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267 【突発】Sanatorium,2880【RP村】

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          ( つぼみがひとつ、ふえました )

 




           ( また、咳き込んで、種が落ちます )

 




       ( 顔を覆う花弁も、ひとつふたつ、舞いました )

 




        "  ミサ と いいます  "

 




       「 あなたに呪いをかけてあげる 」

 




     ──── 星の降る夜。

 




  パンもスープも どれだけ口にしたことがなかったろう。
  空の器を見下ろして、 不意、思ったものだから、
  その夜、かたいもの を 食んでいた。
  何れだけ噛んでいるのか、味蕾の在るべき部位が
  欠けているものだから、全く解らず、

    ぐっと 無理に飲み込めば ───のどに刺さるようで。

  次第に綿を噛んでいるよな気分に陥り、
  結局は、 薄紙にくるんで捨ててしまった。
  
  味のない固形物、 パンの形をしていたなにか。
  この世では食餌の調達さえも大変だというのに!

 




      根で栄養補給ができたら良いのに。
      食慾というものを喪って久しい男は、
      しょくぶつの 機能美を思うだけ。

 


 
( 被検体は所詮被検体≠セった
  完治しないのなら患者にすら成り切れない
  僕にとっては消耗品で、籠の中の鳥だ。
             箱の中の魚だ。
 
  君の洞窟に光る碧海のような瞳の奥に
  ちらりと存在を主張するモノが見えても…
  ────── 水底は見えないものだろう ) 
 


 
 夜の帳が下りて来るより深い闇の中だった。
 締め切ったカーテンは風に踊りもせず、
 冷たい■の中に潜む息吹にゆらめいている。
  
 生まれ落ちる頃に眠る籠より大きな箱を一瞥し
 想像上に生きる深海ほどに昏くなった室内で、
 ぼう、とため息にもならぬと息を吐き出した。
 


  
 ・・
 それが人の眠りより長く 深く微睡むうち
 僕は研究の為に棺のような箱を開いただろう。
 
 或時にはガートル台を引っ張ってきて
 人離れした身に 人らしい補給を施した。
 閉じ切られた瞼がぴくりとも動かないのなら
 はじめて見た時より小さくなった唇の上へと手を翳し
 うっすらと、呼吸を確かめようとも。
 


  
 
 
 
 過ごしやすいとは言え 蒸し暑い夏を通り過ぎ
 葉が老いはじめて来た頃に、持ち上げた蓋の下
 水から這い出た生物のように
 薄いキャラメルの髪が濡れているのを見る。
 


 
 折角合わせた服のサイズも
 また指先が隠れるようになってしまったのか。
 空気の悪い室内の、窓を少しばかり開きながら
 僕は少し涼やかになった風を頬に浴びていた。
  
 
 ──────────
 ──────
 


 
 ところで
 体温が低ければ 心が冷たいと揶揄され
 人情に乏しければ血は異色だと云われるが
 心臓が赤色でないとの文句は聞くに珍しい。
 
 大海原のまんなかの 青い部分を切り取って
 もしくはブルーホールなんかを胸に埋めたような光が
 僕の目に見えたのかは分からないが……
 


 
 見えていたのだとしたら 僕は
 僕より薄い体に埋めこまれたようなそれに
 冷たいと指差される この手のひらを
 そッと 重ねようとしたことがあった。.......
 


 
 
        ・・・・・・・
  「  ......おかえりなさい。
     食事の用意は出来ていますが
     点滴の方が良いですか、153  」
 
 


 
 被検体153が夏の眠りから覚めたとき
 それが、彼に真っ先に届いた音だったろう。
  


  
 灰色の街に踏み込んだときに
 ほとんどの確率で見る死体に、
 情を沸かす暇はむしろ惜しい
 
 僕が被検体たちに抱いているのは
 それとよく似た■■だろう。
 


 
 不治と揶揄されている病に侵された身は
 いずれ冷たくなる躯と何が違うのだろう。
  
 擦り寄られても微笑まれても手を握られても
 僕には生きている筈の君たちこそが
 まるで生きながらにして死んでいる■のように感じる。
 


  
   
    そういう風に 患者たちはいつも
    医者を海底に沈める■■を軽々と吐く。
             言葉
  
  


  
  あの頃のように 口角を持ち上げて
  患者の声に耳を傾け 柔和に首肯し
  否定を滅多にしないで受け止めるのは
  錘を抱え込むようだ。
  足に枷を嵌めるようだ。
 
    「  …どうかなあ  」
 
  僕はひんやりとしたかんばせのまま
  夏より空気の軽くなった建物の中の
  空気を舌の上にと転がした。
 


 
 
  「 だって、君、
    波打ち際からすら海底は覗けませんし
    海底から陸の生活は見えないでしょう 」
  
  
 距離を縮めようとした先で
 ずいぶんと目線の離れた被検体を見下げながら
 僕はまばたき一つ 落としていた。
 


  
  「 ただの人である僕は、けっして、
    水の底へは往けませんから
    君が陸に上がって来てください。
  
    無理なら海の底に居ても判るように
    目立つものを抱えてください。 」
  


 
  目の前の■を前にして
  冥府行の列車に手を振るような言葉だと...
   
  過っては まばたきから再び姿を現した、
  瞳水晶を 春ばかりでなく
  153からも遠退かせた。
 


  
    ・・・
  「 いつもではないことに
    順応するのは骨が折れますけど
   
    いつものように逢いに来てくれるなら
    君を見付けられるかもしれませんね 」
  
  


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