255 【ヤンストP村】private eye+Violine
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全
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[山羊の頭とヌヴィルへの悪質なメール、 それに薬屋への窃盗と、変な事が重なった日だった。
夜の営業を終え、中断していた毒物を詰める作業を再開する。 一つ、二つと容器を数え、漸く次の盗難に気付いた。
薬品を落とした際に、横へ置いた二つの薬品、 それだけしまい忘れていた事に。 そして、その二つも窃盗にあっていた事に。]
……これ、は
[こればかりは明確な男の失態だと、顔を顰める。 薬品の量は商社に伝えてある上、 危険物をいい加減に取り扱っていたとなれば、 信用問題にも関わるのだから。]
(333) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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[彼の顔に、泥を塗って終わりたくはない。]
―――はぁ。
[落ち着くために深呼吸をする。 跳ね上がる脈が落ち着く気配はないけれど。 とりあえず、箱詰めだけでも終わらせ、 シャワーを浴びて、そのまま眠りにつく。 セイルズに貰った書類は自室の机に置いたまま。 細かい字を読み、理解する気力は蒸発していた。
その眠りについた部屋にも、忍び込まれた形跡があった事は、 結局その晩には気付けなかった。**]
(334) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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[掃除は明日にでも人を呼んで頼もう。] 忌々しい――、
こんな嫌がらせをして 何が楽しいんだ。
[どうせ、あと数日で男はこの街から消えるのに。 どうせ、こんな嫌がらせをしなくたって このアトリエだって、無くなるというのに。
手紙の主は同じだろう。 山羊の頭におそらくは山羊の血と思わしき家畜の腐臭。 顔を思い切り顰める。]
(335) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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― ―
[夢を見た。
男の人の手が、あたしの身体に触れている。 胸を、秘部を、指先が触れている。
けれどそれは本当に触るだけで、 夢の中のあたしは、 そのもどかしさに熱の籠った息を漏らすだけ]
ん、 …… ぁ、
[目が覚める程ではないくらいの、 僅かな熱を、発散させるように。
眠っているあたしの口からは、吐息が洩れる**]
(336) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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[そうしてフローラちゃんを見送った後。 パン工房に戻って二階に上る。 そこは私の、かつてはあの人との部屋だった。
ベッドや机に衣装棚に鏡台。 ありふれた雑貨や家具に囲まれた部屋。
棚から薬箱を取り出して、 傷薬と、包帯と、 利き手ではない左手でなんとか処理をして。 そうして、そうして――]
……っ、
[涙が溢れて止まらなかった。 怖かった、痛かった、分からなかった。 この理不尽な悪意に、死の恐怖に]
(337) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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[ベッドに横になり、毛布にくるまって。 泣いて、泣いて――……、
気付けば、深い眠りに落ちていた。 カウンターに置きっぱなしの血濡れた封筒。 その処理すら忘れて。**]
(338) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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――――こんなの気にさえしなけりゃ、
どうって事ぁねえ………。
[不機嫌を隠せもせず、悪態をつく。 しかし、態々呟く意味は―― 己に言い聞かせる行為に他為らない。
……施錠はしておく事にしよう。 このアトリエを持つようになって 一度も鍵なんて掛けた事は無いが。 気味が悪いったらありゃしない。 車椅子を滑らせ、ゆっくりと向きを回転させる。 今度こそソファまで進み、 車椅子から移り、横たわる。
気疲れも手伝い、その日は睡魔が押し寄せる。 目を瞑れば、嫌な事を考えず済む。 嫌なものを見なくて済む――]**
(339) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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―孤児院―
[結局、空腹を訴える己に負けたのは半刻前。 孤児院へ帰りかけた道で大きな腹の音に眉を寄せ、 部屋に戻れば朝の残りのパンがあるからと、 心を鬼にすること数歩、すぐ負けた。
なんせ大通りから差ほど離れてない距離。 煌とした灯はまだ誘惑のように視界を焼いて、 ――帰ってもパンは一切れという現実もあり―― 空腹が要素とあれば抗える男子などいまい。
イルマと別れてすぐに、 彼女が寄るかもしれないパン工房に行くのも、 遭遇してしまうことを考えれば収まりが悪く。 安食堂を頭に浮かべて、 大盛定食を満足するまで食べてのご帰宅だった]
(340) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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姉妹 ロイエは、メモを貼った。
2018/12/04(Tue) 01時頃
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[孤児院の灯は燈っているとはいえ僅かで、 街灯もない近辺は流石に物騒の一言に尽きる。
尤も、孤児や院を狙う輩など居なかった。 ―――これまでは。 運営がぎりぎりなことも周知の事実だし、 見るからにボロい建物となれば狙う者もない。
もし警戒心が目に見えるものであっても、 その影が写るのは恐らく門の施錠くらいなものだ。 そんな門を潜って欠伸をしながら部屋へ行く。
仕事に備えて今日は早めに寝てしまおう。 ああ、クッキーもあるんだったっけ、 赤いリボンはチビ達が欲しがるだろうか――…]
(341) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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[それは、ごくごく平穏な日常の思考。 眠気に包まれた、取り留めのない朧な感覚。
風呂に入らなければと思えど身体が重いのは、 満腹まで食べてしまったからだろう。 ああでも、この季節とはいえ臭いが気になるな、 なら湯が抜かれる前に入ってついでに浴槽を洗って……]
(342) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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ん……?
