278 冷たい校舎村8
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[ わはは。ってどちらともなく笑っていた。 気のいい隣人は明日の出欠を気にしてくれて、 礼一郎はもしかすると頼むかもって笑う。 じゃあまたねってあたりまえに手を振って、 その瞬間から、礼一郎は足早に歩き出している。]
(1220) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ バタンと扉の閉まる音が背後でした。 鍵の閉まる音が耳に届く前に、 礼一郎は地面を蹴って駆け出している。
恐ろしい何かから逃げ惑うなんて、 礼一郎にはまったく似合わないはずなんだけどな。 小心者の礼一郎が易々と正しく生きていくには、 それなりに息がしづらい、やってらんない世界だった。 それが現実ってやつだった。
罪からも、過去からも、自分からも、 逃げようったってそうはいかないから、 たまにはそうやって行き場のない気持ちを抱えて、 逃避の真似事をしてでも生きていこうよ、礼一郎。]
(1221) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ だって生きたいんなら、そうするしかないよ。]
(1222) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ ……それにさ、 少なくとも、礼一郎には、 大きく何かを欠いた礼一郎なのに、 友だちがいてくれて、よかったね。 そうじゃなきゃ、走り出すこともできない。 君たちがいてくれて、本当によかった。
それはさ、礼一郎がこれまで、 家の外でだけだったとしても、 ちゃんと生きてきたから。
──ってことにするのは、 ちょっと礼一郎に都合がよすぎるかな。]
(1223) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ ……やっぱりそれも、 礼一郎には信じることしかできないな。]
(1224) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ 最寄駅のロータリーが見えて、 ようやく礼一郎は速度を落とした。 少し息が上がっていて、 礼一郎はゆっくりと呼吸する。
傾き始めた日に晒されて、 歪な影が礼一郎の足元に落ちている。 礼一郎はそれをじいっと見下ろして、
また一つ、ふたつと呼吸を重ねる。 少しだけ冷静になって、 礼一郎はゆっくりと顔を上げる。]
(1225) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ そうして、また。 震える足で一歩を踏み出す。]
(1226) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ これからの人生が、礼一郎は少し怖い。 自分の背負っていくべきものの重みも、 それとどう向き合うのかということも、 全部投げ出してしまえそうな、自分も。]
(1227) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ 本当に恥ずかしい話だけど、 罪の意識を覚えない自分を、 そのときになってはじめて、 戸惑いでも、諦めでもなく、 少し怖い。と礼一郎は思う。]
(1228) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ だから何。って君たちなら思うかもしれない。 礼一郎は君たちの知らないことをよく知っていて、 君たちには礼一郎には見えなかったものが見えている。
その隔たりが永遠に埋まることのないものだとしても、 礼一郎はこちら側で笑って、君たちのことを見てるね。 時々、崩れそうな縁にそうっと足をのせたりしながら。 そちら側へつながる道なんてないってわかっていても。]
(1229) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ ……だから、]
(1230) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ 人の流れに潜り込むように、 礼一郎の背中は駅の構内へと消えていく。]
(1231) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ 今は、全然平気じゃない。]
(1232) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ でも、大丈夫。]
(1233) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ 礼一郎はこれからも生きる。]
(1234) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ 正しいと信じる道を、生きる。 ** ]
(1235) nabe 2020/06/29(Mon) 20時頃
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[ やあ、こんばんは。 こんな時間にごめんね。]
(1339) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ 本当は全部、目と目を見て、 当人の口から伝わればいいんだけど、 そうもいかないから、たまにはさ、 こういうおかしなやり方でもいいよね。]
(1340) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ まともそうな人間に混ざって生きるのは、 礼一郎が思っていたよりも簡単です。]
(1341) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ 思ったよりも難しいことではなくて、 家に帰って現実に揺り戻されることもなく、 友人が急に来ても隠すべきものがないから、 なんだか少し、まともになった気がします。]
(1342) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ まともになった気がしてしまいます。]
(1343) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ ……それが、へーきではないです。]
(1344) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ そんなひどいことできるわけないじゃんね。]
(1345) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ 送信エラー。]
(1346) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ ……もう少しちゃんと言葉を話そうか。
たとえば人の頭をぱかりと開いて、 今の君の頭ン中を覗けたら、
礼一郎はおまえの話を詰めとけよって、 少しムッとしたような顔をして……、 それから、いくらか絶望すると思う。 どうやらあんまりうれしくはない。
あのさ、呪いだなんだというけど、 ここまでいくと呪文で縛ったのは、 礼一郎のほうだったんじゃないかな。]
(1347) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ 騒音。]
(1348) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ 開かれた口から人間が吐き出される。]
(1349) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ たどりついた見知らぬ場所を、 まともそうな人間の中に混ざって、 ようやく正しく出口まで歩いていける。]
(1350) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ そいつが空に何を見ていたのか、 礼一郎が気づくことはないまま。>>1270]
(1351) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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[ 息がしづらいくらいなんだから、 歩きづらいに決まってる。
ゆっくりとした足取りでやっと、 礼一郎は突っ立ったまま見下ろす。
笑って、様子を見に来た。とか、 ……言うつもりはさすがになかった。
ほら、礼一郎も案外、 見た目には分かりづらいらしいし。 笑って、思ったより平気じゃねえって、 情けないとこ見せるくらいのつもりは。
……ただ、おかしいな。 帰ってこいと言ったのは、 確かに礼一郎だったはずなのに。]
(1352) nabe 2020/06/29(Mon) 23時半頃
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