18 Orpheé aux Enfers
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スティーブンは、練習室Aの扉を、そっと閉めた。
2010/09/07(Tue) 01時半頃
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―練習室A―
[扉が自分の背中のほど近い場所で閉まる。 空気を圧迫するように閉まるその感触は、まるで何者かに閉じ込められたかのような感覚に似ていた。]
いいえ、お気になさらず。
大丈夫ですよ。
(@23) 2010/09/07(Tue) 02時頃
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大丈夫です。
……開いてなんか、いませんでしたから。 [――己は嘘をついた。 扉を開ける前に、誰かに見とがめられることへの恐れと、それに伴う罪悪感を振り払う為の嘘を。]
(-98) 2010/09/07(Tue) 02時頃
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―練習室A―
開いていたような、そうでもないような。
[曖昧に微笑む。]
まあ、そんなことはどうでもいいと思います。 外には音が漏れていませんでしたから。
大切なところは、そこでしょう?
(@24) 2010/09/07(Tue) 02時頃
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―練習室A―
……そうですか。
[ふと、小さく微笑む。]
曲と向き合い、没頭する……それは素人目には素晴らしいことのように見えるのですが、プロを目指す方にとってみれば、違うのでしょう。
確かに、オーケストラはひとりでプレイするものではありませんからね。
[外の足音は聞こえない。 ――だから、一切の嘘を捨てて「本題」に入ることにする。]
ところで、あなたが僕を呼ばれたのは何故でしょう?
(@25) 2010/09/07(Tue) 02時頃
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スティーブンは、練習室に置いてあるピアノの椅子に腰掛け、背もたれに肘をかけてベネットを見上げた。
2010/09/07(Tue) 02時頃
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いいえ、残念ながら聴いておりません。
[見上げる視線に、微かな揺らぎが生じる。]
――…迷子? 自分の音が正しいかどうか……ですか。
(-101) 2010/09/07(Tue) 02時頃
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……良いのですか? 煙草は肺に悪い……ということは、まあ僕がご説明申し上げなくてもおわかりでしょうけれども。
[煙草を1本取り出し、手渡す。 横目でそっとベネットの表情を覗き込む。]
ですが、火は差し上げられません。 ここが練習室であるということが、理由のひとつではありますが。
(@26) 2010/09/07(Tue) 02時頃
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……「夢」?
(-104) 2010/09/07(Tue) 02時頃
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スティーブンは、首を傾げて、ベネットの目を覗き込む。
2010/09/07(Tue) 02時頃
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>>159 ……僕にそれを止める権利が無いのは知っています。
[自分の指先から離れる煙草を見つめて呟く。]
ですが、何故でしょうね? 奇妙なことに、止めたくなるのです。
身体に良くないとか、そういう意味合いではなく。
……おそらく、もっと別の理由で。
(@27) 2010/09/07(Tue) 02時半頃
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でしたら、なおさらですね。
……ほんの一瞬だけ夢に包まれたら、後は頑張れるというのは、本当ですか?
(-106) 2010/09/07(Tue) 02時半頃
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スティーブンは、厳しい目でベネットを見上げた。
2010/09/07(Tue) 02時半頃
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ベネットさん。 それは一瞬の夢を見せてくれる、魔法のクスリではありません。
どこまでいっても現実の世界しか見せてくれない、ただの焦げた葉っぱのかたまりです。あなたに美しい幻想を見せてくれたりはしない。
……吸えばわかります。
[ポケットから安いライターを取り出し、くるりと回す。]
そして、その「火」を僕から借りてしまっては、意味がないことにも。
(@28) 2010/09/07(Tue) 02時半頃
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あなたは僕のクライアントではないから、 少しだけ踏み込んだ話をしましょう。
[煙草の箱を取り出し、1本の白い棒を引き抜いた。]
あなたは何故、僕からこれを得ようとしたのですか?
何故、自分で煙草を買わなかったのでしょう? 何故、自分で火を手に入れようとしなかったのでしょう?
……「そこに喫煙者である僕が居たから」。 そう言ってしまえば一見ひどく簡単な話に見えますが、実際はそうではない。
あなたは僕の手を借りて、自分だけの世界に逃げようとしている。決断することもできず、自分を変える一歩を他力本願でどうにかしようとしている。
……違いますか?
(@29) 2010/09/07(Tue) 02時半頃
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……「本当にしなくては」?
[眼鏡の奥に潜む眉根が、ぴくりと動く。]
つまりそれは、「本当にはできない」ことと同じだ。
あなたは「本当にする」と口で言っておきながら、 その実、「本当にする」気がない。
ただ自分に都合の良い「夢」の中に逃げ込んでそれで終わりにしようとしているだけだ。違いますか?
