162 冷たい校舎村3-1
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読書家 ケイトは、メモを貼った。
2015/06/20(Sat) 00時半頃
読書家 ケイトは、メモを貼った。
2015/06/20(Sat) 01時頃
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[少し遅れて、入り口を潜ろうとして頭をぶつけながら、帆北が教室に入ってくる>>0:391 彼は体格が体格だけに、いつもどこでも狭そうだ。
「帆北くんがいるだけで、教室ちょっと小さく見えるね」なんて悪気なく口にした事がある。 大きくて強そうで羨ましいな、なんて、胸の内は、彼にどこまで伝わったものか。
少し後で、批難してるみたいにも取れると慌てて前言撤回したものだった]
帆北くん、おはよう。
[辺りに漂う緊張を少しだけ緩和してくれた彼へ、恵冬は小さく挨拶を返す。 しかめっ面が可愛いなんて、さすがに恵冬でも口には出さないけれど]
(18) 2015/06/20(Sat) 01時半頃
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[彼の机の上に置かれたのは、小説『舞姫』
その表紙を目にすると、恵冬はいつぞや、彼に内容の解説を頼まれた事を思い出す。 あの時も、『舞姫』の表紙を、少し困惑して眺めていたものだった]
……舞姫は、ベルリンの街に留学した主人公が、エリスという名前の踊り子を助けて恋仲になるお話、かな。 でも、主人公は彼女と関わったことで、誹謗中傷を受けて免職になったり、母を失ったりするの。
[主人公の豊太郎は、エリートだ。 「お国のために」私情を捨てるのが当然とされる時代において、それはとても不名誉なことだった。
苦悩と、胸を貫くような罪悪感に満ち満ちたこの物語を、恵冬は決して嫌いではない。 暗く重たいお話は、不思議とすとんと胸の内に沈んで、深いところで馴染んで溶ける]
(20) 2015/06/20(Sat) 01時半頃
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そんな中、再会した親友のおかげで、豊太郎は出世して日本に帰る機会を得るの。 でも、そのためにはエリスとの縁を断たなければいけない。
エリスのお腹の中には豊太郎の子供がいて、彼はそれを知っていたのよ。 それでも、豊太郎は日本に帰る事を選んだの。
そうして、それを知らされて心を病んでしまったエリスを置いて、帰国していくのよ。
[豊太郎はあまりにひどいと、批難する者も多いという。 恵冬自身も、初めてこの物語を読んだ時は、やるせない気持ちと共に、主人公を責める気持ちもちらりとあった。
けれど、当時の時代背景を知れば、そんな思いは薄れて消えた。 後には、何とも言えない後味の悪さばかりが残ったけれど]
(21) 2015/06/20(Sat) 01時半頃
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……帆北くんは、豊太郎の仕打ちを酷いと思う?
[彼が何を思って恵冬に解説を頼んだものかはわからない。 でも、そう聞かねばいけない気がして、恵冬はあの時そう問いかけた。
見た目は恐ろしいけれど実は心優しい人だと、知ったのはいつのことだったろう。 きっと、日々のさりげない気遣いや、言葉の奥に秘められた優しさが、自然とそれを悟らせたのだと思う。
――そんな彼が、あの時はどこか悲しげに見えたのだ]
このお話、きちんと理解するには、当時の時代背景も知った方が良いと思うの。 帆北くんが嫌じゃなかったら、そういうお話、続けてもいいかな?
