239 ―星間の手紙―
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[それは、懐かしいアルバムだった。 軋む機械の指先で、想い出の詰まったページを 一枚一枚、捲っていった。
生意気な笑顔を浮かべた茶髪の少年がいた。 昔の、自分だった。
幼い頃、クリスマスとの写真。 無邪気にピースする、少年と少女。 そういえば、この頃はクリスマスの方が背が高かった。
彼女の背を抜かしたのは、いつのことだっただろう。 彼女を見下ろすようになったのは、いつからだったろう。
……こうなった今は、 彼女の腰ほどの背丈しかないけれど。
幼馴染に送ったメッセージの返事が怖くて、 次のページへと進んだ]
(11) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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[ステラと写った写真があった。 彼女の頭に生えている耳のような触覚が、 嬉しそうにふよふよと弾んでいた。
その彼女の頭を、茶髪の少年が撫でていた。
あの頃は軽く撫でられたけれど、 今はきっと、機械の腕を精一杯伸ばして やっと彼女の頭に届くのだろう。
触覚のないこの機械の手では、 彼女の白い髪の柔らかさを感じることも、 もうないのだろう。
いつも隣にいた彼女の温かさを感じることも、 もうないのだろう。
それが、とても悲しくて、寂しくて。 名乗る勇気のない自分が不甲斐なくて。 男はまたひとつ、ページを捲る]
(12) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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[リザの手料理を口いっぱいに頬張る、 茶髪の少年がいた。
美味しそうで、幸せそうな顔をしていた。 口も味覚も、失われてしまって。 もう彼女の料理を味わうことは、できない。
それでも確かに、 幸せな時間が確かに其処にあったことを
その写真と、 男の脳味噌に刻まれた記憶だけが 証明していた。
男はまたひとつ、ページを捲る]
(13) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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[パイロット候補生たちの写真があった。 今よりも若いキャンディや、アンタレスの姿に混じって 茶髪の少年が屈託なく笑っていた。
皆が皆、宇宙《ソラ》への憧れに燃えていた。
小突き合い、笑い合う候補生たち。 写真に写っている何人かは、 宇宙《ソラ》へ飛び立ったまま帰って来なかった。
アンタレスは、運が良い男なのだ。 今戦っているキャンディも、明日は、分からないのだ]
………………………。
[男は、しばらく黙っていた。 自分の前にある道が平坦でないことくらい、 よくよく分かっている]
(14) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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[脳味噌の浮いた水槽を、コツコツと 機械の指で何度か弾いてから]
キャンディ、 今ヨリモ化粧薄インジャネーノカ。
[茶化すように言って、アルバムを閉じた。
そこで、ようやく気付く。
画面の中のルシフェルが、 新着のメッセージが数件あることを 男に伝えていた。
ずいぶんと長く、想い出に浸っていた]
(15) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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(-14) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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ヨオ、ピスティオダ。
ナンダヨ。オマエモカ。 玉ナシドウシデ歓楽街ニ 女漁リニイッテモ仕方ネーナ。 傑作ダ、ハハハ。
ピクニックニ行クカ? アンタトフタリデピクニックタア ムサクルシクテ敵ワンガナア。
マー、コンド会ッタラユックリ 腰デモ落チツケテ喋ロウ。
スッカリ酷イナリダガ 口ダケハ達者ニ回ルンダ。 ___________________
(-15) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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アノヨ、実ハナ。
リハビリツイデニ パイロットニナルタメノ訓練ヲ 始メヨウト思ッテイルンダ。
バカダロ、俺。
凝リモセズニ、マタ宇宙《ソラ》ヲ 飛ビタクナッチマッテナ。
“オマエナラ何カシラ、モギ取ッテクル”
アンタノソノ言葉ヲ信ジルコトニシタヨ。 ___________________
(-16) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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イイ報告デキルヨウニ セイゼイ頑張ルヨ。
マー、ホドホドニ応援シテクレ。
ジャアナ。 ___________________
(-17) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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END ___________________
(-18) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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[赤髪の元同僚には、 昔のように下品の言葉遣いでメッセージを送る。
