279 宇宙(そら)を往くサルバシオン
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[暗い部屋に、濡れた音が響いている。
ヘリンは悲鳴をあげようとしたかもしれない。
しかし体格に勝るこの宿主ならば、抑え込むのは容易だっただろう。
首を折るか頸動脈を切るか、とにかく手早く絶命させて、食事にありつく。
鋭い大顎が手あたり次第に肉を裂き、千切り、呑み込んでいく。見た目通りの柔らかい肉だ。
"man-ju"をもっと食って太ってくれれば、もっと沢山食べられたのだろうか。クラゲにはダイエットがわからぬ。
腹が満たされれば触手で顔や口の周りを拭きながら、また自室へと戻っていった。]
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― 自室 ―
[ 意識が覚醒して最初の視線は、手元へ向いた。 見覚えのある形を確かめるように、何度か開閉する。
モニターには、昨日と違う名前があった。 燻る瞳に数秒映してから、窓の外を見る
宙を泳ぐポッド>>#1は、射出された勢いまま離れていく。 重りを吊るしている訳でもない。ましてや重力もない。 小さな船は、永遠に止まることのない旅をするのだろう。 暫く見つめた後、瞼を伏せるように視線を外した。
テーブルへ固定されたカップの中、コーヒーはもうない。 縁に残る跡を眺め、いつもと同じ装備で部屋を出た。]*
(5) 2020/09/01(Tue) 06時半頃
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― 談話室 ―
[ 談話室を訪れたのは一昨日よりは早く、昨日より遅い時間だった。 既にふたつの姿>>3>>4が見える。もしかしたら他にもいたかもしれない。燻んだ色に安堵と不安を同時ににじませながら、頭を擦って部屋へと入る。]
とるど いん 、 わく ら 、ば 。
[ 談話室は静かだ。昨日と似ている。 目を閉じている間、ほとんど声の聞こえないふたりだった>>3:204>>3:220。 音を残すようにそれぞれへ声をかける。 まずは壁の方へ、それから窓の近くへ。 端に辿り着くまで止まれない身で、二本の線を描いた。]
…… お 、 はよ。
[ 意識をこちらへ向かせる為か、あるいは形を確かめるように、宙に浮いた指先が辿り着いた道の先、両者の肩へ触れようとする。 視線が重なったとしても、口からは挨拶以上の言葉は出て来なかった。]
(6) 2020/09/01(Tue) 06時半頃
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[ 特別なことがない限り三本目の線を描き、最後にはテーブルの側で身体を止める。 ワクラバの手から、そしてトルドウィンのポーチから溢れ出たスプスプイが未だその場にいるのなら、談話室にあった簡素な器に寄せ集められているだろう。
それを見下ろしながら、次の足音を待っている。]**
(7) 2020/09/01(Tue) 06時半頃
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/* わたしとしては今日吊られるのもやぶさかではないという気持ちを置いておく。成り行き次第ではあるけれども。 */
なんで?
……美味そうだと、思ったからだ。
[それ以上の理由なんて、]
…………。
[小さな体を震わせる少女を見る。手が震えている。
わたしに触れた、ぬくもりのない小さな手が。]
[彼女に触れられた記憶と共に、思い出すのは甘い痺れだ。
それが何なのか、何と呼ぶべきものなのか。
クラゲにはわからない。
篝火に近付く蛾のように、思考が引きずられる。
無意識に同じ味を求めてしまう。
激しい混乱を齎したそれは、きっとこのクラゲには強烈すぎた。
これが異常事態であることにすら、気付けないほど。]
[あれは一体何だったのか。
もう一度、彼女に触れたらわかるのだろうか。
それとも――彼女を喰えば、わかるのだろうか。]
[知りたい。もう一度味わいたい。
しかし、喰ったらなくなってしまうのだ。]
[――クラゲは初めて、食べることを躊躇していた。*]
/*
そんな! お願い死なないでトルドヴィン! あんたが死んだらこの船はどうなっちゃうの!