[彼の答えがどちらだったのか、恵冬はきちんと覚えていない。 それでも、そんな風にして長話に付きあわせてしまったのは忘れていない。
今の彼の中で、この『舞姫』の物語は、どんな風に胸に収まっているのだろう。 気にはなるけれど、それを問えぬまま、恵冬はチャイムの音>>#0に顔を上げた*]
(22) 2015/06/20(Sat) 01時半頃
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[時計は8時50分。 教室を見回せば、恵冬が物思いに耽る間に、七尾が滑り込んできていたらしい。
それでも、全部で11人。 クラスの半数にも満たない数と顔ぶれは、やはり意図的に文化祭の中心メンバーを選出したとしか思えない。
肌寒さを覚えた恵冬は、心許ない気持ちで校庭の方に視線を向けた。 自分自身を抱くようにして腕を回して、ゆっくりと目を瞑る。
怖ろしさの中に、まだ、「これは現実なんだから、お話みたいな事は起こりっこない」という気持ちがあった。 そうしてそれと同じくらい、「お話みたいな事があってほしい」という気持ちもある]
(31) 2015/06/20(Sat) 01時半頃
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……探検、私も行きたい。
でも、これが先生の悪戯だった場合、誰もいなかったら先生困るかなぁって思うの。 ほら、ジェニファー先生、どこかに隠れててわって脅かすの、好きそうでしょ?
だから私、もうちょっと残ってみるね。
[改めて顔を上げた恵冬は、そう意思を表明した。 そう恵冬に言わしめたのは、いったいどちらの気持ちだったろうか。
窓が開かないという帆北>>17の言葉に薄ら寒いものを感じたけれど、鞄から文庫本を取り出して、ページを開くのだ**]
(32) 2015/06/20(Sat) 01時半頃
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読書家 ケイトは、メモを貼った。
2015/06/20(Sat) 02時頃
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[手にした文庫本。 もう既に一度読み終わってしまったはずのそれを開いて、ぱらぱらとページを送る。 探す章は、少し後で見つかった。
外国の、仲良しグループ失踪事件。 ひとり残された小さな妹と、娘を病気で亡くした刑事が言葉を交わす章。
物語の、核心に迫る箇所。
目印代わりにそこにしおりを挟んで、文庫本から顔を上げた。
……その頃には、出入り口の辺りがざわついていて]
(56) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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……?
どうしたの?
[何事か、あったのだろうか。 漏れ聞こえる『文化祭』>>33というキーワードに促された事もあって、恵冬は文庫本を机に置いて席を立つ]
みんな、何か怖いこと、あった?
[問いかけて、皆の後ろから覗いた廊下。
――そこには、非日常の景色が広がっていた]
(57) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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……うそ。
[文化祭。さっき聞こえた秋野の声のとおりだ。 まだ記憶に新しい、賑やかな文化祭の風景。
お祭りの屋台みたいな、様々な食べ物のそれが入り混じった匂い。 ちかちか瞬く豆電球、色とりどりの輪が連なる折り紙の装飾。 色んなクラスの、それぞれの出し物をアピールするポスター。
思い出が、蘇ってきたみたいに]
(58) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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[思わず足が竦んで、ふらっと半歩後ずさった。 違う、先生の悪戯じゃない。
目の前の光景は、嫌というほどにそれを知らしめてくる。
両手を胸の前で組み合わせ、祈るみたいにして身震いした。 私はほんとうに、物語の世界に迷い込んでしまったのだろうか。
……それとも、これはものすごくリアルな夢の中?]
(59) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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時間、大丈夫だけれど……。
[時間をくれという寺田に、戸惑ったようにそう応じた。 今置かれたこの状況は、ささいな時間なんて気にする場面ではないように思える。
でも、こんな時にそうやって現実的な事を気にするのは、実に彼らしいような気がした。 そう思ったら、現実と夢が溶け合ったような空気への酩酊感が少し薄れて、気持ちがすっと落ち着いた。
我知らず、背筋が伸びる。 これは夢の中のできごとじゃない。現実だ]
(60) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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……私、少しだけ心当たり、ある。
確信はもてないけれど。
[寺田君が貸してくれた小説、少しだけ似た状況だったでしょ、とまではまだ言えない。
だってあれは、娘を亡くした刑事が、外から事件を解決しようと奮起するお話。 行方不明になっていた子供たちの視点から、綴られた物語じゃないから]
(-53) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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徹くん、いなくなったのは、学校のみんな?
