89 アウトブレイク〜WerewolfSyndrome〜
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−回想・5月4日 昼過ぎ マドカの家 2F−
[久しぶり見た兄の部屋は様変わりしていた。部屋の奥の壁一面に杭が打ち込まれており、杭から伸びた鎖が全て兄に絡みついていて、兄の動きを制限していた。兄はマドカに気づいたのか、虚ろな目で立ち上がり、歩み寄ってくる。2、3歩ほどあるいたところで、鎖に阻まれガクリと、動きを止めた。兄はマドカに触れようと手を力なく手を伸ばす。マドカをギラついた目でみやり、口からよだれを垂らしている。ようやく会えた家族は、すでに病に侵され、理性を手放してしまっているようだ。人狼病。兄は人の姿を模した怪物へ変わり果てていた。]
お兄ちゃん、何日ご飯食べてないの?
[兄は答えない。マドカに手が届かないとわかると、自由のきく範囲をうろうろと歩きまわっている。兄が動くたび、金属の触れあう音が小さく聞こえる。マドカは兄を刺激しないよう、そっと部屋のドアを閉める。ドアの左右には、奥のスペースを確保するためか、家具がすべて押し寄せられていた。ベッドの上に学習机と椅子が載せられている光景はなんとも間抜けに見える。マドカはため息をついて、ドアにもたれかかった。]
(36) 2013/07/27(Sat) 11時頃
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−回想・5月4日 昼過ぎ マドカの家 2F−
[マドカは先ほど拾った紙をポケットからとりだす。兄の遺書だった。文章は兄らしくない、ひどく乱れた字で、次のように綴られていた。
僕は佐藤 シノブといいます。感染者です。この部屋の中で身動きの効かない状態で死を待っています。 死んでいなければ、殺してもらって構いません。
父と母は人狼病の重度の感染者で、いつからか人を襲っていました。そのことに気づいた僕は、生きたまま2人を拘束し、引き渡そうと試みましたが、結果は失敗。両親は僕が手にかけてしまいました。その際、僕も感染したようです。自害も考え、何度も体を切りつけましたが、恐ろしく、自分で死ぬことができなかった為、代わりに自分を拘束し、餓死することを選びました。僕には父母を殺した罪を償う必要もあるので、苦しみながら死ぬくらいがいいのかもしれません。
僕には妹がいます。妹のマドカはまだ生存しているはずです。妹だけは家族で唯一、人狼病に感染していません。もし会うことがあれば、助けてやってください。
遺書はそれで終わる。マドカは再度、遺書をぐしゃぐしゃに丸めると、歩き疲れ再び座り込んでいる兄に向けて投げつけた。]
(66) 2013/07/28(Sun) 03時半頃
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−回想・5月4日 昼過ぎ マドカの家 2F−
何が「後で仲直りしよう」っすか!嘘っぱち!最初から死ぬ気で仲直りする気なんてさらさら無かったじゃないっすか…。
[マドカはすわりこんでいる兄を睨みつけながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、部屋に持ち込んでいた斧を振り上げ、]
絶対に許さないっす!
[思いきり、ベッドの上に載せられている学習机へ振り下ろした。何度も何度も斧を振り下ろし、やっとのことで大きめの木片を作ると、それを拾い上げる。]
お兄ちゃんには、えらい人がワクチンを作るまで、生きててもらうっす!死ぬなんて、絶対に許さないっすからね!
[吐き捨てるように、叫ぶとマドカは部屋を出て、階下へ急いだ。兄の存在を知られてはまずい。チアキのような来訪者が訪れないよう、取り急ぎ、窓の部分を封鎖しなければならない。その他にも当面の食糧の調、栄養失調時の薬の確保、もう手遅れかもしれないが、この家に入ったチアキに対して、何か知っていれば口止めをする必要がある。やるべきことは山積みだ。マドカは父の部屋から工具箱を取り出すと、割れた窓の修復にとりかかった]
(71) 2013/07/28(Sun) 13時半頃
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―5月5日早朝、第二封鎖線付近の民家―
[不慣れなせいか、窓の封鎖にかなりの時間を取られてしまった。兄に自分の分の食料を与えたあと、栄養失調時の薬を求めて三元道士へ向かったが、深夜だったため、空振りに終わった。薬はまた後で調達しなければ。
次にマドカは当初の目的だった着替えを取りにやってきた。兄の手紙にあった、知人の家だ。第二封鎖線付近の古い小さなアパートの2階の角部屋で、訪ねると扉が開いており、無人だった。アパートの古さに対し、中に配置された家具は妙に真新しかった。]
(73) 2013/07/28(Sun) 16時頃
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[ベッドの隣にスーツケースが2つ置いてあり中に服やマドカの使っていた日用雑貨が詰められていた。ベッドの上には封筒が置いてあり、中に不動産屋との契約書や通帳が入っている。兄は父と母の異変に気づいてから、秘密裏に準備を始めていたらしい。冷蔵庫を開けると食品が大量に買い込んである。]
どんだけ、準備してんすか…。
[そういえば、兄は準備に燃えるタイプだった気がする。テストなり、イベントなり…。マドカは呆れながら座り込む。これで食料問題はクリアできそうだ。]
ん…?
