237 それは午前2時の噺。
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きみは自らの正体を知った。さあ、村人なら敵である人狼を退治しよう。人狼なら……狡猾に振る舞って人間たちを確実に仕留めていくのだ。
どうやらこの中には、村人が9人、人狼が1人いるようだ。
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皆さまお集まりありがとうございます。えー、ごほん。 この催し物、しっかりと楽しんでくださいませ。
…何があっても、文句は言いませんよう、ご了承くださいませ。
(0) 2018/03/23(Fri) 02時頃
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[君が、そう、彼女が若くして重要なポストにつき、多忙な日々を送っているのは重々承知している。今日は定時で上がれそうだと言っていたが、急な仕事が入ってしまった可能性もあり得るのだ。しかし、それなら一言くらい連絡をくれてもいいはずなのに、私の携帯は微動だにしない。 今日に入って、いったい何度メッセージチェックをしただろう。スマートフォンの無料通話アプリを開いて、トークルームを表示してみるが、返信どころか既読すらついていない。
『くみた、お疲れ♪ 仕事忙しそうだね。大丈夫(._.)? しばらく会えないって言ってたけど 今日は定時で終われるんだよね?? くみたの職場の近くにある喫茶店、 キャットっていうんだけど知ってる? 今日の5時にそこで会えないかな(*´∀`)? 久しぶりに会いたいな(^-^) ちゃんと会って話したいこともあるし… でも忙しかったら無理しないでね(>_<) あと、困っていることがあったら相談してね? 俺でよければ力になるからさ! じゃあ喫茶店で待ってます♪』
何故だ。]
(1) 2018/03/23(Fri) 02時半頃
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[ うすだいだいいろの光の中で、すこし暗くひかるわたしとパパが見えていた。相変わらず聞き慣れた鼾は響いていて、落ち着くけど、ちょっとうるさい。 時計を見ると、短い針は1のちょっと前で眠たそうにしている。
そぅっとふとんから抜け出して、お気に入りのワンピースをタンスから引っ張り出した。引き出しに入れたいいにおいのせっけんとおんなじ匂いがする。柄のついてないそれを鼻先に押し当てて、胸いっぱいにかおりを吸い込んだ。けれど、胸はいっぱいにはならなかった。
前よりちょっぴりだけくたっとしたそれと、ふりふりのついた白いくつした。ぴかぴかつるつるの、……ぴかぴかつるつるだった靴をしずかに、しずかに履いて、ランドセルから外したおうちの鍵を首からさげて。
奥の部屋から鼾の音が聞こえてくる。そおっとそおっと鍵を開けて、そおっとそおっとドアをあけたとき、ガチャっと大きな音がしてしまって身が固くなった。 …………けれど、鼾の音は相変わらず聞こえてくる。わたしはしずかに息を吐いて、音を立てないように家の外へ出て行った]
(2) 2018/03/23(Fri) 04時頃
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[ うんざりするくらいに晴れた日だった。空には雲がひとつもなくって、お洗濯ものがにこにこしながら風に揺らされるような、素敵なおひるだった。
「パパとママ、どっちが好き?」 ずるい。 あなたたちは何日も、何か月も、喧嘩しては離れて、長い長い間考える時間があったのに。わたしには今すぐ決めろというんだ。ママはもう大きな荷物を玄関の脇に積み上げていた。パパはリビングの入り口のほうに何も言わずに立っていた。 ずるいよ。
考えたことなんて、ない。 ずっと一緒に居られると思っていたから。
二つ並んだケーキからどちらか一つを選ぶのとはわけが違う。そんなことくらい、わたしにだってわかってた。半分こして、ちょっとずつ味わうこともできないイチゴみたい。どうして隣にいることも出来ないんだろう。二つのケーキを繋げるクリームには、わたしにはなれなかったのかな。 ふたりが好きになって、けっこんして、その好きになったあかし がわたしなら、その好きがなくなってしまったら、半分にできないいちごはどうすればいい?半分こになれない責任はイチゴにあるんだ、ろうか。
