279 宇宙(そら)を往くサルバシオン
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ぞるり。ぞるり。
大声を出そうとする口蓋をちょうどふさぎつつ、中身をそっくりいただくのは、得意なのだ。
声帯まで液で満たして、鼻腔に刺胞を伸ばしてやると、ちくりと一撃。驚いた手足がばたつくのもほんのわずかのこと。
それじゃ、第一第二脊椎とそこから先はもらうね。ごちそうさま。
……さて。
廊下で足を滑らせるなんてかっこわりいな。さっさと船長室に行って、那由多パイセン探さねえと。
保安部に見取り図があったはずだしな。この船を俺たちの人工惑星にしよう。
弘太くん、大切な先輩や上司、船の仲間たちのこと、さあどんどん考えなさい。
そうだねえ。しんぱいだねえ。だからたくさん思い出そうねえ。そうそう。那由多先輩の宇宙服は、左排気弁が緩んでて指で押し開けられちゃうんだよね。こいつはたいへんだね。もしそんなところからクラゲに侵入されたら困るよねえ。
ウス。…ところでパイセン、じつはさっき、宇宙クラゲかもしれない奴に心当たりがあってっすね。
廊下じゃまずいすよね。そこの機械室でどうすか。
勘違いだったらいいんですけど、どうやら——
[――ごぽぽ、と水中で嗤うような声が響く。]
ははは、面白い冗談だな。
[抑揚の少ない男の声は、船内の同族にのみ届くだろう。]
[不意に、背後に気配を感じた。
振り返る間すらなく、首筋の外殻の隙間から何かが這入り込んでくる、ぞわりとしたおぞましい感覚が襲う。]
……――!?
[反射的に、トルドヴィンの顎が大きく裂ける。
地球人で言うところの耳の辺りまでがば、と裂けた顔の内部から、隠れていた一対の大顎が飛び出す。"Vespa"という物騒な呼称の由縁たるそれは非常に強力で、相手の肉体を噛み千切ることも容易だ。
――しかし、今回の相手には分が悪い。
何せ相手は宇宙クラゲ、体内に這入り込み神経を侵す寄生生物だ。
急所とも言える首筋から侵入された時点で、為す術はない。
それでも、トルドヴィンは机の上のナイフを掴んだ。]
[自分の命が惜しいと思ったことはなかった。
ここに女王はいないが、この船の乗客は皆、目的を持ってここに集っている。
意味も意義も見つけられない自分が標的となったのは、好都合だ。]
『母』よ、命令に背くことをお赦しください――
[祈るように呟いて、トルドヴィンは自らの首にナイフを突き立てた。]
[躊躇なく叩き込まれた一撃は、首を斬り落とすのに十分だっただろう。
例え戦闘用でない小さなナイフでも、女王の側近、近衛兵として生まれたトルドヴィンの膂力ならば、それを為すことはできたはずだった。]
…………。
[からん、と音を立ててナイフが落ちた。]
[その刃先が致命的な位置に届く前に、宇宙クラゲの触手はトルドヴィンの脳に到達した。
どれほど強靭な精神も、守り続けた忠誠も、神経を侵す彼等から逃れることはできない。
開いた大顎が何度か断末魔のように痙攣して、やがてぴくりとも動かなくなる。]
……。
…………。
[男はゆっくりと首を動かして、壁に固定された身繕い用の鏡を見た。]
[立ち上がってゆっくりと歩き、鏡の前に立つ。
出しっぱなしになっていた大顎を慎重に収納する。もう一度出す。収納する。
次いで両手の指を動かしてみる。
頑丈そうな外骨格の連なりが滑らかに動く。
そうして新しい体の動かし方を一通り確認して、トルドヴィンだったものはひとつ頷いた。]
[生存に必要なのは、強靭で頑丈な鎧である。
この宇宙クラゲの一個体は、そう考えていた。
だからこの男にとりついた。
女王を守る盾、あるいは剣として生まれたトルドヴィンの肉体は、鎧としても武器としても申し分ない。きっと狩りもスムーズに行えることだろう。]
[しかし、この傷はまずい。
喉元の外殻に残ってしまった傷を指で撫でる。
一切の躊躇なく振るわれたナイフは、恐るべき力で外殻を深く抉り、刃こぼれして使い物にならなくなっていた。
脳に到達するのがあと少し遅れていたら、首ごと斬り落とされていたかもしれない。
つくづく、自分の命を顧みない種類の生き物は厄介だ。
あちこち顔を傾けて、傷がどの角度からも見えにくい位置にあることを確認して、男はようやく鏡の前から離れた。
