266 冷たい校舎村7
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―2階:放送室―
[聞き覚えのある声がした。
いや、たった1日聞いていないだけだけれど、 その声から逃げるように 紫苑が転がり込んだのがこの部屋だった。
居るはずがない。 それでも、イヤホンを取り出したのは 単純にそれが手っ取り早かったから。
いつも通りにイヤホンを耳にはめて、 いつも通りにその向こうに耳をすませた。
それが間違っていた。 いや、とうの昔から、間違っていたのかもしれない。]
(422) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[――雑音が聴こえる。
いや、聴こえるなんてもんじゃない。 右耳から飛び込んできた 暴力的とも言える音の奔流に 紫苑は短い悲鳴を上げて仰け反った。]
(423) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[しかも、よりにもよって。 吐きそうになって、口を手で押さえた。
耳を劈くような音量で イヤホンから聞こえるのは、あの夜の音>>62だった。
生々しい音をまといながら、 自分以外の男の名を呼ぶ 甘ったるい、媚びるような声。
紫苑は首を振る。 やめてくれ、といつかのように叫んだ。 音が止むことは無い。]
(424) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[イヤホンが外れない。 まるで身体の一部になったみたいだ。
鼓膜を直接掴まれて、 振り回されているような不快感に 紫苑は力なくその場に座り込んだ。]
(425) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[雑音に脳が焼かれる。 きっと、雷に打たれるってこんな感じなんだろう。 思考も、視界も、何もかも。 ぱちぱちと白く塗り潰される。融ける。
唇が戦慄く。ぐるりと視界が反転する。 絞り出した声は意味を成しておらず 紫苑は潰された蛙のような声で呻くことしか出来ない。]
(426) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[鮮明な雑音の中で、 はるちゃんは嬌声を上げている。
吐き気を覚えると同時に、 それでも、彼女の声に聞き惚れてしまう 自分もいた。
俺の名前を呼ぶ声が好きだった。 熱心に何かを話す横顔が愛おしかった。
瞼が熱い。頬を何かが伝った。]
(427) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[はるちゃんのことが大好きでした。 未練がましい恋慕を、この場所に置いて逝く。]
(-107) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[柊紫苑は空気が読めない。
目を見て察するなんて出来ないし、 いくら耳を澄ませても、 聞きたいことは耳に入ってこない。
けれども、わかる事だってある。]
(428) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[少なくとも、俺は。
君のことを、愛して――。*]
(429) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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―8時50分―
[2階の放送室。その扉は開け放たれている。
文化祭の裏方の部屋。 延々とJPOPを流し続ける狭い部屋の片隅で、 右耳にイヤホンをしたマネキンが 壁に力なくもたれかかっている。
目立った傷はない。パッと見ただけなら 眠っているようにも思えるだろう。
その白い頬には、赤い筋が走っている。 両目から血の涙を流すようにして マネキンは床を見つめている。]
(430) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[耳に着けているイヤホンに手を伸ばしても、 持ち主に奪い返されることは無い。 聴くことだって容易だろう。
あぁ、でも、止めておいた方が いいかも知れない。
片耳だけのイヤホンは最大音量になっていて、 周波数の合わないラジオのような雑音と 脈絡のない生活音が混ざりあって 不快な騒音を奏でているだけだ。]
(431) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[本を捲る音、足音、笑い声。 テレビの音、ドライヤーの音。
或いは、ぺちゃ、と水が跳ねるような音とか、 走ったあとのような荒い息遣いとか、 頬を何回も叩くような音とか。
雑音と、生活音と、何かの音。 深く考えない方が――分からない方が幸せだ。]
(432) 2019/06/13(Thu) 23時半頃
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[耳を劈くような音量で鳴り響く雑音たちに、 マネキンは静かに耳を傾けている。
無表情に、赤い涙を流しながら。**]
(433) 2019/06/14(Fri) 00時頃
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/* 好きですね 好き
(-110) 2019/06/14(Fri) 00時頃
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