39 幻想第四次―銀河鉄道2―
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― 鷲の停車場 ― [緩やかに汽車は速度を落としていく。 鷲の停車場に着いたのだ。 窓から見えるのはプラットホーム。 まるで大きな琥珀で作られたような大木のホームに 少年は思わず口を開いて魅入っていたが、 向かいになる反対の窓の景色に気付くと歓声をあげた。]
わぁ、 すごい…!
[きらきら輝く星屑に七色の虹、稲光等を閉じ込めた 琥珀の花が直ぐ近くに咲いている。 触れられそうな其れに反対の窓際に移ると 窓を開いて手を伸ばそうとして]
(2) 2011/10/31(Mon) 00時頃
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あ。
[少年の手が、止まる。 夜の焔の瞳が大きく瞬いた。 たくさんの虫入り琥珀似た花々の奥に、 ふわりとなびく黒の長い髪を見たような気がして。]
(6) 2011/10/31(Mon) 00時頃
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[黒の長い髪、 追いかけなければとその時少年は思って。 慌ててテーブルに広げられていた星をひとつ ズボンのポケットにしまってしまうと、 少年は3号車と4号車の連結部分に向かう。
花に気を取られている時間が長かったのだ。 汽車は今にも発車しそうに、汽笛を鳴らして]
(10) 2011/10/31(Mon) 00時半頃
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待って…!
[降り口に足をかけたところで、 列車は動き出してしまった。 揺れる降り口に少年は尻餅をついてしまって。 開いたままのドアから見えたのは、 ふんわり浮かぶ誰かが吸う煙草の紫煙。]
(16) 2011/10/31(Mon) 00時半頃
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[誰かが降りたのだろうと思った。 煙草の煙が見えたから、 それはきっと大人の人だろうというのは 少年にもわかって。
暫く尻餅をついたまま 開いたドアからの景色を見ていたが、 ドアを閉めなければいけないと 少年は立ち上がる。]
(22) 2011/10/31(Mon) 01時頃
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/* おや。
(-7) 2011/10/31(Mon) 01時半頃
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[そういえばナタリアの待ち人は現れたのだろうか。 過ぎていく停車場にナタリアの姿を思い出す。 ナタリアが降りてしまったことはまだ少年は知らなくて。
少し危なっかしくドアを閉めると 少年は再び4号車に戻った。 テーブルに広げられた星の石は 皮袋にひとつずつ詰めなおして仕舞うと 少年は反対側の席に座る場所を変えて 何かを探すように、遠くの方を見つめている。**]
(24) 2011/10/31(Mon) 01時半頃
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― 4号車 ― [列車の外、目を凝らして見つめていたけれど 鷲の停車場で見た気がした影は もう見えることがなかった。 少年は諦めたように窓から視線を離す。 次の停車場まであとどれくらいだろう。 そんなことを考えて、 一度荷物をしまってしまおうと、 少年は皮袋を持って個室のある車両の方へ向かった。
その途中に見かけたヤニクとアイリスには そっと会釈をして通り過ぎる。]
(40) 2011/10/31(Mon) 22時頃
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オスカーは、少し浮かない表情でヨーランダを見上げた後、丁寧にお辞儀をして個室へと向かう。
2011/10/31(Mon) 22時頃
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[自分の個室へと戻ると、 少年は星をつめた皮袋を丁寧に 大きくない旅行カバンへと詰め込んだ。 一度、路線図を確認してから 個室の窓の外を見る。 先ほどの駅で、少年はひとつあることに気付いた。]
やっぱり僕は、 何かを忘れているんだ。
とても大事な何かを。
[それが何かまでは思い出せなかったけれど。 荷物を詰め終えると少年は 次にナタリアのことを気にかけた。 あの人は駅で待っていてくれたのだろうか。 それを確かめたくて、少年は個室を出る。 ナタリアの部屋を探そうと 幾つもある個室のプレートを見上げた。]
(46) 2011/10/31(Mon) 22時半頃
