239 ―星間の手紙―
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[その日は、あいも変わらず物騒な日常で ひどく当たり障りのない1日だった。
オレンジ混じりの鈍色の空に戦闘機が煌いていて 仕事の合間合間に、キャンディは通信に目を通していた。
食事は、誰かと連れ立っていくわけではなく 自室で作ってきたミートソースを和えたパスタもどき。 手軽さを求めてレーションにしなかったのは リザの味が懐かしくなっていたからだろうか。
今となっては、彼女につくってもらうわけにもいかないから かつての彼女の手の動きを真似るように (いつか教えてもらったかもしれない料理のように) 簡単な料理をこしらえて、
「らしくないな」という同僚の笑い声を、 「うるせーな」という一言でスルーする。]
(35) 2018/04/28(Sat) 20時頃
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[リザから帰ってくる返事は、 まるで目の前にリザ本人がいるよう。
柔らかく、優しさとお姉さんらしさに彩られた文面に キャンディはかつてのリザを幻視する。
――今の彼女を知らないから。]
(36) 2018/04/28(Sat) 20時頃
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[ついで、返事に一拍をいれた。 シリアスな話題を読み込んで 自分の中で考えを整理する。 ……まだ思考はおいつかない。]
(37) 2018/04/28(Sat) 20時頃
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[それから、フェルゼに送られた文章に目を通して 彼の置かれた状況に少し眉を顰めた。 どこなのかさえわからない辺鄙な星。 そこに、彼はいるというから]
(38) 2018/04/28(Sat) 20時半頃
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[合間にメッセージを返す。 誰もいない、景色も見れない星に一人きり。 考えただけで寒気のするような中に彼はいて けれどこれまで一度も、 「助けてくれ」という通信はこなかった。
自分だったらどうしているだろう。 とりあえず出る方法を探して、 通信を試み、出ようとするのかもしれない。]
……フェルゼは、強いなぁ、……なんて
[言ったらどう思われるかわからないから その一言だけは、通信にはいれなかった。]
(39) 2018/04/28(Sat) 20時半頃
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「無茶をするな」 「よく考えろ」
[自分にそれをよく語って聞かせたのは、 兄ィと慕った相手だった。 彼の落ち着いた性格と、戦闘機乗りとして必要な冷静さ、 そして危機を乗り越える技術が羨ましかった。
ひっくり返っても、 冷静さはキャンディには 手に入れられないものだったから。
リザとのやりとりを 羨ましく思われていたのはいざ知らず、 そんな彼に何度もたしなめられた。
――お前は激しやすいから、と。
彼が負傷して戦場を去ってから、 その言葉を何度も反芻してきたつもりだったのに、]
(40) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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「――2機撃墜、残機報告せよ」 「こちらパイロット■■■、3機と交戦開始。援護求む」
[戦闘機の通信が飛び交う。 襲いくる異星人たちの機体を破壊しながら、 機体を自在に繰る。 緊張感はあるがいつもどおりの戦闘。
――そう思っていたのは、束の間のことだった。]
(41) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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「……未確認の巨大機体を発見! エネルギーの集中を確認」
「まずい、一斉攻撃か?」
「市民の避難は――」
[突如として現れた 今まで確認されていない形の敵機と それが携えた膨大なエネルギーに、 ある意味で油断した防衛軍が混乱したのは一瞬。
次の瞬間には、戦闘機ではなく、ジルコンの地表へ 色鮮やかに視界を奪う光弾が降り注いだ。 空爆、なんて知ってはいても、思考はおいつかない。]
(42) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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……なっ……
[宝石のような煌きとは裏腹、 漆黒に焼かれる町並みを、 キャンディはぞっとするような心地で見下ろした。
ぎりっ、と唇を噛み締め操舵をとる。]
(43) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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――ここはあたしの空だ、 好き勝手しやがって……!
(44) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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[叫び声が通信に乗ったのかは定かではない。 「パイロットキャンディ、一旦戻れ」という言葉が 聞こえたのは知っている。
けれど、今しがた生活を踏みにじられた人々を前にして キャンディは戻ることをよしとしなかった。
――そういうところが、短慮だ、と たしなめられたというのに。]
(今すぐここで落としてやる 代償は高くつくぞ、クソッタレ)
[キャンディの操る赤銀の機体が、 速度をあげていく――……]
(45) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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[――…………――、]
(46) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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兄ぃの言葉、 ちゃんときいとけばよかったんだ。
[血塗れの腕でSOSの信号を送信し終わった。 運がよければジルコンにある基地から救援は来るか。 こない可能性の方が、高いか。
それっきり動く気にもなれなくて 操縦席に横たわり、暗い外を見ている。 機体のエンジンは事切れて久しい。
眼前には、追い詰めきった敵機の残骸が浮いている。
ぼろぼろになった機体は宙を漂った。 衝撃でいくらか自身の体に傷を負ったが、 さて、酸素はどれくらい持つものか。]
(47) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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怖ェ……
[誰も聞いていないから、 言葉を詰まらせるように、それだけを呟いて 強がるようにへらへらと笑った。
誰かをかっこよく守りたい、が根幹にあったように思う。 パイロットを目指した理由は。 その理想を幸いにも守ったままここまできて、 怖がる理由など、どこにもないはずなのに (夢に生きて夢に死ぬなんて、それこそ夢物語で そう成れるなら幸せなことのはずなのに)
キャンディ個人として考えるなら やっぱり、いつだって怖かった。 夢の先に何が続いているかわからないから。]
(48) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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[パイロットとして生きて―― 一回死んで、機械として蘇ったとして それを周りが受け入れてくれるのか。
生きていた頃の気持ちがだんだんと薄れて 「じぶん」という存在が、 部品を入れ替えるうち、 なくなっていくのではないか、とか。
そもそも、死んだ後には何があるのか、だとか。
それは無限の闇であるように思われた。 覗き込んでも、底が見えない闇。 その前に何度も立っては、何度も同じ事を考える。
――無駄に生きながらえるくらいなら このまま死んでしまったほうがマシなんじゃないか]
(49) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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[痛みを堪えながら自決用の銃を手にとった。 その銃口をまじまじと見つめる。
とうに化粧なんて崩れた顔が黒い表面に映りこんでいる。
引き金を引けば死ねるのだ。
救助がくるかわからない恐怖心と戦うことだって
ピスティオのように機械にされることだって、きっとない。
ずっとずっと何度も何度だってやってくる恐怖と戦いながら戦闘機に乗ることだってもうなくって、それが救いなのか逃避なのか、そんな判断ができるような冷静さはとうになくって、
震える指先がトリガーに触れる。そんな時。]
(50) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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「――■件 ノ 着信 ガ アリマス」
(51) 2018/04/28(Sat) 21時頃
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[……ルシフェルの無機質な声で、ふと我に返った*]
(52) 2018/04/28(Sat) 21時半頃
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[言葉やメッセージなしにはつながれない人々は
端末に入った私へよく語り掛ける。そこに人格
が宿るかどうかは恐らく関係がなく、彼らは使
える道具を慈しんでいるだけなのだ。けれど積
み重ねられた言葉は私に思考を促す。個を得る
ことはできない私に薄い個性を与える。それが
良いことなのかどうかは置いておくが一先ず。
エデンを負われバベルを崩された人類は語り合
う言葉を失ったとデータには記されていた。そ
れが事実であれ空想であれ今こうして母星を失
った人々を繋ぎとめるツールとして在ることは
私にとっての責務に近いものがあるのだろうと
薄い個性を与えてくれた人類に対し私は思う。]
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