(-110) 2010/09/07(Tue) 02時半頃
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……その先は?
今だけ夢に逃げて、その先はどうするのです?
(-112) 2010/09/07(Tue) 03時頃
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……とにかく。
[ピアノの椅子の背もたれに肘を乗せ、半身を預けるように座り直す。]
全ての決断を他力本願で行うことについては、 僕は賛成しかねます。
あなたはまだ若いし、才能もある。 だからこそ、その場の感情に流されるべきではない。
ベネットさん。 あなたが見つめるべきは、夢や幻想の類ではない。 「今ここで、何ができるか」……ですよ。
(@30) 2010/09/07(Tue) 03時頃
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あなたがいつか僕に聞いたことに、今お答えしましょう。
あなたは僕が挫折など知らないという妄想をしていたが、それは違います。
学部を出てから博士号を取得するまで、僕は7年掛かりました。 名目上は4年ないし5年で終わるカリキュラムであるというのに、ですよ。 師事する先生を途中で変えてまで。
それでも、僕は僕であり続けました。 僕にしかできないことがあると、信じ続けていましたから。
あなたは今、人生の岐路に立っている。 だから僕は……
(@31) 2010/09/07(Tue) 03時頃
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夢を見せる方法なら、ある程度は知っています。 その焦げた葉っぱの塊を吸わせる以外の方法も。
ですが……それはできません。
当たって砕けるならば、別の方向にした方がいい。
(-114) 2010/09/07(Tue) 03時頃
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>>164 とにかく。 その煙草はお守りとして1本差し上げます。 魔物を払う能力は一切ないですが。
それに火をつけるライターは、あなたが自分で手に入れてください。それくらいの手間を掛けた方が、夢の味は美味しくなるでしょうに。
[呆れたような溜息を吐き、ベネットを凝視する。 延々と続くかのように見えた押し問答の終焉は、意外な形で幕を閉じることになる。]
……え? 外部の学生さんですか? いいえ、特に誰も見ませんでしたけれども。
[そして、目を丸くして、ベネットの方を見る。]
何があったのでしょう?
(@32) 2010/09/07(Tue) 03時頃
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部長……って。あの長髪の…… 確かヴェスパタインさんとかいう方の……ですか?
[その名前がファーストネームかファミリーネームかは分からない。だが、とりあえずそういう名前だったと記憶していた。]
まあ、あくまで「僕が見た範囲では」ではありますけれども。
……って、ああ、そういえば。 0時過ぎると、ここの鍵は、管理人さんか大学職員が持っている鍵カードじゃないと開閉できないんでしたっけ……。
ということは、僕以外には、出入りできる人間はごく少数……ですか。
というか、もし盗難なら、何故スコアブックなのでしょう?メモだらけの楽譜に転売の価値は一切ありませんしねぇ。
(@33) 2010/09/07(Tue) 03時頃
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[眼鏡を外し、レンズについたゴミを息で吹いて飛ばした。もう一度眼鏡をかけ直し、ベネットを見る。]
……どうしましょうか。 盗難だとしたら、立派な犯罪ですけれども。
[目の前に人が居るにもかかわらず、ピアノの椅子に突っ伏して、頭をばりばりと掻き、息を吐いた。]
あー……ああ、ったく。 そういうこと、か。
[低い声で、ぼそりと呟く。 誰にも聞かれないように……とは思ったが、至近距離に居るベネットにはおそらく聞こえただろう。]
これ立派な「問題事例」じゃねえか。 警察に突き出すの突き出さないのって所までやれってか。 ……残業代貰うぞ、お前等。俺は絶対にただ働きはしない。
(@34) 2010/09/07(Tue) 03時半頃
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>>169 ええ、覚えてますよ。
[ベネットを見上げる目が、先ほどまでとはまた異なる類の、鋭いものとなる。]
……まったく、カウンセラー失格ですよ。 そこまでの情報を掴んでおきながら、何もしなかっただなんてね。もう少し背後の事情を聞いておけば良かった。
(@35) 2010/09/07(Tue) 03時半頃
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>>170 ……というわけで。 「僕」の「役割」は、まだまだ続くようです。
もちろん僕は探偵でも何でもないですから、事件を解決するなんてことは一切できません。「そんなモンはお前等でやれよ」、というのが僕の意見の全てです。
ですが…もしこれが本当に盗難事件だとしたら。 事件をしでかした「当事者」が見つかった後をどうしましょうね?という問題が発生します。
[スティーブンが「犯人」という言葉をわざと使わなかったことに、ベネットは気付いただろうか。]
「当事者」を警察に突き出しますか? それとも、和解しますか? もしそのままオーケストラを続けるとしても、何のケアの無いままに継続できますか?
