212 冷たい校舎村(突)
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[ ……ほんとは、 開けた 隣の教室も、その隣も。 みんな、同じ状態だった なんて。
言わなきゃ、見なきゃ、わからない。 ひみつ ひみつ。*]
(344) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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[不幸中の幸いだったのでしょうか。 空き部屋の黒板にびっしりと埋め尽くすように目の絵が描かれていること>>15ことに気付かなかったことは。
美術準備室に入る前は剣呑な色さえ見せて理一を見ていた私も、すっかり毒気が抜かれてしまったような穏やかな表情をしていたことでしょう]
うん。そうだね。 ささらちゃん、ちゃんと笑っててよかった。 無理したりとか、そういう風な笑顔には見えなかったから。
帰るのが正解……か。 じゃあ、帰れない私たちは何なんだろうね。
[ぽそりと呟きながらも校舎にふんわりと漂う甘い匂い、それにも私はようやっと意識が傾いて。
那由多と蝶美に任せてしまったことが気にはなりましたが、私が今出向いてもやれることはきっとないと思います。
だから、話の続きはそこでいいかな、と思った私は頷いて二人揃って家庭科室に向かったでしょう]*
(345) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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― 3階空き教室 ―
[床を踏む感覚が遠い。
俺は今、ちゃんと歩けているか。 あぁ、普通に歩くってどうやってたっけ。
棘を手のひらで転がし、かすかな痛みに まだ感覚がなくなっていないことを確認しながら、 人目につかないところを探して歩く。
ふと、文化祭のときにサボっていた空き教室が目に入った。 ここでいいかと扉を開ける。
……無数の目が、見えた]
(346) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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見張ってる…? いや、観察してるのか。
[黒板に書かれていると気づいて、 パーカーの袖で消そうとするが 何度拭いても、軋むほど力を入れても消えない。
諦めて、そのまま、 パーカーのフードかぶって机にうつぶせになる。
そして、軽いうたたねの気持ちで目を閉じた]
(347) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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─家庭科室─
えっ、これ誰が作ったの……?
[そうして理一と家庭科室に向かったでしょうか。 たどり着いた時、広がっていたのは、ふかふかのパンケーキ…ではなく、クリームで飾り付けられたパンケーキ>>278でした。 私は思わず目を見開いて瞬きを数度繰り返しました]
…………かわいい。 いいな。こういうことできるの。 ふわふわ、きらきら、かわいい。魔法使いみたいだね。
[感嘆の声をあげました。 つばさちゃんや莉緒のことやささらちゃんのこともありましたから、あまり大きく騒げはしませんでしたが、パンケーキ製作者の方々を誰かしれば、お礼は言いました。
そういえばまだ何も食べていなかった、なんて今更なことを思い出しながら]*
(348) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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[――風が通った気がして目を開ける。 見れば、窓が開いている。 入ってきた時はしまっていた気がしたが、気のせいか。 それとも他の誰かが来たのだろうか。 でも、ふぶいてると分かっていて、誰が窓を開ける?
きっと今この部屋は寒いのだろう。 だが、その感覚も今の自分にはわからない。
誰かが来たときのために閉めておいたほうがいいだろうと 近づいて、窓に手をかける。
ずるり、手がすべる。
つかめていないことが、目に入るまでの数秒。
ぐらりと視界が回る]
(349) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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[――失敗した。 奈落に 落ちる。 よぎるのは、幼馴染の泣き顔。
――また、泣くんだろうな。
それが、最後の――]
(350) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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[――チャイムの音が鳴る。 3階、空き教室の開けられた窓に ジャージを着たマネキンがもたれかかっている。 全身の表面はぐずぐずにとけ、 髪は五分刈りほどに短い。
片手のひらに腕に巻いたチェーンの 棘のついた球体を握り もう片手は、窓枠をつかみ損ねたように 中途半端に伸ばされていた**]
(351) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[パンケーキを食べてからは、どうしていただろうか。 何にせよ、頃合いを見て、シャワーを浴びてくる、と告げて皆と離れて。それから――]
(352) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[廊下を動いている、小さな影が見えた。]
……なん、だ……?
[宙を浮いている、小さな影。それが、少し先の廊下を曲がっていくのが見えたから。 吸い寄せられるように、誘われるように、その影が消えた廊下の先へ足を向ける。
小走りで廊下を曲がった先。そこには、]
(353) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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……なん、で、なんで、そこに、いるんだ……!?
