248 冷たい校舎村6
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[ いつかの本屋で、 空木は驚いたような顔で庄司を見た。 囁くような声で返された言葉に、
数度の瞬きの後、丸くしていた目を、 笑むように細めて、眉を下げて笑う。]
……それは、
[ 分かるよ。とは、言えなかった。
ひとの心の裡など覗きようがないし、 空木にとっては、今さら認めてしまうのも癪だった。]
──見つかると、いいな。
[ 礼儀正しい店員に、「 また明日 」とだけ、言う。*]
(265) 2018/08/26(Sun) 18時半頃
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──現在/食堂──
……チャイム、鳴ったじゃん。 庄司さん、気づいてた?
[ 彼女があんまりにも悠然と、 食後のコーヒーまで楽しんでいるようだったので、 空木は、なんだか毒気を抜かれたような気分で、 割り箸をふたつに割りながら、苦笑する。]
……あ。あと、 結局、女子の寝床。どうなったの。 ベッドが足りないとか教室で寝るとか、 なんか、ぐちゃぐちゃ言ってたでしょ。
[ ぐちゃぐちゃ。という表現が定かかはわからない。 主にぐちゃぐちゃ言っていたのは空木だった。]
(266) 2018/08/26(Sun) 18時半頃
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[ そういえば、スマホを持ってこなかった空木は、 ちらりちらりと食堂の時計を見やりながら、 世間話をするような調子で問いかける。]
……そういえば、庄司さんさあ。
[ カップ麺がふやけるまでの三分間は、 この世の中に定められた三分間の中で、 最ももどかしい。と、空木は思う。
ちら、と蓋を開けて中を覗いたりしながら、 空木は、あの日気になって、しばらくして、 すっかり忘れていたこと。を、 不意に思い出したように、唐突に尋ねる。]
(267) 2018/08/26(Sun) 18時半頃
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……おれらじゃ、 ここじゃ、だめだったの。
[ なにが、と言われれば、 空木はその場で立ち上がり、 テーブルをまたぐように身体を乗り出して、 囁くように、三文字言ったことだろう。
そこで、三分が経った。
だから、半分引っ付いていた蓋を、 空木はべりべりと剥がしていく。
そう、あれは。文化祭の後のことだった。 と、空木はそういうことだけは、よく覚えている。*]
(268) 2018/08/26(Sun) 18時半頃
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―― 現在:食堂 ――
[空木君が“朝御飯”を掲げて見せてくれました。>>263 よく知っています。私はそれで育ったようなものですから。 だからこそ、今はあまり食べません。
朝御飯にカップ麺はあまり体によくないよ。
……なんてことも、当然言えません。]
うん。聞こえたよ。
[向かいに座った空木君にチャイムの事を聞かれて、>>266 私はこっくり頷きます。 チャイムとはそういうものです。学校のどこにいても 聞こえるもの。そうでなくてはいけません。]
(269) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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8時50分になったら鳴るんだね。 何か意味があるのかな。
[何が起こったのか知らない私は、 コーヒーを片手に穏やかにそんなことを言うのです。]
(270) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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……あ。寝るところ。 ごめんね? 女子で保健室確保しちゃって。 男子はどうしたの?
[空木君の質問にそう返しながら、 教室? ぐちゃぐちゃ? と首を傾げます。
そういえば、桜ヶ台さんは保健室に来ませんでした。 ということは、教室で寝たのは桜ヶ台さん? あんなところ、寝にくいでしょうに。 と、廊下で寝たことを棚に上げて、 私はそんなことを考えました。]
(271) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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こっちは別に、大丈夫だったよ。 私と仁鳥さんは暗幕を拝借したし。 桜ヶ台さんには会ってないけど。 教室で寝たのって桜ヶ台さん?
[廊下で寝たというのは、わざわざ言わない方がいいと 思いました。 どうしてそんなことをしたのかと聞かれても、 うまく説明できる気がしません。]
(272) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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[そういえば、と何気なく切り出された話題には、>>267 すぐには答えられませんでした。 意味を把握するのに時間がかかった、というのもあります。 でも、それだけじゃありませんでした。
ああ、と私は思います。 空木君の投げかける言葉は、何気ない風であればあるほど、 実は重たい気がします。 考えすぎでしょうか?
私が、重く受け止められないように、 なんでもないことのように本音を忍ばせることに 慣れてしまったから、空木君もそうじゃないかと 感じてしまうのでしょうか?
