172 ― 恋文 ―
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-病室-
じゃーん、みてくださいちかちゃん。
わたし、ちかちゃんにもおてがみをかきました。
[昼下がりの病室。
ベッドの上に女性、その脇に小さな女の子。
比較的大きな、しかし折れそうな手から、小さな、すこしぷにぷにした手に封筒が渡される。
女の子が目をキラキラさせて受け取って、それからおてがみ、きた？と聞きます。]
うん。びっくりしました……。ほら、これと、これと……なかみちゃだめですよ。それに、"まほうつかいさん"からもあたらしいえはがきがきてます。
(10) 2015/10/20(Tue) 14時頃
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[いいなぁ、と少女がこぼす様子を見て、ベッドの上の彼女は困ったような笑みを浮かべる]
ちかちゃんにはわたしからおてがみあげたでしょ、それに……
[それに。
ちかちゃんはくらすのおともだちからおてがみがくるじゃないですか。]
………。
[飲み込んだ言葉には気付かなかったか、そっか！お返事書くね！と言われ、また笑みを浮かべる。]
はい、たのしみにしてるね。
あ、おへんじだけどきょうはもってきてはだめですよ。
(11) 2015/10/20(Tue) 14時頃
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まってるのも、たのしいものですから
(12) 2015/10/20(Tue) 14時頃
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うっかり漢字に変換しそうになる罠
(-6) 2015/10/20(Tue) 14時半頃
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[一人になった病室で、ベッドの上の脇の写真立てを手に取り。
昨日新しいのに替えたばかりのそれを、指先でそっとなぞる。]
……やっと、やっとかけます。おへんじ。
["まほうつかいさん"から最初の絵葉書が来たのは、もう10年も前だっただろうか。
前に母親に聞いたときに、一度会っているのに覚えていないのかと呆れられたのを覚えている。
机の横の小さな棚。
ベッドの上の彼女の全財産がここにはいってしまう。
服と、日用品と、本、ラジオ、]
(42) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[それから、絵葉書。
病室以外に許された、彼女の世界。]
(43) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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[いつも返事は母が書いていた……少なくとも母はそう言っていた。
だからいつも思っていた。
ペンを握れるだけの握力、それから体力。少しでも回復したらやりたことの一つ。]
……はやくかかないと。じかんかかるんだから…。
[絵葉書を棚の上に戻し、
便箋とペンに手を伸ばした。]
(45) 2015/10/21(Wed) 00時半頃
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いつもすてきなおてがみを ほんとうにありがとう。
おへんじがかけるまで じゅうねんもかかってしまいました。
おゆるしくだちい。
あなたのえはがきのせいで
わたしはきっと よくがでたのです。
くちはらをかけまわりたいとおもうのも
あおのなかかさをさしてみたいとおもうのも
こうしてじをかくのも
せかいを ありがとうごぢいます
そしてこれからもどうか かわらぬおつきあいを
ぎんじょう まゆみ
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(-40) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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[シンプルな薄い桃色の便箋にやや大きな字で書かれた文章は、しかし後半になればなるほどただでさえ判別しづらい文字が乱れ、
名前の直前にはもう直線が存在しないほどであった。
宛名だけは、明らかに違う筆跡で書かれていることは一目瞭然である。]
(-41) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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いこちんへ
はじめまして ひらがなです。なんて。
ぎんじょう まゆみと もうします。
おてがみ いただけてとびあがるほどうれしかつたです。
いこちんはとても とてもじがきれいでうらやましいです。
ひちがなはとてもやわらかい、わたしもときどきおもいます。
まくらがやわらかいのは きつとまのじがやわらかいからです。
いつかいちめんのまくらにしずみこんでみたいです。
わたしのゆめです。
いこちんはどんなゆめがありますか よければおしえてくだちい。
おからだにきをつけて
ぎんじょう まゆみ
(-43) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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ついしん
ひらがなちん、じつはかんじもよめるのです。
えつへん。
いこちんのかきやすいようにどうか
おこころづかい ほほがあかくなるくらいうれしいです。なんて
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[ところどころ『ち』と『ら』の線の貫通がまざっていたり、『ち』と『さ』の方向が逆だったりするようだ。
手紙の最初から乱れている文字は、最後の方になると筆圧が薄くなっていることに気付くかもしれない
が、宛名だけは整った筆跡である。]
(-44) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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名前がばれても、困ることなど無いのではという考えで本名で押していく。
そこらへん疎し
(-45) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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ななちんへ
はじめまして こんばんは
おてがみありがとうごぢいます。たいへん たいへんうれしかったです。よろこんでいたらちわいじゃだめと おこられたほどです。
うちぎはもひもひとはながうごいてかわいいと ききます。
そしておどろくことにけが もうふよりやわらかくあたたかいとも。
きつとてんしというのは うちぎのすがたをしているのでしよう。
うたのおしごとをしているそうですね。
わたしもうたはだいすきです。いつもらじおできいています。
うたのおしごとをするというのはきつと、はなやかで、でもたくちんのどりょくとちいのうがいるせかいだと おもいます
きつとななちんも うたがすきなのですね。きいてみたいです。
(-46) 2015/10/21(Wed) 01時頃
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わたしのまどからはおおきなきがみえます
もつちりしていたり かれたりします
あのさいごのはつぱがおちたら なんてじょうだんでいうと おかあちんが わらいながらおこります。
わたしも おともだちがみているものがしりたいです
ぜひおしえてくだちい。では
ぎんじょう まゆみ
ついしん
ななちんのやちしちにむねがじんわりします。
かけませんが かんじもよめるので どうかかきやすいように
はしばしのおこころづかい ふとんのようにあたたかいです。
――――――――――――――――
[ところどころで『さ』と『ち』を間違えているだけでなく、線も直線にならずくねりくねったりしている。
後半は集中が切れたのか、消しゴムの痕も多くなっている。
が、宛名だけはどうやら別の筆跡で書かれているようだ。]
(-47) 2015/10/21(Wed) 01時半頃
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こんにちは
おてがみありがとうごぢいました。うれしくてほほがゆるんでいたらともだちにわらわれてしまいました。はずかしいことです。
わたしは おみせにいったことがありません。
なので どんなおみせなのか こーひーはどんなあじなのか ぜひおしえてくだちい。
じつは わたしは ぶんつうどころか
もじをかくのが はじめてです。
ひらがなばかりおみぐるしいかとおもいますが ごかんじょいただければちいわいです。
ぜひまたおてがみくだちい たのしみにしてます
そのときは ひとにみられないところでほほをゆるめられるように。
ぎんじょう まゆみ
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(-48) 2015/10/21(Wed) 01時半頃
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できた。 あとはあしたあてなをかいてもらうだ、け、
あ…れ？
[不意に目の前がぐらりと揺れる。何が、と思う間もなく手からペンが滑り落ち、支えていた肘から力が抜けるとがしゃり、とおおきな音を立てる]
……い けな
[息が荒い。目の前の光が滲む。頭は熱く、体は寒い。]
へんじ…いっきにかいちゃ……だめだった……ね
あー……
[自分の体がどれだけ弱いか、
忘れるほどに没頭したのはいつぶりだろうか。
とにかくこんなところを看護師さんにみられたらせっかくでた文通の許しも取り下げられてしまう。
気力を振り絞り、道具を片づける。
終わると同時、そのままベッドに沈みこむように意識を離す。]
(51) 2015/10/21(Wed) 01時半頃
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