わたしはひとつのケーキをえらびとった。]
(3) 2018/03/23(Fri) 04時頃
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[ おふとんに守られていたからだがまよなかの空気にひっぱられて、少しずつさむくなっていく。春が近いけれど夜はまだ冬にとりのこされて、寂しそうに手を引いてくれる春を待っていた。昼は子供がたくさん走ってにぎやかなコンクリートの道も、いまは、静かに眠っている。 眠りについたととらの町。ひとりぼっちで歩く、起きているわたし。ひとつも車なんか通っていないのに、フェンスにぶら下がってる黄色い旗をとって向こうがわの筒に入れた。
もっと小さい頃は、眠っているあいだは全部が眠ってるものだと思ってた。わたしが眠れば町はねむって、そのあいだはなんにもない。わたしが眠るから朝が来て、一日が始まって、そしておわる。バカみたいだけれどほんとうにそう思っていたんだ。
きょうとあしたのあいだにはすき間があって、それを見ていいのはお正月とおとなだけ。それを守れないのはわるい子。わるい子はたくさん怒られて、おやつを抜きにされてしまうんだ。
通り過ぎた街灯の明かりが、わたしの影ばっかりをおとなみたいに おおきくしていく。]
(4) 2018/03/23(Fri) 04時頃
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双生児 ホリーは、メモを貼った。
2018/03/23(Fri) 04時頃
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[ワン! 元気な声に呼ばれて振り向けば、賢い顔をした金の毛並みのレトリーバーが真っ黒な丸い目玉をキラキラさせてこちらを見ていた。 アパートの近所に住んでいるようで、朝と夕方、食事や散歩に出ると度々すれ違う。大きな犬は嫌いでなく、なんとなく目を惹かれる内に飼い主とも金の彼とも挨拶をするようになり、彼の方もこちらを覚えてくれている。
住宅地の中の一軒家を改造した、大きなテラスのある珈琲店。店内とテラスに数席、コーヒーを楽しめるスペースが用意されていて、ウッドデッキになっているテラス席ではペットも一緒に座れるようになっている。 腹這いになり尻尾をゆらゆらと振りながらこちらを見る彼に手を振って、傍らに座るその飼い主にも会釈をしながら──
この店から生まれた作品の事を、思い出していた。]
(5) 2018/03/23(Fri) 08時半頃
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「おかしな子だね。 こんな死に掛け、放っときなよ。」 顔を顰めて吐き捨てられた言葉に、私は首を振り、 「お互い様。 先に死に掛けを助けたのは、お姉さんよ?」 そう笑って、ピイと小鳥の鳴き真似をしてみせる。
あの時、お腹が空いて、空いて空いて、すっかり 衰弱して。死告鳥の羽搏きを待つばかりだった小さな 雛鳥に、水とパンくずを与えてくれたのは、貴女。 身寄りのない少女を、拾って傍に置いてくれたのも 名前を与え、生き方を教えてくれたのも、貴女。
「お姉さんに貰った命なんだから── 貴女に、返したいのよ。諦めて世話されて?」 彼女を真似た皮肉っぽい笑い方でそう言えば、 「好きにしな。」布団の中から微かな声。
(6) 2018/03/23(Fri) 08時半頃
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[あれも春先だったように思う。 駅前の繁華街で朝まで呑んでいたらしいふらふらの、服装と化粧からきっと店に勤める方の女性。 店主の趣味で早くから開いていたこの店の、そのテラス席にぐったりと座りながら、テーブルの上に着地してきた小鳥にサンドイッチのパンを細かくちぎって与える姿を眺めていたら、
世界の欠伸が聞こえてきたのだ。
おはよう、と伸びをして一気に膨らんだ世界は、病を抱えた女性と不思議な少女の物語に姿を変えた。 ファンタジーめいた短い話だったけれど、似た境遇で、だとか共感した、という手紙を幾つか貰えた、自分でも気に入りの一編だ。]
