181 アイスソード伝記
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ただ、その言葉を飲み込んだのは。
きみも。と、言われた言葉が、なんだか少し、
──きみの意見は? と
そうはじめて問われたときに感じたものと 似ていたせいだったでしょうか。
(*96) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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酔う かはわかりませんが、 では、無事おかえりになられたら おつきあいします。
[そう出立するねずみには答えて。──お気をつけて、と 街へ向かうねずみらを、小屋に残る剣は送り出した**。]
(217) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[―――ノルデンラーデンの街。
大きな道の隅。酒場の裏。噴水広場。 …それどころか、家の中さえ。 人影は一つも見当たらない]
"みんな死んじゃったかな" "かなり減ってたもんねー" "支配どころじゃなくなったね"
"まあ、幸い荷物はそのままの家が多いみたいだし"
"なんかやばくなる前にゲットして帰ろうー!"
(*97) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[一家が死んだ空き家の裏戸から裏路地へ。 乱暴に書かれた文句が残る壁を伝うように。
小ぶりな酒瓶の端に結わえた紐を口に、 ずるずると引っ張って数匹の鼠は行く。]
[ふいにその内の一匹が鼻を引くつかせて、顔を上げた。]
[―――遠くに、甘いにおいがする]
(*98) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[――――そこで、その鼠の意識は途絶えた]
(*99) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[戸棚の奥から見つけた大きなクッキーと、 チーズを咥えた二匹の鼠が、 いつか家族と友を失い嘆き叫んだ男の家の窓から顔を出す。]
[窓の外から繋がるすぐの雨どいで、 鼠が数匹 泡を吹いて動かなくなっていた]
[鼠の意識はまた途絶える]
(*100) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[大通りの端に積まれた樽の影。 パンを咥えた鼠たちが走る。]
[大通りの真ん中。 誰も居なかった街に、 複数の赤い目は、ようやく人の影を見た。]
(*101) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[それは杖をついて真っ黒なコートを着た、男かと思われた。
…正確じゃないのは、フードを深く被り そしてその顔は 骸骨の鳥のようなマスクで 覆われていたからだ。]
[その恰好を鼠は知っている。 黒死病の患者を診る人間たちの姿に、それは似ていた。
ただ、その人間達が持つ杖と、男の杖の形は少し違うし、 それらよりも少し長い。老人が地面を着くための杖ほどだ]
(*102) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[男はかつん、と地面を杖で突いた。 杖から何か、水のようなものが出た。
ぱしゃりとそれらは地面を濡らすと、 瞬く間に気化して、濁った紫のような色の煙になった。]
[煙は大通りに音もなく広がって
…それを見ていた鼠の意識は そこで途絶えた]
(*103) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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"… ん あ んーー" "なんかやばいかも?"
(218) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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"たぶんきみと同じ武器が 僕らを攻撃してきた"
"どんどん 数が減ってきてる"
(219) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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"なんだろ なんか 水みたいなの" "すぐ 紫色の煙になる"
"吸うと死んじゃう みたいだ"
[少女の肩の上。語る鼠の声から、 少しずつ少しずつ、いつもの賑やかさが減っていく]
[その代りに発せられたのは 言葉にもならない 焦るような念だった。
この鼠は、少女との会話には言葉を多用し、 不明確なものを避ける傾向がある。
言葉にならない不確定な意思というのを発した事は 少女と暮らした数年で 今までかつてあったことがない。]
(220) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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"罠 だったのかもしれない" "きみ、「朝のおしょくじ」は 取りやめよう"
"すぐ 街からにげなきゃ まずい"
[肩の鼠は、街の方を向いたまま。 赤い目を瞬きすらさせず、まるで凍ったように固まっている]
[肩の鼠だけではない。 残った三匹の鼠も、街の方角を向いたまま 固まったように動かない]
(221) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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"―――あれ?"
"おかしい な 出口につかない"
[少しずつ 少しずつ 子供のように高い、早口な声が途切れになっていく]
(222) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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"確か 穴を つたっていけたのに"
"あれ? どこだ"
[あれだけ毎日通った筈の街。 記憶と経験を共有した鼠に、通れぬ道は無かったのに]
(223) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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"ぼくら いま どこにいるんだ?"
