250 ─ 大病院の手紙村 ─
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[16歳。女性。複数の精神疾患有り。 閉鎖病棟入院回数2回。現在経過観察中。]
[29歳。男性。激務による自律神経失調から 通院、その後現在まで退職できず悪化。]
[23歳。女性。家庭環境に問題有り。 実家を離れるために入院が推奨される。]
[皆、救うこともできず、 指の隙間から零れ落ちていった命。]
(-6) 2018/09/27(Thu) 11時半頃
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[ゆるされたい]
[誰に?]
[だれでもいい]
[どうやって?]
[もういい、と]
[もう抱える必要はないと。 もう生きて償わなくていいと。 誰かがそう言ってくれるのなら。]
(-7) 2018/09/27(Thu) 11時半頃
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[沈み込んでいたソファから身体を起こす。 首が痛い。目を閉じた数分の間に嫌な夢を見たような気もするが、きっと薬のせいだろう。]
[プラセボ程度でも胃に優しいようにと、今日のコーヒーはミルクもひとつ入れて。 一見荒れたデスクだったが、元々ものが少ないぶん紙類だけなら整頓はすぐに済む。 そうしてやおら、溜まった手紙の開封の儀に臨んだ。]
(13) 2018/09/27(Thu) 11時半頃
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[何度目かの売店へ。 店主に「今日は眼鏡は?」なんて聞かれて、適当に言葉を濁す。さほど頻繁に通っているわけではないのに、何故覚えられているのか。そして何故眼鏡を気にされるのか。]
[どこぞの悪役顔のせいとはつゆ知らず、また別のレターセットを手に取った。]
(14) 2018/09/27(Thu) 12時半頃
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[まずは手帳の一頁。 最後に書き添えられた“コーヒー”の文字に、そんな話をしたかどうかと記憶を辿る。 今もデスクの周りは湯気の立つコーヒーの香りで満ちているのだが、それが当たり前になっている当人は理由に気付けぬまま。]
[紙の向こうは恐らく男で、恐らく大人で、恐らく父親なのだろう。 全ては仮定である。顔も知らぬ誰か。匿名だからこそことばに責任は必要無く、嘘の中にほんの少しの真実も混ぜられる。]
(15) 2018/09/27(Thu) 12時半頃
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[クラフト用紙の封筒に、白い便箋。 相変わらずのシンプルさにコーヒーの香りを添えて、 その手紙はあなたのもとへ。]
(-8) 2018/09/27(Thu) 12時半頃
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御機嫌よう、コウ殿。
何を以って願いが叶ったとするか、ね。 恐らくだが、もういい、と。上位存在からのその一言があれば、もう抱えて生きる必要はないと解釈して、何かが許された気にでもなるんじゃないかな。 少なくとも今生への未練は無くなるだろう。 まあ、俺にはわからない話だがね。
我が子との再会か。 何故離れていたかはさておいても、さぞ感動的なシーンだったことだろう。 子供が架空か、関係性が架空か、そもそもあなた自体が架空の存在かは知らないが。ドキュメンタリーでも組んだら視聴率が取れそうな話だな。
(-9) 2018/09/27(Thu) 12時半頃
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追伸 x棟x階、エレベーターを降りて左手の突き当たり。 美味しいコーヒーが出る部屋があるらしいが、まああなたはこういった場所に顔を出す手合いではないだろうな。 『蜜蜂』のコーヒーはお勧めだ。売店のものは地雷だから気をつけるように。
(-10) 2018/09/27(Thu) 12時半頃
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[院内案内図を見れば、示された場所には“カウンセリングルーム”とあるだろう。]
(-11) 2018/09/27(Thu) 13時頃
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〜喫茶 蜜蜂 ご来店アンケート〜
好きな果物や飲み物はありますか? リクエストがあれば、是非、ご記入下さい! アンケートのお礼に、心ばかりですが、 蜂蜜入り紅茶の試飲をご馳走します。
・食べたい果物:( いちじく ) ・好きな飲み物:(ブレンドとアッサム) (茶葉などの好みもあればお書きください)
・当店では、紅茶や珈琲、ケーキをお供に 心安らぐ空間を目指しています。 参考までに、普段貴方がリラックスできる 場所があれば、お教えください。 :(窓際カウンター席の一番端 )
(-12) 2018/09/27(Thu) 13時半頃
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[二つ折りの薄黄色の紙は、角と角をピッタリ合わせてより一層丁寧な折り目をつけて、あなたのもとへ。] [表面は印字されたアンケートに答えるように、そして裏面には]
いつも美味しいコーヒーをありがとう。 普段甘いものは食べないけれど、 そのうちケーキかタルトでも頼んでみようかな。
[と、あなたが悩みに悩んだぐるぐる線の隣に添えるように、癖のある字が。]
(-13) 2018/09/27(Thu) 13時半頃