またね。
[レトリーバーに声を掛け、再び緩やかな歩みに戻る。]*
(7) 2018/03/23(Fri) 08時半頃
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助手席のドアが開く音で、浅い眠りから目を覚ました。カーナビに表示されている時間が見える。午後11時56分。助手席に入ってきた女性は雑にレジ袋を置いた。
「まだ動かないんですか〜?」
レジ袋から眠気覚ましの栄養ドリンクを一気に飲み干すと、六掛紫乃は仕事帰りに一杯引っ掛けた中年のような声を漏らした。
脳裏に焼き付く映像。生々しい感触。鳴り響くクラクション。車に圧迫され骨が砕ける感覚。肉の塊と化した自分の身体。外に出た。不快感。胃の中が逆流し嘔吐する。ねっとりした胃酸だけが口に残る。六掛の霞むような声が聞こえたが、三割方は見向きもせず駆け出した。 斗都良町の土地勘はない。三割方は酒気の帯びた繁華街を出鱈目に走った。酔っ払った会社員と肩がぶつかる。後ろから舌打ちが聞こえた。路地裏の野良猫達が逃げ出していく。アドレナリンが分泌している。逃走。息が小刻みに切れる。靴の結び目がほどけたまま、とにかく遠くへ走った。日付が変わったことなんて、気付きもしなかった。
(8) 2018/03/23(Fri) 10時頃
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繁華街から大通りに出る道沿いには、終電を逃した客を乗せるためにタクシーが待機している。三割方の目の前にも一台のタクシーが停まっていた。女性の乗客が降りる直前で、会計の途中だった。 窓に張り付くように運転手へ声をかけた。運転手は緊迫した三割方の姿に顔が引きつっていたが、小さく頷いた。女性は会計を済ませ、タクシーから降りた。レザーの手袋にロングブーツ。モデルのようにスラリとした体格。キチンとしたスタジオでカメラに収めたら、下手なアイドルより映りが良さそうだった。唐突に、身体から熱を感じた。同時に激痛が走った。脇腹には鋭利な刃物が突き刺さっていた。すれ違いざまに、女性は刃物を三割方の脇腹に音もなく刺した。全身の力が抜けていく。電池が切れた玩具のように倒れた。タイル張りの地面が赤く染まっていく。霞んでいく視界。ロングブーツの足音が遠くなっていく。それが最期だった。
(9) 2018/03/23(Fri) 10時頃
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[病、といえば。 珈琲店で『優しい鐘は夜に鳴る』を思い浮かべたのにつられ、もう一作品、この近くで生まれた一編が脳裏に文字を踊り始めた。
もう少し歩けば大きな建物の頭が家並みの向こうに見えてくる──「斗都良総合病院」の看板と共に。 三年程前だったか、体調不良で一時期通っていたその病院で、行く度に見掛けた二人組がなんだかとても気になって。 ぼんやりと目で追う内に、彼らの佇むその空間に、
重なるように、世界が降った。
はらはらと静かに降り積もり、築かれていくその世界のタイトルは──]
(10) 2018/03/23(Fri) 18時半頃
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「ほら!見てご覧よ、君。 これで僕が王様だ!」 「随分小さな城で満足するんだな。 だが、お前には似合いだよ。」 長く続く海岸に設置された、石造りの遊具。 城を模した、滑り台の付いたアスレチック遊具は 潮風と吹き付ける砂で塗装が剥げかけていて、この 終末旅行で立ち寄るにはうってつけに思えた。 滅びの王国。終わりへと向かう我々の、生きる場所。 「一国一城の主……か。」 「マイホームを手に入れた時には誰もが王様に なれたんだよね。夢があるなあ。」
狭く細い螺旋階段を無理矢理に登りつめて 最後の「王様」が空を眺めてそう言った。 俺には何も言えなかった。 ──夢の弾けた結果が、これなのだから。
(11) 2018/03/23(Fri) 18時半頃
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『こどものくに』……。
