140 Erwachen〜lost wing of Jade〜
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どうか、いつまでも――…
[蜃気楼に揺れる記憶は淡く、淡く。 朝は望みはするけれど何処か遠いまま、その鮮やかな色はいつの間にか消え失せて。 風に舞うページは少し焼け焦げ、その人は悲しそうな顔をしていた。
手を伸ばしても、あの暖かな金も朱も遠すぎたまま、]
(33) mzsn 2014/11/24(Mon) 03時半頃
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[―― そして ――
いつも自分は、ここで目が覚めるんだ]
(34) mzsn 2014/11/24(Mon) 03時半頃
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[白紙の進路相談表を提出すれば、担任の教師は酷く深いため息をつく。
またか いつになったら もうお前だけだぞ これ以上困らせないでくれ
そう言われても思いつかない物は思いつかぬまま、結局自分はまた、この紙片を白いまま提出してしまうのだろう。
成績は悪い方じゃない。 数学は少し苦手だけれど、その他の教科はまあまあ。 記憶力だけはやたら良くて、そう言った方面の教科は点数も良い方なのだと思う。
高校三年生の夏を過ぎてもやりたい事は一つも見つからぬいまま、皆がメインや仮の進路を上げていく中自分だけ取り残されて。 適当な大学でも指名すればいい物を、自分は頑固にそれを拒否し続ける。 提出を催促されて拒否して、冷ややかな顔をされても日課のように図書館に通い続けた。 そろそろ禁止令を出されそうだが、 そこだけが唯一、心の落ち着く場所だった。]
(35) mzsn 2014/11/24(Mon) 03時半頃
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[図書委員なんて貧乏クジ、引きたがるのは自分だけ。 印刷物の香りに包まれながら図書カードを管理して、空いた時間はゆっくり本を読む。
司書になろうか。とは何度も考えた。 でも、この場《図書館》は心地良いだけ。それは自分のやりたい事じゃない。 本に没頭する事も好きだけど、それもやりたい事じゃない。
もっと、 自分は何か、 大切な事を忘れている気がするのだ。
そう、とても大切な使命を。
こんな事話したら、きっと皆に笑われてしまう。 胸の大きなシコリは誰にも明かせないまま、カウンターの上に進路調査票を乗せると、あの教師と同じようにため息をついた。]
(36) mzsn 2014/11/24(Mon) 03時半頃
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[掴んだ筈の金も朱も、温もりは朝と共に消え失せて。 それでも感触だけは、今も確かに覚えてる。
張り裂けるような胸の痛みも、愛しさも。こんな物、夢で済ませられる代物じゃない。 18にもなってこんな事思うのは妙だろうか? 本の読み過ぎだと、叱られて終わってしまうのだろう。
それでもいい。きっとあの夢は、本当にあった事なのだ。
そう、手に走る大きな痣に触れて。 火傷のようにも見えるそれは、まるで稲妻に打たれたかのように。 制服に隠れた胸も背も、剣でも貫通したかのように、日に焼けぬ肌の中心を痣で彩る。]
(37) mzsn 2014/11/24(Mon) 03時半頃
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[人の居ない放課後の図書館程、寂しい場所は無い。 今日は残る生徒も居らず、暇を持て余した自分はただ本を読みふけるだけ。
そう言えばここには、ティーカップは無いのだな。 あの揃いの、白い――…
…誰との揃いだっけ。
やはりそれも、蜃気楼の向こう側。 淡い淡い、金と朱のすぐ傍に。
もう少しで彼等の傍に行ける気がするんだ。 読み、溜めこむだけで《理解》の行程を放置した書物は今は膝の上。 只管にページをめくり、文字を追い、登場人物の感情も読み取る事も無く、知識として自分の中に沈殿させて。
正直な所読書はそこまで好きではない。 ただ義務のように、突き動く衝動は文字を追う事を求め続けた。 年号と登場人物を覚えて、伝記を只管に読み漁る。それが終われば次の偉人、その次。次を。]
(38) mzsn 2014/11/24(Mon) 03時半頃
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[ああ、歴史学者も、良いかもしれない。 その方がずっと合ってる気がする。
放課後の図書館は、懐かしい朱に染まって。**]
(39) mzsn 2014/11/24(Mon) 03時半頃
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ああ、止めた。
…―――――――だってアイツら馬鹿だしな。
ああ、あんたは…そうか。
[ほら、紅い世界が呼んでいる。
油断すればその足元に穴《ワームホール》を開けて、待っている。
だから忘れよう。
あの記憶も、紅く歪んだ琥珀の記憶も。
目を閉じて、全てを消して。]
―――――Are you ready?《モウ、イイカイ》
――――――Okey, Here we go!《モウ、イイヨ》
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…礼見が来るなんて、珍しいね。
[舞い込んで来た葉を興味深そうにつまみあげて、こつりと、足にぶつかった小瓶>>64に首を傾げた頃。 顔見知りの後輩の姿>>77にクスリ笑えば、久しぶりの来訪者にカウンター越し声をかけただろう。