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[クラフト用紙の封筒に、白い便箋。 相変わらずのシンプルさにほんの少しのコーヒーの香りを添えて、その手紙はあなたのもとへ。 封筒の表面には「メイさんへ」、裏には小さく「祝宮」。]
(-14) 2018/09/27(Thu) 18時頃
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メイさん
こんにちは、祝宮です。 手紙も日記も紙として積み重ねていくものだから、明日は今日より1日分多く読める。 そう考えると、なんだか楽しい気がしますね。
蜜蜂のコーヒー、口に合ったのなら良かった。 私はあまり甘いものは食べないんだけれど、メイさんのおすすめなら今度タルトも頼んでみようと思います。
院内は広いから、散歩にはちょうどいいですね。 今の時期だと、そろそろ中庭に金木犀が咲いているかもしれません。 未知のものに親しんで触れられるきみは、きっととても賢い子なのだろうと思います。 今日も明日も明後日も、きみが積み重ねてきたものとこれから訪れる未知が楽しいものであるように。カウンセリングルームから願っています。
祝宮
(-15) 2018/09/27(Thu) 18時頃
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[明けない夜は、ないらしい。 醒めない夢も、ないみたい。
夢と知っていたならば 昔の人は、そう、うたったんだって。]
[じゃあ 今もまだ眠っている男の子は、どうなんだろう。 八国メイが、炎の色の、少し前を忘れてなかったら たぶん、そうやって、お姉さんに聞いたりもしたのでしょう。]
(16) 2018/09/27(Thu) 21時頃
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[一度だけ この病院で、一つの病室の前に立ち止まったことがある。 お姉さんは、知ってる? って、聞いてきたけど メイは、知らないって答えたの。
「宇都木 千秋」
そのプレートを指さしたお姉さんは そっか、って。やっぱり、困ったみたいに、笑ってた。]
(17) 2018/09/27(Thu) 21時頃
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[朝が来ても、夢見てなくても 真っ白い天井を見ることがなかったら 明けたって、言えるのかな。 メイとおんなじ、いっつもにこにこだった子が メイの腕を引っ張って、カチ、って音に背中向けて走ったことも。
今日の八国メイは知らないで。
知らないで、窓の向こうを眺めて 知らないで、届いてたお手紙を握りしめて。 知らないで、──あの日、歌えなかった歌を。]
(18) 2018/09/27(Thu) 21時頃
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にじの とんねる くーぐーったー らー
おーれーんーじー いーろ のー
……何だった、かなぁ。
[なんとなく、知っている気がした。 アタマで考えたらわかんないや。 うんうん、アタマを傾けて お空の色を、見上げた。
四角くないお空、でも、建物がいっぱい並んでて 広い様で、狭い。]
(19) 2018/09/27(Thu) 21時頃
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……。
[ ぐしゃぐしゃの紙が、 こんなにしっかりした状態で返って来たんだ、 どこかの大人のところに行ったんだろう、 とは思っていた。
メモにも、そうある。大人としてのお節介。 後悔しない選択を、と。
私には、選べるほどの 選択肢があるのだろうか。]
……わかんない。
[ わからない。わからないけれど。 今は見えてないだけかもしれないし、 案外他にも道があるのかもしれないけど。
とにかく、お礼は書かないと、と思った。]
(20) 2018/09/27(Thu) 21時頃
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[クラフト用紙の封筒に、白い便箋。 ほんの少しのコーヒーの香りを添えて、その手紙はあなたのもとへ。 表には「逃矢メルさん」、裏には小さく「祝宮 碧」と宛名書き。]
(-16) 2018/09/27(Thu) 21時半頃
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退部届、ありがとうございます。 お見苦しいものをお見せしました。
後悔しないように選べたらと思います。 難しいですけれど。 逃矢メル
[ クローバーのワンポイントの描かれたメモ書き、 女の子らしい文字で、ところどころインクが溜まっていて 迷いながら書いた様子がわかる。]
(-17) 2018/09/27(Thu) 21時半頃
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メルさん
こんにちは、祝宮です。 わざわざ返事をありがとう。 そして、今までよく1人で頑張ったね。
カウンセラーはクライエント(患者)に何かアドバイスしたり励ましたりする立場ではなくて、ただきみの食道で縺れて絡まってしまったものを解きほぐす手伝いをする。 本当にそれだけなのだけれど、今のきみにはそんな交通整理役がいた方がいいかもしれない。 今ひとつだけ言えることは、きみの感情は全て抱いて当然のもので、誰かに否定される謂れはない。そんなところかな。
コーヒーくらいしか出せないが、いつでも気軽に来て欲しい。 気が向いて、身体の方も無理のないタイミングで。
祝宮
(-18) 2018/09/27(Thu) 21時半頃
