46 青の灯台守り
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……そう。
[獲物をなぶる趣味はないが、彼には何か裏がありそうで、殺すのを躊躇ったのも事実だった。 けれども、ナイフを見て笑う彼の顔に、膨れ上がったのは独りよがりな同情心。]
いいでしょう。望みならば、叶えてあげます。
[そう言って刃を向けた時の彼の顔は、きっと目に焼き付いてしまって離れないのだろう。]
(1) 2012/03/27(Tue) 00時頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2012/03/27(Tue) 00時頃
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[ベネットの手を左手で引き、ベッドに押し倒す。それから悲鳴が上がらぬよう口を抑えて……
──大きくナイフを振りかぶり、一気に振り下ろす。初めは左腕に。鋭い刃は肉を裂き、骨に滑ってぱっくりと傷口をあけた。 けれどその傷口が思った以上に小さく、力が要ったので困ったように首を傾げる。]
……すみません。バラバラは思ったより難しそうです。
[なおも二度、三度、ナイフを振り下ろすがうまくいかない。筋肉に力が入るのか途中で止まってしまったり、骨に当たってしまったり、腕一本切り落とすのも遠そうだ。 可哀想になったのと諦めたの半分ずつで。軽く喉元に狙いを定め。]
(6) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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おやすみなさい。
(7) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[一気に裂いた。 いつか街で見た噴水のように、勢いよく噴き出すのは、赤。赤。赤。
やがて噴出がとまり、痙攣をやめた身体は、もうぴくりとも動かなくなる。灯台守の青年は、灯台守の青年だったものに変わり、彼に紅茶を頼むことはもうない。 それをほんの少し残念に思いながら、殺戮の高揚のまま、その赤く飛沫のついた唇にキスを落とした。]
……あとでピアノを弾いてあげますよ。嬉しいでしょう? 青の王に捧げるべきものですが、特別に聞かせてあげます。
[返る言葉は、当然ながら、なかった。]
(8) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[彼が息絶えたのを確認してしばし。荒い息がおさまれば、多少困ってしまった。 白い服は赤が飛んで散々たる有様。自殺と言うにも、ベネットが襲ってきたので揉みあっているうちに、と言い訳するにも、この死体の状況では通じないだろう。
ナイフはシーツで拭い、鞘に収める。元通り隠し、ドアの隙間からそっと外を見る。 丁度、ヘレナがプリシラをつれ、戻るところだった。見える範囲に人はいない。
……今だ。
扉を開き、さっと外に出る。曲がった廊下を最短距離で駆け抜け、八番の自室へ。]
……ははっ
[ベネットの部屋のドアは細く空いたままだったろうか。確認するのも面倒で、そのまま。 自室の鍵を閉めて、ゆっくりと湯あみをする。赤い痕跡を全て流してしまって。 新しい服に着替えた。汚れた服は、窓から海へ投げてしまった。
葬送曲をひとつ、二人のために奏でる。血塗れの手で奏でる曲はきっと誰かに届くだろう。 甘美な夢想の中、ベッドに倒れ込み、眠る。]
(28) 2012/03/27(Tue) 10時半頃
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[微睡みは、ノックの音で破られた。目覚めれば外は明るい。 夜中一度外に出たりもしたが、それなりに深く眠ってしまえたのだと気づけば少し苦笑した。]
……はい?
[誰何に声は返らない。]
ラルフ?
[声を出せぬ友人の名を呼び、扉を開ける。そこにあるのは思った通りの姿だった。]
どうしたの、こんな朝早くに。
[小首をかしげ、彼の話を聞こうと唇に目をやる。]
(49) 2012/03/27(Tue) 16時頃
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……そう。
[ベネットが死んだ。自室で血塗れになっていた。そこまでを聞いて、頷く。驚く演技は、あまりうまく出来なかった。]
教えてくれてありがとう。 ……これは?
