人狼議事


88 めざせリア充村3

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[仮想世界が壊れる間際。
罅割れた空間に紛れ込んだノイズ+62は、
雑音の中でも聞き取れた。



電子音と共に、のしかかっていた負荷が消える。
力なく項垂れていた首をもちあげて。
うっすらと光を取り戻した翠を、
擬体を撫でているミナカタへと向けた。]


 ……おわ、った…の。

[まだ調整の効かない、少し雑音の混じる音で。
すべての感覚を戻していない状態では、
全員が無事に目覚めたのかはわからず。

彼らの様子を尋ねると同時に、
ミナカタの表情を窺う。]


[掌の下。小さな頭が動く。
視線を落とせば、翠が光る。]

――起きたか。

[名前を呼ぶことはやはりなく。
雑音の混じる音に腰を落として。]

ほら――口開けろ。

[桃色の包みの飴を取りだした。
開けて彼女の唇に砂糖菓子をあててやる。]


……お疲れ。
辛かった、な。

[砂糖菓子をポプラは食べただろうか。
ゆっくりと彼女の頭を撫ぜながら。]

……ただいま。

[「あの時」言えなかった言葉を。
なんだか口に出したくなった。]


[壁に広がるモニタの電源は全て落ちていた。
誰が落としたかは、一人しかいないだろう。

口元に当てられる飴を、
すこしぎこちなく口を開いて受け入れる。
広がる甘味に、「現実」に戻ってきた実感を得た。]


 ……つらいの、は……あのこたち。

[撫でる手に、首をゆるく振って。
実験を止めることもせず、
「悪夢」の世界を作り上げたのが自分と知ったら、
もう以前のように接してくれなくなるのだろうかと。
そんな身勝手な恐怖を抱く。

決して、口にはしないけれど。]


[「ただいま」と言われて、
それは逆じゃないのか、と。

しばらくの間、ミナカタを見つめて。]



……おかえりなさい…みぃちゃん。
それから……ただいま。

[「わたし」が目覚めた時と、同じ言葉を返した。]


――お前も辛かっただろうが。

[己も、とそれは口に出さず。
白銀の髪を撫でて、撫でて。

視線はどうしてもカプセルへと向く。
あの髪に最後に触れたのはいつだろう。]


[返された言葉はあの時の言葉。
やはりこれは、ポプラなのだと。
彼女――カリュクスではないのだと痛感して。

理不尽にも、彼女に溜息をつきそうになり。
それは押しとどめて――ただ、頷いた。]


落ち着いたら上に行くぞ。
チアキと――ソフィアも、眼が覚めてるだろう。

[ポプラがためらうようだったら
手を伸ばして彼女を抱き上げようと。]


[辛いのは、強制される側。
またはそれを見ているしかできない側。

少し外れる視線に、細く呟く。]



 …… 、いなかったら。

[こんな悪夢が実現されることはなかったのかもしれない。
口にするのはまだ、躊躇いがあるけれど。]


………。

[上へあがるのは少し躊躇われて。
それでもミナカタに抱えられれば、地上へと。]


……忘れるな。

[余計な事を考えていそうなポプラが
それを本当に口にしたら
きっと自分は壊れてしまうだろう。]

お前が死んでいれば
俺はここにはいない。

[この研究所もきっとないまま。
子供達にはもっと酷な日々があっただろう。]


[地上に出る前。
わずかな時間だけポプラを見下ろす。

ここでこの擬体を壊したら
精神だけが元の身体に戻って
彼女が目を覚まさないかと――


そんなばかげた妄想を。いつものように。]


 ……でも ……

[死んでいたら、
こんな思いもしなくてすんだだろうに。


言葉は途中で打ち切る。
もし表情があったなら、
醜く歪んだ笑みを浮かべていただろう。


もしもあの時に生にしがみついたりしないで、
そのまま死んでいたのなら。
ミナカタも、こんな飼われるような生活ではなくて、
もっと別の場所で、楽に。

死んでいただろうか。]


 ……いつでも…いいよ。

[こちらへと向けられた、
少し濁るミナカタの目に音を投げかけたのは。

実験の後で、箍が緩んでいたから。
疲れていた。こんな歪んだ生き方に。]


[なおも食い下がり続けるポプラの様子に
すぅっとその双眸は細められる。]

死にたかったか?
あそこで、死にたかったか?

……悪かったな。死なせてやらなくて。
お前をずっと縛り付けて。

お前が、


[ポプラを抱く腕をゆらりと揺らす。
大丈夫だ、まだ耐えられる。
まだ――]


お前が、悪いんだ……

[立て続けに見せられた子供達の実験。
それは自身の心をも酷く苛んでいて。


零された、ポプラの言葉には
耐えられなくて、その身体を――



     床にたたきつけるように 落とす。]


――っ……!

