250 ─ 大病院の手紙村 ─
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[ 昨日買った便箋は、 あの部屋に置いてきてしまった。
何を書くかも決めぬまま、 何かを書きだそうとして加賀は気付く。
あの部屋に戻る。ということを考えると、 どうにも足も、腹の奥底もずしりと重く、 息が詰まるようであり、舌打ちさえしたが、 仕方なしに、来た道を引き返すことにする。]
(65) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ 何食わぬ顔で部屋を訪ねた加賀を、 今日も、その子は歓迎してみせた。
何の土産も用意していなかった加賀は、 今日は何もないと正直に告げ腰かける。
昨日置いていった便箋を手に取り、 加賀は今日も、会話のかたわら文字を綴る。]
(66) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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誰かの子である君へ
手紙への返事をありがとう。 返事があるとは思わなかったので、 まさかと思い、非常に驚いた。
見抜くべき真実なんて、 ないほうが余程幸せだ。
当然、君が見たいのは、 私の笑顔などではないだろうし、 何と言えばいいのか、悩ましいが、 君の願いが君の手により、 叶えられることを祈っている。
残念ながら、私の言葉は嘘まみれだが、 願ったことは、気の迷いではあれ嘘ではない。 いつか君がお父さんと笑いあえる日が来ることを。
(-57) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ 署名はない。それはただの白い便箋だ。 紙切れ一枚、黒いペンで綴られた文字。 所々、迷いでも生じたかのように、 黒色が濃く、点となり、滲んでいる。]
(-58) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ 躊躇いながらも、加賀はそれを書き上げた。
加賀の手帳を介して届いたソレへの返事を、 他人の子の部屋に置いておく気にもならず、 届いた青い便箋と共に、それを手帳に挟み込む。
どうにも、この日の加賀の口は重く、 とにかく少年との会話以外の何かをしようと、 病室の窓を不意に開いた。 からからと、サッシを滑る音がする。
「 なにしてるの? 」とその子は尋ね、 加賀は短く、「 窓の外を見てる 」と答えた。]
(67) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ 「 ──何が見える? 」と、 その子はどこか楽し気に尋ねた。
加賀の視界に映るものといえば、 さして珍しくもない木々の群れであり、 ほんのりと色づいた葉が風に揺れている。
それだけの、ありきたりな風景である。]
──蔦の葉が一枚。
[ 加賀の口をついて出たのは、 目前の風景とは何ら関係のない言葉である。
少年は、不思議そうに復唱した。 蔦の葉というものを知らないらしい。]
(68) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ 「 きれいな公園があるんでしょう 」と、 さも知っているかのように、少年は言う。
芝生のきれいな公園がそこにあり、 鴨や、白い羽のきれいな鳥が池にいる。 季節の花咲く花壇が、彩りを添えている。
──と、その子は言ったが、 加賀の目にはそんなものはうつらない。]
(69) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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……そうだな。 犬の散歩をしている人がいる。 花壇の脇はそりゃあいい散歩コースだろう。
[ それもまた、実際の世界に存在しないものだが、 その子はにこにこと笑って頷いている。 言っただろう。君を取り囲む世界など嘘まみれだ。
今更、それを真実に塗り替えることなど、 加賀には到底できそうになく、……気分が悪い。]
(70) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ また手持ち無沙汰になってしまい、 差し入れの一つもないくせに、 加賀はベッドサイドの抽斗を開け、 確かめるように、トレイの下を覗いた。
そこには、薄黄色の封筒が一通。 封に使われているシールをそうっと剥がし、 中の手紙を取り出して、加賀は笑った。
便箋は猫とは、一体。
それもまた、出した覚えのない──いや、 何の気なしに残した書置きの返事と見えたが、 どうしてそれが、この子の部屋に届くのだろう。
それもこれも、リ・ジアン様の思し召し。]
(71) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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九 風香様
丁寧なお返事をありがとう。
連れの部屋に返事が届いているのを見て、驚いた。 リ・ジアン様の気まぐれは、 うまい具合に作用してくれたらしい。
宣言通り、というべきか分からないが、 件のケーキを頂いたよ。美味かった。 実のところ、私は甘党ではないのだが、 あのケーキはぺろりと平らげてしまった。 連れにも一口やったが、喜んでいたよ。ありがとう。
蜂蜜入りの紅茶が人気メニューらしいね。 私自身はコーヒー党であるのだが、 ここに来なくなる前に、一度は飲んでみようと思う。 加賀
(-59) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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追伸 蜜蜂というわりに、なぜ便箋だけ猫なんだろう。 熊みたく、蜂蜜が好きという印象もないし、 どうにも気になって仕方がない。
(-60) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ 白い便箋の罫線上に並んだ文字は、 届いた手紙に倣って、前のものより少し丁寧だ。 添えられたイラストもない、簡素な手紙が貴方の元へ。]
(-61) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[ 書き終えた手紙を白い封筒に仕舞い、 封をしようにもシールなど持っておらず、 結局のところそのままに抽斗の底に敷く。
まるで穏やかな日常の一片。 とでも言えそうな文面を書き上げたとき、 加賀の気分は少しばかり良くなっていた。
気を良くして、ベッドの上の子に、 「 飲み物でも買ってきてやろうか 」と尋ねる。]
(72) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[あなたの再びに返るのは 今度はメモみたいな紙片じゃなく、それ用の封筒だ。 黒い背景に、色とりどりの星が散る子供向けのデザイン。 一際大きく中央に描かれた星の中には、 「一期崎さんへ」とあの時の筆跡で書かれている。
偶然により繋がれた縁は深まっていく リ・ジアンさまの橋渡しによって。]
(-62) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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お返事ありがとう。
それは納得だ。 僕も子供たちからリ・ジアン様のことを聞いたからね。
前の時も気になるところはあったのだけれど、 あなたはこの病院の先生なのかな。 もしかして、とっても偉い人とやり取りしちゃってる? 叶えたいものが無いなんて、 夢が無いのか幸せなのか。どっちなんだろう。 少なくとも、ギブアンドテイクを考えてしまうのは 大人らしい考え方だよね。
(-63) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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心配なら、大切なら気をつけてあげなよ。 僕だったら、叶うものならばなんだって差し出せるもの。 最も、勝手に手紙を持っていく何かの対処法なんて どうすればいいのか分からないけどさ。
リ・ジアン様の姿が分かったら、 また僕にも絵を見せてほしいな。
伊政より
[封筒と揃いの縁取りが施された便箋には、 それなりに長く文章が綴られている。 迷う跡一つ無く、綺麗な状態で。]
(-64) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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不幸の手紙じゃなくて安心しました。 なんて、幸運の手紙も不幸の手紙も 大人に聞いたことしか無いのだけれど。
病院に幸運の手紙なんて、中々合理的だと思わない? ここにいる人は、誰も彼も幸せが必要だ。 少なくとも、お医者様以外はね。 この前から届く手紙も、あまり幸せそうじゃ無い。 でもあなたはタルトを食べて幸せなのかな。
残念ながら僕もあれは食べたことがあるんだ。 お店で会っていたりして。 あのお店は季節で違うケーキを出してるって、知ってた?
