。
[額の痛みもおさまったところで。 ミナカタ先生には頭突き一撃としたが、 この子にはどうしようか…と ポプラへも眼差しを向けた。
しばらく押し黙ったままポプラを見つめ。]
ポプラも、 ずっと見てたのか…? ずっと…あれを、見せてたのか…?
[あの悪夢を。惨状を。 そして今尚胸に残る悲しみと苦痛を。]
(77) onecat69 2013/07/07(Sun) 16時半頃
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……おもしろかった?
[ちょっと意地悪な質問を落とすのは 少し、掠れた声で。
ポプラは、 何を思って見ていたのだろう。 何を思って見せていたのだろう。
確かにそれは知りたい事ではあった。
返答は何であったにしろ、 ポプラの眉間を指先で軽く弾いて。 仕返しは、それで終わりとしておく。]
(79) onecat69 2013/07/07(Sun) 17時頃
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[項垂れるポプラの頭に掌を乗せ、 柔らかい髪をもふもふと撫で回す。
ポプラの作る沈黙には 微かな苦笑いを浮かべただけで それ以上は何も訊かなかった。
誰を恨んでもきっとおさまらない。 誰に詫びても謝罪されても終わらない。
今抱えるものは、 これから未来を塗り替える事でしか 乗り越えられないものなんだろう。
そう理解して、 今はただ深く肯くだけで。*]
(81) onecat69 2013/07/07(Sun) 17時半頃
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― 厨房 ―
[チアキには声をかけられないまま、 実験室を後にして、 気まぐれに足を向けた食堂を通り過ぎて 今は無人の厨房へと。
何も変わっていない風景が、 妙に儚いもののように感じるのは 先の実験の名残なのだろう。
あの夢がどの程度の精度で描かれた未来なのか、 それはこの壁の中で生きる 無知な今の俺には解らない。]
……考えても、仕方ないか。
[きっと今の俺がまずするべき事は、と考えて、 珈琲を淹れる。 ミルクと砂糖をたくさん入れた甘い珈琲を。]
(89) onecat69 2013/07/07(Sun) 20時半頃
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― 厨房→食堂 ―
[考え事をしながら、 時間をかけて珈琲を入れた。
ミルクを注いで掻き回しつつ思い出すのは 遠い記憶になりつつある とにかく薄く不思議な風味の炭珈琲。 炭火焙煎なら美味かっただろうに。
薄く思い出し笑いを零したところで 食堂の方から物音が聞こえて。]
……ああ。ソフィー。 今、会いに行こうと思ってた。
[出来上がったばかりの甘い珈琲を手に、 彼女へと歩み寄り。 湯気の立つカップを手渡す。]
(138) onecat69 2013/07/07(Sun) 23時半頃
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ん、どうぞ。 …夢での三年の記憶の中には無くてさ、
[“あの日”約束したはずなのに、 ソフィアのため珈琲を淹れた記憶は無かった。 それがずっと心残りだった。気になっていた。
座る彼女の隣の席を選び腰掛けて、 やっと約束を果たせた事に安堵した。
カップに口を付けてくれる彼女を 横から真っ直ぐに見つめて。]
(143) onecat69 2013/07/07(Sun) 23時半頃
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あのさ、
[しばらくは静かに見つめていたが、 おもむろに口を開き、]
(145) onecat69 2013/07/08(Mon) 00時頃
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― 数日後・自室 ―
[昼食を済ませ、 自由な午後の時間を過ごしている。 ベッドに腰掛けて適当な本のページを捲って。
あれから。 戦場を彷徨う悪夢に魘される夜は続いているし、 チアキとはまだちゃんと会えていない。 実験の余韻が残る日々を送っていた。
本を閉じ、溜息をひとつ落としたところで、 扉を叩く音と声を聞いた(>>136)。]
どうぞ。
[もちろん施錠はされていない。 シンプルな返答で、ヤニクを部屋へ招き入れた。]
(158) onecat69 2013/07/08(Mon) 22時半頃
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[閉じた本をシーツの上に適当に置き、 座ったままでヤニクを眺めた。 扉の前から動かない様子も、 どこか緊張した面持ちも、らしくない。
どうした、と笑って声をかけようとしたが、]
…………、
[ヤニクの言葉を聞いて、 彼を真っ直ぐに見つめるまま、黙り込んだ。
視線を重ねて、沈黙の時間を過ごす事30秒程。]
(160) onecat69 2013/07/08(Mon) 22時半頃
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うん、あぁ……すげぇ可愛い。俺も大好き。 いい子だろ。リッキィ。
[沈黙を打ち切って。 朗らかに笑って、肯いた。
無邪気にシレッと兄の顔をして笑う俺の前で、 さて、ヤニクはどんな反応を見せてくれるのか。]
(161) onecat69 2013/07/08(Mon) 22時半頃
