158 Anotherday for "wolves"
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誰かの聖歌が響き渡る。
一人、また一人、或いは大勢でやってくるのは
村に生きる人狼達。
集会場の扉を開けば、奥に鎮座するのはその長たる男。
黒銀の髪がゆらりと揺れた。
(#0) 2015/05/11(Mon) 03時頃
「同胞よ、よく聴くがいい。
隣村の噂はすでにお前たちの耳にも届いているだろう。
此の噂が噂なれば、杞憂に過ぎぬ。
だが、此度の此れは真成る話。
どこぞの“人狼”やは知れぬが、同じく暮らす“人”を喰い殺しよった。
確かめてきたのだ、間違いない。」
(#1) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
「よいか、お前たち。
此れは“決して在ってはならぬ事”なのだ。
人と獣とが共存し、共に生きる上で許されざることなのだ。
私は、お前たちのことを信じておる。
お前たちの“誰か”ではないと、信じておる。
今はまだ、此の村では何も起きてはおらん。
“人”に怯えられようと、忌み嫌われようと。
今は暫し、耐えてくれ。」
(#2) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
「時の流れが、風化を呼ぼう。
“人”の記憶は薄れるものだ。
その時を、静かに待とう。」
(#3) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
「しかし。
もし、何かが起きてしまったのなら。
その時は……‥」
(#4) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
「“過ち”は一族の手で、正さねばなるまい。」
(#5) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
男の言葉は其処で途絶え、その後は只管に静寂が部屋を包んだ。
今この時は、静かに暮らせ。
噂が噂として消えてなくなればいいのだと。
しかし、もしもこの先起きては成らない事が起きたのならば
その根源を暴き出し、一族の手で処するのだ。
そう告げて、男は静かに集会所の奥へと消えていった。
(#6) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
天秤は、キィと軋む。
片方には“人”
片方には“獣”
今はまだ。
限りなく水平に近く。
そしてもう。
限りない水平には戻れない。
(#7) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
───戻れない。
───戻らない。
(#8) 2015/05/11(Mon) 03時半頃
[ 消毒液と、ほんのり湿ったにおいのあの部屋で
ちりりと眼の奥に走った確かな痛み。
昏い昏い 教会の中、
ぽんやりと いつも視ている焔でない色が
何も映さぬはずの眼に
ふわふわと揺れる優しいひかりが みえた気がした ]
[ 何かを引き換えにしないと
大事なものは守れない――――]
[ ホワイトノイズ。 ]
(何だ……?)
[次の瞬間
白い空間に見覚えのある影が見えて
濡れた睫毛の奥の
黒曜の双眸と 目が合った気がした。]
[怖いのだろう、理解は及ぶ。
しかしながら乙女の涙を拭う役目は
医者の領分ではないので手出しはしない。
もとより、見かけてしまっただけである。]
…。泣くんじゃないよ。ったく
[小さな小さな呟きを落とした。
──それでも先ほどの予感めいたものには
内心首を傾げざるをえなかったのだが。**]
[――信じているなら、どうしてもしもの話なんて。
苦々しい思いは、空気を震わすことなく密やかに溶ける。]
手に──…、掛けるなど、
[ヒトのために。まどろみのために。
夢打ち破るものを、殺すというのか]
[ 「 ――…… オォ ン 」
泣くような獣の声が遠く遠く聞こえる。
きょうだいだからこそ聞くことが出来たのかもしれない。
それはひとを愛した、末の妹の遠吠え。
助けを呼ぶような、嘆くような、
幸せと喜びとは程遠い、その声が、
不測の事態がおきたのだと、知らせるように。]
[嗚呼、泣いてる。
幸せを願い送り出した末の妹の思いに心が震える。
守りたいもの。
大事な存在。
禁を破るが彼女ならば、
長は彼女に制裁を加えるだろうか。
ひとを愛した人狼でも叶わぬ共存なら、
それは土台無理な願いだったのだ。
誇り高き狼の血がドクと脈打つ。]
[思いに同調するように、繋がる意識。]
共存の為、ヒトの為に同胞に手を掛ける。
本当にそれが、正しいこと?
共存のため…、か。
[ふと心に零れた言葉に応えがあったこと、
すぐに意識にのぼることはなく。
ゆるゆると思考は過去と現在とを巡りゆく。
共存のため、まどろみのため。
或いはそれは正しいのだろう、
そう、天秤が均衡を保ち続けていたならば。…けど]
…────しあわせの、ため。
[何が幸せだというのだろう。
ヒトは獣を狩り、食らう。
では何故、人狼がヒトを狩り食わぬのか。
ヒトの知恵が恐ろしいからか。反撃が怖いからか。
そうして緩やかに死に向かうことが、真に幸福か]
… いや、
[巡る思考のこたえは、未だない。
こたえのないまま、定まらぬまま八年を生きた。
妻は人間を食べたことのない人狼だった。
自分も人間を食べたことはない]
[けれど、時折思うのだ。
物言わぬ妻の墓石に花を添える間に。
妻は身体の弱いひと───人狼だった。
病は彼女を蝕み、何を食べさせてもダメだった。
あの時もし、もしもヒトを彼女に食べさせてやったなら。
妻は生きて*いたのじゃないかと*]
[信じているといいながら、
もしもの話をした族長。
信じていないわけでもないといいながら
ドナルドの言葉だけを信じきるでもなく
サイラスの冗談に翻弄された己。
チクリと刺すような痛みを感じるのは――、
己もまた不安を抱え、
何処かで信じきれていないのだと自覚したから。]
……マーガレット、きれいね。
[脳裏に映るのは、過去に視た野の花か
それとも、診療所のどこかで揺れる 花束だろうか**]
[共存のため。
『人』のため。
同胞に手をかけることが、正しいこと。
共栄のため。
『ヒト』のため。
黙って耐えるのが、正しいこと。
それが正しいことなのです。]
[その一言はするりと零れ落ちました。
今はもう誰も聞かなくなってしまった、私の声です。
色も温もりも宿さない言葉は
風のようにそっと、そっと通りすぎて行きました。
喉元には右手が添えられます。
ああ、いけません。
これ以上。
だって。
だって。]
[聞きなれぬ声は遠い日に聞いたような
何処か懐かしさを覚えさせるもの。]
ああ。
[同意か感嘆か知れぬ音をぽつり漏らす。]
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