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[いくつかの手紙と、手紙ともいえない何かを書き終えて。 読めなかったはじめの一文字は“逃”だったこと、はじめましての要らない書き出し、希望、願い。 停滞していた日常は、たった数日で目まぐるしく変化したように感じられる。]
……あいつ、大丈夫かな
[ふと、一期崎からの手紙はどこか思いつめたようにも見えた一枚が最初で最後だったことに気づく。 まあ多分、うちに担ぎ込まれたという話は聞いていないから大丈夫なんだろう。恐らく。きっと。]
(21) 2018/09/27(Thu) 21時半頃
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[ たった一枚のメモを書くのに、 やたら悩んでしまった。 ありがとうございますは当然としても、 向こうはどこまで私のことを知ってるかわからないし、 そもそも、大人といっても医者か見舞客か患者かも わかったものじゃないのだ。
だから、そこまで。 がんばります、とは書けなかった。 頑張れるかもわからない、この現状では。]
[ リ・ジアン様が夢とか御伽の類なら、 この退部届は、現実そのものだった。]
(22) 2018/09/27(Thu) 21時半頃
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[ 封筒を取り出す時に一緒に出て来た 他の封筒や紙片をいくつか並べて、眺める。 今日は随分いっぱい来るなあ、思いつつも ひとつひとつに返事を書くのは楽しいもの。
最初に目についたのは、手帳の切れ端。 ラッキーな貴方。名前は無いけど、以前もこの紙だった。]
……最後、かぁ まあ、見舞客だって言ってたし…ね
[ ここに来なかったら私のこの手紙も届くかどうか。 運次第。運次第だ。最初から、そういう関係だった。
あなたのことを深く知ることは無く、 きっとこれからも無いのだけれど。]
(23) 2018/09/27(Thu) 21時半頃
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父の方のpere へ
返事ありがとう。 それなら私からもこれが最後かな。少し名残惜しい。 元々は海からじゃなくて、自分の名前からの mer、なんだけれどね。
最近は何故か手紙がよく出回っているから、 退屈しのぎには事欠かない気はする。 リハビリも頑張らないとだし。
多分私はその子よりは年上なんじゃないかな。 私はよく、包帯に落書きをされに行ってる感じ。 小児病棟には、そこまで詳しくないよ。
そう、喫茶店、蜂蜜が美味しいの。 期間限定タルトは私はまだ食べてない。良いなあ。
(-19) 2018/09/27(Thu) 22時頃
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何かの参考になったならありがたい。 私には、気を遣わなくても。気持ちで充分。 pereも忙しいのだろうし、色々事情があると思う。
ただ、まあ、そうだね もし病院内で、両足に落書きだらけの包帯をした 車椅子の女の子を見かけたなら、それはきっと私だ。
それじゃあね、pere。 いつかまた何かの縁があったら。 mer
(-20) 2018/09/27(Thu) 22時頃
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[ 名乗るのが恥ずかしいといった意趣返しのように、 merは何度もpereと呼んだ。
相変わらずの字と一緒に、四つ葉のクローバーの絵。 黄色の封筒に、良いことがありますようにと願いを込めて]
(-21) 2018/09/27(Thu) 22時頃
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[ ひとつ書き終えて、次の封筒を開く。 前回とは違う封筒だけれど、開ければ あちこちに可愛い花が描かれた便箋と、 あの子らしい、丸っこい字。
それと、はじめましてから始まらない文面。 その事実が、なんだか嬉しかった。]
もしかして、今なら会っても はじめましてじゃないのかな。
[ レターセットから便箋を一枚取って、 お返事を早速。]
(24) 2018/09/27(Thu) 22時頃
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めいちゃんへ
こんにちは、メルです。お返事ありがとう。 こうやってめいちゃんとやりとりが出来るの、 私もとっても嬉しいです。
思い出してくれてありがとう。 お手紙、やっぱり形に残るものだから、良いですね。 ……多分、私の包帯のどこかに、吸い取っちゃった めいちゃんの記憶があるんじゃないかな。なんてね。
素敵って言ってくれて良かったです。 ううん。それじゃあ、今回の秘密は、 私は結構、本を読むのも好きだって事にします。 入院中はどうしても暇なので、読書がはかどります。 ハッピーエンドの、幸せなお話が特に好きですね。
(-22) 2018/09/27(Thu) 22時半頃
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[あれは小学校中学年の頃だろうか、 国語の授業の為に辞書が必要になった。
大切に使うようにと買い与えられたのは一冊。 クラスを分けられてしまう双子には、それで充分だった。 真新しい沢山の言葉が詰まった本は、 まだ幼い子供にとってはとても魅力的で。 隣に座って覗き込む君と顔を並べ、 私たちの名前を探して頁を捲ったことをよく覚えている。
類は似たもの、まとめられたたぐい 怜は賢い人、聡いこと
そっくりな二人の名前の意味は、大きく違う。 ▇▇▇▇▇なのにって、なんだか嫌だって 君は自分のことみたいに拗ねていた。]
(25) 2018/09/27(Thu) 22時半頃
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