[自身のしたことには
ポプラが落ちた音と同時に気がつき。
慌てて駆け寄って、小さな身体を抱き上げた。]

すまんっ……! 大丈夫か、どこか壊れて――


[誰を心配しているのだろう。
何を心配しているのだろう。

これはただのぬけがらなのに。]


[叩きつけるような声。
こんな声を向けられるのは、
「ポプラ」として目覚めてからは初めてだろうか。



体を支えていた手が消えて、
重力に流されるまま、床へと落ちる。

研究所の技術で作られた擬体は、
この程度の高さから叩きつけられたところで
傷ひとつつかないが。

再度抱えるミナカタの頬に、手を伸ばす。]


 ……わたし…が……願った……から。

[おかえりを言いたかった。それだけ。
その願いは確かに叶って、
そしてその願いが「今」の「研究所」を生み出した。]


 ………みぃちゃんは…わるくない。

[落としたことか、実験のことか。
“あの時”あの場にいなかったことか。

ぺたりと頬に手をつけて。
笑ったように、見えただろうか。]


[小さな手が頬に触れる。
これは紛い物の手。
偽物の手。
それでも、それは伸ばされる。]

……俺も、共犯だろう……?

[掠れた声で答えながら。
感情の浮かばないポプラの顔を覗き込む。]


[そうやって守られて。
あの時だって彼女はそう言った。

自分がいれば止めれただろうに、と
そう後悔する己に。彼女はそう言って。
それから、何度も言い聞かせるように。

まるでそれが事実であるかのように。
本当は、彼女の方こそ何も悪くないのに。]


……ぃ


[ギリと奥場を噛む。
細いポプラの手を掴む。]


[いっそ折ってやろうか。
もう、心を揺らされないように。

彼女と同じ色の髪も
補色になっている瞳も

ぜんぶ。目の前から消してしまったら。


――きっと、何も考えずに狂えそう。]




[腕にかかる圧力を検知する。
人の力でどうこうできる強度ではないが、
内部で鳴る警告音は無視をして。]



 ……みぃちゃん。


[ただ、紡ぐ。
今も昔も、同じように。]


……なあ、教えてくれ。
お前はどっちなんだ?

――カリュクスなのか。違うのか。
元に戻るのか。
俺はいつまで待てばいい?
俺が死ぬ前にお前は、目を覚ますのか……?

[聞いてはいけないことが。
ぽろぽろと口から零れる。
危うすぎる均衡。
よくもこんな長い年月もったものだ。]


――「みいちゃん」と呼んでいいのはカリュクスだけだ。

[指先を、ポプラの細い喉に。
これを壊したところで彼女は
死ぬことなんて絶対にないだろうけど。

この長い年月で己の心に根を生やした
この存在を心から消し去ることは出来るだろう。]

――答えるな。
だから代わりに、そう呼ぶな。

[ポプラにはそう告げる。
まだこれを壊すわけにはいかなかったから。]


……俺は

[腕をつかむ力を緩めて
喉に当てた指も離して。

いつものようにポプラを抱き上げて。
ただし声の温度は低く。]

俺は、籠の鳥でよかった。
カリュクスを失うぐらいなら――

[ただもう一度あの紅を見つめたいだけなのに。

その望みはこんなにも――遠い。]


[答えようと開いた喉に指先が添えられる。
力はほとんど込められていない。


悲鳴のように突きつけられた通牒に、
機械の顔の内側で嘲った。





あの時の願いは、叶えてはいけなかったもの。
この擬体は、望んではいけなかったもの。

一番望んでほしかった人に、
誰よりも何よりも、疎まれている。]


[抱えられ、ミナカタの望むとおりに無言のまま。
腕の中で低い呟きを聞く。

彼の望みはまだ、叶えられなくて。
これからも、叶えられるかは知れなくて。
自分の望みは悪循環ばかりを招いて。

それでも、自分はまだ動いている。



階段をのぼれば、
地下への入口ともども、揺れる感情に蓋をする。]


[片手で抱きかかえれる身体。
本物の彼女よりずっと、ずっと軽い。

それでも迎えてくれてうれしかった。
同じ言葉で「おかえり」をくれて


本当は、よくできた紛い物などと思っていない。
カプセルの中ずっと目覚めない彼女のほうが
今では人形のように思えてしまう。


嗚呼――そんなことを言ってしまったら
ポプラの中に居るカリュクスをどれだけ傷つけるだろうか。

擬体の中にまで入って待っててくれた男は
もう己を待ってもいないし、必要ともしておらず
作り物の中にいる存在を]


[愛してしまっているのだと。]


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