[病院で見掛けた彼らは、不思議な組み合わせだった。 常に点滴を引いている痩せた男性は、いつも穏やかに微笑んでいて、どこか幸せそうな表情をしていて。 傍らに付き添うのは大柄で険しい表情をした男性で、不満の露な表情で、けれど患者の彼に手を貸し、寄り添い、見守るようだった。
兄弟には見えない。友人と言うにはタイプが大分違うように思えて。 会話が聞こえた事はないから実際にはどんな関係なのかは分からないけれど、病院の外の彼らがどんな景色に生きるのか、そんな些細な興味が世界を拡げていったのだ。
おじいさん、と呼べる世代のふたりの、心の旅。鮮やかな色と音を残して静止した世界を、大人の童心に導かれて巡る話。 通院が終わってからは、どうなったのか知らないけれど──彼らがまだ、静かなソファで並んで座っていればいいな、と思う。]*
(12) 2018/03/23(Fri) 18時半頃
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「おばけなんてないさ」 ……ズル……ズル……
ズル……ペタ…… 「おばけなんてうそさ」
「だけどこどもなら ともだちになろう」 ペタ……
ペタ…… 「あくしゅをしてから おやつをたべよう」
「だけどちょっと」 ペタ…… 「だけどちょっと」
「ぼくだって……」
(13) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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[唇に載せた歌を止めて、わたしはちょっと遅れて歩くアヤを振り返った。]
……ごめんね、ちょっと早く歩いちゃったかな。
[足に合わない草履を引っかけたアヤが歩く度に、人気のない通りにずるずるぺたぺた足音が響く。 ほんの少し目線を下げて覗き込むと、心配ない、とばかりに首を横にふられた。
大人に内緒の大冒険だけれど、公園から住宅街までの間、誰にもすれ違わずに来ちゃった。 いや内緒だからいいんだけど……それはそれでつまんない。 昼間はたくさん人がいるのに、こうやって誰もいなくなるとやっぱりちょっと不気味で、まるで、全然違う世界に迷い込んじゃったみたい。
いつも前を通りかかるといい匂いがする「はなまる」さんも、今は何のにおいもしない。 ……正直、アヤからちょっと生ぐさいにおいがするから、あんまりくんくんしたくないのもある。]
(14) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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[静まり返った住宅街には、窓の外から漏れる静かな灯りが満ちている。 外から見る家族の時間は、穏やかで、優しくて……悲しい。 こうしてアヤと手を繋いで夜の中を歩いていても、誰も窓を開けてくれない。
ふと、足元に水でふやけた本が一冊転がってるのが見えて、わたしはしゃがんで表紙に描かれた文字を読んだ。]
あ、ん、ぐ、り、……?
[漢字がいっぱいの大人の本だけど、表紙の雰囲気とかからスイリすると……多分、大人向けのおばけの本。 道路に本を放り投げてっちゃうくらい怖かったのかな、なんて、ここにこの本を置いてった人の事を考える。 怖いからおばけのこと書いてある本を捨てて、おうちに帰って、そこで安心するんだろうか。]
大人もおばけを信じるのかなあ……変なの。
[わたしの後ろに立ったままのアヤを振り返って笑った。]
(15) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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「……おばけは、いるよ」
[アヤの口が小さく動く。電灯の陰になって顔は全然見えないけれど、静かに、しっかり、アヤは言った。]
「ふつうのひとにはみえないけれど、みえないだけで、いる。」
[あんまりはっきり言い返されて、わたしはなんて答えていいか分からなくなって、アヤの汚れた膝小僧を見つめた。 いないよ、ってすぐに言い返したかった。普通の人に見えないなら、ほとんどいないのと一緒じゃない!って。 でも……]
……もしかして、見えてるの?