齟齬が出ないように記憶の方も一通り確認しておかなければならない。
後はそう、他に乗り込んでいる同族が2体いるはずだ。
全部で3体。まあ、船を乗っ取るには十分な数だろう。
うまく寄生できたか?と声を送ろうとしたところで、艇内放送が聞こえてきた。
その内容に対しての、だった。]
[だが、機械におけるスリープモードとは、就寝ではなく待機である。]
[メモリは起動している。回路も動いている。
"脳"が作動していると言えた。]
[そうあるように作られたプログラムというのは、ある種の本能であり、機械にとっては避けられない行為だ。
ヒューマノイドは宇宙クラゲのことを知らなかった。
ヒューマノイドは宇宙クラゲのことを知ろうとした。
ヒューマノイドは、宇宙クラゲを探し、カメラ・アイで捉え、接触し、情報を得ようとしてしまった。
一般的な寄生生物であれば、機械に対し寄生を選ばない。
そこに生存における利点がない。構成物に有機物が少なく、エネルギーも糖や脂肪ではなく、栄養素を得ることも難しい。
しかし、"脳"を得ることが目的の宇宙クラゲにおいて、これほど適した寄生先はなかった。]
[生存に必要なのは頑強な鎧かもしれないが、『死なない』ことは無限の生と同義だ。
その上、無防備にも宇宙クラゲを迎え入れるような姿勢を見せたヒューマノイドに寄生するのは、百利あって一害もない。]
[その時、モナリザはただおもむろに腕を伸ばしただけであった。
宇宙クラゲという存在を知覚することが出来るのならばどういったものだろうか、触れることは叶うだろうか、と、思考の果てに腕を持ち上げた。
それが、迎え入れるかたちになったとも、知らずに。]
! 知覚異常。メモリにノイズ。
修復・デフラグを開始します。
[望むとおりに、感知は可能であった。
だが、宇宙クラゲは意識に滑り込み、一体化し、隠れるものだ。
"異常"はすぐに"正常"にかわる。
宇宙クラゲがいることそのものが正常になるからだ。]
……修復・正常化を完了。
あっけなさすぎる。
[通知ボイスは、同類に向けての言葉に書き換わる*]
ウケるっしょ。これでぼくたちを見つけちゃうつもりだったんだって。
反響でパイプの詰まりがわかる装置、なんだってよ?
やーこわいこわい。水道浴しなくてよかったよぉ。
反響でパイプの詰まりを発見する、か。
その程度の対処で我々を検知しようとは……
第一、水道浴をする我らを見つけようにも、あれほど喧伝しては意味があるまい。
今なお自由にいたとて、明日水道管に潜むのみよな。
やあ同志。くすくすくす。
僕はしばらく脊椎を散歩かな。これからすることを予告するなんて、おまぬけさんだよねー。
このスプスプイくん、どうしようかなあ。今なら簡単、だけれども…
お、そうかそうか。いま弘太君が考えてくれたよ。ここでスプスプイくんをもらっちゃうと、僕たちがとっても怪しいんだって。残念だなあ。
おやおや。折角の好機なのに惜しいことだな。
だが、まあ、おまえの宿主の考えた通り、そのまずそうな洗剤はひとまず置いておこう。
おれは肉が喰いたい。
そうだな。例の"パイセン"辺り、ちょうどいいんじゃないか。
談話室に来る途中すれ違ったが、どうも乗客の様子を監視しているようだ。
骨髄と脳はぼくんだぞ。
けどまあ、まわりのぐにょぐにょはいいよ。もっていっても。
機械室はいま明日の朝食をこねてる最中だから、すこしくらい音を立ててもへっちゃらさ。
ふむ。
確かに、この場で囲い込んで食らうのは居場所を伝えるようなものよな。
その宿主、聡明でいいことだ。
我は食せるものに是非を言うつもりはないが、暴れ足りんな。
この宿主、何を考えているか知らぬが、自ら我を迎え入れよってつまらぬのよ。
へえ。変わり者だね。
きみの脳って電子頭脳だよね?やっぱり電気っぽい味わいなんだろうか?
まあ、スプスプイくんはしばらく泳がせておこうかなあ。分散してる脳をひとつひとつもらうのもなんか、けっこう大変そうな気がするし…
おまえ、一番いいところを……まあいい。
この体、動かすのに少々エネルギーがいるからな。贅沢は言わんさ。
暴れ足りない? 呑気なものだな。
こちらは危うく死ぬところだったぞ。
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