[ふと手に何かが触れる。紙だ。マドカの部屋で見つけた空だった封筒の中身、手紙と鍵が落ちていた。ここにあるということは、マドカは街の封鎖直後、家にいったあと、ここにも訪れていたようだ。自分もどれだけ忘れているのかと、自分自身にも呆れる。それほどショックなことが続いていたのだが。]
よし、気を取り直していくっす!
[マドカはスーツケースを勢いよく開けると、着替えを始めた。]
(74) 2013/07/28(Sun) 16時頃
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―5月5日昼過ぎ、第二封鎖線付近―
[マドカは移動中に渡された、町会便りの号外に目を通し、驚きの声をあげた。]
掃除のお兄さん!
[あの穏やかな青年が…。
到底信じられないが、処刑はすでに決定されてしまっている。マドカは兄や父母の様子を思い出す。みな、感染者になりたくてなったわけではない。普通の日常を送りたかったはずだ。きっとラルフだって被害者なのだ。]
ラルフさん…
[マドカは学校や本屋で優しく接してくれたラルフを思い出す。ーまた、学校でお会いしましょう。ーと困ったような笑顔を浮かべていた。怪我をしないで欲しい。元気でまた会いたいと思っていたのに…。
マドカはぎゅっと目を閉じた。溢れた涙が手元の号外を静かに濡らした]
(75) 2013/07/28(Sun) 17時半頃
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―5月5日昼、第二封鎖線、配給所付近―
[食料をつめたスーツケースをひきずりながら、マドカは外へでてきていた。いつも着ているジャージではなく、今日は白いワンピース、靴底の低い控えめだが女の子らしいデザインのサンダルを着用している。結っていた前髪も、今日はおろしている。知り合いに見つからないための、せめてもの変装だった。髪を染めたりしてもよかったのだが、見つかった時に不審に思われそうだったので、あくまでも軽めに装いを変えた。
昼に出歩いていると、下手するとナユタに遭遇する可能性がある。突然家を飛び出したしまったので、出会えば、連れ戻されるか、何か説明を求められるかもしれない。兄のことが知られれば、処分されかねない。万が一見逃してくれてもナユタ自身の立場が危うくなるだろう。 ミルフィやローズマリーに会った場合も、何かお誘いがあれば、兄の世話ができなくなってしまうかもしれない。
今は衰弱している兄の世話を優先したかった。今から薬を買いに向かうのだが、できれば移動中にチアキを探しておきたい。マドカはなるべく目立たないよう、配給所を覗き込んだ。]
(76) 2013/07/28(Sun) 18時頃
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―5月5日夕方、三元道士前―
[マドカは、一旦自宅へ戻り、兄に食事と薬を与えると、残り少なくなった薬を求めて、三元道士までやってきた。扉を開き中へ入る。先日は見惚れるだけで終わってしまったが、今日は、そういうわけにはいかない。マドカは表情をひきめると、他の商品に目もくれず、ポケットから、ナユタにもらった薬の包みを取り出した。気だるげにしている異国風の店員にそれを手渡し、]
お姉さん、これと、同じ薬が欲しいんっすけど、おいくらっすか?
[と、真剣な表情で話しかけた。]
(78) 2013/07/28(Sun) 18時半頃
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―5月5日昼、第二封鎖線、配給所付近―
[マドカは配給所付近であたりを見回していた。家を出る前にナユタの祖父から聞いたところ、チアキは郵便局員で、自転車で配達を行っているらしい。髪は短めで茶髪。他には特に情報はなく、自転車がなければ見つけられる自信がない。ナユタと共に現れてくれれば、特定できるだろうが、接触はできない。その場合、顔だけ確認して帰るしかない。]
えーっと、自転車自転車。チアキさんはいるかな…。
[チアキは配給所へ訪れているだろうか。ここで待つより、郵便局の前で張り込んだ方が早いだろうか…。]
(82) 2013/07/28(Sun) 19時頃
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ー5月5日14時過ぎ、第二封鎖線配給所付近ー
>>85 [見渡すと自転車に乗っている茶髪の青年を発見する。マドカは、はっとすると、急いで駆け出し、自転車に近付き、呼びとめる]
あの、チアキさんっすか!? 私、マドカっていいま…
[と言いかけた途中で、チアキの顔色がまっ青になっていることに気付いた。今呼び止めて大丈夫だったのか、そう思うほど切羽詰っているように見えた。]
あの、なにかあったんすか?
(86) 2013/07/28(Sun) 20時頃
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