冗談はさておき私は勝ってもいい勢いでいました。雰囲気次第ですが。
/*
信頼度的には私が吊られる可能性のほうが高そうですね。
/*えっそうです…??>信頼度
昨日くらいから信頼度下がってる気がしていたんだがまだいける…!?
勝っても負けても割と吊られたい気持ちではありましたね。まあ…成り行き次第かな…!
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― 談話室 ―
[ 触れたトルドウィン>>12の肩は、以前支えてもらった腕と同じく黒い外殻に覆われていたか。 合わせた目から視線を落とし、指の先をじいと見つめた。]
うん 。
[ 方向を変える為に、触れた指へ軽く力を込める。 以前の様子なら問題ないと思うが、もし何らかの影響を与えてしまったなら謝罪の声だけが後ろに残った。
それから、身体はワクラバの元へ。 ほとんど同じ動きを繰り返す。]
(32) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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[ モナリザ>>25が現れて、アーサー>>11がやって来て、ミタシュ>>18の姿が見えて。さん、しぃ、ご。 二日前まで両手の指を駆使していたのに、もう片手に収まりそうな命の数を実感する。 一向に姿の見えないひとりへ予感めいた何かを感じながら、アーサーの語るコータの旅立ちに耳を傾けた。]
みた しゅ。
[ ミタシュが尋ねたのは、器に眠るスプスプイらとは異なる夜を過ごしたスプスプイたちのことだろう。 昨晩、一緒にと願った声>>16に迷うことなく頷いた。 最初はみんな連れて行ってもらおうとしたのだが、主人のいないコーヒーへ視線を落とし、半数のスプスプイには談話室で休んでもらうことにした。
ひとりは、さみしい。 その半数が、この器のベッドに収まる赤灰色だ。]
(33) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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それな ら、 みんな いっしょ が いい、か も。 みん な みたしゅ と、 いっ、しょ 。
[ 一晩経ったコーヒーは、さすがにテーブルへ置いておくままという訳にもいかないから、と。 器に入った子たちとの合流を求め、指先で示す。]
かた ち。 …… から 、だ ? ほうって おかれ るの 、 きっと さみし、 い。
[ 青色洗剤を知らない己には、これは最初からずっとスプスプイの死体なのだ。 いつかの小さな呟き>>14よりずっと温度のある声の主へ、横たわる亡骸を預けようとした。]
(34) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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[ トルドウィン>>13が口を開いたのは、皆が――少なくとも彼にとっての皆が集まってからだった。 淡々と告げられる報告に似た言葉たちに、複数>>20>>23の悲鳴が上がる。]
……。
[ 唇の奥からは、何の音も出て来なかった。眦から流れるものもない。 きっとヘリンならまた隠し切れずに泣いてくれるかもしれないけれど、その彼女はきっともう何処にもいない。
死体を見た者>>2:142がいた。しかし通路も部屋も、己が訪れた場所はすべて綺麗なままだった。 ヘリンの部屋に清掃用ロボットが入ったのなら、彼女の部屋も綺麗に整えられたのだろう。目を伏せる。]
……。
[ しかし、アーサー>>24の提案を否定することはなかった。 ミタシュ>>28>>29が泣きそうな顔で頷いたのも止めなかった。]
ここ ろ、 は、 ……。
[ 何も、言わなかった。]
(37) 2020/09/01(Tue) 23時頃
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[ 次いでモナリザ>>35も同行を申し出る。 彼女の言い分は最もだった。 トルドウィン>>13が語った報告、その最後の言葉はきっと全員理解しているだろう。
パイセンが襲われて、ソラに会えなくなって。残り9人。 スプスプイが赤灰色になって、 コータが果てのない旅に出て。残り7人。 ヘリンが何処にもいないのなら、残り6人。
クラゲはあと2体。夜ごとに1人消えていく今が続くなら、今日は最後になるかもしれない日だ。
それなのに、情報も指針も残されていない。 ただ過ぎ行く時を無為に過ごすくらいなら、一欠片でも何かが残っている可能性に賭ける方がよっぽどいい。
故に、制止の言葉は今度も出て来ない。]
(41) 2020/09/01(Tue) 23時頃
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いって 、らっ しゃ、 い。
ぼく は、 のこる …… よ。 あしで まとい、 になる、 し、
[ 己の足元を見下ろす。地からずっと高い位置にある足先は未だ安定せず、厚く覆われた装備の下、萎びて小さな形があるだけだ。片方に至っては気体から変われてもいない。 きっと今すぐにでも駆けて行きたいくらいのはずだ。 首を横に振る。]
だ、 から、 かえって きて、 ね。 おしえ、 て。
みんな が、 みた、 へりん、 の こと。 これから のため、 の 、 なに か。
ぼく も しりた、 い。 …… まって、 る。 から。
[ コーヒーでも入れて。と言おうとした口は、アーサーの小さな背中を思い出して閉じられた。]
(45) 2020/09/01(Tue) 23時頃
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[ トルドウィン>>38の腕が一瞬浮いて、再び閉ざされる。 旅立つ3つ、あるいは4つの背を見送ってから、トルドウィンへと視線を向けた。]
…… みつ 。 もっ て、 る ?