読みかけの分厚い伝記はカウンターの下に押し込んで、 輝く翡翠色と、見慣れぬインク瓶もそれに続く。
彼の抱えた本はとうの昔に返却期限が過ぎていて、そう言えば何度か勧告状を送り付けたなと思い至る。 しかし彼の借りた物では無かった筈だが…、――成程押しつけられたのか。 カウンター下から引っ張り出して来たのは、分厚いブラックリスト。次はもう少しきつめに取り締まってやろうと、該当者の名前に蛍光ペンで線を引く。]
今日は代理でも許すけれど、 次は無いと、本人に伝えてあげて下さい。
(78) mzsn 2014/11/25(Tue) 00時半頃
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礼見も、嫌だったら断らなきゃ駄目ですよ? 購買でパンでも奢って貰うなら、話は別ですけどね。
[延滞図書の専用箱から図書カードを取り出し日付の印を刻んでやれば、それが期限から2週間の遅れと気付く。 …やはり担任の教師に言い付けて、きつく叱って貰うか。
浮かない顔の後輩にお疲れさまとねぎらいをかけても、困った事にその続きの話題は出て来ない。 薄い接点は話題に困る。 それでも親しい間柄と感じるのは、どうしてだろうか。**]
(79) mzsn 2014/11/25(Tue) 00時半頃
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執事 ハワードは、メモを貼った。
mzsn 2014/11/25(Tue) 00時半頃
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[沈黙に困ったように頬をかき、腕組みの後輩>>85を見つめる。
話す事は沢山ある気がするのに、その全てがすり抜けて、 彼の言葉>>86にも、首をかしげるだけだっただろう。
ただ、]
かえ、…さなくても、 良かったのに。
(90) mzsn 2014/11/25(Tue) 22時頃
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[アレは君にあげたのだから、気にしなくてもいいのに。 覚えのない貸し出しに覚えのないまま首を振って、 それでも強く"良いのだ"と、そう感じる。
間近で揺れたのは、夢で見た懐かしい金。 伸ばした手は彼を掴めなかったけれど、代わりに差し出された万年筆>>87を受け取れば、
一瞬、その霧が]
あの、
また、
…友人になってくれませんか?
[晴れたような気がした。]
(91) mzsn 2014/11/25(Tue) 22時頃
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[彼との接点を切ってしまうのは悲しくて、無意識の言葉は自分を戸惑いへ突き落す。 一体何がどうして"また"なのか。 手繰り寄せる記憶の紐は先が見えぬまま、それは揺れる蜃気楼へ吸い込まれて、 背を向けた《金》>>88に、そう、言葉を投げた。
未だ白紙のページに浸みこむのは、輝く金のインク。
ぽたり。 一滴落ちれば徐々に広がって、晴らすは夢の、霞の向こう。 それはいつの日か、再び文字を刻み始めるのだろう。
本としての役目を終えた魂は、万年筆を握ったまま困ったように笑んで、肩をすくめてみせる。 戸惑いはしたけれど、彼と親しくなりたい感情は確かな物として。故に訂正も加えぬまま。
今はまだ、最初の一滴。 少しだけその色が、鮮やかに光ったような気がした。]
(92) mzsn 2014/11/25(Tue) 22時頃
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[急に何を>>97と言われても、聞きたいのは自分の方。 気付いたら飛び出していた言葉に困っているのは此方も同じで、]
――なら、 ええ、
友人、で。
[年相応に浮かぶ笑顔は彼の知る《以前》とは違うだろうけれど、いつかの面影を強く残して。 増えた友人に、今度ご飯でも食べに行こうよと早速ナンパを仕掛け始める。
ゆっくりと言葉を紡ぐ彼に目を細め、呼ばれなかった別の名前に僅かな寂しさを覚えもしたが、その理由はまだ自分には掴めない。]
(99) mzsn 2014/11/26(Wed) 00時頃
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わたし用? 男友達から贈り物を貰うのは初めてなんですが、
…ふふ。 なら、つっ返す訳には行きませんね。 プレゼントとして、受け取って置くことにしますよ。 お返しに、白い花でも贈りますか。
[>>98冗談は勿論混ぜるとして、折角彼が自分にと持ってきてくれた品ならば、受け取らぬは最上級の失礼だ。 黒と朱の万年筆は、有難く頂く事としよう。]
――ありがとう。
[その言葉には複数の意味を、意識無き複数の意志を込めて。 図書委員は変わらず、本の香りと共に笑んでいただろう。*]
(100) mzsn 2014/11/26(Wed) 00時頃
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―そしてその後。再び、一人の図書館―
[その万年筆は、文字を刻まなかった。]
(101) mzsn 2014/11/26(Wed) 00時頃
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[正しくは、刻めなかった。
その艶やかなペン先を走らせても紙は白紙のまま。 首をかしげ慣れぬ品を何度かいじり回せば、ようやくインクが入っていない事に気がついただろう。
仕方ない。帰りにインクの置いてありそうな文具屋を覗くとしよう。 …待てよ?
