167 ― さいごの手紙 ―
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TO.新たな読者さん
はじめまして。 手紙をありがとう。
君のお母様に感謝しよう。 世界が終わるという時に、新しい出会いをくれたのだから。
君のお父様は男前なんだな…なんてね。
君のような娘がいたら、また違った人生だったかもしれない。 そんなことを少し、思ったよ。 僕の子どもはたくさんいるけれど、彼らは皆、紙の中に住んでいるからさ。
世界はそろそろ終わってしまうのかもしれない。 僕は随分長い間、一人でずっと暮らしている。 たくさんの知り合いを、友人を捨てて一人になることを選んだ。
人は結局、どこまでいっても一人。そう思っていたから。
(-17) 2015/09/03(Thu) 21時頃
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でも、近いうちに世界もなくなると思うと急に捨てたものが惜しい気持ちになっていたりもする。 こんな風に新たな出会いがあると、欲張りたくもなってしまう。
だけど、世界の終わりが来るならば皆一緒にいなくなる。 そのことに少しだけ、安心してしまう自分もいて。 随分と勝手な話だけれど。
君の明日が良い日でありますように。
フランク
(-18) 2015/09/03(Thu) 21時半頃
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TO.ユージン
毎日誰かを運ぶ君よりは暇なものさ。 それに忙しさはちょうど先日、流星群の日に星に攫われていったところだ。
僕の本を読んでくれたようで、嬉しいよ。 こんなにもったいない言葉が貰えるならもっと早くに君に手紙を書けば良かったと僕も思う。
下巻はすぐにでも出るさ。きっとね。
河の上から見る流星群もきっと綺麗だったろう。 そうだな。怖いくらいに綺麗な星だった。
隕石の話は、聞いたばかりだ。 あまりに現実感がないから半信半疑だけれどね。 どちらにしても僕は変わらぬ日々を過ごすだろう。 世界が終わるならその前に君の船に乗れたら良いな、と呑気なことを考えているよ。
フランク
(-19) 2015/09/03(Thu) 21時半頃
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ヌマタロウへ
随分と大物を釣り上げたようだね。 美味しく食べてもらえただろうか。
生まれてからずっとこの河を見てきたけれど、 人とこの河とはとても上手くやれてきたと思う。
でもこんな贈り物を受け取ったのは初めてで、 趣味の合う君と、酒や煙草を一緒にやりたかったな。
僕は河以外、何も知らないから。 ヌマタロウの話を聞いてみたい。
君が釣り上げた魚をどう食すのか、 同じ物を食べてみたい。
(-20) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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近く、大きな星が降るようだ。 君はもう、避難しているだろうか。
何事もなく君がこの河に戻った時には、 変わらずの恵みを君に、人や生き物にもたらすと約束しよう。
――だから、どうか無事に戻ってきて欲しい。
なぁに、星の一つや二つ、 この河が呑み込んでみせよう。
この夜空からの落し物を呑み込むように、 容易いことさ。
河の神より
(-21) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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[酒瓶の手紙の差出人へと、 最初の手紙を見ながら、宛名と住所を封筒に書き込む。]
おっと、これを忘れるところだった。
[差出人の後ろにはまた、夜空色の魚を一匹描いて、 満足そうに天井へと掲げた。
手紙を封筒に入れ、封をする。
食卓の上へと手を置けば、 そこには二通目の酒瓶に同封されていた紙で巻かれた煙草。 火を点け、思い切り吸い込んだ。
そして、目を向けた先にはラヂオ――。]
(11) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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[聞こえてきたのは、知人の新刊情報だ。 まだ下巻を読む希望は潰えていないと、心のどこかでは。
続き、シェルタへの案内が流れる。 揺らがなかったと言えば嘘になるだろう。 けれど、そこから戻ってきた時、 どれだけの人間が残っているだろう。
常連客は? いつも世話になってる肉屋の、パン屋の、青果店の者は? 先日この街へ移り住んできたばかりの、あの者は? ここ数日、手紙を交わした人々は?
――小説を書き上げた知人は?
皆、生き残っているのだろうか。 また、シェルタへ助けを請ったところで、 全員が入れる保証もない。
煙を吐き出し、もう一枚、便箋を剥がし取る。]
(12) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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初めておたよりします。
俺は、ずっと…… ずっと、星を見上げているのが好きでした。
見上げていると、独りではない気がしたからです。
「人が死ぬと星になる」 そんな話を聞いたことがありますか?