きっと、気のせいじゃないと思うのですが。]
(273) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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くれるの?
[囁かれた三文字に、努めて軽く、 冗談めかして返したつもりですが、 きっと、重さは伝わってしまった気がします。]
(-16) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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あのねー……。
[言葉を探しながら、私は食堂を見回しました。 食堂は特に文化祭仕様ではありません。 いつもどおりの食堂です。 それが、今は少し残念でした。]
あるのかなって、少しだけ思った。 文化祭の時は。
[あの頃は、やることがたくさんありました。 名前を呼ばれて、頼まれごとをしたり、 名乗り出て引き受けたり、 私は、文化祭を作り上げる場の一員として、 確かにそこにいたと思います。]
(274) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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でも、文化祭、終わっちゃった。 それで、もうじき、卒業でしょ。 みんな、自分の道を行くでしょ。
[それは当たり前のことです。 責めることではありませんし、もちろんそんなつもりは ありません。 時間は進みます。否応もなしに。 こんな精神世界ですら、夜が来て、朝になるのです。]
(275) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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そしたらきっと、なくなるでしょ。 私のことなんて、きっとすぐに。 いたっけ? 誰だっけ? ってなるんだよ。
[思い出はだんだん色あせます。それも仕方ないことです。 詳細な点が思い出せなくなって、 あの時は誰がいたかななんて、 思い出そうとしたら、だんだん名前が出てこなくなって。 そうしてきっと、忘れられる筆頭が私だと思います。 いるかいるのかわからない、空気のようなクラスメイト。]
(276) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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[淡々とそんな話をして、私は首を傾げます。 カップ麺を食べる空木君に、そっちは? と 聞き返しました。]
空木君は?
[思い出すのは、夜の本屋さん。 自分のお金じゃないと笑って、大人買いする姿です。*]
(277) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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ほしいもの、買えた?
(-17) 2018/08/26(Sun) 19時頃
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― 昨夜・保健室 ―
[ 仁鳥さんが探しに行ってくださるといいます。>>2:780 わたくしは、お願いしますといって、 お出かけになった後、鍵をかけました。 飲み終えた紙コップを片付け、 眠る準備を整えます。
暗くなった部屋で、目を閉じ 眠気に意識が沈みそうになる頃、 一色さんが話しかけていらっしゃいました>>147 ]
それはないと思いますし… ほかの誰かがということもないと思います…
だって、ここにいる方たちみんな、お優しい方ですから。
[ 眠いせいか口がうまく動きません。 一色さんにちゃんと聞こえたでしょうか。 確かめる間もなく、私の意識は闇に沈みました ]
(278) 2018/08/26(Sun) 19時半頃
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[ 眠ると、夢を見ます。 振り下ろされる拳を、 振り上げられるつま先を、 体に食い込む膝を、首に絡む指を、 夢は思い出させて、その度にわたくしは 荒い息で目を覚まします。
扉の外に人の気配がします。 誰かが戻ってきたようです。 入ってこないのでしょうか。 扉を開けて招き入れる気力もないまま、 どうか扉の外までうなされた声が聞こえないよう 願いながら息を整え、再び目を閉じました ]
(279) 2018/08/26(Sun) 19時半頃
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[ 夢の中でさえ、助けを呼ぶ言葉は音を持てない ]
(280) 2018/08/26(Sun) 19時半頃
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― 朝・保健室 ―
[ チャイムの音で目が覚めました。 うとうとしては跳ね起きていたので ほとんど寝た気がいたしません。 鈍い頭痛がいたします。
しばらくして、一色さんが外に出ていかれました。
わたくしは、のろのろと起き上ると 身支度を整えます。 制服にしわが寄っていますし、 髪もきれいにはとかせません。 何よりも、自分でもどうかと思うくらい 顔色が悪いです。朝食をとる気にもなれません。 ばあやが見たらみっともないと叱られそうです。 ]
(281) 2018/08/26(Sun) 19時半頃
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チャイムが鳴ったのですから、 おかしくなっているところを探しに行かなければ。
[ もし誰かがもう変更点を見つけていれば 教室の黒板に書いてくれているでしょうか。 けれど教室は誰かがいるかもしれません。 わたくしは、顔色を見られないように、 なるべく人のいないと思われる方へふらりと歩き出しました ]*
(282) 2018/08/26(Sun) 19時半頃
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― 回想:人の輪 ―