[差し出された本に、瞬きを一つ。この状況にはそぐわない、平和なタイトルに見えた。 ラルフが頁を開く。そこには、幼子のような字が並んでいて。
涙が零れそうになった。]
(53) 2012/03/27(Tue) 17時頃
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……ラルフ。
[言葉と同じく、文字も失った彼が、必死で書いてくれたたどたどしい字。 ころされないで、と心配してくれる言葉。
自分のピアノを聞いてくれる人は、こんなにも近くにいたのに。 ……これは、自分がしたことだから。自分は殺されることはないのだと。懺悔してしまいたくなる衝動に、耐えた。]
……ありがとう。
[撫でてくれた手は、暖かかった。]
僕は、ラルフのためにピアノを弾くよ。
(54) 2012/03/27(Tue) 17時半頃
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……ラルフ、ごめん。
[小さな謝罪は、喉の奥から零れるように。]
(-46) 2012/03/27(Tue) 18時頃
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[何も、言うことが出来ないまま、しばらくラルフに縋っていた。]
……二人を、送ろう。
[やがて、ふいと身体を離し、ピアノへと向かう。黒々とした艶のある蓋が、いつもより何故だか重く感じた。
指が紡ぎ出すのは、変ロ短調の葬送曲。 けれど、何故か指は引き攣れたように重く、思ったように動いてくれない。昨日、赤い手で弾いたソナタはあんなにも感情がこもったというのに。]
……どうして。
[王ではなく、聞いてくれる人がいるというのに。 乾いた声と共に、音は途絶え、左手がふらりと膝に落ちた。]
(61) 2012/03/27(Tue) 19時半頃
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僕は、王に捧げるピアノを……。
[自分に言い聞かせるように呟いて、振り払うように首を振った。]
(*0) 2012/03/27(Tue) 19時半頃
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……うまく、弾けない。
[もう一度、震える手を鍵盤に乗せるけれど。 カタカタと小刻みに揺れる手を、思い通り動かせるはずも無い。子供の練習のように、リズムもあやふやな不協和音がぽろぽろとこぼれ落ちる。]
(68) 2012/03/27(Tue) 20時頃
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……。
[うつむいて首を振り、何事か呟いて、もう一度、もう一度。 それはどんどんと荒くなり、しまいには役立たずの手を鍵盤に叩きつけるように、もう演奏とは呼べやしない。]
(69) 2012/03/27(Tue) 20時頃
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[自分の奏でる騒音に紛れて、ラルフの声は聞こえない。彼が絞り出した声は、届くことは無い。]
……っ!!
[ジャンッ! と大きな音を立てて、叩きつけて。もう感覚がなくなった手を、だらりと垂れ下がらせる。]
……ごめん、ラルフ。今日は調子が悪いんだ。
[彼に背を向けたまま。]
(73) 2012/03/27(Tue) 20時半頃
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[頭を撫でられるなんて、子供扱いされているようだ。 音楽院にいた頃なら、怒り狂っていただろう。けれども今は、撥ね除けようだなんて思わない。 振り返らぬまま、目を閉じ、ラルフの手を受け入れて。それが離れた後、霞む視界を腕で押え、鍵盤に伏した。
じわりと、シャツが涙を吸い、一瞬暖かくなって、じわりと冷たくなる。 ああ、けれど。もう始めてしまったのだ。今ここでやめれば、統率役とベネットが別の人に入れ替わり、また続いてゆくだけ。それにきっと自分は耐えられない。たった数人の観客だけで満足できるほど、自分のピアノは安くない。]
(81) 2012/03/27(Tue) 21時半頃
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[しばらく伏したままでいたが、慟哭が聞こえて顔を上げた。]
……?
[自分が作った死体は、もうすでに発見された。彼らを悼む声だろうか、けれどそれにしては様子がおかしい。
──月夜の邂逅。静かな狂気を湛えた瞳で出窓に掛けていた女性。彼女が行動を起こしたのだろうか。]
……何があったの。
[声のあった方へ、ふらりと歩み出る。赤い目を隠し忘れたのは、プライドの高い青年には珍しいミスだった。]
(85) 2012/03/27(Tue) 21時半頃
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[声を上げたのは、阿片中毒の狂い人のようだった。名前を呼ばれる。今日はポーチュラカではないのだな、と頭の片隅で思った。]
……プリシラ? 死んでいるのですか?
[驚き、目を見開く。──彼女とは、昨日ホールで会ったのが最後だったろうか。その身体がもう動かないというのは、どこか現実味を伴わない。]
僕では無いですよ。……彼女が死んでしまったことも、今初めて知りました。
[サイラスの肩越しに、ベッドの方を見る。 眠っているようとはとても評せない、血にまみれた姿を見て。──この灯台の中に、自分以外の殺戮者がいるという事実に、背筋がぞわりと粟だった。]
(90) 2012/03/27(Tue) 22時頃
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……ベネットと、プリシラの、死を願った者がいたということでしょう。
[質問の真意がわからず首を傾げる。別に、一人が一晩に一人しか殺せないというわけでは無い。なにも、おかしいことはないだろうと、思うけれど。]
恐ろしい、ですよ。
(94) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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……僕らが全員いなくなれば、青の王が目を覚ます。 それが望みか、もしくは彼らが気に入らなかったか。きっとそんなものでしょう。
……貴方と違って、阿片がありさえすれば幸せと、思えない人もいるんです。
[彼のことは嫌いでは無い。けれども、灯台守になってしばらくたって、彼のことを認識したとき。 この廃人と自分の価値は等しいのだと、そう悟った時の絶望を覚えている。]
(101) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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[自分たちが全員いなくなれば、青の王が目を覚ます。
けれどそのとき自分は居ない。 けれどそのとき──ラルフは居ない。]
(-72) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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プリシラのことは知りませんよ。僕じゃ無い。
[彼と、こんなに長く会話が成立したことが今まであったろうか。ちりりと、何かが警鐘を鳴らす。]
僕の仕業に思えるなら、心外だと言っておきましょう。
(107) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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あのお方? サイラス、貴方は、
[襟元に伸びる手を、はらおうとして、失敗する。]
なっ……
[あり得ない。いつも震えている彼の力がこんなに強いなど。目に見えて動揺する自分の襟首を掴むのはきっと、赤子の手をひねるより簡単だろう。]
……いやだ、やめろっ!