それとも、私達のほうなのかな?
(-54) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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[そっと寺田に囁き返して、握った指に力を込める。 そうやって自分を奮い立たせて、真っ直ぐに彼を見つめた]
私、ちょっとだけ図書室に行ってくる。 調べもの、したいから。
[今起きていること。 もしかしたら、自分たちの身に降りかかっているかもしれないこと。
仮定はあっても、確信は持てない。 パズルを組み合わせて絵柄をつくるには、まだピースが足りてない。
ひょっとしたら、他の皆には「何のんきなことを言ってるの」と言われるかもしれないけれど。 これが、非現実的な世界に対する、恵冬の向き合い方]
(61) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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見たい本、わかってるからそんなに時間はかからないと思うの。 知りたい事がわかったら、すぐに返ってくるね。
だからみんな、他の場所のこと、わかったら教えてね。
[もし、誰も帰れないようだったら。 その時には、恵冬の懸念は現実味を帯びる。
今や異世界への入り口のようになった出入り口の前で、すっと息を吸い込む。 やっぱりまだ怖いけれど、挑むみたいにしっかり前を向いて、廊下へと踏み出した**]
(62) 2015/06/20(Sat) 13時頃
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読書家 ケイトは、メモを貼った。
2015/06/20(Sat) 13時頃
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―図書室―
[学校内は、どこもかしこも文化祭の時のままだった。 騒々しさすら感じるような、お祭りムードの楽しげな風景。
けれど、そこにはやはり人の姿はなくて、その事がひどくちぐはぐな印象を投げかけてくる。
先ほどまで、大勢がわいわい騒いでいたみたいな風景の中、人だけが欠けている。 その事で、こんなに恐怖感を煽られるとは思わなかった。
だから、恵冬は図書室に足を踏み入れた時、変わらぬその景色にほっと胸を撫で下ろした。 図書室は、いつだって図書室のまま。
文化祭の賑わいなど素知らぬ顔で、ただ静かに訪れるものを受け入れる]
(80) 2015/06/20(Sat) 18時半頃
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[本が傷んでしまうから、とカーテンを下ろされた窓の代わりに、書棚に収まる本の背表紙を天井の蛍光灯が照らしている。 司書の先生はもちろんいなくて、せっかくだから試してみよう、と恵冬は窓の方へ歩み寄った。
カーテンを開いて、陽光の眩しさに目を眇める。 そうしながら鍵を外して、窓を開こうと試みた。
予想通りというべきかなんというべきか、戻ってきたのはカタカタとすら鳴らない硬い感触。 頑として開く気配のない窓を見て、少しだけため息を吐く]
一階だから、空けば出られるかなと思ったけれど……。
[だめなのかな、と肩を落とした]
(81) 2015/06/20(Sat) 18時半頃
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[気を取り直して向かうのは、図書室の奥の方の書棚だ。 角にある、明かりの届きにくい薄暗い一角。
そこに、確かめたかった類の本が集まっている。 ミステリーとか、超常現象とか、そういうものに関する資料類。
寺田に借りた小説は、フィクションのはずだったけれど。 ……たしか、実際に起きた出来事をモチーフにしていたはずだ。
本を借りる時に、そう教えてもらった記憶がある]
この辺とか、この辺の本が詳しかった気がする……。
[呟いて、目星を付けて数冊の本を抜き取った。 それらを積み重ねて抱えると、読書机の方へ向かう。
そうして、読みたい記述を探して、目次に目を凝らし始めた**]
(82) 2015/06/20(Sat) 18時半頃
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読書家 ケイトは、メモを貼った。
2015/06/20(Sat) 18時半頃
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―教室付近の廊下―
[一冊の本を抱えて恵冬が図書室を後にしたのは、十数分ほど後のこと。
探していた記述は見つかった。 後は他の皆の話を聞いて、必要があれば恵冬の仮説を打ち明ければいい。
ぱたぱたと上履きを鳴らしながら、小走りに廊下を走る。
何かから逃げるみたいに。 ――もしくは、興奮して浮かされたみたいに]
(188) 2015/06/21(Sun) 02時頃
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[そうやって、息を弾ませながら引き返してきた教室の側。 窓際に七尾と織部の姿を見つけて、ほっと安堵の笑みを浮かべて足を緩めた]
ななちゃん、織部くん!