[ 幼いころわたくしのお仕事は お父様が出資しているところに顔を出すときに ついていくことでした。 娘思いの父親の演出だったのだろうと 今なら思います。
とある養護施設に連れて行かれたことがありました。 「ここにいる子たちはかわいそうな子なんだから 優しくしてあげるんだよ」 おとうさまはそうおっしゃいます。 「でもここにいるような子たちは危険だから、 近づいてはいけないよ」」 同じ口でおとうさまはそうおっしゃいます。
近づかないで優しくする方法がわからなくて わたくしは首をかしげますが、疑問は口にせず頷きます。 それがわたくしのお仕事の一つです ]
(283) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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[ おとうさまが施設の方とお話をする間 わたくしは隅の方から子供たちが 遊んでいるのを眺めていました。 わたくしと同じくらいの年の方もいらっしゃいます。 その様子はとても楽しそうで、 かわいそうにも、危険そうにも見えませんでした。
遊んでいるのうらやましく思いながら、喧騒の外側から ただぼんやり眺めておりました ]
(284) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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[ 小学校の頃はおとうさまの影響力が 強かったのだと思います。 わたくしのまわりには おとうさま目当てのひとがたくさんいて、 そしてそのだれもがわたくしをお嬢様だからと 気を使うふりをして区別をいたしました。 何もかもを遠ざけ、何もさせてくださいませんでした。 楽しく語らい合う輪の中にいても、 わたくしは異質で、ひとりぼっちでした。
中学校でも、それはほとんど変わりませんでした。 やはりわたくしは一人で ぼんやりと人のかかわりを 輪の外から眺めておりました ]
(285) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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[ おとうさまが施設の子供わたくしを区別したように、 周りの人がわたくしとほかの子を区別したように、 区別されることをに慣れて それを当たり前に受け取って生きてきたわたくしは 輪の中に溶け込む方法が、わからないのです ]*
(286) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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— 自宅 —
[目を覚ました。
……目は、覚めている。 見覚えのある天井が視界に入ってきたから、 これはまだ夢だと、そう思い込んで再び目を閉じた。
しばらくして、観念して身を起こす。]
(+0) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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……“あっち”が、夢だったか……。
[残念だ。溜め息を大きく吐き出す。 あんなに躊躇い無く死ねたのは、奇跡みたいなものだから、 現実で実行する勇気がまた出るかどうか。
ぼくはまだ、黄楊 靖利のままだった。 やはりあの世界で死んでも、外に出るだけで、 ぼく自身には何も変わりはないのだろう。
スマホに着信が届いている。 確認するのも億劫だったけど、……なんとなく、見なければいけない予感がした。]
(+1) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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[それは、あの世界の主が誰だったのかを教えるものだったから。 >>1:5>>1:6
空木 理。 遺書だという、このメールの送り主の名前が、 この現実ではハッキリと見えた。]
……なんで。
[質問をしても、誰が答えてくれるわけもない。 ぼくには何も分からないままだ。]
(+2) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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[いい友達だったかどうかなんて、 ぼくが答えてやる義理はないし、本当にそうだったかさえ分からない。
少なくとも、あいつと共に過ごした文化祭は楽しかった、 っていうのは自信を持って言えるけれど。]
……くそ。
[誰もいない自室で、悔しがるように、珍しく汚い言葉を吐いて、 もう1通、別に届いていたメールを開く。
それは、先にこの世界に帰還した安藤からだった。]
(+3) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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[空木が車道に飛び込んで撥ね飛ばされ、瀕死の重傷。 今は緊急手術中で、助かるかどうかは五分五分。 どうやら自分で身を投げたらしい。——と。
安藤らしく文面はテンパっていたけど、 内容を簡潔にまとめるなら以上だった。
送られてきた病院の場所を確認。 どうすべきかなんて分からないけど、向かうしかない。 ……ここでぼーっと待っているよりは、まだ、マシだろうし。
どうせ許可を取るべき家族はこの家にいない。 最低限のものだけ持って、家を飛び出した。]
(+4) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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[きっと他の皆にも安藤からの連絡が行っているのだとは思う。 それがいいのだろう。
……ぼくには、他の誰かに声をかけるようなことはできそうにないし。*]
(+5) 2018/08/26(Sun) 20時頃
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