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[ひとつひとつ、 個室のプレートを確かめていくのだが ナタリアの名前は見つけられなくて。 少年は瞬きした後首を傾げた。]
…部屋、ないのかな。
[ぽつり、呟くと ナタリアが消えてしまったようなそんな心地になって。 少年はいても立ってもいられないように ナタリアの姿を探し始める。 部屋が見つからないなら他の場所かと、 少年は車両の最後尾から探すことにして。]
(59) 2011/10/31(Mon) 23時頃
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― 最後尾 ― [8両目の車両の一番後ろの扉を開ける。 風が強くて、 少年は思わず目を瞑って マフラーが飛んでいってしまわないように ぎゅっと首元を両手で握り締めた。
外の景色、列車が通り過ぎていった道のりは 遠く、暗く、戻れない場所だ。 ナタリアを探すのと同時、 少年は過ぎ去った停車場を思い返すように 夜の焔の色の瞳を細めて戻れない道を見る。]
(65) 2011/10/31(Mon) 23時半頃
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[少年は戻れないレールをじっと見ていた。 靡く黒い髪、 あれが何だったかもう確認はできないのだと思うと ちくりと胸が痛む気がして。]
どうして ―――…は、 一緒じゃないんだろう?
[そういって、何もない自分の隣を見る。 呟いた名は強い風に掻き消えた。]
僕は、 何を忘れてしまっているのだろう。
[ナタリアは、 あの人のことを思い出せたのだろうか。]
(76) 2011/11/01(Tue) 00時頃
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[レールを見ていると後ろから声が掛かって 少年は驚いたように声を掛けてきた 白衣の乗務員の姿を見上げた。 冷えると言われたら風に飛ばされないように しているマフラーをしっかりと握った。
何か言いたげにして、 それから少年は訊かなくてはいけないことを 白衣の乗務員へと問いかける。]
…あの、 つかぬことをお伺いします。 ナタリアさんが探しているその人は、 あれから列車にお乗りになったでしょうか?
(84) 2011/11/01(Tue) 00時半頃
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えっ
[白衣の乗務員が告げた言葉に 少年は驚いたように目を開いた。 列車と、それから戻れないレールを見る。 別れを告げることもなくいなくなってしまった 少年は心細そうな表情になって]
ナタリアさんは、 この旅でさいわいを見つけることができたのでしょうか。
[次に零れた言葉はひどくさびしそうな響きになり]
(91) 2011/11/01(Tue) 01時頃
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僕は、 ナタリアさんの笑う姿を見ました。 けれども 思い出すのはそれ以上にたくさんの、 ナタリアさんの哀しげなお顔ばかりなのです。
長く生きていると、 楽しかったことも、大切なことも、 少しずつ、忘れて… 哀しいことばかりが残ってしまうのでしょうか。
僕は…
[ふと、ネルと星になりたいかと話したことを思い出す。 何が言いたいのかわからなくなってしまって、 少年は1人分空いた空間を見るように俯いた。]
(92) 2011/11/01(Tue) 01時頃
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楽しいことよりも… 大事なことだったのでしょうか。
[ぽつん、 白衣の乗務員の言葉に 少年は少しだけ不思議そうにその人を見上げる。 頭の上に落ちてくる手、 夜の焔の色の瞳が上向いてそれを見つめ]
ごめんなさい。
[少年は子供の口調のまま謝罪を零した。 窘めるような白衣の乗務員のその手と、 そんなことを思ってしまった ナタリアその人に。]
(99) 2011/11/01(Tue) 01時半頃
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[哀しいことを抱えるのはとても大変なことで、 白衣の乗務員の言葉はやはりまだ幼い少年には少しばかり難しい。 そんなの、わからない。 そう言って子供の表情のまま拗ねることもできたけど 少年は乗務員を見上げたまま小さく頷いた。 そうした方が、いい気がした。 忘れても忘れられないくらいに。 その言葉にはちくりと胸の中がかすかに痛んで]
はい。 教えていただき、 ありがとうございました。