[こんなところで終わりたくない。王にピアノを捧げたい。それを口にすることは、自分が犯人だと認めるのと同義だ。それよりもまず、目の前の危機に意識は占められる。]
(108) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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[締め付ける力は強く。必死に爪を立てるけれど、食い込むことなく力は抜ける。
……目の前が遠くなる。彼の何処にこんな力が。
……まだ、ピアノを、聞かせられていないのに。]
(113) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2012/03/28(Wed) 01時頃
奏者 セシルは、メモを貼った。
2012/03/28(Wed) 01時半頃
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けほっ……けほこほっ!
[首を絞める力が軽くなって、酸素を取り戻した身体は大きく咳き込んだ。足から力が抜け、崩れ落ちそうになる。]
ぁ……
[悔しそうに涙目はサイラスをにらみ付け、けれどもできるのは喉に手を当て咳き込むことのみ。ヘレナに助かったと礼を言うことすら今は難しかった。]
(119) 2012/03/28(Wed) 01時半頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2012/03/28(Wed) 02時頃
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[手が放されれば、あとは重力に従い床に崩れ落ちるのみ。床が近くなれば、飛び散った血痕が目に入った。]
狂人め……。
[憎悪と共に息を吐き出し、吸い込む。数度繰り返せばやっと、落ち着いてきただろうか。]
(122) 2012/03/28(Wed) 02時頃
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……助かりました、マダム。
[深呼吸の最後の一つは、ため息になった。 それから、爪の先がひりと痛んで、自分が彼に爪を立てたことを思い出す。 ──ピアニストの命である指先を、自らの命を守るためとはいえ、攻撃に使うとは思わなかった。先ほど散々叩きつけてはしまったけれど、それとこれとは話が別で。]
……こんな危険人物を野放しにするのはおすすめしませんよ。
[そう吐き捨てて、立ち上がる。今はただ、部屋に戻り休みたい。]
(123) 2012/03/28(Wed) 02時頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2012/03/28(Wed) 21時頃
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──自室──
[ナイフを握ったまま横になり、ほんの少し眠った。]
[夢は見なかった。けれどまどろみの中、いろいろなことを思い出した。
ピアノを弾いて、ただ家族に喜んでもらえるだけで嬉しかった幼い頃。 この子には才能があると、教師に言われて嬉しかったこと。 練習時間が延びて、友達と遊びたいと訴えたら、怒られて怖かったこと。 大会で優勝したこと。メダルを貰って誇らしかったこと。友人だと思っていた相手に、それを壊されたこと。
別に、不幸な子供時代だったわけではない。この程度の悲しい思い出は誰でも持っているものだし、自分は努力と失ったものに見合うだけの栄誉を手に入れつつあったのだから。
──運命が狂ったのは、その後。 練習中に目が痛くなって。埃でも入ったかと鏡を覗いて、青い瞳がうつったときの衝撃。 塔に閉じ込められるのが恐ろしくて、瞳をえぐり出そうとしたこと。 けれどあまりの痛みに気絶して、目覚めたときにはもう灯台の中だったこと。 ……思い出したくも無いことばかり。]
(169) 2012/03/28(Wed) 21時半頃
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……こんな世界。
[きえてしまえ。 そう唇を動かすと、なぜか涙が零れた。]
(170) 2012/03/28(Wed) 21時半頃
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[起き上がり、涙を拭う。 その時初めて、包帯が外れていたことに気がついた。]
……見られた、かな。
[視力のほぼ無い左目は、勝手に動いてたまにやぶにらみになる。自分でも気持ち悪いから、隠しているのに、忘れてしまったのは不覚だった。]
気にすることじゃない──。
[どうせ殺すのだから。声に出さず呟いて、冷たいナイフを握りしめる。 彼は、危険だ。薬のせいか思いもよらない力を出す。全員を同時に送るような手段がないなら、危険なほうから先に、そう考えるのが普通だろう。
ちらりと、黒くそびえ立つ楽器の方を見る。 大丈夫。彼を捧げたら、きっとまた弾けるようになる。 そのときは、葬送のためだけではなく、練習のためだけではなく、友人のためのピアノを弾こう。]
(174) 2012/03/28(Wed) 22時頃
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/* 1
(-134) 2012/03/28(Wed) 22時頃
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