……などなど。問題は山積です。 そして、そのおはちは絶対に僕に回ってきます。 困ったことに、僕は学生相談室の担当なもので。
(@36) 2010/09/07(Tue) 03時半頃
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[ところどころに傷跡のある漆黒の椅子から立ち上がり、溜息をつく。そして、今度はベネットを見下ろす形で顔を覗き込む。]
……落ち着いてください。 今あなたが狼狽えてどうするんですか。 「厄介事担当窓口」さん。
[拳でこつりとベネットの頭を叩く。]
僕は構いませんよ。 どうせこの話も「学生自治」でどうにかしてもらいますから。
僕ができることは、その解決に寄り添うことだけ。 必要ならば、事の発端となった「当事者」さんとお話しすることくらいは視野に入れておきますが。
まあ、普段はそれなりにお金をいただいておりますけれども、今回は酒の数本で手を打ちましょう。
(@37) 2010/09/07(Tue) 03時半頃
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>>173 まあ、ここだけの話……格安ではございますよ? 何せワタクシ、場所が場所なら、大学生のコンビニバイト8時間分のギャラをたった50分で稼げる職種に就いてますからねぇ。
[ベネットからの視線が、強烈に痛い。]
……冗談ですよ。金額以外は。 どうせ内部の問題として、タダ働き……いえいえ、僕の仕事のうちとして処理されますよ。
だから。
(@38) 2010/09/07(Tue) 04時頃
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このオーケストラを崩壊させないこと。 メンバーの心をバラバラにしないこと。 あなたたちにとって最高の音楽を、このオーケストラで奏でること。
あなたたちのゴールはそこであり、決して「犯人探し」ではありません。 どうしてもここは忘れがちだから、今のうちに叩き込んでおきます。
……もちろん、部長さんにもね。
(@39) 2010/09/07(Tue) 04時頃
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ええ、いってらっしゃい。 僕のことはお気遣いなく。好きでここにきたのですから。
[冗談めいた表情で笑ってみせる。]
(@40) 2010/09/07(Tue) 04時頃
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……もちろんそれは、あなたを含めてのことです。 あなたがもやもやとした感情を引きずったまま演奏をしても、辛いだけでしょう?
全てが落ち着いたら、あなたの「音」を一度聴かせてください。 指揮者や周囲の人の中のしがらみから解放された、あなたにしか出せない、あなたの「自由な音」をね。
(-129) 2010/09/07(Tue) 04時頃
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[ベネットが去った練習室で、小さく溜息をついた。]
……さて、と。「俺」はどうしようか。
[右手の甲を見つめて、ぐっと手を握った。]
なあ、ベネット君。 俺は君を全て丸抱えして、だるっだるに甘い幻想を与えて甘えさせてやれば良かったか?そして一時的にパーフェクトな夢を君に見せてあげれば良かったか?
あいにく、俺はそういう流儀じゃない。 だから、夢や幻想に甘える「鍵」は、半分だけ渡しておいた。だから、残り半分は自分で探してくれ。
とはいえ、それ多分、俺の「仕事」じゃないだろ。無茶振りにも程があるだろうに。分かってんのかねぇ、そこのところ。
それにしても……。
[自分ではろくに鳴らせないピアノに寄り掛かり、眼鏡を外して天井を見上げた。]
……俺も馬鹿だな。**
(@41) 2010/09/07(Tue) 04時半頃
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サイラスが垣間見たであろうメールの着信履歴。
Jelemiah Bennett Jelemiah Bennett Jelemiah Bennett
同じ名前が幾つか続き、
[steven_obrien@***.ac.**:メール転送システム] [steven_obrien@***.ac.**:メール転送システム] [steven_obrien@***.ac.**:メール転送システム]
そして、その合間に、消し忘れたスパムメールが幾つか入っていた。
(-163) 2010/09/07(Tue) 12時半頃
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−回送:>>187−
そうですか?アルバーンさん。
[窓枠に手を掛けて、音楽を聴くサイラスの表情を見つめる。歳の離れた弟を見ているような心地を思い起こさせるな、と感じながら。]
僕には音楽の良し悪しが区別できませんから。 それも友人に教えて貰ったものですし。 聴いてて落ち着くとか、少しだけ楽しくなるとか、そういう音楽があってもいいのかな……なんて思うのは、僕が素人だからですね、きっと。
(@42) 2010/09/07(Tue) 13時頃
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……ええ、とても。
人を好きになるというのは、ままならないものです。
(-164) 2010/09/07(Tue) 13時頃
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