[―――鼠の向く方。
街の方角からは、 霞んだ紫色の煙が 音もなく上がっている]
(224) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[小屋に留まる娘の肩に乗るねずみが、不意にとまどったような言葉を発したのは、空にまた陽があるうちのこと。]
やばい?
(225) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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同じ武器
[ねずみ言葉を反復する言葉は、 疑問系にはならなかった。 エアのことだろう。ちり、と嫌な予感があった。]
どんなことをしてくるか わかりますか
[虫に食われたテーブルクロスを広げる間に、 声、そのものに変化があった。]
(226) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[じわ、と嫌な予感がさらに広がる。 それが決定的になったのは、言葉ではなく、──それになりきらないものが届いたという事実だった。]
──── どこに、って
わからないんですか
[問い返す間に、先ほどの焦りが、 病のように伝染してくる。]
(227) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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[ねすみたちは、会話を好んでみえていた。 これまでの五年、質問、不平、思考、 なんでも言葉で交わしてきた。
こんなことは、いままでになく、 なにか、それも急激な変化が、 たった今起きているのに違いなかった。]
(228) 2016/01/25(Mon) 02時頃
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────、
[扉を開けて、外へと小走りに駆け出す。 スカートの黒裾が翻った。
食事会が中止ならその準備も中止だ。
そう判断を下して、そのまま畑脇の納屋に飛び込む。]
… 助けに、いきましょう
[がさがさとためてあるどんぐりや麦を詰めた麻袋、 それにその他の枝などの資材を書き分けて、 前の持ち主がここにおいていったナタを掴み出した。]
(229) 2016/01/25(Mon) 02時半頃
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[助けへ行こうという少女へ、 鼠は答えを返さず、肩の鼠は そのまま少女の肩で固まったように動かない]
[駆けだした少女に 鼠は細い手に力を入れてなんとか掴まった。
鼠が何を言う前に、鉈を掴んだその手を 動かなかった赤い目が、僅かに追いかける]
" うん "
[そこでようやく鼠は僅かな返事を返した]
(230) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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[街へ向かう道を走る少女の肩の上。 ぽつぽつと途切れた音なき声が少女の元に届く]
" こまったな " " みつからない どっち だろ "
" この赤い たてものだったじゃ なかったっけ "
" あ だめだ 川沿いどおりのほうは あいつがいる "
[襲撃者から逃げているのだろうか、 零す言葉は、少女に向けてか]
(231) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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" かずが たりない "
" ご、 ろく、 、 …いっぱい、"
" いっぱいしんだ "
[……それとも、それを考えることも出来なくなったのか]
(232) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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だめだ どんどん わからなくなる
どっちへ行けばいいんだ?
いっぱいしんだ
かずが わからない
(*104) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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このまましんだら
「ぼくら」はどうなるんだ?
(*105) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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もしかして 死んじゃうのかな
(*106) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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[焦りの念はじわじわと大きくなり、 それらはやがて段々と恐怖を感じているような、 言葉にならない念に代わっていく]
(233) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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[ナタを片手に半ば納屋のドアにねずみの乗らない反対の肩をぶつけるようにして外に転がり出た少女は、よろめきかけながらも体勢を持ち直して、そのままに丘を一気に駆け下りる。 人ではない体は肺や心臓が疲れるようなことはない。休憩を挟まずに、街まで駆け抜けきれる。]
はい。 落ちないでくださいね
[頷きに、駆ける足の速度を上げる。 目指すのは街の周りを囲む壁だった。]
(234) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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[肩のねずみからは、途切れ途切れに 混乱が続いているらしき声がする。]
───"音は。"
"音は、" "どうですか" "聞こえますか"
[舌を噛む危険を避けて、走りながら思念を飛ばす。きり、と唇をかんで、まっすぐにまっすぐに黒いリボンを靡かせて駆けて、駆けて、駆ける。]
(235) 2016/01/25(Mon) 03時頃
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