(343) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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[部屋の扉を引いた刹那の違和感に視線を落とす。
子供たちから手紙が届くことが偶にあった。
言葉にできないものなら絵を、 ひっそりと伝えたい事ならば訴えを文字にして。
だから、部屋に手紙があることは慣れてはいる。 とくに招集を伝えたばかりの今日は、 相談も文句も言いたい子供がそれなりに居るだろう。
手紙自体に違和感はない、けれど。
滅多に鍵などかけない部屋だったが、 それでも部屋の鍵を持つ子供らはベッド等に置く筈だ。
つまりは床に置かれているのは違和感でしかなく、 送り主の想像もつかない手紙に首を傾げ、拾い上げて]
(344) 2018/12/04(Tue) 01時頃
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………………
[視界に飛び込んだ赤黒い染みに、双眸が揺れた。 唇を結んだままでいられたのを褒めてやりたい。 その赤黒さに見覚えなどはない。 だが、不幸にも連想できるものがあった。
偶然、怪我した彼女を見たばかりだ。>>86 傷は見えず白いテープだけだったが、 怪我の痕跡からその赤に結び付くのは容易で]
(345) 2018/12/04(Tue) 01時半頃
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な、ンだこれ……、血だよ……な……?
[絞り出すような声音は掠れて、 唾液を飲み込んだ心算だったが喉仏が動いただけ。 口の中は再び乾いて痛々しく、思考も儘ならない。 悪戯と片付けるにしては度が過ぎているそれに、 書かれた文字を追うことを、鈍い頭が漸く思いす]
(346) 2018/12/04(Tue) 01時半頃
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[悪戯であれば叱れば済む。 院には悪戯好きの子供が数人いて、 普段から何か計画を練っているようなのもいた。 けれどそれらは悪戯の範疇から出ないもので。
文字を追う。 ひと文字、ひとつの単語、一節ごと、 読み違えないように、ゆっくりと紐解くように。
子供の文字では無かった。 安堵できる材料はそれだけしかなく、 最後まで読み進めて、手紙を掴む指に力が籠る。
修行へ行くことが決まったマーゴの想い。 不安そうに、けれどこれで皆の役に立てると嬉しそうに。 一方で、ココアが店を手離す理由まで察していたのか、 どこか複雑そうにもしていた聡さがマーゴにはあった]
(347) 2018/12/04(Tue) 01時半頃
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[それが綴られている。 彼女がこの手紙を綴ったのではなく、 第三者を思わせる文体が背に虜を走らせる。
それに加えて彼女の一日を、 つぶさに観察したかのような羅列。
彼女に執着しているモノがいる……? なんだ。 何が目的なのか。
誰がマーゴを見ているのか。誰が。 どうして
どうして、マーゴを……?]