[アヤは答えてくれなかった。] *
(16) 2018/03/23(Fri) 19時頃
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[メッセージを送ってから8時間以上も経つ。その間一度も携帯をチェックしないというのはあり得るのだろうか。通知を見逃して気づけていない可能性はあるが、ここまで反応がないと、良からぬ考えすら浮かんでしまう。 不安定に浮いたままの気持ちを落ち着かせようと、足を小刻みに揺すってみたり、顔を撫でてみたり、カフェオレを飲んでみたりしたが大した効果は現れず。それどころか、少し離れた席にいる閑談中の主婦たちに変なものを見るような目で見られてしまった。うるさい。放っておいてほしい。]
くみた……
[念のため、もう一度だけ窓の外を見る。が、やっぱりいない。もしもの事を考えると居ても立っても居られず、私は追撃のメッセージを打ち込んだ。
『くみた、お疲れ! 今喫茶店で待ってるんだけど、 まだ仕事中かな(-_-;)? もう少しだけ待ってるね〜 カフェオレも飲みたいし(笑)』
送信ボタンをタップする。届け。電子の紙飛行機になって、くみたの元へ。]
(17) 2018/03/24(Sat) 03時半頃
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[だが、私の祈りも虚しく、返事が返ってくることも既読がつくこともなかった。私はマーを鞄にしまうと、会計を済まるため席を立った。こちらを窺っていた主婦たちの姿ももうない。最後に私の方へ一瞥をくれて、とっくに帰ってしまった。彼女を待つ間、追加注文したカフェオレ計三杯の代金を支払い、深い溜息と共に店を出た。気づけばもう空は薄暗く、帰宅する人影も疎らになっている。 もう、行こう。結局、三杯のカフェオレを飲み、警戒の視線に晒されただけで終わったが、まぁこんな日もあるさ。]
(18) 2018/03/24(Sat) 10時頃
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[机に座っていると、足元から鳴き声がする。なぁん。少し高めの猫なで声だ。これは、かわいい。えっかわいい。もうかわいい。一言で可愛い。全てを投げ出してこのネコちゃんを全力で可愛がってもふって可愛がって抱きしめてわしゃってぎゅーしたい。そんな欲に駆られても仕方はないんじゃないかなってくらいに可愛いんですけど。ちらっと視線を下すとこちらを見ている。つぶらな瞳で。そのまんまるな瞳で、こちらをみている。そしてもう一回。
なぁ〜ん
だめだ。負けた。完全敗北、はい終了〜!私の手はもう迷うことなく猫の頭に吸い寄せられた。超強力磁石よりも某有名掃除機よりも変わらない吸引力で。シルクかな?高級毛布かも。どちらにしろ永遠に触っていられる撫で心地だった。 それでも撫で続けると猫の体制が変わる。もっと撫でてというように頭を押し付けて来たり今度はこっちを撫でてと耳元やら背中やらを押し付けてきたりこれでもかと言うほどのゴロゴロ音をだしたり。可愛すぎなんじゃない?私しぬの?しぬかも。しにそう。つらい。生きてるだけで猫が可愛すぎて辛い。死にそう。死にそうだから生きる〜〜!はあ〜〜〜〜〜本当に可愛いなあ。]
(19) 2018/03/24(Sat) 11時半頃
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らでぃ いず ぱーふぇくと…
[思わずそんな事も呟いてしまうってものよ。 おっと、仕事がまったく中断されてしまっていた。せめてもう少し何とかするか、時間に余裕はまだあるし。 でも生放送の準備もそろそろしなくっちゃね。玩具の用意とカメラの用意と、あとはBGM、は、既にセットリスト作ってるから大丈夫か。テストもしなくて大丈夫だとは思うけど。あ、呟きSNSで告知だけはしておこうっと。*]
(20) 2018/03/24(Sat) 11時半頃
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「深夜二時から生放送します!(=^・・^=) 今日もラディ可愛すぎて死ぬ。
今日は新しいおもちゃもあるぞ〜〜!」
[添付画像:ラディ、ラディ、新しい猫じゃらし、不思議デザインの音が鳴るボール]
(21) 2018/03/24(Sat) 11時半頃
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[ 前の車のウィンカーにあわせて瞬きをした。 後部座席のシートに凭れて肌色多めの後頭部を眺めながら相槌のみで済む話を聞いていると、 通勤のために金を払っているのか運転手の話し相手になるために金を払っているのか分からなくなる。