[ 一言、ヘリンが絶賛した甘いそれの在り処を尋ねた。]
(46) 2020/09/01(Tue) 23時頃
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……痕跡など、
[空腹にまかせて食い散らかしたので、ないとは言い切れなかった。スン……と黙った。]
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― 少し前:談話室 ―
ぜんぶ 、 が いい 、よ。
[ ミタシュ>>39の問いには短く答えた。 もう一度近い言葉が繰り返されるから、フェイスカバーの奥、頷いて見せる。宙に浮く髪が海藻みたいに踊った。]
…… ? あの、 ね。
[ 不思議そうな顔をした。それから、緩慢な手招きを。 小柄な彼女と屈めない己では距離は完全に縮まらなくて、結局言葉はすべて空気に溢れてしまった。]
いい、 よ。
[ そうしてスプスプイの形は、ミタシュの胸元へ宿る。]*
(50) 2020/09/01(Tue) 23時半頃
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残しているのか?
喰い荒らすクラゲは長生きしないぞ。
しかし、なかなか難しいものよな。
自分はクラゲでないという思考のもと動いているが、誰をクラゲに仕立て上げたものか。
やはりワクラバとかいう、あれがよいかな。
そうだな、あの男は言葉が少なすぎる。
ちょうどいいんじゃないか。
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ありが 、とう。
[ トルドウィン>>48のポーチから次々と琥珀色が現れた。 ぷしゅぷしゅ。ゴロゴロ。頼りない音を立て、前進する。 チューブに手が届く段階で何度目かの腕を借りようと手を伸ばし、それが叶ったなら腕一本分の距離を残して浮き止まった。]
ひと しぼり、 で いい、 の。 こーひー に、 いれよう と おもっ て。
[ 淹れるのが上手だったコータも、目の覚めるような味を提供してくれたヘリンも、皆の為にと準備してくれたミタシュもいない。 五度目のコーヒーは、分厚く覆われた己が手で危なっかしく淹れられた。]
(51) 2020/09/02(Wed) 00時頃
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とる どいん 、 も のむ ……?
[ 念の為という様子で尋ねた。 ワクラバの姿があったなら、彼にも同様に。 望まれた数だけ出来上がったカップは、淵にところどころ茶色い染みができている。]
……。
[ 己の分には借りた琥珀色を一絞り垂らして、深い色に混じって見えなくなるのを暫く眺めていた。]
(52) 2020/09/02(Wed) 00時頃
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…… わくら、 ば ?
[ ひとりの名前を呼んだ。 しかし、手元から上がった視線はトルドウィンの方を向いている。]
すぷすぷ い が、 おしえ、て くれる こと って、
[ 談話室の人数が減る前、トルドウィン>>47が話していた言葉をなぞる。]
そういう こと を、 いいたい、 の。
[ それは、己も抱いた懸念>>3:104だ。 今なお残る、可能性のひとつだ。 曖昧な言葉に形を与えるように、予想の答えを求める。]
(55) 2020/09/02(Wed) 00時頃
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