(348) 2018/12/04(Tue) 01時半頃
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[手紙を何度も、何度も、何度も読み返す。
頭が良いとは決して言えないが 一枚の手紙に潜む悪意から意図を掬おうと何度も。
部屋に入って扉を閉めて鍵をかけ、 建付けのわるい窓を苦労して締めこれも施錠して。
ベッドの上に座って繰り返し読んで、 出来得る限り、要点を纏めて、それから]
(349) 2018/12/04(Tue) 02時頃
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俺、居なくなるんだよな……
[白羽の矢は既に突き刺さり、 抜く手段はなく、街を出る未来は不変でしかない。
なら、この手紙をどう処理すればいいか。
心臓が痛い程脈打ち、息が苦しかった。 頼れる、頼ってもよさそうな所をいくつか浮かべて、 結局、自警団に相談くらいしか思い浮かばない。
眠る彼女を起こすべきかは悩むところで、 起こして連れていくとしても、 夜に自警団の詰所に人がいるかは怪しいか]
(350) 2018/12/04(Tue) 02時頃
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─子供部屋─
う、ーん……
[ならば明日、朝一番に向かうとして。 今宵、やれるべきことはなんだと思案して。
ベッドから立ち上がり部屋を出て、 鍵がかかったのを確認し、子供部屋へ。
既に眠っている子供、布団をかぶってヒソヒソ話す子供。 部屋を訪れたらその子供たちが顔を上げたが、 夜は大部屋は静かに、と、普段から言い含めている。
起きている子供らには目配せし、 指いっぽんを立て唇にあて動作だけで静めて。
部屋の中央に進んでマーゴの寝顔を確認し、 マーゴが見える位置、窓際に座って携帯灯を置く]
(351) 2018/12/04(Tue) 02時頃
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[明日の朝を迎えるまでの徹夜くらい、 家族たちを守るためならなんでもないはずだ**]
(352) 2018/12/04(Tue) 02時頃
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―― 自警団の務め ――
[>>330タツミからの連絡を受けた自警団本部はすぐさま近くを夜警中の自警団に現場へ向かうようにと指示を出した。 十分も立たぬ間に自警団員は現れ、タツミは事情を聴かれることだろう。
犯人に覚えはあるか、だとか、 盗まれたものはどれくらいだとか、 修理はどうするだとか、 親身になって相談も受け付けてくれるし、 役所への被害補填の申請もしてくれる。
ただ鑑識は翌朝にならないと到着しないため、 現場検証は持ち越しとなる。 一先ずは見回りの強化と周囲の店への呼びかけは自警団が責任を持って行う手筈となり、 『災難でしたね』と言葉をかけて駆け付けた自警団員も見回りに戻っていったのだった**]
(353) 2018/12/04(Tue) 02時頃
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── 自宅 ──
[二人暮らしでも広い家には、表通り側に書斎がある。隣家との間には元叔父の寝室。台所の側には小道。そうして音の殆どを内に溜め込んでしまう]
[がしゃん、硝子の割れる音]
[がりり、硝子を砕く音]
[4度続いたそれらの音は、しばらくの間を空けて更に4度繰り返される。そうしてその後十数分も、砂利同士を擦り合わせるかのような音が響いていたが──しかしどれも、隣家には届かない]
(354) 2018/12/04(Tue) 02時半頃
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── 夜半 ──
[道から人通りの絶える頃、ある表示灯の前に人影があった。古くさいコートとハンチング帽に身を包んだ姿。その正面にあるのは、街灯と並んで立てられた、自警団の詰所を示す素朴な案内板で、日が暮れると判り辛いからと、近頃新たに表示灯として据えられたもの]
[元々はここの街灯に、外部作業用のコンセントがあったのだ。 そして経費を削減すべく、新たな電線を引かずに済ませてしまった。 鍵の掛かっていた電源口を開け放つことになるが、表示灯を隣接して立ててしまえば隠れる位置。雨風は避けられるし、存在に気付くものも、悪戯をする者もいないだろうと]
[──皆、ひとを脅かすものは壁の外にいると、思い込んでいたから]
(355) 2018/12/04(Tue) 02時半頃
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[硝子の割れる音の後、すぐに人影はパン屋から離れていった。 少し俯き、手元へと視線を落としながらも、足早に来た道を戻っていく]**
(356) 2018/12/04(Tue) 02時半頃
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