お互いの不幸を笑い合うぐらいが 自分たちにはちょうど良いと思った。
同情し合うのなんて、らしくないと思った]
ソウダロ、アンタレス。
[窓の向こう、砂嵐のさらに奥にある 紺碧の宇宙《ソラ》を、じっと見つめた。
彼らが焦がれたものがそこにあった]
(16) 2018/04/28(Sat) 16時半頃
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[続く新着メッセージを開く。 キャンディからの通信を、聞いた。
煽るようなその口調の裏に、 優しさと気遣いが見え隠れしていた。 それに気付かぬほど、男は鈍感ではなかった。
――― 宇宙《ソラ》に戻ってこい。 ――― そこで終わるくず鉄じゃないだろう。
痛いほど、そのメッセージは伝わってきた。 しかし、だ。それにしたって]
モウチョット、 言イ方ッテモンガアルダローガヨ。 可愛クネーヤツ。
[ぷんすこと端末を操作して、言葉を吹き込んだ]
(17) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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(-19) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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Fu*k'nクソピンク。
脳味噌ダケニナッチマッタッテ 言ッタダローガヨ。
茶髪ナンテモウネエンダヨ。 新シイ仇名デモ考エトケ、ボケ。
コッチハ荷造リデ大忙シダ。 安心安全ナ地上勤務トハコレデオサラバダヨ。
ソノ調子デ、テメーノ自慢話ガ 毎日ノ如く延々ト送ラレテキテモ 参ッチマウカラヨ。
……俺モ宇宙《ソラ》ニ戻ロウカト思ッテナ。 ___________________
(-20) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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デ、ダ。 訓練ノタメニ、基地離レルコトニナッタ訳ダ。 マタイチカラ候補生ノヤリ直シダヨ。 アーソウダヨ。 俺ハ悔シイカラ飛ンデヤルンダ。悪イカ。
テメーノ何千モ何万倍モ、俺ハ 宇宙《ソラ》ヲ愛シテイルンダ。
エースパイロットノ名ハ 俺ニコソ相応シインダヨ。 分カッタカ! ___________________
(-21) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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アー、ソレトナ。 後悔シソウダカラ言ッテオク。
一度シカ言ワナイカラ 耳ヨクカッポジッテ、聞イテオケ。 ___________________
(-22) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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[明日がどうなるかなんて、 誰にも分からないのだから。
だから伝えずに後悔しないように、 男はそれを口にした。
音声加工ソフトを、起動する]
(18) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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ピ―――…… ザザザ、 ザ ___________________
(-23) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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ピスティオ=エスペラントという男は、 てめーをとても尊敬していたよ。
キャンディのテクニックに、憧れてた。 キャンディというパイロットが、大好きだった。
てめーを超えてやるって その背中をいつだって追っていたんだ。
だから、よ。 俺がてめーに追いつくまで ぜってーに死ぬんじゃねえぞ。
また俺が宇宙《ソラ》に帰ってくるまで、 そこで、待っていてくれ。 約束だぞ。 ___________________
(-24) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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END ___________________
(-25) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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アー……。
[返信を吹き込み終えてから、 男は頭……ではなく水槽を抱えた]
ツイニ本音ヲ言ッテシマッタ。 トテモダサイ。ハズイ。
[キャンディにそのようなことを 伝えたことは、もちろんなかった。
らしくないなあと、 キャンディは笑ってくれるだろうか。 それとも――……]
(19) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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/* ピスティオがけっこうモテているのだろうかどうだろうか
(-26) 2018/04/28(Sat) 17時半頃
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/* うおう、誤字多いなあ……。 読み返して恥ずかしくてくるまる。ごめん。 ちゃんと推敲しようねーーー。
(-27) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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― 星間船『赤い蠍』 ―
