246 とある結社の手記:9
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[――香る
血の香り
腐った臓腑の香り]
呪われし同胞の香り]
[冗談じゃないわ。
私はうまくやってきた。上手くやってきたのよ。
悔しい、悔しい。
苛立ちばっかり募っていく。それは殺意に近い。
せめて、言い間違えれば。
人数を…言い間違えたなら。
笑って安心できたのに。]
[()彼女に視線を送った時、少しだけ、視線の奥の色が違った。瞬きをして、奥にしまい込んだけど。
溜息をつきたくなる。というよりは、実際吐いた。]
[……ああ
忌々しい…忌々しい…
なにもかもが…忌々しい…
あのサイモンも…結社の連中も…
下手を打った愚かな同胞も…]
[…だから言ったのです。
村の住人に手を出すなと。
だから言ったのです。
狙うのは旅人だと。行商人だと。
消えても支障ない人間だと。
だから言ったのです。
喰らうならば骨までと。]
[…ああ
…忌々しい
…苛立たしい
…煩わしい
…憎々しい
おかげでなにもかもが…
一切合財のなにもかもが―]
…"台無し"ではないですか。
[吐息と共に零した声は、同胞の―もしくはそれに準ずる人間―の耳にしかはいらない。]
[本当に、なんなのか。結社とは、なんなのか。
これからどうしていくつもりなのか。
解らない、解らない。
解らなくって、ただ苛々する。
上手くやってきたのに。
このまま過ごしていけると。
ずっとそう思っていたのに。
()
聞こえた声には、共感しか抱けなかった。]
── 全くよ。
[だから、流れ出るように"声"がもれた。]
誰よ、 ポカやったのは。
[旅人や行商人を……襲う?
襲うというのには、少し語弊があった。
誘い込み、会話によって次の旅先も知り、仲間に示唆して行き先をわかったうえで肉にする。
そうして得た肉を、ルパートは同胞である人狼らに、売っていた。
それは時に金で、時に行動で支払われる。
スージーに「性分かねえ」とルパートは言った。
ルパートは宿屋の主人をするように、誰かの世話をしてやるのが決して嫌いではない性分だったのだ。())
こと、人狼という化生の世界に於いても。
彼にとって人狼とは、いまや長年続けた生業であった。]
[だから、この宿屋こそ、彼にとっての胃袋であった。]
[長年その暮らしを続けてきた彼だからこそ、
年若い彼女らへ]
ってことは、やっちゃったのは、
おまえたちじゃあないってことなのかい?
[耳がとらえた同胞の声。()
かすかに鼻を鳴らして、視線だけを向けた。]
別のグループで縊り殺されている頃合いでしょうか。
愚鈍の末路など……興味ございません。
[腕に抱いた、うら若き乙女から立ち昇る甘い香りに、
すんすんと鼻をならして、*唇を舐めた*。]
[そう返される()と、少しだけ沈黙した。
── そう、実は、自分には少し否定できないものがある。
上手くやってきた、うまくやってきたと、思っているけれど。時折、怒りに我を忘れる事があって、その時のことをよく思い出せないでいる。
思い、出せないでいる。
だけどもそれは、言わないままだ。黙ったまま。
そうして黙ったまま、別のだれか()のせいにできるなら、しておこう。と思って、]
そうね。
[とだけ返した。]
[ルパートにとっての"娘"ベッキーと並びたちながら、唇も動かさずに人狼のみに聞こえる囁き声でいう。]
あれはいけないよなあ。
村のやつばかりでなく、
結社員にまで手をつけたみたいじゃあないか。
あーあ、こんなことになっちまって。
[嘆きというにはどこか淡々として。]
人数まで正解に分かられてるってことは、
あの陰気なボウズはホンモノ中のホンモノなんだろう。
まあ、今夜は彼を片づける他ないだろうね。
[説明を聞き、サイモンの背を見送って、ルパートはベッキーを心配そうに見遣った。]
[普段の肉はルパートに基本的にお世話になっていた。だから、彼の指示以外では基本的に動かないようにしていた。
性分、の裏に隠された意味も、正しく理解はしていて。この世界においてもそうなのだから、本当に根っこからそうなのだろうと思う。
私は違うけど。働かなくてもいいなら働かないし。無差別に誰かの面倒を見るなんてできない。
結社員の、アーヴァインという男、か。会ったことは……、…。会っていても、きっと今は思い出せない。]
全くよ。
忌々しい能力者、
偽物ならよかったのに。
[人間の動作とは、言動とは、剥離したように脳の裏側で会話する。ベッキーの近くまで行った時、うっかりそちらを見ないようにはしながら。]
……… うん。
正直、生かしておく理由、ないもの。
[一度瞬いた。]
[あとは、まあ、そう。一度何も言われないで出ていかれたけれど]
そういえば。とくに確認したことがなかったけど、
ソチラさまは人間?
── 狼ってことはないね?
