145 来る年への道標
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[エフが客室に戻ってくると、
客室のあかりはきえていました。
この客室にも、鼠の星までの到着分数が光で表示され、
うすぼんやりと室内を照らしています。
ひとの気配がありましたから、
多分眠っているものと思ったエフは、
そうっと足音を殺して室内に入ったつもりでしたが
相部屋の客のことを、起こしてしまったようでした。
それは、鼠のお客が船を出る時間がまだ
船内に表示されているころでしたから、
彼が寝癖をつけたまま、
展望ラウンジに出るよりも少し前のことです。]
悪いね。
起こしたかい。
[眠っていたのだろう彼に、一言かけました。]
ベッドの方を使ってくれても良かったんだが……
[ソファで睡眠をとっていた彼に、
エフはすまなそうに言いました。]
[ベッドに腰掛け、コートのポケットをさぐります。
シガレットケースを手のひらで掴んでから、
エフは、はたとしました。]
ナユタは、たばこはだめな人かい。
もし嫌いなら、外で吸うようにするよ。
もうじき、ラットスターという星だそうだね。
ねずみのお客が、いっぴき、降りるみたいだ。
[ベッドの近くのライトを弱く灯すと、
エフは鞄から航宙図を取り出し、のんびりと眺めはじめました。
彼は、そのようにしながら、
ナユタが部屋を飛び出していくまでの短い間
いくらかの言葉を交わしました。**]
[ナユタが部屋を出た後、一人になったエフは
コートハンガーにコートを預けました。
ふるい時代の人間には、
いま着ている特別さのとくにない服の素材すらも
さらりとして着やすく、心地良い手触りの生地に感じられ
こればかりは、未来も良いものだと実感します。
襟元を緩め、履き心地のよい靴を脱ぐと、
エフはベッドの上に、あぐらをかき、
ベストに取り付けたいくつかの機械の道具や、
鞄の中身の点検をはじめました。
さいごに目にいれた機械に線をつなぐと、
そちらも日課として、メンテナンスを行います。
日課の全てを終えると、彼はベッドの上で足を伸ばします。
深く息をつき、見知らぬ天井を見上げました。
体にたまった疲れを感じながら、
眠るでもなく、目を閉じました。]
[無音の部屋にも響かないほど小さな物音。
それでも普段から浅い眠りは覚めてしまい、毛布の中で身動ぎすると
背後から先程聞いた声が掛かった。]
・・・いえ。
おかまいなく。
[自分できちんと発音出来ているかも分からないほどの微睡みの中。
無理やり意識起こすように上体を起こし伸びをした。]
職場の椅子より大分寝心地いいですよ。
気にせず、エフさんがベッド使ってください。
[相手の方を見て手の平を上に、どうぞと向けた。
その言葉通りにエフが座り、続けた言葉には首を横に振った。]
この船って喫煙室ありましたっけ。
まあ、あってもそこじゃ落ち着かないでしょ。
構いませんよ。
そうみたいで…。うん?
[思い出したように客室の時計をみると、ちょうど到着予定時刻。
ぼんやりしていた頭が一気に覚醒した。]
うっそ、もう!?
どんだけ寝てたんだ俺…!
[慌ててソファから足を下ろす。毛布を雑に丸めて放ると、]
ちょっと、見送りに行ってきます!
[声を掛けて足早に部屋から出て行った。]
[耳栓を受け取り安眠を手にした...は、その夜16回、寝返りを打って貴方を蹴り飛ばしたかもしれない。]
[彼は一度眠るとなかなか目を覚まさない男だった。幾度蹴り飛ばされてもイビキは続いたことだろう]
[この二人が他の乗客と同室にならなかったのは、良い采配だった事でしょう。]
[そう、宇宙は時に、人知れず奇跡を起こすのだ――]
[小さな宇宙船の一室で繰り広げられる、
宇宙の不思議《スペース・ファンタジー》――…]
[誰にも気づかれぬ事のない、奇跡の夜《ミラクル・トゥナイト》……・・・・ * *]
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