[自動操縦に切り替えての、安定航行中。 客室をモニタで確認すれば、くつろぐ乗客達に、ロボットが飲み物をサーブするのが見える。 よくあるタイプの家事ロボットの、客室乗務員バージョンだ。 ゼロから工場で作られた、純然たる機械製品。
リザには返事をできないまま、仕事に出てきた。 どうすれば、これ以上彼女を悲しませずに済むのか、わからないまま]
ポイントB244-6-3通過。
[とにかく、今は航行中。 システム任せの状況とはいえ、気を抜くわけにはいかない]
針路1、A相対速度228、時刻予定通り。
[何事も無いのが当たり前。それを当たり前にするために、気を張る仕事。 今のところトラブルが無いことを確かめて、ほっとする。 だが、その日は――]
(20) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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[船の警戒システムと、宙域警備隊からの緊急通信。 ふたつのアラームが奏でる不協和音が、コクピットの静寂を突き破った]
こちらRS701『赤い蠍』船長。
[計器を忙しく目で追いながら、警備隊からの通信に応答する。 広域モニタ上、こちらに接近しつつあるいくつかの光点を認め、表情を険しくした]
……宙賊。
[狙いは確実にこの船だ。 今回の積み荷には、貴重な物品が含まれる。 賊がそれを知っているのか、それとも輸送船なら何でも良かったのか。
つい昔の癖で迎撃システムを探ろうとするが、この船にその機能は無い。 今できるのは]
(21) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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『これより迎撃態勢に移ります。 船長《キャプテン》アンタレス、貴船には、最寄りの港への退避を願います。 ルートを表示します』
[クルーの登録情報は渡っているらしく、名を呼んでくる若々しい隊員の声は、どこかピスティオに似ていた。
今できるのは、逃げること。 乗客が巻き込まれぬように、警備隊の足手まといにならぬように。
そして、示された退避ルートを通信モニタで視認して、口の端をつり上げた]
……おいおい、ずいぶんと買いかぶられたものだな。
[賊機を避け、デブリや小天体を躱し、最速で港へ向かう複雑なルート。 安定第一に設定された航路を行き来してきた身には、久しぶりのスリルだ]
(22) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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怯えながらも手回し良く準備をしている副操縦士から、アナウンスの権限を受け取った]
乗客の皆様に、船長《キャプテン》アンタレスよりお知らせいたします。
当船の航路上に、デブリ帯の発生が確認されました。 これより、目的地を『スモール1』に変更し、回避ルートを航行いたします。
揺れることがありますので、お席にお戻りの上、セーフティベルトの着用をお願いいたします。
[賊であることは伏せる。 乗客には気づかれないくらいに、安全に抜けてみせる。
戦闘機乗りになったとき、死ぬ覚悟も、もっと酷い目に遭う覚悟もしていたつもりだった。 ピスティオにはそう言った。
でも今は、絶対に死ぬわけにはいかない。 乗客の誰ひとり、かすり傷ひとつつけさせない。
船長《キャプテン》アンタレス。 元エースの噂が、少しでも乗客を安心させられればいいと思いながら、操縦桿を握った]
(23) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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― 数時間後 ―
はー…………。 おつかれさん。
[『スモール1』の宇宙港。副操縦士と並んで座り、ふたり揃って大きなため息をつく。 自販機で買った温かい飲み物が、喉にしみいる。
あれから無事に退避して、乗客に改めて事態の説明をして、宙域警備隊から撃退完了の連絡を受けて、本来の目的地に向かう段取りを本社と打ち合わせて、その予定を乗客に知らせて、燃料補給と整備の手配をして、その他諸々をようやく終わらせたところ。
己の掌を、じっと見つめる。 スリルの無いのが一番の仕事だと、キャンディには言った。 でも今、どこか高揚してしまっている自覚はあった。 自分だからこそ、切り抜けられたと]
(24) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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[首を振る。
自分が命を落としても、おそらく、エデンでの知己たちがそれを知ることは無いだろう。 いつまでも返信が無いことで、もしかしたら察してくれるかも知れないが。 知ったら、あのひとは、また]
……そろそろ行くか。 今日は遊べなくて残念だな。
[茶のような何かを飲み終えると、副操縦士を促して立ち上がる。 顔を覗かせかけた戦闘機乗りの本性はひっこめて、輸送船の船長兼操縦士の姿で]
(25) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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― 惑星YB97 ―
[予想外のトラブルで大幅に遅れたものの、星間輸送船『赤い蠍』は無事目的地に入港した。 雇い主の手配してくれた宿で、とりあえずシャワーを浴びて、ベッドに身を投げ出す]
…………。
[寝そべったままの姿勢、携帯端末で『ルシフェル』を起動する。 ステラからの通信に、窓の外を見上げた]
(26) 2018/04/28(Sat) 18時頃
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