毎朝タクシーで通勤というのも勿体ないとは感じている。
しかし通勤場所は電車で通うには大袈裟で、自転車で通うには遠い場所に位置しているからタクシーの方が都合はいい。 免許は持っているものの運転はしたくなかった。
" 持ってる物を使わないって、 人生損してるのと同じじゃない? "
君ならこう言うだろうが、しょうがないだろう。 それに滅多に使わない冴えない顔が映った免許証も身分証明くらいの役には立つ。
それにしても何回乗っても24時間何度も人が入れ替わる車内の臭いは居心地が悪い。 窓一枚を隔てた景色を流し見る。]
(22) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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それは、はっきりと見えた。 明滅するランプとパトカー。 カラーコーンに囲まれた運転座席の窓ガラスが砕けている。 事故、という言葉が過ぎった。]
(23) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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『到着ですよ。』
[ 機械的な運転手の声で呼吸を取り戻す。 前を向くとメーターは360という数字に光っていた。 360。]
『代金。』
[ あぁ、そうだ。 代金。 小銭ぴったりを受け皿に落とす。 カチャ、という音と共に車のドアの隙間から風が滑り込んできた。
コンクリートの地面が革靴の下で擦れる。 タクシーが走り去る音を背中に受けながら、決して大きくはない建物を見上げた。
「葬儀社 會央堂」
ヤクザみたいな名前だと笑った、妻の顔が脳裏に浮かぶ。]
(24) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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─ 葬儀社 ─
[ ヤクザのような看板を潜り、「二階堂」と彫り込まれた控え目な名札をピンで留めた。 雑多に書類が貼られたホワイトボードから今日の自分の予定を探す。
「12:00 斗都良総合病院 迎え」の一文が横棒で消されて、 「16:00 斗都羅総合病院 エンバ 22:00 通夜付き添い」と書き足されていた。
エンバ。正式にはエンバーミング。 つまり、病院まで行って亡くなった方に死に化粧を施す事だ。 この書き方だと病院までお迎えに向かった後、通夜に補助として付き添う形になるのだろう。
徐に端末の画面を確認する。 成る程、充電が切れていた。
ネクタイを緩めて早過ぎる出勤に息を吐く。 丁寧に上着を脱ぎながら、仮眠室へと爪先を向けた。]**
(25) 2018/03/24(Sat) 15時頃
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[柱、田畑、柱、田畑、柱、住宅地、柱……────
不規則な揺れは硝子窓越しの景色を変えていく。瞬き一つ入れてしまえば、フレームで切り取ったはずのつい先程の景観すら、記憶から零れ落ちるほどに。 ほう、と外気に息を散らしていく。空席の目立つ車内に落ちる色は無い。アナウンスと同時に開かれた扉、流れ込む風に雪の名残も無く、穏やかに仄めく温かさは春の兆しを窺わせた。
柱、家、人影、柱、田畑、柱、住宅、柱………
馴染みの町から離れれば、人の手垢の付いた街並みが広がっていく。車窓のフレームは外の変化を見逃すことなく映し出していた。落とされるシャッターの数々、誰もが見逃してしまう写真を掬い取っていき、――――モニターに立ちはだかる人影が、腰を下ろした。 外界とを繋ぐ扉からは、やがて個性の波が押し寄せてくる。人、人、人、……引くことのないささやかな喧騒はすぐ傍にあったはずの兆しを呑み込み、情趣をも連れ去っていかんとする。残ったのは、圧迫感からの僅かな苛立ち。 ああ、酸素が、欲しい。
酸素。]
(26) 2018/03/24(Sat) 15時半頃
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酸素ってさ、
[一旦呼吸を意識してしまえば薄らぐ空気の影を追うように、目の前の景色が他人事と化していく。 意識は過去へと、吸い寄せられていった。]
(27) 2018/03/24(Sat) 15時半頃
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