少し年上な気がするあなたにも、 小さな幸せが訪れますように。
(-65) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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[手紙は少し失礼な一文を最後に締めくくられている。 夜空に星が散りばめられたような封筒、揃いの便箋 子供向けのデザインのそれらに綴られる文字は、 不相応に整った大人のものだ。]
(-66) 2018/09/25(Tue) 23時半頃
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/* 更新までには間に合わないから、更新後にゆっくり書こうと眺めつつ。なんと、ここにきて、猫便箋にツッコミをもらえたぞ!!! 読んでてとてもほっこりするお手紙だなぁ…。 あとほんと、お連れさん(ほかの人の息子さん)とこれからどうなるのかとてもきになる
(-67) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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[書き終え、乾くのを待ち、封筒を折り そんな作業を繰り返し、ボールペンを置く頃には それなりに時間が経っていたようで。
レターセットをしまい込み、 時刻を確認する為にスマートフォンを手に取る。
その時ふと、忙しい一日で気づけずにいたことに気づく。]
(73) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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……やっぱり、消えてる。
[喫茶店の彼女に向けた手紙は、確かに鞄に入れた筈。
きっと、まだまだこの不思議は続くのだろう。 そんな予感を胸に抱きながら、 夜空の封筒たちを病室に備え付けられた引き出しの中へと。]
(74) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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僕のリ・ジアンさまになってくれる?
[ 訪れたのはプレイルーム。 いつもよように駆け寄ってきた子に視線を合わせ 僕は真っ白な封筒を見せた。 髪を二つに結ったその子は大きく頷いて 天使の羽みたいに、そのお下げをふわりと揺らした。
本物のリ・ジアンさまに頼らなかったのは いつも自分で手紙を届ける先生に対抗してのことだ。
一緒に入れて、と言われた赤い折り紙の苺も同封して。 僕には真似出来ない、とても上手な苺だ。 ]
(75) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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ねえ、ほら。 とっても良く描けてるよね。
なんだか嫉妬しちゃうな。 私も絵の勉強をすれば良かった。
[向き直れば、兄の膝の上に置かれたままの紙を手に取り。 今度は顔の前に広げて見せてあげた。]
(76) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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いちご先生へ
お返事ありがとうございました。 びっくりしてもらえたようでなによりです。 先生でも腰を抜かすことってあるんですね。 なんだか想像できないや。
リ・ジアンさまの噂を聞くようになってから 色んな人の手紙が届きます。 それは不思議で、楽しくて、ちょっと怖い。 どうして手紙を届けてくれるんだろう。 どうして願いを叶えてくれるんだろう。
(-68) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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[手紙が貯まったら、読んであげよう。 勿論見せたら悪いものは除いて、明るいものを。 僕の為の手紙なら、いい刺激になるかもしれない。]
(77) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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昔の僕なら、早く退院したいだとか 元気に走り回りたいって願ったと思うけど 今はなにを願えばいいかもわかりません。 どれも、誰かに叶えてもらうことではないと思ってしまう。
でも、そうだなあ 先生と一緒に、タルトを食べに行きたかったかも。 今日は食べに行きましたか? 感想聞かせてくださいね。
航より
(-69) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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/* 僕のリ・ジアンさまになってくれる?
新手のプロポーズかと一瞬
(-70) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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アオさんへ
はじめまして、お返事ありがとうございます。 あなたのいう通り、僕はこの病院で入院しています。
好きなこと……そうだなあ。 病室の窓から散歩する人を眺めること 蜜蜂で美味しいケーキを食べること 子どもたちに本を読んであげること
今の僕が思い付くのは、 この病院でのことばかり。 まずは自分の好きなものを もっとたくさん、見つけたいと思います。
変わらない毎日のなかで アオさんの手紙が、僕の希望のひとつになった気がします。 どうかあなたの明日も鮮やかに輝きますように。
カイより
(-71) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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[ そうしてもう一通の手紙は やっぱりいつもの抽斗の中。 こっちは相手がわからないから 本物に頼るしかないもんね。
どうかちゃんと、届きますように。 ]
(78) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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/* うわああギリ……すみません…すみません……… 変なの送ってたらすみません… また新しいお手紙書けなかった…明日こそ………
(-72) 2018/09/26(Wed) 00時頃
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