やや埃っぽいカウンターの下に顔を突っ込みかき回せば、先程押し込んだ>>78インク瓶>>64。 持ち主には少々悪い気もするが、ほんの少しだけお借りしよう。 ほんの、一度の試し書き分だけ。
瓶の再登場と共に零れ落ちた琥珀の葉を、制服のポケットに突っ込んで。 それでも改めて掌で転がした瓶はやけに軽く、さては空き瓶でゴミだったかと僅かな落胆を覚えた。]
(102) mzsn 2014/11/26(Wed) 00時頃
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[期待と共に蓋を開ければ案の定液体は入っておらず肩を落とす。 しかしその代わりに、]
――ほん?
[収まっていたのは小さな、 小さな小さな朱い本。
その朱にどこか懐かしささえ覚えて、 一体誰の忘れものか悪戯か。はたまた手の込んだラブレターかと、淡い期待と共に小さな表紙を開けば、 次の瞬間、]
(103) mzsn 2014/11/26(Wed) 00時頃
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[墨色の通学鞄。 風にそのページを躍らせる、読みかけの書物。 椅子の下に転がった、マナーモードのスマートフォン。 カウンターの上の、空のインク瓶。
それら全てをそのままに、 鍵の管理を怠らない筈の図書委員は消え失せて。
図書は施錠もされぬまま、日替わりの番人を何処かへやってしまった。**]
(104) mzsn 2014/11/26(Wed) 00時頃
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執事 ハワードは、メモを貼った。
mzsn 2014/11/26(Wed) 00時頃
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[そして、]
――すごい。
[背の高い棚の脇を幾つもすり抜け、44本目の通路を数えた所で計算はやめた。 その図書館は何処までも広く、 長い本棚も、収まる本も永遠に続くように思えた。
満ちているのは古書とインクの香り。
握ったままだった万年筆は、今はYシャツの胸ポケットに収まっている。]
(105) mzsn 2014/11/26(Wed) 17時頃
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[>>104放課後の、朱に染まった静かな図書館。 インク瓶に収まっていた小さな朱の本を開いた次の瞬間、身体は冷たい床に投げ出され、そのまま暫く放心状態。 尻餅をついた床は白いマーブルで、触れればその冷たさを肌に伝えただろう。
薄汚れた学校の床や粗末なパイプ椅子は何処にも無く、校舎がすっぽり収まってしまうのではないかと思う程の空間。 遙か彼方の本棚は霞んで見えて、自転車もしくは友人が自慢していたスクーターが欲しいなと、少し思った。
まるで自分がそこに居るのがさも当然とばかりに、異空間に登場してしまった図書委員は落ち着き払って、 物珍しそうに周囲を観察しながら複数の棚を覗きこんでいる。 複雑な記号と数値で区別された棚番号に首をかしげても、それでも歩みは止まらない。
酷いデジャブと違和感を抱えて、 この場所は、確かに、
来た覚えがある。]
(106) mzsn 2014/11/26(Wed) 17時頃
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[並ぶ本は全て歴史書。 一冊手に取りページを開けば、その内容全てに見覚えがある。 学校の図書館で?市の図書館?駅の図書館?インターネット?テレビ?噂話?
分からない。 けれど、自分はこれを、全部"知っている" 正確に言えば、"知っていた"
背表紙をなぞって、歩む足は自然と早く。 迷子になりそうな本の森の中。しかし、まるで行き先を知っているように、向かうのは図書館の中心。
《二人》が過ごし、今は《 》が待つその場所へ。**]
(107) mzsn 2014/11/26(Wed) 17時頃
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ああ。良かった。
生きていたなら、何より。
朱色《ヴァーミリオン》に感謝しなければ。
[そして、これで赤は終わらせよう。
赤い影《バグ》に足元を掬われ無いように、紅に喰われないように。
琥珀の目は、彼の記憶を呼び醒ましてしまうだろうか。
けれども、彼ははじめましてと言うのだから]
[あの日の少女と、先輩と。
この声に呼びかけることだって、しない。*]
ね、聞こえる?
…今日、会ったよ。あっちも元気そうだった。
―――――――お前は、聞こえてないといいんだけどね。
[ノイズに混じって声は紅く。
しかし世界は光に満ちて、今はもう紅はただの残渣。]
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