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やっぱ、はぐらかされては…くれないか。 残念。
[確信犯は笑顔を消して、 かといって険しい顔をするでもなく、 常と同じ顔つきで改めてヤニクへと視線を。
「まぁ座れよ」とベッドを叩いて示し、 俺は適当に椅子に掛けなおす。]
俺は、何もしてやれなかったよ。 あの夢の中でも……現実でも。
そもそも、 こんなところへあの子を招いた原因も俺だ。
[はは、と零した乾いた笑い声が、響く。]
(163) onecat69 2013/07/08(Mon) 23時頃
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…………、
なんだこれ。すげぇ恥ずかしいな。
[更に挟んだ沈黙の後、 頭を掻きながら、複雑な面持ちを浮かべ。 深く呼吸した後に、]
妹を宜しく頼みます。 ……大切にしてやってください。
[深々、頭を下げて。 真剣な声で、はっきりとそう伝えた。]
(164) onecat69 2013/07/08(Mon) 23時頃
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ヤニクなら、いいよ。 お前になら俺の大切な“家族”を任せてもいい。
[頭を下げたまま床を見つめ、 深く息を吐いた後の言葉は強く。はっきりと。
言い切ってしまえば、 頭を上げて再びヤニクと視線を合わせる。
目にかかった前髪を描き上げつつの笑顔は、 先のような無理矢理な満面の笑みではなく 自嘲するような乾いた笑みでもなく。 自然に、穏やかに。]
(167) onecat69 2013/07/08(Mon) 23時半頃
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安心しろよ。 “家族”ってのは、奪うとか奪われるとか、 そんな単純なもんじゃねぇの。
俺は死ぬまでリッキィの兄貴で、 リッキィは死ぬまで俺の可愛い妹。 で……兄ちゃんてのは、 妹が好きな男の傍で幸せそうにしててくれるのが、 結構…嬉しかったりするんだよ。
[そこまで言って立ち上がると、 ヤニクの傍へと歩み寄り。]
……寂しいけどな っ、
[おもむろに、背中を思い切り叩いてやる。]
(168) onecat69 2013/07/08(Mon) 23時半頃
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[咳き込む様子には軽く笑ったものの。
下げて見せられたヤニクの頭に掌を置き、 そのままくしゃりと髪を撫でてやる。 これまでと変わらない容赦無い手付き。
もちろん、 これでヤニクと俺の関係が変わるわけもない。]
よろしく。 ………信じてるよ。ヤニク。
[多くは返さず。 様々な感情全部をその言葉に込めて。 深く肯き。
彼らの未来が明るくあるようにと心から願った。*]
(173) onecat69 2013/07/09(Tue) 00時頃
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― 数日後・自室 ―
[ヤニクから交際報告を聞いた更に数日後。
その日もやはり昼食後の暇な時間を、 自室にて本のページを捲って過ごしている。 古びた絵本は、昔、妹によく読んで聞かせた物語。 診察室で同じものを見つけて 懐かしくなって借りてきた。
何度も読んだ気に入っている場面を眺め、 描かれた主人公の少女の姿を コツコツと指先で叩く。]
……開いてるよ。
[その音に重なるようにして聞こえた扉を叩く音。 もちろん鍵は開いていて、 訪ねてくる者を追い返す必要も無い。 気軽に声を返した。]
(184) onecat69 2013/07/09(Tue) 00時半頃
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[返ってきたのは小さな声。 その後に開いた扉へと眼差しを向け、 そこに居るチアキの姿に、一瞬、身構えた。
彼の様子は逐一誰かから聞いていた。 記憶が欠落しているという話も、 まるで本物の子供のようになっている旨も。
それでも…否、だからこそ、会わなかった。
俺が、封鎖された記憶の蓋を 開けてしまうんじゃないかと。怖かったから。]
………何処へ行きたいんだ?
[開いていた本を閉じて傍らへ置く。 表紙には『Alice in Wonderland』と。
頭を下げるチアキに、 少し緊張を孕んで強張る声を返した。]
(199) onecat69 2013/07/09(Tue) 01時頃
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[困惑してか視線を泳がせるチアキ。 その様子を見つめる俺の瞳も揺らいだ。
診察室へ行きたいならば、と、 少し迷った後に立ち上がって彼の隣へ。 道案内くらいなら…大丈夫だろうか。 これからミナカタ先生の所へ行くなら、 異変があってもなんとかしてくれるだろう。
近付いてみると、チアキはチアキのままで、 どこも変わっていない。 モニタ越しに見た彼の最期が脳裏を過ぎり 胸がギシ…と痛んだ。
それなりに、あの悪夢とは折り合いをつけて、 元のように暮らせるようになってきた。 でも、チアキとの時間は止まったままだった。 悪夢の中から、進めないまま。]
(211) onecat69 2013/07/09(Tue) 09時半頃
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