[右手を上げてぶんぶん振って、二人の方へと歩み寄る]
二人とも、どうだった? その、なにか新しいこと、わかったかな?
[問い掛けながら、ぎゅっと抱き寄せるのは左手で抱えた本。 恵冬が、得た情報*]
(189) 2015/06/21(Sun) 02時頃
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[恵冬の問いに、真っ先に簡素な説明をくれたのは織部だった>>198
窓が開かない。昇降口も同様。 その事実が示すのは、学校に閉じ込められた、という事だろう。
それでも、恵冬がさほど動揺せずにいられるのは、この場にいる二人が心強いからだ。
七尾はきっと、恵冬より強いから。 だから、何を話しても動じないでいてくれる。 いつもみたいに笑って、なんてことないよって言ってくれるはずだ。
織部だって、クラス委員として活動してきた期間に、あまり表には出ないけれど頼りになる人だと知った。 直接前に出てクラスを引っ張るタイプではないけれど、後ろからそっと支援してくれるようなやり方に、何度感謝したものか]
(203) 2015/06/21(Sun) 03時頃
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[この二人になら、きっと打ち明けても大丈夫。
信頼は、時に盲目となるものだけれど。 恵冬は今まさに、七尾の内心の動揺に、気付く事はできていなかった]
……わたし、ずっと引っかかってる事があって。 だから、そのことについて調べてきたの。
[織部からの問い>>198にそう応じて、抱えた本の表紙を二人の方へ翳す。 『世界の超常現象ファイル』と記された、日頃であれば眉唾ものとネタにされてしまいそうなそれを]
(204) 2015/06/21(Sun) 03時頃
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ひとりの人間の中に、複数の人間が閉じ込められる。
……そういう事件って、テレビとか雑誌で見聞きした事ある?
[そうして、真剣な目をして問いを投げた**]
(205) 2015/06/21(Sun) 03時頃
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読書家 ケイトは、メモを貼った。
2015/06/21(Sun) 03時頃
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うん、そう。 具体的には、『誰かの精神世界に閉じ込められる』っていうのかな。
[オウム返しに呟く七尾>>216に頷いて、本を手元に引っ込める。 七尾と共に織部へと視線を流すと、彼もまたそんな話は聞いた事がないという様子>>217だった。
だから恵冬は本を開き、しおりを挟んだページを示す。 二人の方へ、見て、と促すように。
二人とも、いつもと変わりない風に見えたから。 やっぱり七尾も織部も強いから、大丈夫だって安心して]
(228) 2015/06/21(Sun) 12時半頃
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ここの章を見てほしいの。 世界各地で起きた、集団失踪事件を取り扱った章なんだけれどね。
その、ここに。ほら。 人の中に閉じ込められる例、って記述、あるでしょう?