亡くしてしまった人達が、 ずっとそこで見ていてくれるような気になったり、
遠い昔、一緒に星空を見上げた友人たちが、 同じ空の下で一生懸命日々を暮らしていると感じていました。
(-22) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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でも最近は、 自分だけが変わらないこの場所から見上げていることに、 何とも言えない寂しさを感じていたものです。
動けないわけではなかったのに、 立ち止まったままだったのは、俺が臆病だったから。 流れる星を、ただ指をくわえて見ていたから。
それが分かったから、今は行動しようと思います。
毎朝、素敵な時間をありがとう。 ではまた――。
(-23) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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[便りにはラヂオの番組名。
名前は、書かないでおいた。]
(-24) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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[手紙を書き終えてしまえば、清々しい気分だった。
書く事で、 ようやく本当の本当に決心がついた。
便箋も、丁度今ので最後の一枚。
残った台紙を見下ろして、 「どこまで臆病なんだ」と自嘲しながら、 ぎりぎりまで煙草を燃やすと、火を消した。]
(13) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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[手紙をポストへと投函した足で、 いくつかパンを買い、そのまま船へと乗り込んだ。
船の上にはいつもの布袋と、 家の中で埃を被っていた父の遺品。
それと、赤い布のついた酒瓶。
船を進める先、 真昼の空に、太陽とは別に輝く星が一つ。]
さぁ、行こうか。
――星を、つかまえに。
.
(14) 2015/09/03(Thu) 22時頃
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/* どうしたものかとうなっていたら、お返事がきてた!!! ありがとうありがとう。
ザックにお手紙書けなかったすまない><><><><
何か思いついたらまた落とすけど、 とりあえずこれでいつ墓落ちしてもいい、かな。
くっ リアルに優しい手紙村でさえいっぱいいっぱいだぜ……。
(-25) 2015/09/03(Thu) 22時半頃
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……煩ェ。
[水が岸と擦れあう音すら聞こえない、 異様な程の静謐の中で、耳を抑えた。
煩いのは、人の声じゃない。 ラヂオのノイズでもない。 鳥や虫の絶叫や呼び掛けでも、 魚が跳ね飛沫を起こす音でも、 矢鱈と気を遣って来る若者の態度でもなく、 それらとの自分との間に響く、空洞音。
老いれば老いるほど、それは激しく鳴るから。 何かに釘付けになるか、胸の底から高揚するかーー]
(15) 2015/09/03(Thu) 23時頃
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[ ぱちゃり。
ぱさり。]
(16) 2015/09/03(Thu) 23時頃
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律儀な郵便屋どもだ。
[誰かの思考の血流を感じるか。]
[そんな時だけが、それから逃れられる瞬間。
川から戻った翁の手元に、数通の手紙。 郵便箱の前、空っぽの魚箱を背に。 脱力したみたいにふにゃりと笑った]
ああ、返事ば書いてがらにすっがね。
[手をかけた戸は偶然か、 それとも機嫌が宜しかったのか。 音も立てずにあっさりとひらいた]
(17) 2015/09/03(Thu) 23時頃
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[最近は行ったり来たりだな、と手紙を投函しながら男は思う。 外へ出る機会が増えた分、空を見上げる機会も増えた。
夜空にかかる天の川を見ながら、船を漕ぐ友人と釣りをする恩人を思い浮かべる。
しがらみを捨ててきた男が連絡を取ろうと思い立った人々は皆、 思えば一人で生きている者ばかりだった。
家族でもあれば避難もするのだろうが、彼らはどうするのだろう。]
あれがモップ座で、あっちがオール座に、釣り針座…
[手にした煙草で夜空を指しながら、適当な星を繋ぎ合わせて名前をつけた。]
(18) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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ナナボシのイアン殿
流星群見るのをユーフォに邪魔されだこだぁながったのだが 河の神様から手紙ば届いたさ これは嘘でも冗談でも筆違えでもネェ 本当のまことのお話だ
住所を変えたんに 10年も前の友人がら 偶然にも手紙ば届いた事もあったし いつか釣った魚も 指輪を飲んどったことがあったし
奇跡はきっと 満ち溢れとるものだ
ナマズ
(-26) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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こんにちは、ベイル・ストリートのジョンソン美容室です。皆様へぜひお知らせしたいことがあり、ご連絡いたしました。
もしよかったら、当店からのメッセージを番組で流していただけませんでしょうか。広告料については、以前にお願いした時と同じでよろしければ、すぐにご用意いたします。どうぞ、ご検討をお願いいたします。
メッセージは以下のようなものです。