三人でなくて一人って言われてたら、
オレはちょっと
ソチラと自分を疑ってかかったかもしれないんだけど。
[ルパートという人を食ういきものは、村長アルフレッドの友人として、この村にある古い宿屋として、ローザス夫妻の昔馴染みとして、人間の夫として、ベッキーの父親として、かつての流浪の民の宿として――そんな風に生きてきた。ずいぶん長い間そうしてきた。
だから、この出来事は彼にとっても感慨深いことだった。]
ホンモノなうえにそのホンモノが
「もう一人いる」ってんだから、いるのかもね?
………。
[ユージンが占い師にはすぐに名乗り出て欲しそうにいう。
占いで、人狼を占えば、成否がわかるなんていう途方もない話、あの若者は可能性と感じるほども信じたのだという。]
こんなばかげた話、
信じようってやつもいるってことか。
[物珍しそうにユージンを眺める。]
だれが「ソレ」だ?
だれが……これで誰か名乗り出たなら、
……、……。
……。
…………。
おい、誰かあの占い師ってやつ、
できないもんかね?
[と、少し可笑しそうに訊いたのだった。**]
まったく。
ベッキーを見習ってほしいわ。
[とても素直に私の言葉を信じてくれる。
まあ、今の境遇、人狼に囲まれているわけなんだけど。]
実際、いるんでしょーね。もう一人。
ほんっと誰よ、どうにかしたい。どうにか、どうにか…。
いいじゃない、名乗ってもらえたら。
そっちも襲ってやるわ。
[ルパートのように計画を立てるのは不得手だ。でもその分、人狼としての力は強い。普段から夜に生きているからか、常に身体の調子は良いのが取柄だった。]
ああ、確かに。こっちが先に、嘘 ついちゃえば。
私はパス。
さすがにこれは無理でしょ。
[表で騒ぎ立てた事を振り返りながら言う。ちょっと早計だったとも思うけど、仕方はないし後悔もしてない。]
…ユージンは、まだ、信じてないのかも。
……、……。
[ユージンの名を呼ぶときに、
少し警戒の色を込めながら。*]
占い師、
誰かが名乗るんだったら、信じてあげる。
仲間、だものね。
|
― 翌朝・ロビー ―
[サイモンの説明を聞く女の表情に、驚きや疑惑の色はなかった。ただ落ち着かなげに広げた扇子を閉じ、そして広げていた。やがて説明が終わると、もはや専用席とでもいえそうな例のソファから立ち上がる。]
少し自室に戻ります。
[傍らに居ただろうか。 ピスティオにそう告げて、女は席を外した。]
(35) 2018/07/25(Wed) 07時半頃
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|
― 自室 ―
[女は後ろ手にドアを閉じ、そのまま背を預ける。]
あなた… 私は復讐に来ました。そして、見届けに来ました。 あなたの…仇を。
なのに見て! ここには……私の大切な人ばかりよ!
私はこれから、 何を見るの……私は、何をするというの……
あなた。ねえ…ヨアヒム
(36) 2018/07/25(Wed) 07時半頃
|
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― ロビー ―
いいえ。(>>33, >>34)
誰も逃げてはいけません。 私は夫の仇を……ここで討ちます。
[中座したロビーへと再び戻ってきた女は、例のソファのあるところへと歩きながら二人の会話に割って入った。]
ピスティオ! わかっていますね?これは、ローザス家の戦いです。
気をしっかり、持つのですよ……
[自らにも言い聞かせるように、女はピスティオに声をかけながら、ソファに座った。**]
(37) 2018/07/25(Wed) 08時頃
|
成金 イヴォンは、メモを貼った。
2018/07/25(Wed) 08時頃
···その御言葉、些か心外でございます。
このロイエが、あのような雑な仕事···ありえません。
[苛立ちからか、年配者から投げ掛けられた言葉(*13)に刺々しく答えてしまう。]
···サイモン···忌々しい。
ええ、仰るとおり···彼には消えていただく他ございません。
···ですが、それは···“人狼がここにいる”という狼煙···
···必要ですね···覚悟が···
[二名の間で交わされる言葉に、注意深く耳を傾ける。
その手は、腕に抱く乙女の柔肌をじっくりと愛でていた。**]
[そんな時です。
あたしの耳元に囁きかけるように――いいえ、頭の中に響くように、声が聞こえたのは。
思わず驚いて肩を竦めてしまいましたが、誰にもみられていなければいいと思います。]
……あたし?
あたしは、人間だと思っています。
何せ、オオカミだという自覚も根拠もありません、から。
ひとりなのに、ふたりぶんお疑いになるんです、か?
[現実を受け止めたくなかったあたしは、オオカミの他にももうひとり、それに与する者がいることを、意識できていなかったのです**]
どーせもうバレてるんだし。
誰かまでバレたら、
それこそ問答無用で殺されそうな雰囲気よ。
ま、占い師さえ殺したら、後はなんとかなんじゃない?
全員ミナゴロシとか言われるんだったら、それこそユージンが言ってるみたいに皆で逃げたら良いのよ。
ああ、でも、もうひとり居るんだっけ……。
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