231 自由帳の中で、僕たちは。
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―冬の幻 ―
[おれが二十八の頃。
あいつは十七――高校二年の冬が始まりだった。
最初はただの教師と生徒だった。
おれは二階で明日の授業の準備や、今日の片付けをしていて
あいつは校庭の花壇をせっせと世話していた。
いつからか声をかけるようになった。
「熱心だな」とか
「何が咲くんだ」とか
「今日も寒いな」とか
校庭の運動部の喧騒が遠く。
そこには穏やかな時間だけがあって。
たった数秒の会話はやがて、数分になり、数十分になり。
欠かせないものになるのは必然だったんだろう。]
[おれはそんなに口の回るほうではなかったし
あいつもそこまでお喋りなタイプではなかった。
二人でいても無言の時間なんて幾らかあったし
それも含めて苦になることは全然なくて。
重い肥料を運ぶのを手伝ったり。
雑草を引っこ抜いて尻餅をつくおれに笑ったり。
鼻の頭に土汚れをつけたあいつに笑ったり。
おれの食うものが体に悪いからって
たまに弁当を作ってきてくれたりするようなやつだった。
甘い卵焼き、タコの形のウィンナー。()
美味いと謂えば、嬉しそうに笑う顔があった。
おれが“声なき言葉”を教えたら、一生懸命に覚えて。
代わりにあいつは、おれに草花の事を話した。
おかげであいつは理科の成績だけやたらによくて。
おれは似合いもしない花言葉なんかに詳しくなった。]
[おれたちはお互いにわかっていた。
相手のことをどう思っているか。
そして、おれたちの関係性も。
だから謂えなかった。
だから、謂わなかった。
たとえその笑顔がどんなに愛しくても
おれはこの手を伸ばさなかった。
柔らかな髪に触れることもなければ
透き通る肌に触れることもない。
あいつも同じだった。
おれを名前で呼ぶことも無い。
連絡先もしらない。
でも、それだけで
おれたちは充分しあわせだった。]
[――いつからだろうか。
生徒たちのおれを見る目が少しずつ変化していったのは。
嫌われることはままあるが、そういったものとは違う。
好奇の眼差しがおれを撫で回すようになった。
「三年の倉科りさと理科の淵ってデキてるらしいぜ。」
今でも覚えてる。
どこの誰だったか顔は覚えてないが
おれに聞こえるように放たれた、その囁きを。]
[あそこで掴みかかっていれば、どうなっていたんだろうな。
一瞬頭に血が昇って、拳を強く握ったことは覚えている。
それでもおれは、何も謂えなかった。
何も、謂わなかった。
今おれがキレて手を上げて何の得がある?
おれは職を失うだろうし、あいつにも迷惑しかかからない。
あいつには将来がある。
おれにはそれを守る義務がある。
大人だから。
教師だから。
言い訳ばかりを並べて、おれは。
認めることから逃げたんだ。]
[三年の卒業は程なくして訪れた。
あいつは最後の日も花壇を弄ってた。
いつもと同じような会話をした。
何もなかったかのように話してた。
けれど突然思いもよらない言葉があって。]
「淵先生は何がすきですか?」
[わかってた。
その言葉は「おれがすきだ」と謂っていたことも。
その言葉は「おれにすきだ」と謂ってほしかったってことも。]
「……甘いもん、辛いもん、かな。
なんでそんなこときくんだ?」
「小さなことでも、すきなものをすきっていえるのって
しあわせだと、おもうから。」
「じゃあ、お前は何がすきなんだ?」
「わたしは、……お花かな。」
[会話をしたのはそれが最後だ。
卒業証書を抱えて、大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて
あいつは高校を卒業した。
おれは校門を出ていくあいつを
見えなくなるまで、消えるまで
理科準備室から見ていた。
気付けばおれは、眉間に皺を刻んでいた。
もう、単純に笑うことなんて出来なかったし
でも、泣くことさえ許せなかった。
そして厄介ものを払うようにおれは転勤が決まり
男子校なら変な間違いも起こさないだろうと
この杏琵高校に赴任させられた。
今は―――*]
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[友田から返って来たメール。「応援してる」「ありがとう」という一往復で終わるつもりで読み進めていたら、最後の一文で指が止まる。]
…………。
[もし、だめだったら。
…………これくらいなら、これくらいならいいんじゃないだろうか。 もしもの話だ。もしもの。]
(133) azure777 2017/12/29(Fri) 23時半頃
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―――――――――
To:友田 千彰
From:佐藤 喜一
―――――――――
ありがとう。
もしだめだったら。友田の健闘を讃えつつ、来年度からもよろしくの会でも開こう。
―――――――――
To:きーちくん
From:千彰
―――――――――
だったら落ちても安心じゃん!
………ってゆー心のほけんをかけとくね。
受かってたら受かってたで、
祝勝会でもやりましょう。
心の支えでがんばります。
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[友田からの返信を読む。俺はちゃんと問題のない文を書けていたようだ。 ふうと息をついて、スマートフォンの画面をスリープさせる。
友田の第一志望については、合格発表まで考えないようにしようと思った。 言霊なんて話があるが、考えるだけでも悪いことをしている気持ちになる。
卒業までの間、図書館でまだ読んでいない本をひたすら読み漁ろう。そうして ……暗い気持ちには蓋をしておこう。そう、俺は思った。*]
(144) azure777 2017/12/30(Sat) 00時半頃
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―――――――――
To:きーちくん
From:千彰
―――――――――
ふつつかものですが、
これからもよろしくおねがいします…。
(頭を下げる絵文字)
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━春・キャンパスにて━
[広い広いキャンパス内で、満開の桜を眺めていた。 サークルの勧誘をする騒がしい声達が、少し遠くの方でしている。 先ほど、その人波の中から抜け出して来たところだ。同行者とははぐれてしまったし、バスケサークルとか冗談ではない。 それよりも。]
一緒の大学になってしまったなあ……。
[俺が、落ちればいいなんて思ったことはきっと関係ない。頭では理解しているのだが、罪悪感は胸に残った。 せめて……これからも友達として、間違えずに過ごしていこうと今は思っている。 向こうは友達だと思っていて、そう思って頼ったり相談したりしてくれたのだから、俺はそこを壊しちゃいけない。
そう考えながら、「今どこにいる?」というメールを送信した。*]
(167) azure777 2017/12/30(Sat) 01時頃
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