(-27) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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『皆様こんにちは。暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。ベイル・ストリート771のB、ジョンソン美容室は普段通りの営業中です。パーマネント、カラーはもちろん、ちょっと前髪を整えたい。そんな時にもどうぞお気軽にお越しください。』
(-28) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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昼休み。わたしは食事もそこそこに、余った顧客用の葉書にメッセージを書きつけた。午後の営業まであと十五分。葉書を出して戻って来るには、少し早歩きをしなければならないだろう。
終わりに近づいた夏の日差しに目を細めながら、わたしは通りへと踏み出した。
(19) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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メルヤへ
ああ 私も星落ちる話は知ッとるのさ おめさんが1日、腹を空かせずに済んだ様で安心している
[何行か、筆に迷った様に 塗り潰された痕跡がある 最終的にそれは、上の文と下の分の間に横たわる 呑気な顔をした黒い魚の絵となって 手紙の中を泳いでいた]
もし母さんに会いたぐなったなら 之を使ゥて行くと良い もし狭い処が嫌だったのなら 双眼鏡を持って眺めの良いとこ行くのも良い
私は星と川に挨拶をしに行ぐから
(-29) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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大丈夫だ 怖がるこたァ無いのだ ヌマ爺ぁおめさんの飲んでるのと同じ空気を飲むし おめさんの見た空と 同じ空 見てる そのこたァ 忘れちゃいない
まんがいちにも 宇宙で天の河に溺れたら 釣り上げでやっからな
まんがいちにも なぁンにもなかったら また美味い干物を送ってやる
かわいいメルヤや どうか幸せで
西のヌマ翁
(-30) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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[封筒の中には、小さな干物が1匹 それからシェルターの当選葉書 ヌマタロウ という名の後には 筆で『譲渡』と書き足されていた]
(-31) 2015/09/03(Thu) 23時半頃
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フランク殿
懐かしいものだ 手紙をもらってから思い出したのだ 川の上流の怪奇の話 おめさんが聞きたがって 水に右足突っ込んで 背中から倒れたよなこと
実にいい川だ 汚れも無く 星落ちてくるというのに身投げした身体を見る事もなかった けがしたくないと 人々が思うよなところなのだろう 時々ブーツだの軍手だのは釣り上げるがね
おめさんの本 思えば読んだ事が無かったのは申し訳ない話だ えすえふなんざ 爺の頭には難しいが なんぞ思っとったがね 現に双眼鏡の使い方にも迷うようだが 本屋があいていれば 買ってから 星と川に挨拶しに行こうかと思う
(-32) 2015/09/04(Fri) 00時頃
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おめさんも見ていたか ほんに嬉しいことだ 私の頭の様にちりちりはす抜けてはない 綺麗な星空だったがね おめさんの手紙を書いた気持ちを少し考えたりもしてた 感傷 不思議な言葉だ
不安定な状況だというのに おめさんの手紙の文字は 落ち着いたようだ ある意味 精神は私よりもこなれているやもしれんな
そう 終わる時はみな一緒 愛する川や かわいい親類の娘も 一緒らしく それを思うと もう受け入れたと思ゥだのに 私はゆらゆら揺れてしまうものだ きゃつらに先が無い事が哀しいのか はたまた共にいけるのが嬉しいのか
(-33) 2015/09/04(Fri) 00時頃
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どちらにせよ 今はみな 同じ空気を飲んでいる その 私のなかの みなに 君を取り戻せて良かった 次は忘れる事は無ェがらな
フランク、どうか幸福で
ヌマタロウ
P.S もう何処に行ったのやら 見かけたら挨拶しといてくれ 味のある いい猫だ
[封筒の中には、口をかっと開いたままに乾燥された 大きめの干物が1匹、同封されていて。
そこには猫か何かが齧ったような痕跡が一つ、残されていた]
(-34) 2015/09/04(Fri) 00時頃
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[少ない荷物を纏めていると、 小さな紙がひらり、舞い落ちる。
あの猫が『サイン』を拒んで 暴れまわった時に、つけた足跡が ちょうどよく下に残っていて。
なんだか、笑ってしまって。 ついでに一つ、したためてから
それを風に乗せて、放った。 あの猫に届くかはわからないけれど]
(20) 2015/09/04(Fri) 00時頃
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星墜つる 永き静寂 目の前に
思ひ返す刹那 流星群のよに
ヌマタロウ
(-35) 2015/09/04(Fri) 00時頃
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[川は潮に飲まれつつある。 だが、まだ、姿を消したわけじゃないから。
上へ、上へ、消える前に––––]
(21) 2015/09/04(Fri) 00時頃
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