[開かれた本の上には、文字の羅列に加えて、どこか遠い異国の街の写真と簡素なイラストが描かれている。 簡略化した人の図の頭部から、考え事をしてるみたいに浮かぶおおきなふきだし。 その中に、小さく描かれた5人の少年少女の姿]
例として挙げられているのは、ラトビアの子供の失踪事件。 いつも仲よく遊んでいた子供たちが、ある日忽然と姿を消してしまったの。
大人たちが必死になって探したけれど、遊び場になっていた森で、かろうじて見つかったのは小さな女の子がひとり。 その子はとても脅えてて、憔悴してて、まともなことが聞きだせる状況じゃなかった。
聞きだせたことは少なくて、「お兄ちゃんが友達と喧嘩した」「すごく怖かった」って、それだけ。
(229) 2015/06/21(Sun) 12時半頃
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[そうして、その子もまた日々をベッドの上で費やし、ほとんど言葉を交わせる状態じゃなくなってしまった。 本には、そう記載されている。
それを語る恵冬は、いつしか本の中に掛かれた不思議なできごとに引き込まれ、すっかり周りが見えなくなっていた。 誰かが後から加わっても、それに気付きはしないくらいに。
恵冬は、いつだってそうだ。 本の話になると途端に周りの様子が頭の中から抜け落ち、普段控えめにしているのが嘘みたいに饒舌になる]
結論から言うと、子供たちは一カ月くらい後に、皆ひょっこり帰ってきたの。 それと同時に、寝込んでいた小さな女の子も無事に回復したんだって。
[そこで初めて言葉を区切り、二人へと視線を向ける。 怖くないよ、大丈夫だよって、そう意思を表明するために]
(230) 2015/06/21(Sun) 12時半頃
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こういう事件、あちこちであってね。 アメリカでは、末の娘をひとり残して、家族が全員消えちゃったんだって。
その事件も、消えた時と同じくらい唐突に、その家族は返ってきたの。 それで、こう証言したんだって。
「娘の中に閉じ込められていたようだった」って。
[ページをめくり、新たな項目を示す。 『集団失踪事件のメカニズム。解明されない謎!』太文字が、煽るみたいに踊っている]
その家族、父親が妻や娘に暴力を振るうひとでね。 失踪したその時も、酒で酔って暴れて、末の娘をひどく殴打してたんだって。
珍しい事じゃなかったみたいだけれど、その時は特に容赦がなくて。 打ち所が悪くて、その娘は生死の境をさまよってたみたい。
(231) 2015/06/21(Sun) 12時半頃
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こういう事件が起こる時って、だいたい「そう」なんだって。
パニックになるくらい脅えてたり、思い詰めてたり、生死の境を彷徨ってたり。 そういう人が、中心にいるの。
[言って、指し示すのは左上に出ているグラフ。 『ホストになりやすい者の傾向』として、性別と年齢別に円グラフが提示されていた。
半数以上を占めるのは、女性や幼い子供。 グラフの下に、米印で『全体的な傾向として、精神的に衰弱した者が多い』と注釈がある]
アメリカの事件では、父親が「娘にこんなことまでさせてしまうなんて」って反省して、そしたら現実に戻れたって書いてあるの。
ラトビアの事件も、そう。 戻ってきた子供たちは詳しい事を覚えていなかったけれど、「喧嘩している場合じゃない」「仲直りして、協力しなきゃ」って思ったって。
(232) 2015/06/21(Sun) 12時半頃
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それで、こう仮説が立てられたの。
事件の中心にいる人物、ひとりだけ取り残される者を『ホスト』と呼ぶ。 その『ホスト』の身に何かが起こって――、パニックになったり、事故や自殺未遂で衰弱したりすると、近しい人やその時のトラブルに関わりのある者が、『ホスト』の精神世界に取り込まれてしまうんだろう、って。
『ホスト』の精神世界がどんな場所なのかは、明記されてないからわからない。 そこだけは、皆記憶があいまいなんだって。
――でも、原因の出来事が解決すれば、皆無事に帰ってこれる。
[重要なのは、そこだ。 取り込まれる。失踪してしまう。
けれど、無事に戻る事ができるなら。
今置かれた状況がそれだったとして、何か怖い事があるだろうか?]
(233) 2015/06/21(Sun) 12時半頃
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はっきりしたメカニズムは分かってないし、科学的には解明されてないみたいだけれど。
私、今のこの状況は、そういう事なんじゃないかなって、そう思ってる。
[そう締めくくって、ぱたんと本を閉じた**]
(234) 2015/06/21(Sun) 12時半頃
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