[1人分の空間を空けたまま、 少年は白衣の乗務員に丁寧にお辞儀をする。 ポケットの中のトンカチ、瞳を瞬かせて。 絵の具ですか?と、そう訊いた。]
(104) 2011/11/01(Tue) 02時頃
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[堅苦しい口調、言われて気づく。 何故こんな口調を使おうと思ったのか。 理由はあった気がするけれどもそれも思い出せない。 少年は遠ざかっていくレールを再び見る。 それもまた忘れていることに関係するのだろうか。
白衣の乗務員がわからないのならば、 それが本当かは少年にもわからないのだろう。 乗務員の言葉に頷きはするけれども、 一緒に向かおうとはせず 手を振る乗務員を少年は一度見送って。]
(106) 2011/11/01(Tue) 02時半頃
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オスカーは、少年はまたレールを見つめる。ネルのところに行こうと決めたのは、寒さに小さなくしゃみをひとつしてから。**
2011/11/01(Tue) 02時半頃
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― 最後尾 ― [少年はまだ列車の最後尾からレールを見ていた。 白衣の乗務員が去った後、 ほんの少しだけ、子供が拗ねるように口を尖らせる。 別れの言葉のない別れがさびしく感じられた。 もう少し話したかったし、 別れるのならちゃんと別れの言葉を告げたかった。 けれども同時に白衣の車掌の言葉も思い出して。 別れの言葉のない別れがあることも少年は知る。 それもまた、旅なのだということを。]
…ありがとう。
[伝えられなかった言葉、 伝えたい時に言わなければ、そんな思いに駆られて。 少年は戻ることのできないレールの向こうへお辞儀をした。]
(115) 2011/11/01(Tue) 21時半頃
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―――…
[もうひとつ、 どうしても伝えなくてはいけない言葉が あった気がしたのだけれども。 それが誰に伝えなければいけないのか、 何かだったまでは思い出せなくて。
少年は風が吹き込んでしまわないように きっちりと最後尾の扉を閉めると、 ネルの手伝いをしにいこうとそう思った。]
(116) 2011/11/01(Tue) 21時半頃
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オスカーは、食堂車に行くまでの間にヤニクの姿が見えると、少年はまたお辞儀をする。
2011/11/01(Tue) 22時頃
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こんばんは。
[こうやってすれ違って挨拶するのは何度目だろうか。 少年は赤い外套の男の人を見上げてそんなことを思い]
はい、 ネルさんが絵の具を作るそうなので お手伝いに行くつもりなのです。
[そう言ってから、ヤニクを見上げ]
あの、よろしければ お兄さんもお手伝いいただけませんか? トンカチを使って、 白鳥の駅で狩った星を砕いて作るんです。
(126) 2011/11/01(Tue) 22時半頃
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ない色は作るってネルさんが言ってました。 ないものを作ることができるって、 とてもすごいことだと思うんです。
[同じように絵に詳しくない少年は 想像もつかぬ色に想いを馳せて期待を膨らませ。 赤い外套の男の人が頷いてくれると、 ほっとしたように微笑んだ。]
よかった。 こういったことは女の子では大変だし 僕はどうにもそそっかしいので、 お兄さんが手伝ってくださると頼もしいです。
[そう言ってから少年は何かを思い出したように 一度立ち止まって、 それから慌てて自分の個室へと走る。 数分も経たないうちに戻ってきて、 ヤニクに水の入った小瓶を掲げて見せた。]
(133) 2011/11/01(Tue) 22時半頃
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天の川で汲んだ水です。 これで絵の具を溶くのがいいんじゃないかって。
[自分の思いつきに、少し誇らしげな顔をしてみせて。 4号車に入るとネルの姿が見えた。 もうトンカチを使ってしまっているだろうか。 少年は慌ててネルの元へと駆け寄った。]
(134) 2011/11/01(Tue) 22時半頃
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はい。 今から僕とお兄さんも、 一緒に作るんです。
[赤い外套の男の人の言葉には 頷いてそう返して。]
ネルさん…!
