252 Aの落日
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[ 文化祭から日にちが過ぎれば過ぎるほど、 あの出来事は過去になっていく。 縁もゆかりも無い人ほどその傾向は強く、 ああ、そういえばそんな人もいたねと関心なく。 再々行われる道徳教育で命の大切さを説く言葉も、 上辺を撫でていくばかり。
彼女とその家族は何かと大変だったようだ。 何らかの事件性が無いか探る警察と、 あまり深入りされたくは無い学校側の板ばさみになり、 どんどん疲れていくようだったと母は語る。 ]
(375) 襟 2018/10/23(Tue) 19時半頃
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[ 世の中そんなもんだ。]
(376) 襟 2018/10/23(Tue) 19時半頃
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[ 俺もそんな空気の中で適度に笑い、 適度に合わせて暮らしている。 3日もすれば何事も無かったように、 友達からもらった月末までのクーポン片手に、 クレープ食べに行かない? とほのかさんを誘っただろうし、 万年青君をラーメンを誘ったりしただろう。 ルリちゃんやあいさきくんに、 面会できるようになったらお見舞い行くの? と聞いたり、 文化祭の時に「お、ナマイキ言うじゃん?かわいいよ」 と頭をぐしゃぐしゃにしてやった。 イメチェンして得意げに笑った>>2:164後輩に ばったり会って、何となく飴をあげたり。 ]
(377) 襟 2018/10/23(Tue) 19時半頃
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[ そんな他愛もない日々の中、母伝てで 少し落ち着いて面会できるようになったと聞いた。 手土産にリボンデザインのヘアバンドを選び、 数日後に病院へ行き、ベッドの上の彼女に声をかける。 ]
えーこちゃん、 って、寝てるのか。
[ 少し待って、起きないようなら帰るかと決め、 パイプ椅子に腰掛ける。 電源を落とした携帯電話は暇つぶしに使えず、 鞄の中から文庫本を取り出し、眼鏡をかけ視線を落とす。 そうして何ページか読み進めて、小さな声に顔をあげる。 彼女が俺の名前を呼んでいた。 ]
(378) 襟 2018/10/23(Tue) 19時半頃
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おはよう、えーこちゃん。夢見はどう?
[ 覚えていない、と彼女は言う。忘れてしまったと。 夢はそういうものだろうなと、栞を挟んで本を閉じる。 鞄の中に収めるついでに、手土産を取り出し、 ベッドの上にぽんと乗せた。 ]
やるよ。食事の時にでも使ってくれ。
[ 落ち葉の様にぽつぽつと言葉を交わす。 ここへ来ることになった原因の話しはせず、 当たり障りの無い話を俺たちはする。 時間にして十数分程度。 あまり長居しても疲れるだろうと、席を立つ。 ]
(379) 襟 2018/10/23(Tue) 19時半頃
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そろそろ帰るよ。また来る。 嫌ならおばさんにそう言っといて。
[ 何が、誰が原因でいやなのか。 それは彼女の心の中にしかないから。 親越しに伝えてもらえれば良いとそう言って、 出入り口の扉に手をかけて、少し迷ったあと口を開く。 ]
……えーこちゃん。また死にたくなったら、 その前に誰かと話をしようぜ。 誰も思いつかなかったら、俺を呼べよ。 話して、ぱーっと気晴らしして、 それでもまだ死にたいんだったらさ。 その時は。
[ 振り返る。 逆光で顔が良く見えないが、 俺はなんてことないような顔で笑って、 最後に一言伝えて、部屋を出ていった。 ]
(380) 襟 2018/10/23(Tue) 19時半頃
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俺が看取ってやるよ。**
(381) 襟 2018/10/23(Tue) 19時半頃
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[ おばさんが俺を家へと招いたのは、 少し肌寒くなってきた日のことだった。 名を呼ばれ、聞きたいことがあると家の中へ誘われ、 見せられたのは学校新聞と、 コピー用紙を束ねた冊子。>>348 Aの落日と題された冊子は知らないが、 学校新聞は充分すぎるほどに見覚えがある。 ]
(442) 襟 2018/10/24(Wed) 23時半頃
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[ おばさんはこれが病室にあったのだと言い、 学校で回覧されているのかと聞いた。 ……誰が持ってきたのか心当たりはあったが、 それを問われることは無く。 おそらく、自分も容疑者の一人だろうとあたりをつけ、 一般生徒が知っている範囲の答えを返す。
冊子の方は内容も人物も心当たりはあるが、 詳細を知るわけが無いので読ませてもらう。 やけに詳しい部分もあれば曖昧な部分もあるが、 書き手の存在が抜け落ちた物語は、 それ故に俺の目に書き手ががはっきりと見えた。
いじめじゃないのかとか、 ここに書かれているのは本当かとか、 心配する言葉に適当に相槌を打ち、頁を閉じる。 ]
(443) 襟 2018/10/25(Thu) 00時頃
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誰が持ってきたか気になるなら、 俺も調べてみる。 これ、預かってもいい? ちなみにえーこちゃんは、これ見てる?
[ 返ってきた答えに「そっか」と頷き、 冊子と新聞を預かった。 しばしお茶と愚痴に付き合った後、 僅かな距離の夜を歩き、家に帰る。 ]
(444) 襟 2018/10/25(Thu) 00時頃
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[ 翌日、陽が沈む少し前の時間。 彼女の病室へ行く。 いつかのように当たり障りの無い会話をして、 不快でない沈黙、十数秒ほど。 俺は口を開く。 ]
えーこちゃん、これ。
[ 昨日預かった新聞と冊子を鞄から取り出し、 ベッドに座る彼女の膝の上に置く。 身を震わせるのが目に見えて分かった。 新聞を見つめた後、震える指で冊子を手に取る。 頁を捲り、文字を見つめるのを俺は見ていた。 ]
(445) 襟 2018/10/25(Thu) 00時頃
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他人が語る自分は全部ホンモノじゃないだろ。 えーこちゃんの事は、えーこちゃんが知ってる。 違うか?
[ 顔をあげてまんまるに開いた目が俺を凝視する。 ]
それを書いた奴を、俺は多分知ってる。 誰なのか、知りたい?
[ 彼女の中の彼女の存在は、一体どんなものなのだろう。 迷うような顔を見ながら、腹の底に渦巻く感情。 口の端を歪ませて、頷く彼女に口を開く。 ]
(446) 襟 2018/10/25(Thu) 00時頃
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[ ああ。こういうのは少し楽しいかもしれないな。 ]
(447) 襟 2018/10/25(Thu) 00時頃
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[ 誰もが有象無象の中、信じたい答えを選んでは、 傷つけたり、喜んだり、傷を舐めたりしてる。 彼女は誰を信じて誰を憎み、 誰に殺さそうになったのだろう。 別に教えてくれなくても良い。 藻掻いて、足掻いて、最後に笑えれば、それで良い。 笑えなかったら、その時はどうするんだろうな? さあ。無数の回答の中、何を選ぶ? **]
(448) 襟 2018/10/25(Thu) 00時頃
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