[そこに浮かんでいたのは、ピンク色の、うさぎのぬいぐるみ。 しかも、それは普通のぬいぐるみではない。俺が見間違えるはずがない。 それは、自宅の、俺の部屋の押し入れにあるはずの……俺が生まれて初めて作った、ぬいぐるみだ。 目の代わりに取り付けてあるボタンだとか、バツ印の口とか、折れ曲がってしまっている左耳とか。何もかも、同じだった。 それが何故かここにあって、数メートル先に浮かんでいる。 こっちの方を向いていたそれは、ふいっとこちらに背を向けて、また動き出した。]
(354) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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まっ、待て!待ってくれ!
[それを追って、走る。
なあ、おまえ、なんでこんなところにいるんだ。こんなところにいて、もし、見られたら、
そんな、危機感。それが他の誰かに見られたところで、俺が作ったものだと分かるはずもないのに。
そうして誘われるまま、そのぬいぐるみを追いかけて入ったのは……ポスター展示がしてある教室。 昨日、三星や天ケ瀬と一緒に入って、スピーカーを調べた教室だ。
そしてそこで待っていたのは、追いかけていたうさぎのぬいぐるみ、だけじゃなかった。]
(355) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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「ああ、やっぱり追ってきたか。 そんなに、こいつを隠したいか?」
[うさぎのぬいぐるみを大事そうに、両腕で抱きしめるようにして持つ、大柄の人物。 それは、どこをどう見ても、]
……俺……!?
[元賀健士郎、だった。そう、そこに立っていたのは、もう一人の自分。 開いた窓を背にして立っているそいつが、“俺”が……うさぎのぬいぐるみを、抱きしめている。]
……っ!
[その光景に、力強く拳を握りしめた。
ああ、ほら。やっぱり、どこからどう見たって。 似合ってないし、不釣り合いだ。 名前にも、身体にも、性別、にも。]
(356) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[――なんて。
数時間前の俺だったら、そう思っていたんだろうか。
「健士郎、こういうの向いてんじゃないか?」>>282
「すごいや、おいしそうーー 任せてよかった!」>>302
脳内に過った、級友達の声。 少しだけ勇気を出したら、色を変えた世界。
握った拳を緩めて、そいつに笑いかけた。]
(357) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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今まで、ごめんな。寂しい思いをさせて。 お前のことを一番認めていなかったのは。 お前のことを一番嫌っていたのは。 お前のことを一番、いなかった方がいいなんて思っていたのは。
きっと、俺だった。
[そこに、ぬいぐるみを抱きしめて立っているのは。 きっと、本物の、本来の俺。かわいいものやふわふわしたものが好きで、 手芸や編み物やお菓子作りが好きな、少女趣味、な、俺。
――俺が今まで、心の奥底に隠し続けて、見えないふりをしていた、“俺”そのものだ。]
(358) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[ぬいぐるみを持った“俺”が、笑い返す。]
「……分かってくれたなら、いい。 まあ、正直……寂しかったし、ムカついていたから、この世界で、殴り殺してやろうかと思ってたんだが。 あいつらに救われたな。 それならこれは、お前にやる。」
[“俺”は、俺の方に歩み寄ると、その手に抱えていたぬいぐるみを差し出した。 俺はそれをそっと受け取って、両手で抱きしめる。 すると目の前にいたそいつは、小さな光の粒になって消えていった。]
(359) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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……ありがとう。
[呟きを落として、窓際に歩み寄る。 ……多分、“こういうこと”があった以上、今回は俺、なんだろうな、と。そんな風に思ったから。
開いた窓の傍に立って、下を見下ろす。 高い。ああ、これは確かに、無事じゃ、すまなそうだ。
でも、お前がいるなら大丈夫、だな、って、兎のぬいぐるみを撫でて。
“外の世界”に、一歩、踏み出した。]
(360) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[――2階にある、ポスター展示をしている教室。 廊下に繋がる扉、そしてその扉からまっすぐ見える窓の一つが、開いている。
もし、その窓から下を見下ろすことが出来たなら、遥か下の方に、1体のマネキンが落ちているのが分かるだろう。 大柄で短髪の、男子の制服を着たマネキンが。 そして、その胸に、両手で大事に抱えるように、ピンク色の、うさぎのぬいぐるみのようなものを抱えているのも見えるだろうか。
そのマネキンから連想した生徒と、うさぎのぬいぐるみ。
その組み合わせを見た君は、似合わない、と。 不釣り合いだ、と感じる――かも、しれない**]
(361) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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