[少年が声を掛けた時、 ネルは丁度トンカチを使って トパーズに振り落とすところで。 かちり。音が鳴ると「わ、」と少年は声をあげる。]
だいじょうぶ? 割れた?
[おそるおそる、 テーブルの上を覗こうとして。]
(141) 2011/11/01(Tue) 22時半頃
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消えてしまうのは、もったいない。 加減に気をつけて割らないと。
[ネルが掲げてみせてくれた欠片は、 ルーペで見た小さな宇宙とはまた違う色をしていて これが混ざり合って溶かされキャンバスの上に塗られたら 一体どんな色になるのだろう、少年は大きく瞬く。 ネルが手伝いを承諾してくれたら少年はほっとしたように笑って。 全部をヤニクに任せてしまった方が安心なのだろうけれど 興味を抑えきれない少年はまず、 自分が割ってみてもいいかと問うように ヤニクの方を見上げた。]
(145) 2011/11/01(Tue) 23時頃
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はい。 やってみます。
[ヤニクがそう言ってくれると、 少年は嬉しそうに夜の焔の色の瞳を大きくさせて頷いた。 子供の大きさの手を伸ばして ネルからトンカチを受け取ると、 少年は小さな欠片を更に小さくしようと トンカチを欠片へと振り下ろす。
かきん。音が鳴って一つ目の欠片は綺麗に割れた。 二つ目の欠片、 綺麗に割れて嬉しかったのか 先ほどよりも力が篭ってしまって 高い音を立てて欠片は ぱっと刹那の光を放ち消え去ってしまう。]
あっ…
(157) 2011/11/01(Tue) 23時半頃
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[ヤニクに肩を叩かれる。 頑張れと言われているような気がして、 少年はトンカチを持ち直した。 次は失敗してはいけない。 誤って壊してしまえば、 それはもう消えて元の形には戻らないのだ。 そう思うと少年の顔は一層緊張を増して。
三つ目、叩いた石は怖がる気持ちが出たのか 割れることなくこつんと音だけが鳴った。 割れなかった石に、少年は不安そうに トンカチ持ったままヤニクの方を見上げた。]
(161) 2011/11/01(Tue) 23時半頃
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[ネルが綺麗と言ってくれたことに、 少年はほっとしたように息を吐いて。 ほんの少しだけ緊張がほどける。 ヤニクの言葉に少年は赤い外套姿を見上げると こくりと、その言葉を刻むように頷いた。]
もう一回やってみます。
[勢い、言われた言葉を反芻して。 一番最初の綺麗に割れた時のことを思い返す。 もう一度、トンカチを振り落として かきん。 小さな音と共にトパーズが小さな光を放つ。 消えてしまったかと少年は身を硬くしたけれど 星は消えずに綺麗に割れた姿でテーブルの上に乗っていた。]
(168) 2011/11/01(Tue) 23時半頃
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[トパーズが消えてしまわなかったことに 少年はやり遂げた子供の顔で笑って。 その欠片を綺麗に砕いてしまった後、 ヤニクへとトンカチを差し出す。]
ヤニクさんも。
[ヤニクへと、そう言って。 金剛石は少年には少し難しそうで、 それはヤニクに任せたほうがいいと思い 少年は固そうな星とヤニクを共に見た。]
(177) 2011/11/02(Wed) 00時頃
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わあ。 ヤニクさん、すごい上手だ…!
[ヤニクがトンカチを操る様子に、 少年は感嘆の声をあげる。 力を入れているように見えないのに きらきらと光を散らして行く星の姿に魅入って。
列車の速度が変わった気がした。 そろそろ次の駅に着くのだろうかと、 少年の夜の焔の色の見る先は瞳は割れた星から 鷲の停車場で琥珀の花のあった窓の方へと変わった。]
(186) 2011/11/02(Wed) 00時頃
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